min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

死地―南稜七ツ家秘録

2008-06-30 16:38:24 | 時代小説
長谷川卓著『死地―南稜七ツ家秘録』ハルキ文庫 2002.9.18 第一刷 760円+tax

オススメ度★★★★☆

前作から時は移ろい30年以上経ってしまった。二ツ(幼名喜久丸)は七ツ家の小頭には就かなかったものの、一族の重鎮として尊敬を集め皆からは“叔父貴”と呼ばれていた。
二ツは七ツ家の者2名とで柴田勝家の要請で秀吉軍に包囲された城から勝家の妻、お市の方を“落とす”べく任務についていた。
勝家の要請が時機を逸したため、結果、勝家とお市の方は自害して果てたのだが、二ツらももはや脱出できぬ状況下にあった。
そこで二ツが取った行動は「秀吉に会わせろ、儂は秀吉の叔父だ!」という意表をつくものであった。
実は二ツが二十歳の頃よく遊びに行った里で秀吉が幼少の頃の日吉と何度も会っていたのだ。日吉もまた二ツのことを“叔父貴”と呼んで慕っていた。
そんな因縁で二ツはその場は命を取られず逃してもらったのであるが、秀吉は「こんど戦場で見舞うことがあれば命は保証しない」と言いはなったのであった。

やがて秀吉は北条家を攻略しようと画策した。それを察知した北条家に仕える風魔一族は秀吉暗殺を決意し、精鋭の忍者部隊を大阪城に送り込んだ。
秀吉の周辺を警護していたのは“錣一族”という飛騨の森の民・忍者集団であった。
だが風魔の精鋭部隊は錣一族によって返り討ちにあい、風魔の頭領は七ツ家に助力を頼んだのであった。ここに七ツ家と錣一族による死闘の火蓋が切って落とされた。

一方、錣一族には正体不明の老婆がおり、彼女は毒草に造詣が深く恐るべき毒を製造したのであった。やがてこの毒による攻撃が七ツ家に向けられることを二ツらは知る由もなかった。
本編では“錣一族”という謎の忍者部隊との戦いが大いなる見せ場となるが、一方秀吉の出自の謎解きにも関心が寄せられる。
“山の民”VS“森の民”という通常の忍者同士の戦いぶりとはやや違った戦いぶりはなかなか面白く、「戦国ジェットコースター・ノベル」といっても良いスピード感溢れる時代小説となっている。

血路―南稜七ツ家秘録

2008-06-24 19:01:26 | 時代小説
長谷川卓著『血路―南稜七ツ家秘録』ハルキ文庫 2005.4.18 発行 780円+tax

オススメ度★★★★☆+α

武田晴信(後の信玄)が諏訪を攻略するためには途中の要害にある芦田満輝が持つ龍神岳城がどうしても邪魔であった。
その龍神岳城の芦田一族内で謀反が起きた。芦田満輝の弟が兄の住む館を包囲し、満輝を始め妻子をも皆殺しにしようとしたのだ。襲撃からからくも逃れることが出来たのは満輝の長男、喜久丸と傷を負った従者ただ二人であった。やがて二人も追っ手に追いつかれ絶体絶命になったところを救ったのは山の民(南稜七ツ家という集団)のひとり市蔵であった。

やがて龍神岳城を手に入れようとする甲斐の武田晴信と喜久丸の仇討ちを手助けしようとする「七ツ家」の間で火花が散らされることになる。
武田晴信には「かまきり」と称する強力な忍者集団がいるのだが、この「かまきり」と「七ツ家」との激闘がこの小説の売りである。

あとがきにも書かれているのであるが、この「七ツ家」とはどうも山窩(サンカ)の流れをくむ山の民の集団で、戦国の世を渡り歩くうちに乞われれば「落とし」(落城寸前の城から城主の妻子を逃す)や物資の密かな運び入れなどを請け負う生業についていた集団であった。
もちろん歴史上そのような集団は存在せず作者の創造した集団ではあるのだが、自由な流浪の民として、誰とも主従関係をもたない独立した集団として極めて特異ではあるが魅力的な集団として描かれている。
武田方の「かまきり」の中にも「七ツ家」の中にも異能を持つ手練れがおり、彼らの織りなす戦いの様はつい山田風太郎の忍法を想起させるが、あそこまで荒唐無稽ではない。

