min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

魂丸

2005-10-24 22:39:53 | 「ア行」の作家
阿井渉介著 徳間書店 2000 7.31第一刷  

読み始め50ページを過ぎたあたりだろうか、なんか???と思いつつ読んでいたのだが「ピカ」という呼び名で突然思い出した。
『あっ、これ読んだことがある!』

以下H13年1月の過去の読書録から引用
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駿河湾の大井川港を母港とする「魂丸」の漁師である幸男、通称シャチは未明に出漁し漁場へ向かう途中、突然衝突事故を起こす。なんと相手は無灯火のプレジャー・ボート。それは真っ二つに裂け海中に沈んでしまった。生存者を探すうちに前方に浮かぶナゾの黒い船から銃撃を受けて逃走することに。なにがなんやら判らないうちにピカと名つけた正体不明の人物とともに海をそして大井川源流の山の中を逃げ回るハメに。
やがてピカの正体と背後関係が明らかになるのだがシャチはとんでもない謀略の世界に巻き込まれることに気がつくのであった。
この主人公シャチがいい。ピカにむかって「漁師は職業じゃねぇ、生き方なんだ」というセリフ。「漁師は銃なんぞ持ったら漁師でなくなる」と言ってけっして銃器を持とうとしない。そのかわり、漁師としてのありったけの智慧を絞った“武器”で敵と対峙する。逃亡の途中で出会う元猟師とのやり取りに心打たれる。根っからの猟師の魂と猟師の魂は最後の最後にに共鳴する。また、海の仲間の友情に涙する。そしてピカとの・・。ああ、これ以上は書けないのだ。
元旦に読み始めその日の内の一気読み。久方ぶりの「直球勝負」的国産冒険小説に大満足!!
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H13年といえばまだ4年前、ああ、なんというカラス頭なのだろう!(カラスははるかに記憶力がいいって?<をい!)        


沖縄やぎ地獄

2005-10-17 10:55:31 | ノンフィクション
さとなお著 角川文庫 H17.9.20文庫化 \533+tax

「沖縄やぎ地獄」というタイトルだけみると、「おっ、あの臭いやぎ料理の本」か!と思うのだが、この「やぎ」編はほんのちょっとだけ紹介されている。
大半は沖縄料理全般に及ぶB級グルメ本と思えばよいのかも。作者がいわゆう「ヤマト」の読者に対し次の料理リストをみていくつ分かるか?と問うているのだが、みなさんはいかが?
・ゴーヤー・チャンプルー
・マーミナー・チャンプルー
・クーブ・イリチー
・ナーベラー・ンブシー
・フーチバ・ジューシー
・テビチ
・ラフテー
・ミミガー
・スクガラス
・イラブー汁
・アバサー汁
・イナムドゥチ
・スヌイ

これで半分以上食ったことがあればあなたは沖縄料理通?かも。沖縄はかって「琉球王国」を築いていたわけで当然中国との交易が盛んであった。よって食文化でも中国の影響はかなり濃い部分があり、この辺りは台湾と共通するところが多く個人的にはなんかしっくりしてくる。
作者は単なる沖縄フリークとしてではなく、食文化を通して沖縄のカルチャーをしっかり勉強、探求している姿が好ましい。

とまれ表題の地獄のような「山羊汁」、一度喰らってみたいものだ。


天空の蜂

2005-10-14 16:21:24 | 「ハ行」の作家
東野圭吾著 講談社文庫 1998.11 880

世界初のフライ・バイ・ワイヤーシステム(*1)を使った巨大なヘリコプターが、その試乗試験予定の当日、メーカーの格納庫から突如無人のまま引き出されやがて天空へ舞い上がった。
いや、ヘリには9歳の男の子が誤って乗り込んでいたのだ。やがてヘリコプターはある地点に向かって高速で飛行を開始し、ホバリングして静止したのは敦賀湾に臨む原子力発電所「高速増殖炉・新陽」のドームの真上であった。
やがて犯人から発信場所がわからないように細工したファクシミリによる声明文が送られてきた。
「日本全国にある原発の稼動を全て停止せよ。要求に従わなければ爆弾を積んだヘリコプターを新陽に落下させる。」というものであった。
物語のポイントは犯人が何者で目的は何か、いかなる方法で無人ヘリを操縦しているのか。犯人のヘリに一人紛れ込んだ少年をいかに救出するのか。また、不幸にして交渉が長引きあるいは決裂して実際にヘリが新陽に落とされた場合の被害予測はいかがなものなのか。
事件発生からわずか10時間あまりの短い時間、そして原発とその上空数百メートルにホバリングするヘリ、という極めて時間も場所も限定、凝縮された緊迫したドラマが展開する。

