min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

ラティーノ・ラティーノ!

2006-04-30 17:54:15 | ノンフィクション
垣根涼介著『ラティーノ・ラティーノ!』幻冬舎文庫 2006/04/15 457+tax

2002年の後半から約2ヶ月に渡り、ブラジル及びコロンビアの二十数都市を取材したときの旅行記である。両国とも治安の悪さでは世界の中でも屈指であるのはご存知の通り。
だがそこに住む人々の貧しいながらも明るくしたたかな生き様を著者は垣間見る。
著者が現地を己の足で見て歩き、肌で感じたもの、また出合った人々、日系人から得た貴重な情報が後の『ワイルド・ソウル』と『ゆりかごで眠れ』に脈々と反映されているのが実感できる。両作品を読む上で興味深い取材旅行記である。
南米大陸の印象は僕がかって過ごしたアフリカの大地や人々とかなりの部分オーバーラップするものがあり、やはり一度訪れたい場所であることを痛感した次第。だがその機会は果たして残されているのだろうか?

ゆりかごで眠れ

2006-04-30 17:53:01 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『ゆりかごで眠れ』中央公論社 2006/04/10 1800+tax

この小説は『ワイルド・ソウル』に次ぐ垣根氏のフレンチ・ノワールならぬ「ラティーノ・ノワール」ともいうべき南米日系人の犯罪小説である。『ワイルド…』が過去の日本政府による移民政策のつけを徹底的にはらすという若干政治性を帯びた内容であったが、今回登場する日系コロンビア人リキ・コバヤシ・ガルシアの場合は新興コロンビア・マフィアのボスであり純粋に悪党である。
幼児期に移民した先のコロンビアの小さな村で両親とも極右勢力の準軍事部隊の兵士たちに惨殺され、現地人に引き取られがまたも襲われる。
やがて大都市のファベーラ(貧民窟)に逃れ育つのであるが多くのファベーラの少年達同様、成り上がるためにはギャング団の一員として犯罪に手を染めるしか方法はなかった。
ただこの日系の少年リキはずば抜けて頭が良かった点が他の少年たちとは違ったのだ。
いつしかリキは街でも有力なギャング団のボスとして君臨し、やがてカリ・カルテルやメデリン・カルテルの衰退に乗じ新興カルテルのボスの一角にまで登りつめたのであった。
だが、リキが他のコロンビア・マフィアと決定的に違うのはリキが決して部下を見捨てないこと、根底に「信」がある点であった。
したがって部下は盲目的にボスを信じて服従し絶対に裏切らない。だが万万が一リキを裏切った場合には彼等が生まれ育ったアンティオキア州の格言にある「愛は十倍に憎悪は百倍にして返せ」のとおり、本人はおろか家族親族に至るまで組織の報復を受けるのであった。
今回の日本へやってきた理由は部下のひとりが殺人容疑で逮捕され新宿北署に拘留されているのを奪還するのが目的であった。
リキはどんな場合でも部下を見殺しにはしないためだ。そのために本国からブローニングM2重機関銃、別名「肉斬り器(ミート・チョッパー)」と呼ばれる銃器で対人用に使われるとまさに別名通り人間などミンチ状にしてしまう物騒な代物を日本に持ち込んだ。
本々この重機関銃は主に敵陣地の破壊、航空機や軍用ヘリを撃ち落とすためのものだ。日本のヤクザはもちろん他の外国人犯罪者、組織が考えもつかぬ方法で部下を奪還しようというのだ。
ところで上述のような書き方をすると本編はマフィアの徹底的な暴力抗争のみを描いているように受け止められかねないが、ここに小さな女の子が登場する。
彼女はリキと共に来日するのであるがこの辺りの詳細は敢えて割愛する。この女の子の存在が極めて重要な意味を持ってくる。かっての米映画『レオン』と合い通じるものがあるのではないだろうか。

一方日本側での物語り進行上で悪徳デカとひとりの女性刑事が登場するのであるが、どの時点でどのようにリキと接点が交差するのかが見所である。
この妙子という女性が後半重要な存在として浮上するのであるが、ただひとつ残念なのはリキの人物造形がかなり緻密であるのに比べ、どうも彼女のキャラクター造りが不鮮明であること。特に「暗黒、虚無世界に惹かれて行く」過程が明らかではない。
全編を通して血なまぐさいストーリーでありながら何故か読後感が悲壮でないのは、登場人物がラテン系の人間たちであるせいなのだろうか。
『ワイルド…』でもそうであったが、垣根氏が描く日系日本人はカッコいい。彼が求める日本人主人公はもはや本国では“去勢された”男達だけで見当たらないのであろうか。
蛇足ながら過去どの作品にも必ず披露される垣根氏のカーマニアぶりはもちろん今回も健在で、「改造ランサー・エボリューション」が登場する。