この作家は始めての作家であるが、多少、小説としては荒削りな部分があるものの、戦国時代モノをこのような角度から切り取る手法、発想にはかなり惹かれるものを感じた。
この小説は上記の助けられた喜久丸のある意味成長譚でもあり、つづく「七ツ家」シリーズ第2弾『死地』においても更なる活躍をするようなので是非次作も読んでみたい。

WORLDWIRED―黎明への使徒

2008-06-20 07:50:05 | 「ハ行」の作家
エリザベス・ベア著『WORLDWIRED―黎明への使徒』ハヤカワ文庫 2008.5.25 発行 880円+tax

オススメ度★★☆☆☆

カナダの恒星艦「モントリオール」では異星人とコンタクトすべくチームが結成された。2つの異星人の船のうち、“鳥かご”と呼んでいる船にジェニーほかチームが船外服を着て近づきコミュニケーションを図ろうとした。
“鳥かご”もそうであるが、“樹木船”と呼ばれるもうひとつの異星人の船とのコンタクト場面はなかなか興味深いものがあるが、これまた内容的には僕の想像力、理解力を遙かに超えているようだ。
読み進むうちに、この著者自身が異星人ではなかろうか?と思えてきたほど(笑)

地球上では全人格プログラム“リチャード”が微笑ロボットを使い、惑星弾でほぼ壊滅的な打撃を受けた地球規模の天候異変をなんとか修復しようと試みが続けられた。
一方、カナダと中国は争いの場を国連に移し互いに丁々発止の論戦を張るのであったが、公聴会の場は中国のサイボーグ化された工作員によって一瞬のうちに修羅場と化した。
ジェニーはカナダ首相を守るべく奮戦するのであるが、著者の銃撃戦の描き方は手慣れた、とは言い難いレベルではなかろうか。

なんとか第3巻まで来てしまったが、最後までオススメ度は星が2つのままであった。これはあくまでも「オススメ度」であって。必ずしも内容の出来具合と比例するものではない。
マニアックなSFファンにはたまらない魅力があるのかも知れないが、そうでない他の読者の誰彼にお勧めする本ではないことを最後に記しておく。



SCARDOWN―軌道上の戦い

2008-06-16 19:38:09 | 「ハ行」の作家
エリザベス・ベア著『SCARDOWN―軌道上の戦い』ハヤカワ文庫 2008.4.15 発行 880円+tax

オススメ度★★☆☆☆

サイボーグ士官ジェニー・ケーシーシリーズの第2弾。

ジェニーと操縦士訓練生のリーアとパティの3人はいよいよカナダ軍の最新鋭艦「モントリオール」に乗り込み宇宙へと向かった。
中国はカナダより一歩先んじ既に人類が移住可能な星を目指し、亜高速宇宙移民船を発進させていた。そして中国軍の宇宙戦闘艦「黄帝」は「モントリオール」の行く手を待ちかまえ更にモントリオールの中にスパイを放ち破壊工作を狙っていた。
破壊工作がうまく行かなくなった「黄帝」はあろうことか、カナダのトロントに向け「小惑星」弾を放った。衝突をすれば途轍もない厄災を地球全体に与えるというのに!
一方、異星人の艦隊が2方向から「モントリオール」に接近しつつあった。
彼らは「モントリオール」や「黄帝」の宇宙艦の原理を授けて、更に操縦の仕方を人類に贈ったのであるが、互いににらみ合う中国軍とカナダ軍に対しどのような対応をとるのか全く不明であった。

とにかく読んで疲れる小説だ。異星人「贈り主」のハイテクノロジー、例えば宇宙艦の構造、推進エンジンシステム、更に操縦にかかわるパイロットの体内に「微小ロボット」なるものの移植などなど、全くちんぷんかんぷんな奇天烈な説明が飛び交い読者を翻弄してくれる。
ほかにもエルスペス博士が開発した全人格プログラム「リチャード」の存在など、頭痛を起こす話題ばかり。
だが、ここまで来たらもう結末まで読むしかないではないか!?乞うご期待第3弾か?

SF作家としての発想のきらめき、それなりの知識、博識の厚みは認めるのだが、何か女性特有のしつこさが感じられ、時折鼻白むのは僕の偏見なのであろうか?

