福井晴敏著『Op.ローズダスト(上下)』2006/03/15 上下各1,800+tax
大分読書感想のアップが止まってました。最近かなり忙しいせいですが・・・。
そんな中久しぶりに読んだ長編大作『Op.ローズダスト』。『終戦のローレライ』から3年以上経ったわけ?満を持しての長編がまた「北朝鮮」「テロリスト」「自衛隊」「公安警察」といったキーワードで埋められている。
そして登場人物がまた冴えない中年オヤジ(けっこう味が出ているけどね)とスーパーボーイの工作員の青年の取り合わせ。更に敵対する者たちがまた超弩級の能力を持つことは言うまでもないし。美少女のスーパー・スナイパーだって登場する。ま、福井さんの“お約束”事項ではあるわけ。
今回はなんと臨海副都心「お台場」を、放射能こそないものの核爆弾級の威力を持つTpexなるスーパーウェポンが吹っ飛ばす、という物騒なお話になっております。この「テロリスト」というのが今度は北朝鮮からのテロリストではなく「ダイス」(ああ、またダイス!福井さんのこの手の小説に出てくるのは何度目?自衛隊内の特殊部隊を擁する謎の機関なんだけど)にかって属していた精鋭たちだった。「ダイス」による北朝鮮への特殊工作「オペレーションLP」が「ダイス」の手によって葬られ、仲間の幾人かが粛清された。裏切られたことに対する“復讐”のため、彼らは一度北に逃れた後東京へ舞い戻ってきた。そして復讐の最初ははかって裏切った者たちへの「爆殺」でもって幕が切って落とされた。
首都圏の重要な一部となった「お台場」を消滅させることは直接手を下し裏切った者達への復讐のためだけではなく、その背後に蠢く自衛隊、政府官僚、いやそれらを生み出し、更に黙認している国民総体への復讐でもあった。
お台場に仕掛けられたスーパーウェポンの爆破を阻止すべく先に述べた中年オヤジ殿(公安組織内のハグレ者)と理由あってかっての仲間から取り残されたダイスの工作員が大活躍する。もちろんお約束どおり彼らの属する「警察」vs「自衛隊」の確執が盛り込まれることとなる。
さて、これ以上くどくどと書かなくても“結末”が分かってしまうところがつまらない。福井さんが毎度強調するように、戦後歩んできたこの日本という国家、国民がもはや救いようがないほど平和ボケし、国家も社会も腐敗しきっているのは充分に理解しているつもり。「テロリスト」たちがこうした“日本の状況”のどてっ腹に穴を穿ち、現状を変えたい、というのも分かりました。
では、彼らに一度思う存分この日本なるものの一部、お台場などと言わず東京まるごと吹っ飛ばしてもらいたいのよ。どうせ小説世界でのことなのだから今更人道上云々なんぞ申しません。
日本国民の一割くらい犠牲にしたらこの世の中少しは変わると言われるのであれば(あ、そんなことハッキリ言ってないか…でもそう受け止められる言い回しはあるよなぁ)是非その後の世界を描いていただきたい。本編でも述べられているようにこの機に乗じて「北」の工作員が一斉に破壊活動に出るのか、はたまた在日米軍の出動ばかりか第二次大戦の終戦時のように新たなるGHQが乗り込んでくるのか。今ある日本政府が崩壊し、経済活動が停止。社会は大混乱に陥ることに。日本国民に残された運命はいかなるものなのか?日本は、日本人は再生出きるのであろうか?その辺りの物語を描いてほしい。
かって森詠さんが『燃える波濤』で描いたように、自衛体内の右派によるクーデターで日本はかってあったような独裁国家に転落し、それに抗して戦うパルチザン、抵抗勢力が結成され日本は内乱状態へ突入する。さて、日本の行く末はいかに?といった内容で。
あるいは小松左京が描いた「日本沈没」で問われた、国家を、日本独自の文化を築いたを国土そのもの失った日本人が今後「日本人のアイデンティティー」をどのように保つことができるか?
こうしたより大きい問題をテーマに物語を書いて欲しい。そのためには列島が「北」からテポドンで攻撃されようがテロリストが原発を何基か壊したってかまわない。首都が消失するのもしょうがない。そうならねば日本は変わらないと言うならば。ね、福井さん!
ちょっと過激すぎる発言かしらん???