min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

ヘニング・マンケル著『タンゴステップ下』

2012-01-26 20:03:16 | 「マ行」の作家
ヘニング・マンケル著『タンゴステップ下』創元推理文庫 2008.5.23 第1刷 

おススメ度:★★★☆☆

最初に殺された男は相当の恨みをかって殺されたであろうことは、その殺害方法からうかがわれた。それはムチの類によって長時間背中の肉がボロボロになるまで粉砕され、いわば悶死したようなものだったからだ。
更に死骸を抱いてダンスをさせたと思われる血のしたたった足跡はタンゴのステップであることがわかった。本書の題名はそこから付けられたものだ。
ここまで恨みをかった男の仕業は一体何であったのであろうか?
犯人の手掛かりが全く不明のまま、男の隣人である男性がまるで処刑されたような射殺体で発見されたことにより、その殺害手口の違いから犯人は別にいるものと警察は判断したのだが、捜査も行き詰る。

地元警察の捜査とは別に本編の主人公ステファンは独自の捜査に入る。そもそも警官新人の時代に教えを受けた元同僚ということだけで、病気休暇中の身をおして非公式な捜査を行う理由は一体何であろう。
一つは自らの死を覚悟したことにより、他人の死が身近に感じたせいであったのかも知れない。
最初は漠然とした好奇心が先行したものの、やがて殺人の背後に潜むナチスの亡霊がやがて自らの亡き父親まで巻き込んだ暗雲となって拡大され、今や亡霊が現実の脅威となってステファンの前に立ちはだかることになる。

下巻の中盤あたりから物語の全貌がある程度明らかになり、いよいよ真犯人を追い詰めるクライマックスを迎えるのだが、この辺りの展開がまるで物足りない。
全く地味なサスペンスのクライマックスなのだから、せめてもう少し工夫があってしかるべきである。

エピローグは蛇足だ。




ヘニング・マンケル著『タンゴステップ上』

2012-01-21 23:39:20 | 「マ行」の作家
ヘニング・マンケル著『タンゴステップ上』創元推理文庫 2008.5.23 第1刷 

おススメ度:★★★★☆

本編の巻頭に短く要約された物語の内容が記されているので引用させていただく。


「男は54年間、眠れない夜を過ごしてきた。森の中の一軒家、選び抜いた靴とダークスーツを身に着け、人形をパートナーにタンゴを踊る。だが、その夜明け、ついに影が彼をとらえた・・・・
ステファン・リンドマン37歳、警察官。舌癌の宣告を受け、動揺した彼が目にしたのは、自分が新米の頃指導を受けた先輩が、無惨に殺害されたという新聞記事であった。
動機は不明、犯人の手掛かりもない。治療を前に休暇をとったステファンは、事件の現場に向かう。CWA賞受賞作「目くらましの道」のあとに続く、北欧ミステリの記念碑的作品ついに登場」


北欧スウェーデンのミステリ作品は一昨年に読んだスティーグ・ラーソン著「ミレニアム ドラゴンタトゥの女」しかないのだが、あの作品の衝撃と感動がなければ北欧ミステリーに興味を抱くことはなかったと言える。
先の「ミレニアム・・・」の中でも語られていたのであるが、本編においてもスウェーデン国内における“ナチズム”の台頭について記されている。第二次大戦前からスウェーデンを始めとした北欧に多大な影響を与えたとされる“ナチズム”は現代においても生き残ってその信奉者がいる。
本編の凄惨な殺人事件の影は実にこの“ナチズム”であることがプロローグで示唆されるが、物語は意外な方向へと展開していく。

北欧の静謐な森と湖を舞台に、暗く陰鬱な冬が訪れようとしている。事件の真相もまた自然の陰鬱さに呼応するように暗く切ない。
派手なアクションはないが、主人公の深層心理にせまる描写はアメリカ・ミステリとは別の味わいがある。このような重厚なミステリは結構好きだ。

