min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

特別執行機関カーダ

2007-02-25 21:41:16 | 「ラ行」の作家
この1ヶ月のうちクリス・ライアンの作品をふたつ紹介いたしました。
もし、この作家に興味がわいた方がおりましたら是非この作品も読んでみてください。
この作家の最高傑作のひとつである、と確信しております。尚、本文は過去の読書感想から流用させていただきました。

『特別執行機関カーダ』★★★★★ 読了日6/29
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題名:特別執行機関カーダ
原題:The Hit List
著者:クリス・ライアン
訳者:伏見威蕃
発行:ハヤカワ文庫 2002年5月31日 第1刷 
価格:940+Tax
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デビュー作『襲撃待機』やその続編『偽装殲滅』の感想は、どちらかといえば小説というよりも硬質な戦闘ルポルタージュを読むといった感じで、読者としてはいまいち主人公の元SAS隊員、シャープ軍曹に感情移入できないものがあった。
しかし本編では同じく元SASの軍歴を持つ主人公、ニール・スレイターと彼が所属することになった「カーダ」という組織が展開する物語内容は、今までの「特殊軍事作戦」から更に「防諜戦・暗殺任務」へと変質して行く。
双方どちらも血生くさい死闘を繰り広げるのではあるが、この「カーダ」という組織は英国情報部MI6の下部機関でありながら、ある種独立組織の「暗殺部隊」であることからよりいっそう陰惨さが滲みだされる。
チームは新入りの主人公を入れて6名、中に2名の女性を含む。それぞれ計画立案、資材調達、監視、実行のプロ達であり、小人数の組織であるため時には全員が武器をとり戦闘に加わることになる。
今回のミッションの目的はある人物の「暗殺」と英国にとって不利益となる「CD」の回収で舞台はパリ及び近郊。フランス国内で頼りとなる組織は一切なく、孤立無援の戦いを余儀なくされる。作戦はいったん成功するかに思われたのだが.....。
息をつかせぬスピーディーなストーリー展開と手に汗を握る迫真の戦闘場面、思わぬどんでん返し。この作者クリス・ライアンは前作とは打って変った力量を発揮し読者である我々をあきさせることがない。
登場する人物達の造形も素晴らしく、切ない「恋」をもサービスしてくれる。
なんか続編がありそうな予感がする一篇。


ギャングスター・レッスン

2007-02-22 00:05:47 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『ギャングスター・レッスン』2007.2.15文庫化

本作は「ヒートアイランド」の続編である。またこの後の「サウダージ」とも関連している。
本編の主人公アキは「ヒートアイランド」では渋谷のチーマー百人以上を束ねて「地下格闘技」のエンタメ興業で活躍した若者である。
アキは渋谷での「事業」をたたみ、ぶらりと東南アジアへ旅立った。一年後、かの事件で知り合った犯罪プロの柿沢と桃井との約束「もし一年後に我々の仲間になるつもりがあれば会おう」のため東京に舞い戻って来たのだ。
柿沢たちは非合法の組織、ヤクザやマフィアそして裏金を選挙資金に当てる政治屋どもから金を強奪するプロの犯罪集団(といっても2,3名だが)だ。
いわゆる闇の世界で更にその上前をはねるという「猛禽類」の世界の住人たちだ。そのためには一切の自分の過去、現在のしがらみから一度抜かねばならない。もちろん親兄弟との縁も絶たねばならない。そのための“覚悟”を柿沢はアキに執拗に確認しようとする。
アキは迷うことなく彼らの仲間入りを決意したのであった。翌日からアキの裏の顔、身分を確保する作業に入るのであった。
先ずは他人の戸籍の入手。住民票を整えアパートを探す。表の勤務先を桃井の自動車修理会社にし銀行口座も開く。
身辺の整理をすると「仕事」に使用する車を購入、チューンアップ作業に入る。同時に日経、朝日といった新聞を毎日かかさず目を通し内容を把握する。警察から秘密に入手した犯罪組織の調書を読む。車のチューン完了後は試走に入り更に運転テクニックの特訓を桃井から受ける。時々柿沢が“勉強”の進捗具合をチェックにくる。
海外に飛び銃の取り扱い、シューティングの特訓も受ける。かくしてアキが一人前のギャングスターになる訓練が物語の大半を占める。予行演習と本番を迎えるのだがこれがまた面白い。
彼らは間違いなく犯罪者ではあるのだが、相手が相手だけに読み手側も一切罪の意識を感じることなく彼らを応援できるしくみになっている。
全編が軽いタッチで描かれ絶好のエンタメ小説となっている。お暇な方には是非おすすめしたい作品だ。
正直なところ文庫化されなければ読まなかったかも知れない・・・・

