min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

C.J.ボックス著『震える山』

2012-07-13 01:01:07 | 「ハ行」の作家
C.J.ボックス著『震える山』講談社文庫 2010.4.15 第1刷 
819円+tax

おススメ度:★★★★☆

米ワイオミング州トゥエルヴ・スリープ郡の猟区管理官ジョー・ピケットシリーズの邦訳第4弾。このシリーズは過去「凍れる森」を読んでいる。
ジョーはある日上司よりジョーもよく知る隣地区の猟区管理官ウィル・ジャンセンが44マグナムをくわえ自殺したことを知らされた。
その報に驚愕したことは言うまでもないが、上司は更に彼の後任をジョーに命じたのであった。
その後任の管区とはジャクソンというところで、グランド・ティートン国立公園やイェローストーン国立公園の入り口にあたる、米国でも有数の観光地である。この地区はセレブ達が集まるリゾート地であるとともに、どこよりも広大で荒々しい自然を擁しており、現代の西部が抱える様々な問題の坩堝でもあった。それは過激な動物保護運動や違法な狩猟、そして金と権力の亡者とも言える開発業者の存在。
ジョーはそんな極めて難しい問題を抱えるど真ん中に放り込まれることになるのだ。それも単身赴任で。
ジョーには転勤を躊躇する家庭内の問題をも抱えていた。思春期を迎え、母親と何かと対立する長女のシェリダンの存在が頭をよぎる。更に最近幾度となくかかってくる不気味な無言電話。こんな状況の中、妻メアリーベスと二人の子供たちを残して赴任することに苦悩するジョーであった。
だが一方これは昇格へのチャンスでもあったし、何よりジョーはウィル・ジャンセンの自殺自体に疑念を持ち、その解明を是非したかった。結局、妻メアリーベスの心配をよそにジョーはひとり赴任した。

「凍れる森」を読んだ時の感想同様、主人公ジョーは極めて実直な管理官であり、目の前の不正を黙って看過できない男である。彼はけっしてアメリカン・ヒーロータイプの人間ではないし、腕力は銃器の取り扱いに優れているわけではない。どこにでもいそうな古きよき時代の西部男とでも言えば良いのかも知れない。
赴任先のジャクソンでは予想されたように、同僚や上司の冷たい視線にさらされ、ティートン郡保安官からも疎まれる。それは彼がウィル・ジャンセンの死の真相にせまるにつれ激しくなるのであった。
また、先に述べた違法狩猟者との衝突、過激な動物保護活動をするメンバーとの確執も生じたが、一番の難敵は開発業者の頭目ドン・エニスの存在であった。
著者C.J.ボックスはこうしたいわゆる“厭らしいアメリカ人”を描かせると抜群の才能を持った作家であり、そのことがより一層主人公ジョー・ピケットの実直さを鮮明にさせる。
果たしてジョーは新任地で責務を全う出来るのか?ウィル・ジャンセンの死の真相にせまることが出来るのか?残された家族はどうなるのか?
重厚な筆致で物語は進行し、ちょっとしたミステリー・サスペンス風味を加えながら終末を迎える。かなりお薦めの秀作である。



垣根涼介著『人生教習所』

2012-07-08 20:51:43 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『人生教習所』中央公論新社 2011.9.30 第1刷 
1,700円+tax

おススメ度:★★★★☆

元日本経団連会長である鷲尾総一郎が私財を投じているのでは、と思われる「人生再生セミナー」。毎年小笠原諸島の父島と母島で2週間開かれる。
セミナーの真の目的は不明であるが、けっして妖しいものではないらしい。このセミナーを受講した生徒のその後の成長変化を鷲尾がみて楽しむのではないか?といった憶測もある。
しかし、協力団体には日本経団連、東京商工会議所、大坂商工会議所などが名を連ね、受講後の就職斡旋があるとも予測された。
受講内容は統計学、生物学、社会学、生理薬理心理学、認知心理学、言語心理学、及び関連科目に伴うフィールドワーク、とあり、募集人員は20~30名で応募資格は年齢学歴不問となっている。
こんな新聞広告を見て一体どんな人物が応募するとうのであろうか?本編に登場する4人の人物造形が興味深い。

