min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

雨の罠

2007-11-11 12:24:22 | 「ア行」の作家
バリー・アイスラー著『雨の罠』ヴィレッジブックス 2006.6.20初版 950円+tax
原題:『Rain Storm』

オススメ度★★★★★

長年住み慣れた日本を後にせざるを得なくなったレインの選んだ逃亡先は南米のブラジルであった。ここには大きな日系社会があり、風貌が日本人である(整形手術もしたが)彼にとっては都合の良い場所であった。
それに前作でも登場したナオミの故郷でもあった。彼はここで“殺しの稼業”から足を洗い平穏な余生を過ごそうと望んだのであるが・・・・

CIAがどのような手段でレインの足跡を辿ったのか不明であるが、ある日レインの目の前に現れたアフガン時代の戦友の米国人をみてレインは隠れ場所を発見されたことを知る。
これでナオミとの関係が終わりになることも悟った。

結局、レインをそう簡単に引退させてくれるほど「この世界」は平穏ではなかったということだ。
今度の殺しの舞台はマカオ。ターゲトはアラブ系武器密売の大物だ。9.11同時多発テロ以降、急速に台頭してきた勢力の有力者のひとりであるらしい。
レインが“仕事”にかかるべく密かにターゲットに接近しようとした時、彼の前に立ちはだかったのは謎の暗殺グループとターゲットに密着するひとりの白人美女であった。
物語はターゲットの暗殺にかかわりいくつもの障害が生じ、レインはその謎の解明に東奔西走する。
本編第三作はアクション場面がふんだんで、レインが移動する世界も南米、北米、日本、香港・マカオと目まぐるしく変化する。
全てがスケールアップした本編であるが、別の意味ではこの作品はレインの恋愛物語?でもある。みどり、ナオミに続き謎の美女デリラが登場するに至って、レインの生き様の上での恋愛論が披露されるのが興味深い。
極上のスパイ・アクションの中で繰り広げられる極上のラブ・ロマンスをたっぷりご堪能いただきたい。
シリーズ中最高傑作とみた。



雨の影

2007-11-11 12:23:19 | 「タ行」の作家
バリー・アイスラー著『雨の影』ヴィレッジブックス 2004.1.20初版 800円+tax
原題:『Hard Rain』

オススメ度★★★★☆

前作にて、日本政府を転覆させるほどの内容を持った一枚のCDをめぐり死闘を繰り広げ、最愛の女性と決別したレインは東京から大阪へと身を隠した。
CDをめぐる警察庁、影の右翼勢力、CIAの攻防はまだ決着はついていなかった。レインと奇妙な友人関係にある警察庁の部長であるタツがどのような手段を使ってレインの居場所を突き止めたのか不明であるが、ある日そのタツがレインの前に姿を現し、仇敵の山岡との対決の助力を要請してきた。
一度は断ったものの、かけがいのない若き友人が、そして別れたはずのみどりにまで脅威が及びかねない事態を知ったレインは再び陰謀渦巻く東京へ舞い戻ったのであった。

本作でも著者のエスプリの効いた会話、知的なユーモアのセンスが随所に散りばめられ読者を魅了する。
著者の日本文化への造詣の深さ、愛着を本編でもしっかりと認識させられた。ところで、主人公ジョン・レインは軍隊でもたった2%としか存在しないと言われる「接近戦でも躊躇無く敵に銃の引き金をひける兵士」のひとりではあるのだが、けっしてキリング・マシーンであるわけではない。
殺人のシーン、手口は恐るべき内容なのではあるが、嫌悪感を与える描き方とならないのが不思議である。それは読者が彼の生い立ち、経歴を知るに及び、ジョン・レインが唯一生きる手段として暗殺者になったのではないかとおぼろげな“共感”を抱くせいかも知れない。
人生への深い“諦観”というか、非常に繊細な虚無主義に満ちたレインが、非常に稀にみせる友人への、そして愛する女に向ける“表面以上に芯が熱い情”をみせる時、読者はその落差に戸惑いながらもそこに“共感”を抱くのではなかろうか。
日本での活動にもいよいよ制限を感じさせられるレインの身辺状況であるが、大三作から舞台は世界へ広がる模様である。
次回作ではよりスケール・アップした物語展開を期待できそうだ。

雨の牙

2007-11-03 15:06:15 | 「ア行」の作家
バリー・アイスラー著『雨の牙』ヴィレッジブックス 2002.1.20初版 760円+tax
原題:『Rain Fall』

オススメ度★★★★★

本編は著者のデビュー作である。僕は先月書店にて何気なく見かけた第4作『雨の掟』を読み、そのあまりにもの面白さに読了後「このシリーズは最初から全部読みたい!」と心底思った作品であった。
こうして一年に一度あるかないかの、優れた味読の作家との偶然の邂逅は人生における無上の喜びのひとつでもある。
さて、デビュー作の本編であるが、期待した以上の見事な出来栄えの作品である。
何よりも主人公を含め全ての登場人物が魅力的に描かれている。ストーリーも抜群に面白いし、この手の“謀略もの”に付き纏う胡散臭さが微塵も感じられない。
それは著者が全てのディテールを丁寧に描いているところによるものが大とみた。

今回は日本の政治の背後に潜むまだ誰も掘り起こしたことのない“タブー”の領域に、外国人作家であるが故の「歯に衣を着せない」表現でズバリと病巣を抉り出している。
戦後一貫して政治の構造的な“腐敗”“汚職”“癒着”の数々の「疑獄事件」が、あるとことまで到達しても多くの真実が闇に葬られてきた事実を我々はじっと眺めてきた。
真実を語るべき立場の人間たちの、なんと多くの部分が自殺を初め謎の死をとげてきたであろうことか。
その背後に蠢く「闇の勢力」が存在するであろうことを僕自身信じて疑わない。ただし、本編に登場するものとは違うであろうが。

ジョン・レイン(日本名、藤原純一)は今フリーランスの殺し屋として、東京の大都会というジャングルに“捕食獣”のようにひっそりと棲息している。
彼は日本の政権政党のある秘書を通じ、いくつかの殺しを請け負ってきた。彼の“特技”は自然死に限りなく近い殺しをしてのける点にあった。
本編で彼が日本人の父とアメリカ人の母の間に生まれ、米国、日本という東西文化のはざ間でいかに翻弄され生きてきた様と、17歳のときに年齢を偽ってヴェトナム戦争に志願兵として参加したこと、更にヴェトナムにて特殊作戦部隊に投入され、この世の地獄を経験し、もう絶対に正常な世界に戻れない自分を発見したことなど、彼の生い立ちが断片的に淡々と描かれる。
彼は米国にも日本にも「帰るべき地」を持たぬまま、現在東京にてひたすら魂と肉体を彷徨させるだけである。
そんな彼が今回依頼された殺しとは・・・
この殺しにより、みどりという新進ジャズピアニストとの運命的な出会いがあり、日本の警察、右翼組織、そして在日CIAを敵に回した孤立無援の戦いが始まる。戦いの過程でけっして記憶に消し去ることが出来ないヴェトナムの亡霊が彼につきまとう。
余談であるが著者の日本、日本人への深い洞察力に驚かされ、東京の街の情景描写は見事である。例えば夜の東京恵比寿界隈の夜の情景はなかなか日本人には表現できないものがある。著者バリー・アイスラーの感性に強く惹かれるものがある。
さて、第二作、第三作を求めて街の本屋に出かけようか。

注)掲載した文庫本の表紙デザインと現在書店に出回っているものは違います。