抹殺部隊 インクレメント

2007-02-20 00:02:36 | 「ラ行」の作家
クリス・ライアン著『抹殺部隊 インクレメント』ハヤカワ文庫 2006.7.31

SASを除隊したマット・ブラウニングは幼馴染の婚約者とスペインの保養地でレストランを開業し一応静かな生活を楽しんでいた。
しかしSIS(英国情報部)の幹部が同店を訪れ、ある作戦に参加するよう要請する。それは単なる要請ではなく任務を拒否すれば資産を凍結するという強要であった。ある作戦とは英国国防省に寄与する製薬会社の模造品がロシア国内で製造されておりその工場を破壊せよ、というものであった。
幼馴染の婚約者はマットにそんなことに絶対にかかわるな、と主張するが聞き入れられないことを知ると婚約を解消すると宣言し彼の前から姿を消してしまった。
工場の破壊作戦はかろうじて成功したのだがSISはこれだけではマットを開放してくれなかった。次には経営者も抹殺しろ、と言い出す。
マットは背後に最近多発している元兵士による錯乱して無差別殺人を起こす事件との繋がりに気がついたのだ。そんな彼を闇に葬るべく暗躍し始めたのはSAS内部の秘密暗殺部隊のインクレメントという機関であった。
マットはかってこのインクレメントに誘われたが断った経緯がある。ここにマットと少数の仲間対国家の諜報機関という壮絶な戦いが火蓋を切られた。相手は警察組織も自由に使える国家の暴力装置とも言える存在である。
この絶対的に不利な中で知恵と体力の極限を振り絞って戦う様はR.ラドラムの「暗殺者」を彷彿とさせる。個対国家、という究極の戦闘は読み手をハラハラさせるが個が巨大な組織に立ち向かうというのは冒険小説の王道である。

えれじい

2007-02-18 18:19:06 | 「ナ行」の作家
鳴海章著『えれじい』講談社 2005.9.9 1,785円

鳴海氏の「ニューナンブ」「街角の犬」の系列の警察小説。
愛崎警察署(神奈川県警管内の架空の警察署か)に転勤してきた佐倉。薬物銃器対策班に配属されたのだが相方は女デカであった。
愛崎警察署管内で薬物に錯乱したと思われる2件の犯罪が起こるが、その背後にはふたつの気にかかるものがあった。ひとつは通常の覚せい剤よりも強力な薬物の蔓延とマグナム弾を使用したハンドガンの存在である。
この二つの犯罪を追うコンビであったが、ある日佐倉の相方はマグナム銃に撃たれ死亡した。ふたりは実は密かに惹かれあっていたのだが・・・・・
彼女の殉職を機に帳場(事件対策本部)を仕切るのは本庁となり、佐倉たちには地取りをするだけで何の情報も与えられなかった。
何かが警察内部で動いている。彼女の死の背後に一体何が隠されているのか。佐倉は先輩のひとりからあるヤクザを紹介される。その名を跡見といううだつの上がらないヤクザだが、彼の協力で事件の糸口をつかみ核心へとせまる。
そんな中、中学校で乱射事件が発生し犯行に使われた銃が相方を撃ったマグナム銃であった。
全編ミステリー仕立てで、警察内部の複雑な勢力図があるのはこの作品に限ってのことではない。そして事件は驚愕の終末を迎える。

特に目立った内容の警察小説ではないものの、佐倉を始め彼を取り巻く人物造詣がしっかり描かれ緊迫しながらも楽しく読めた。



ニッポン泥棒

2007-02-04 15:09:14 | 「ア行」の作家
大沢在昌著『ニッポン泥棒』文芸春秋 2005.1.15  2000円

「クリエーター」と自称する二十歳そこそこの天才ハッカーとその仲間たちが作り出した「ヒミコ」と呼ばれるシュミレーション・ソフト。
27カ国、一万人を超える世界の政治家、軍人、実業界の著名な個人情報を各種情報機関、軍、民間の研究機関にハッキングしデータを集め、いわば「世界シュミレーション」ともいえるソフトをつくり上げてしまった。
最初は単なるゲーム・ソフト的な側面であったものが「イレイス機能」を付加させることによって単なるゲームを超える性質のものになった。
「イレイス機能」とは例えば特定国家の誰がいなくなればどのような政治、軍事、経済状況が現出するか?といったシュミレーションがかなりの確度で答えが導き出されるという。
これは何を意味するのか?
それは特定の国家、団体、組織が、自らの目論む方向(悪意に満ちた)で暗殺リストをもつくることが出来る、ことを意味する。ソフト自体が強力な“兵器”となり得るのだ。

このソフトの争奪戦が始まり「クリエーター」のメンバー3人が殺された結果、開発者の天才ハッカーはこのソフトをどこかへ秘匿した。
彼は更にこのソフトを開けるべき特殊な「鍵」をつくったのであった。この「鍵」は単なる数字の羅列による暗証ではなく二人の生身の人間によって解かれる特殊な「鍵」であり、アダムとイブという男女ふたりのカップルに限られた。

ここから「鍵」として選ばれた60歳を超え既にリタイアした元商社マンの尾津と、佐藤かおるという30歳くらいの法学系大学院を目指し夜はクラブでアルバイトする女性の数奇な、そして危険な運命の展開が始まるのであった。
「ヒミコ」を狙ういくつかの組織の暗躍が始まり、お互い今までは見ず知らずの仲であった尾津と佐藤は誰が敵で誰が見方かわからないまま、反撃を開始する。
その反撃の戦いの中で尾津の意外なタフネスさが表現される。物語自体の展開はこのシュミレーション・ソフトの“荒唐無稽”さのためあまり現実感が湧かないのであるが、尾津の語る自ら過ごした時代、仕事については極めて興味深い内容となっている。
若い読者が読むと、何故コンピュータの知識が皆無のこんな老人を登場させたのかとまどうだろうし、この人物に共感できることが難しいかも知れない。
だが尾津とコブラがかわす内容にこそこの本のテーマが隠されているものと確信する。

さて、本編が構想されたのは作者、大沢在昌氏がかって一時期あるゲームソフトの開発に携わったときに生まれたのではないかと想像する。それほど氏はゲームがお好きなようだ。
ただ題名の「ニッポン泥棒」と本編の内容がかみ合わない、と感じたのは僕ひとりだろうか?