Op.ローズダスト

2006-04-30 00:50:44 | 「ハ行」の作家
福井晴敏著『Op.ローズダスト(上下)』2006/03/15 上下各1,800+tax

大分読書感想のアップが止まってました。最近かなり忙しいせいですが・・・。

そんな中久しぶりに読んだ長編大作『Op.ローズダスト』。『終戦のローレライ』から3年以上経ったわけ?満を持しての長編がまた「北朝鮮」「テロリスト」「自衛隊」「公安警察」といったキーワードで埋められている。
そして登場人物がまた冴えない中年オヤジ(けっこう味が出ているけどね)とスーパーボーイの工作員の青年の取り合わせ。更に敵対する者たちがまた超弩級の能力を持つことは言うまでもないし。美少女のスーパー・スナイパーだって登場する。ま、福井さんの“お約束”事項ではあるわけ。
今回はなんと臨海副都心「お台場」を、放射能こそないものの核爆弾級の威力を持つTpexなるスーパーウェポンが吹っ飛ばす、という物騒なお話になっております。この「テロリスト」というのが今度は北朝鮮からのテロリストではなく「ダイス」(ああ、またダイス!福井さんのこの手の小説に出てくるのは何度目?自衛隊内の特殊部隊を擁する謎の機関なんだけど)にかって属していた精鋭たちだった。「ダイス」による北朝鮮への特殊工作「オペレーションLP」が「ダイス」の手によって葬られ、仲間の幾人かが粛清された。裏切られたことに対する“復讐”のため、彼らは一度北に逃れた後東京へ舞い戻ってきた。そして復讐の最初ははかって裏切った者たちへの「爆殺」でもって幕が切って落とされた。
首都圏の重要な一部となった「お台場」を消滅させることは直接手を下し裏切った者達への復讐のためだけではなく、その背後に蠢く自衛隊、政府官僚、いやそれらを生み出し、更に黙認している国民総体への復讐でもあった。

お台場に仕掛けられたスーパーウェポンの爆破を阻止すべく先に述べた中年オヤジ殿(公安組織内のハグレ者)と理由あってかっての仲間から取り残されたダイスの工作員が大活躍する。もちろんお約束どおり彼らの属する「警察」vs「自衛隊」の確執が盛り込まれることとなる。
さて、これ以上くどくどと書かなくても“結末”が分かってしまうところがつまらない。福井さんが毎度強調するように、戦後歩んできたこの日本という国家、国民がもはや救いようがないほど平和ボケし、国家も社会も腐敗しきっているのは充分に理解しているつもり。「テロリスト」たちがこうした“日本の状況”のどてっ腹に穴を穿ち、現状を変えたい、というのも分かりました。
では、彼らに一度思う存分この日本なるものの一部、お台場などと言わず東京まるごと吹っ飛ばしてもらいたいのよ。どうせ小説世界でのことなのだから今更人道上云々なんぞ申しません。
日本国民の一割くらい犠牲にしたらこの世の中少しは変わると言われるのであれば(あ、そんなことハッキリ言ってないか…でもそう受け止められる言い回しはあるよなぁ)是非その後の世界を描いていただきたい。本編でも述べられているようにこの機に乗じて「北」の工作員が一斉に破壊活動に出るのか、はたまた在日米軍の出動ばかりか第二次大戦の終戦時のように新たなるGHQが乗り込んでくるのか。今ある日本政府が崩壊し、経済活動が停止。社会は大混乱に陥ることに。日本国民に残された運命はいかなるものなのか?日本は、日本人は再生出きるのであろうか?その辺りの物語を描いてほしい。
かって森詠さんが『燃える波濤』で描いたように、自衛体内の右派によるクーデターで日本はかってあったような独裁国家に転落し、それに抗して戦うパルチザン、抵抗勢力が結成され日本は内乱状態へ突入する。さて、日本の行く末はいかに?といった内容で。
あるいは小松左京が描いた「日本沈没」で問われた、国家を、日本独自の文化を築いたを国土そのもの失った日本人が今後「日本人のアイデンティティー」をどのように保つことができるか?
こうしたより大きい問題をテーマに物語を書いて欲しい。そのためには列島が「北」からテポドンで攻撃されようがテロリストが原発を何基か壊したってかまわない。首都が消失するのもしょうがない。そうならねば日本は変わらないと言うならば。ね、福井さん!
ちょっと過激すぎる発言かしらん???