魔女の盟約

2008-06-12 10:41:45 | 「ア行」の作家
大沢在昌著『魔女の盟約』文芸春秋 2008.1.10初版 1700円+tax

オススメ度★★★★☆

前作『魔女の笑窪』の続編。絶対に足抜けは出来ないと言われた「地獄島」から逃れた水原は、東京で闇の社会のコンサルタントとして一応の成功をおさめた。
だが、島の「番人」がいつ自分を連れ戻しに来るか分からないという恐怖感を常に抱いていた。
ついに恐れていた「その日」がやって来た時、水原は命をかけた反撃を開始したのであった。
東の暴力団「連合」の東山の手づるで、「地獄島」を乗っ取り新たな利権を築こうとする韓国人の朴と九州の暴力団の支援を得て、悲願であった島への復讐を遂げた水原であったが、そのまま日本に留まることは出来なかった。
朴の束ねる組織に匿われる形で水原は韓国の釜山で“ほとぼり”を冷ましていたのだが、無聊をかこつ隠遁生活もある日突然終わりを遂げる。水原の庇護者であったはずの日韓双方の幹部が水原の目の前で「ある人間」によって皆殺しにされたのだ。
水原が九死に一生をえたのは謎の中国人女性のお陰であった。彼女の口から、地獄島から釜山での惨殺に至る一連の事件の背後には更なる“黒幕”がいることが判明した。
実は彼女は中国上海の公安刑事で、彼女の夫と一人息子がその“黒幕”の手によって殺されてしまったと言うのだ。
水原は彼女に一命を助けられた恩義に報いるべく、“黒幕”の逃亡先日本へ彼女の復讐を手助けするために再び日本へ舞い戻ったのである。
彼女を待ち受けるのは日本の警察と「連合」という暴力団組織、そして九州の暴力団。
彼女が国外逃亡した後に「地獄島」の犯行の嫌疑がかけられており、警察に捕まるかヤクザ組織に命をとられるか、今や日本は彼女にとって世界中で一番危険な国なのであった。
果たして水原は警察やヤクザの目をのがれ中国人女性の敵討ちを成功させることが出来るのであろうか?そして「地獄島」の一件が実は周到に練られた巨大な陰謀であったことが判明し、水原はそれに見事に“嵌められた”わけで、その窮地から脱することが出来るのであろうか?
今回の水原が置かれた状況はまさしく“四面楚歌”であるが、彼女の頭の切れの良さと男勝りの度胸で切り抜けてゆく。立場は違うがまるで女版「新宿鮫」を見る思いだ。

さて今回、重要な物語の要素となるのが、今中国社会の中で台頭しつつあると言われる“民族系マフィア”である。本編では中国社会では少数民族である「中国朝鮮族」にスポットが当てられている。
旧ソ連が崩壊した後、かの国ではこの“民族系マフィア”(例えばチェチェンマフィアのような)が台頭、急速に組織を拡大し一国の経済まで牛耳る状態になったほど。
中国が今後旧ソ連と同じような軌跡を辿ることは充分に考えられることで、この「民族系マフィア」に着目した大沢在昌氏の眼力には感服した。
水原女史の活躍ぶりは前作をはるかに凌駕するもので、更に続編を期待したいところだ。

HAMMERED―女戦士の帰還

2008-06-08 16:54:29 | 「ハ行」の作家
エリザベス・ベア著『HAMMERED―女戦士の帰還』ハヤカワ文庫 2008.3.25 820円+tax

オススメ度 ★★☆☆☆

時は2062年、ジェニー・ケイシーは米国東部のハートランド市のうらびれた下町の一角に暮らしていた。
彼女は25年前、南アでカナダ軍の輸送車運転中アンブッシュに会い車は大破、彼女自身も左半身を失うほどの重症を受けたが軍のサイボーグ化手術によって一命を取り留めた。
その後ジェニーは優秀なサイボーグ戦士としていくつもの戦功によるメダルを授与されたが、今はこの下町で中古車修理をしながら老朽化したサイボーグ器官の痛みを酒とコーヒーでなだめながらひっそりと暮らしていた。
いわば隠遁生活をしながら過去から縁を断ち切るような人生を送っていたのだが、再び自分を過去の世界に呼び戻そうという密かな策動を感じさせる事件が身辺で起き出した。
その中に自分の実の姉の存在を感じ、更に自分のサイボーグ化手術を行ったあのヴァレンズ大佐の影を強く感じたのであった。
一体、彼らは今更自分に何をさせようというのか?