浅川太郎・・・東大生。入学後すぐに授業に興味が持てず引きこもりとなる。現在休学中。過保護で育ったのが一目瞭然のいかにも草食系男子然としている。

柏木真一・・・母親が駆け落ちしいたたまれなくなって田舎を飛び出したのが15歳の時。なるべくしてなったヤクザ家業であったが、シノギに疲れ組を無断で逃走。ブラジルに約1年逃げていたがほとぼりが冷めた情報を得て帰国。現在無職の38歳。見てくれも言葉使いもいかにもヤクザ然としている。

森川由香・・・小中といじめに会い、そのせいで甘いものばかり激食いした高校生活。結果かなりのデブ女となったが青学に入学し卒業。現在フリーランスのライターをしているが仕事量は年々減るばかり。デブであることばかりではない理由で人間関係を築くのが極めて不得手な30歳の独身女。

竹崎貞徳・・・大手オートバイメーカーの生産部門畑を定年まで勤め、定年間際まで7年勤めたコロンビアに定年後再び渡って3年を過ごしたという64歳。
人懐こい中にも謎の部分を持つ初老の男。

この4人が微妙・絶妙に関わりながら二週間にわたる研修が行われる様が描かれる。最初の3日間で適正試験が行われるのであるが、その設問(講義を受けてその感想文を書く、講義の内容に伴う三択問題)が面白い。ここで受講続ける価値がないと判断された生徒は早速船で本土に帰されるわけだ。

ところで作中、地元講師による「講義」を通して小笠原の歴史的、社会的考察が延々と繰り広げられるのであるが、垣根さんは何故にここまで小笠原に固執するのだろう?という素朴な疑問を抱くほど説明が続く。
ま、戦後返還された沖縄あたりとはかなり違った状況であることは理解出来るが。

「人間観察」という括りでは「君たちに明日はない」シリーズと同種のニオイはするものの、敢えて著者の“新境地開拓”というほどの作品になるとは思えない。やはりノワール系の作品を望む気持ちが強い、私的には。




植草一秀著『日本の独立』

2012-07-01 16:41:54 | 「ア行」の作家
植草一秀著『日本の独立』飛鳥新社 2010.12.6 第1刷 
1,714円+tax

おススメ度:★★★★☆

みなさんはこの経済学者植草一秀氏を覚えているでしょうか?
2004年頃各局テレビなどでするどく当時の自民党政権の政策を批判していた新進気鋭の経済学者でありました。ところが2004年4月の女子高生のスカートの中を手鏡でのぞいた、更に2006年には電車内で痴漢行為を行ったという迷惑防止条例違反で実刑判決を受けました。
これでテレビ出演どころか早稲田大学の教授も辞めざるを得なくなり社会から葬り去られた、と思いきやどっこいその後、本書のほか多数の著作をもって反撃しているお方です。

当時、植草氏は特に“りそな銀行”問題で竹中蔵相の関与を鋭く追及していた最中で、このような“安易な事件”で社会より葬り去られたのはあまりにも不可解な想いを持ったものであったが、やはり“闇の勢力”からの陰謀に嵌められたようである。
ご本人は本書の中でこの“闇の勢力”とは「米・官・業・政・電」による利権複合体であるとしている。
著者は更にこの複合体のことを「悪徳ペンタゴン」と呼ぶ。本書では「悪徳ペンタゴン」がどのように形成されいかなる所業をなしてきたのかを歴史に遡って分かり易く説いている。
事の真偽に関しては読者自身の判断に任されるところではあるが、著者のような視点で一度、明治維新・戦前戦後・現代において繰り広げられる政治なるものを眺めるとかなり違った地平が見えてくると思う。
ここのところ再び世論が分かれる小沢氏と民主党問題の本質が見えてこよう。
ただし、著者が言うようにはたして本当に小沢氏が国民の側に立った政治家であるかどうかは大いに疑わしいところだ。