国家の品格

2006-04-22 20:43:18 | ノンフィクション
藤原正彦著『国家の品格』新潮新書 2006/11/20 680+tax

今年の1月、書店でみかけた時にこの本の題名が気に入って手にした。山積みされた本のとなりには“ベストセラー”と大書された紹介文字が。
「ふ~ん」と思った。やはりこの時期みなさんが何となく感じていたのは、わが国並びにアメリカを筆頭とした「下品な国家」ばかり見せつけられてウンザリしていたようで、このような題名の本をみると注目してしまうのだろう。
さて、本書を読み出して西欧の論理、宗教更に文明が行き詰ってしまい、それに唯一対抗できるのはわが国固有の「武士道精神」である、と述べられたあたりで止まってしまった。なんとなく「武士道」かよ!ということで興味を失ってしまってしばらく放り投げておいた。
しかし我が読書仲間のディックさんが最近本書の感想を彼のブログで紹介されたのを機会に本日再び最初から読み直してみた。
先ず著者であるが有名な?数学者であることと、なんと僕がかってこよなく尊敬してやまなかった作家、故新田次郎氏の次男であることがわかってかなり興味が湧いてきた。
特に面白かった意見は数学の天才は必ず美しい環境の下に育ち、美的情緒を有する者に限られる、というくだりである。
僕は数学が大の苦手であったから天才的数学者と聞くとなにか奇人の類でことさらに美意識なんかと無関係なんだろな、などと勝手に思い込んでいたものだからちょっと驚いた。
著者は西欧型論理の無力を説き、対抗策」として日本文化の「情緒と形」をあげている。そして今後日本が国家としての品格を身に着けるためには武士道に示された慈愛、誠実、惻隠、名誉、卑怯を憎む心などが必要だと説く。
具体的にどうするか?という段になると首をかしげるのだが、これは何らかの形で学校教育の場で実現するしかないだろうが難しそうに思える。

あと特に興味深かったというか著者に激しく同意した箇所は真の国際人とは?について。著者自らが渡米した経験があり更に英国で教壇に立った経歴が示すように自らが国際人であるらしい。
彼が指摘するとおり英語をしゃべることが国際人ではけっしてなく、しっかりと自国の言葉を操り、自国の文化、歴史を理解しているものが国際的に尊敬される人物となり得る、と断言した点に同意する。
したがって昨今議論されている小学校からの英語教育なんぞ全く不要である、と断じる点も僕はまったく同じ考えである。
とまれ我が国も太平洋を隔てた“下品な国家”と袂を分かち、ちょっとは品格のある国家をつくりたいものだ。

4TEENフォーティーン

2006-04-17 00:25:25 | 「ア行」の作家
石田衣良著『4TEEN・フォーティーン』新潮文庫H17.12.01 476+tax

もんじゃやきで有名な月島の中学校に通うナオト、ダイ、ジュン、そして僕タツローの4人の中坊(2年生)たちが織り成す青春物語。彼らの抱える悩み事、関心事、それは勉強以外の友情、恋愛、セックス、病気、暴力、そして死についてであり、我々が同じ年頃こんなことを考えていたかどうかはるか昔の記憶に頼っても思い出せない内容である。
そもそも自分の中学2年生の頃を思い出してみよう。田舎の中学と本編の舞台となる東京の月島あたりの環境では大違いであろうし、また生まれついた時代環境も激変しており比較の対象にはならないまも知れない。
僕なんかの育った時代は本編で語られる中学生活に比べるとはるかに平和でモノ不足の単調かつ単純な世の中であったと思う。だから今時の中学生がこんなことを考え、行動するなんてやっぱり小説世界だけのことだろな、などとひとり決め付けてしまう。
それにしても40才に近い著者の視点、少年達への観察力、そして空想力は素晴らしい。いつしか14才の少年達の世界についつい引き込まれてしまう。
とまれ、読み進むうちにまだ高校受験を意識することなく、限りなく「大人の世界」へ好奇心を抱いた我が中学2年生の頃もちょっぴり思い出したことも事実で、ただただこの作家の感性と力量には脱帽したものだ。
この作品で直木賞をとったそうだ。