地球は温暖化現象によって生態系が壊滅的に破壊され、軍事、経済大国であったアメリカは内紛状態で完全に崩壊を遂げた。
今、世界を、特に宇宙開発の軍事大国となったのはカナダと中国である。どうも自分はこの宇宙開発の秘密軍事作戦に関与されそうな感じがするのだが・・・

このあたりの世界状況の設定がなかなか面白い。ジェニー・ケイシーを取り巻く人物が皆、一癖も二癖もありそうな連中ばかり。
物語はジェニー・ケイシーの現在と過去、その他バーチャル世界での出来事が断片的に語られ、最初は何が何だかわからず、ある程度「忍耐」が強いられる。後半から徐々に有機的に結合してゆく雰囲気があるのだが。
このシリーズは三部作とのことで第一作目はある意味プロローグと割り切って読むしかないのかも。これは次に進まねばならないだろう。

全体の印象としては単なるSFというのではなく、謎解きがかなりあるサスペンスとも言える構成となっている。
またタッチは硬質なハードボイルドだ。

REQUIEM FOR AN ASSASSIN

2008-06-03 11:27:31 | 「ナ行」の作家
Barry Eisler『REQUIEM FOR AN ASSASSIN』Penguin Group(USA)$7.99

オススメ度 ★★★★★

ドックスは前回レインと共に日本のヤクザから強奪した金を元に、かねてからの願いの通り、インドネシアのバリ島の田舎にコテイジを建て優雅な日々を送っていた。
しかし、戦士の休息は短いものと相場は決まっている。
ドックスは不覚にも元CIAヒルガーの手下に補足されてしまったのだ。
ヒルガーのレインに対する憎しみは大きく、けっして忘れ去ることなどできないほどのもの(実際、レインとドックスは彼の部下2名を殺したし、彼のビジネスに多大なるダメージを与えたことは事実)であった。
ヒルガーは、レインのバディであり今や数少ない彼の友人のひとりであるドックスを人質にとることによって、レインをおびき寄せ抹殺するつもりであった。
ヒルガーはレインに対し、彼が指名する3人のターゲットを暗殺することを指示した。
この暗殺を遂行しない限り、ドックスの命はないものと思えと。レインにはこの要求に従うほか選択肢はなかった。
だが、ヒルガーはこの暗殺の背後に更なる巨大な陰謀を持っていたのだ。

本編ではレインの暗殺技術が存分に発揮され、読者を唸らせる。特に彼の場合「自然死に見せかけた暗殺」という際だった暗殺技術を持っているのである。
舞台はバリ(インドネシア)、サイゴン(ベトナム)、アメリカ西海岸、ニューヨーク・シティ、シンガポール、ロッテルダム(オランダ)そしてパリとめまぐるしい。
はたしてレインは要求された暗殺を果たし、ドックスを救うことができるか?
また背後に隠された更なるヒルガーの陰謀とは何か?全編を通じ、息もつかせないプロットが展開する。

一方、ハデなアクションばかりではなくレインの内面の葛藤が描かれる。それは時に切なく哀愁に満ちたものとなっている。
特に今やレインの手の届かない存在となってしまったミドリと息子への想い、そしてデリラとの関係など、読者も切ない気持ちでいっぱいになる。
さて、シリーズも6作目を迎え、そろそろ暗殺者ジョン・レインの物語も手詰まり状態を迎えたことは否定できない。
本編を読了し、この先本シリーズは続くのであろうか?というのが今気がかりでもある。



余談:
邦訳されるのを待ちきれずに前作『THE LAST ASSASSIN』を読んだ。更に第6作の存在を知るにいたりこれも待ちきれるものではなくなってしまった。
とにかく読みたい!という切なる思いで本編に取りかかったものの、やはり読み進めるには多大の努力が必要であった。読むスピードも邦訳物に比べ数倍かかり、時に何時間も読むと頭痛がしてきたこともあったが、内容の素晴らしさが全ての苦痛を排除した感がある。
また、今までは通常の英和辞典で分からない語彙を調べながらの遅々たる作業をしていたわけだが、今回は後半から「電子辞書」の助けを借りることによってかなり単語の検索が早まったことをご報告しておきたい。やはり文明の利器は凄いものだ。