さて、全てが謎に包まれた前篇であるが今後どのような結末が待っているのであろうか!?下巻が楽しみである。


高野秀行著『ワセダ三畳青春期』

2012-01-20 21:51:49 | ノンフィクション
高野秀行著『ワセダ三畳青春期』集英社 2003.10.25 第1刷 

おススメ度:★★★☆☆

このタイトルを読む限り、はるか昔昭和の時代のバンカラ学生青春期かなんかと思ってしまう。
ところが時代は1989年から2000年の間のことで、こんな三畳間の下宿があったとは!家賃はなんと一万二千円。
早稲田大学の正門からほど近いところに「野々村荘」という相当古い下宿屋に転がり込んだ早稲田探検部の学生の物語で、かなり奇想天外な生活ぶりに驚かされる。
本人は通常の4年間で卒業するつもりはなく、好奇心と探検心の赴くままにアフリカのコンゴに幻獣ムベンベを探しに行ったり、アマゾン河を何ヶ月もかけ遡上したり、ほとんど授業に出ることもない。
そんな彼の周りにはやはり一風変わった人々が集まり、時に抱腹絶倒の奇行を繰り広げる。
暇つぶしに読む分には何とも手ごろな読み物だ。
さてこんな極楽トンボ暮らしが永遠に続くわけもない。他人は彼をうらやむが彼にだって将来の人生があるわけだ。そんな彼を現実の生活に送り出したのは、彼女が出来て、彼女が導いてくれた。そのくだりが何とも微笑ましい。

ところでワセダ探検部といえば、かの船戸与一氏を思い起こすのだが、やはり後輩の中にも面白い人物がいるものだ。
本編は昨年末にあった旧FADV(ニフティの冒険小説&ハードボイルド電子会議室)忘年会の席上いただいたもの。早大出身者であれば、いやならずとも大いに楽しめる異色青春記である。



高野和明著『グレイブディッガー』

2012-01-08 11:28:10 | 「タ行」の作家



高野和明著『グレイブディッガー』新潮社 2005.6.15 第1刷 

おススメ度:★★★☆☆


本編は逃走と追撃の物語だ。それにサスペンスとカルト風味が加えられ、サクサクと読み進めることが出来るエンタメ小説である。
主人公八神は小悪党であるが、或る時何を思ってか(ある種の罪滅ぼしか)骨髄移植のドナー登録を行い、今まさに骨髄移植手術を受けに病院に向かうことになっていた。
そんな彼に降って湧いたような殺人事件に遭遇し、正体不明の4人組に追われ、その逃走の最中に4人のうちの一人が転落死してしまう。それで更に警察からも追われることになり、都内北区赤羽から目的地である大田区六郷までの大逃走劇を繰り広げる。
さて、殺人事件であるがこれが連続猟奇殺人で「Grave Digger(墓堀人)」と称される殺人犯。中世暗黒時代、魔女狩りが盛んであったヨーロッパで英国に出現した伝説的な殺人犯であった。このグレイブデッガーなる殺人者は魔女狩りを行った異端審問官を狙ったか“処刑人”であり、そのいでたちは分厚い黒いマントを羽織り頭部を覆ったフードの陰では、二つの目だけが妖しくひかっている。両腕にはボーガンと戦闘用斧を持つというオドロオドロしい姿だ。
中世暗黒時代に跳梁跋扈した“処刑人”が現代の日本に蘇えり連続殺人を始めた。
八神は正体不明の集団と警察、更にはこのグレイブディッガーにまで追われるハメになる。
一体何故に追われるのか?そして無事目的地の病院にたどり着き、自分の骨髄を必要とする少女の命を救うことが出来るのか?
一昼夜逃げ回る逃走と追撃が待つ結末とは!?

本書は高野和明氏の『ジェノサイド』を読んだ契機で過去作品は?との思いで読んだもの。正直に書けば、もし本書を先に読んでいれば『ジェノサイド』は読まなかったかも知れない。
それは高野和明氏が大幅に作家としてここ数年で“進化した”と言えることだ。