この手のテロものとしてはプロットの展開としては文句ないところであるが、どうも犯人の人物造形が弱い。あまり詳しく書くとネタバレになってしまうのだが、特に最後に岬の突端に立ち空に向かって拳銃を撃つ男の犯行動機に関しては全く説明がなされない。作者の掘り下げた描写がないが故に読者としては犯人に感情移入ができない。
この作品は単なる「反原発」主義を主張する内容になっておらず、列島に原発が存在するのは現地住民に思いをはせることのない「沈黙した大衆、国民」に原発が存在することの意味合いを思い起こさせることが必要なのだ、というメッセージを込めて描いているようだ。
本書のタイトル「天空の蜂」とは、これら沈黙した民への「蜂の一刺し」、つまり警告という意味なのだろう。
東野圭吾と聞くと僕は映画化された「秘密」を思い起こす程度で、実際この作品すら読んでいない。したがって本作だけで作家としての良し悪しを決めるわけにはいかないが、どうもひとつ感性の波長が合わないようだ。

(*1)パイロットの操縦をワイヤーを介して行わず「電気信号」に変換し操縦するシステム。通常の航空機は今やほとんどこのシステムが採用されている。

ザ・ジョーカー

2005-10-12 18:14:08 | 「ア行」の作家
大沢在昌著 講談社文庫 648+tax 2005.9.15文庫化

六本木に棲息し、警察や通常の探偵には相談できない事件やトラブルを高額な金と引き換えに解決するという「便利屋」あるいは「トラブルシューター」の主人公。本名は使われず、ただジョーカーと呼ばれる男。かってはアフリカで傭兵稼業をしていたらしい。
六本木、元傭兵、といえばかなり前の作品ではあるが大沢氏の「野獣駆けろ」という作品があった。内容や主人公のことはあまりよく覚えていないが、随分とスーパーヒーロー的主人公であった記憶がある。
今回の主人公ジョーカーはそんなスーパーヒーローとまでは行かないまでもかなり現実離れした存在であることに変わりはない。
東直己の「俺シリーズ」の便利屋を超ハードボイルドに変身させたらこうなるのか?どうかは判らない。ちょっと比較の対象を誤った気がする。

本作は6編の短編からなり、1993年から2001年に書かれた短編を集めている。小説現代などの月刊雑誌に発表されていたらしいがこのシリーズの存在は知らなかった。
ジョーカーは殺しの請負はけっして受けないが、自らの身を守るための殺しは躊躇しない、ということでその思考と行動はしっかりハードボイルドしている。また時折みせる人間臭さもまた魅力となっている。
この「ザ・ジョーカー」シリーズ、実はまだ続きがあるそうで第二集の刊行が予定されているようだ。肩肘張らず気楽にハードボイルドの世界を楽しむにはかっこうの作品だ。


荒南風(あらはえ)

2005-10-06 10:00:35 | 「ア行」の作家
阿井渉介著 講談社文庫 2005.9.15 781+tax 1997作品(講談社・単行本)

年にわずかではあるが読み出すと止まらない、激しく魂を揺さぶられる本と出会うことがあるが本書はその数少ない一作だ。

主人公である彦地の設定がユニークだ。この種の作品で元漁師、それも遠洋マグロ漁の船頭(漁労長)であったという主人公は今までお目にかかったことがない。
あるさしせまった事情から彦地は拳銃の密輸にかかわってしまったのだが警察に発覚し4年の刑に服すことになった。
自らが関与した密輸拳銃によってコンビニの罪のない店長とアルバイトの女子高生が殺されたことを知った彦地は出所後その拳銃の行方と拳銃を使って殺人を犯した犯人を突き止めようとし、密輸の背後に存在したと思われる暴力団事務所に単身乗り込んだのであるが・・・。

暴力団組長の息子を誘拐して逃避行に移る。主人公彦地と中学生の男の子との間の感情の交流、反発、共感、共鳴といった描写があるのだがこれを読むにつけR.B.パーカーの『初秋』を思い起こした。
だが男の子が心を開き、大人に成長していくさまは本作のほうがより感動的である。
著者の阿井渉介氏の圧倒的な海の男への共鳴、マグロ漁の詳細、漁師の料理に関する知識の豊富さに驚かされる。
また、海の男の生き様と知恵がヤクザ相手に存分に発揮される場面が幾度も出てきてこの奇妙な噛み合わせがなんとも新鮮かつ強烈な印象を読者に与える。

この作家、お初ではあるがなかなか手ごたえを感じさせる作家だ。本格的ミステリーの著作が多いようであるが近作『魂丸』もまた海洋冒険小説の傑作といわれているみたいで、そちらのほうも是非読んでみたい。

そこに薔薇があった

2005-10-03 12:48:29 | 「ア行」の作家
打海文三著 中公文庫 2005.7.25文庫化 724+tax 1999年の作品

7編からなる短編集。最初の一作から衝撃的なエンディングで二番目の作品でもまた。三番目からはつい身構えてしまう作品群。そして・・・・。
もうこれ以上書くとどうしてもネタバレになってしまうので書けない!
死とエロスが濃密に匂うサイコホラー短編集、とだけ言っておこう。いやはやビックリ!そして痺れてしまった。

苦い娘

2005-10-01 11:26:07 | 「ア行」の作家
打海文三著 中公文庫 2005.4.25文庫化 724+tax 1997年作品「ピリオド」を改題し加筆・修正されたもの

またもアーバンリサーチ社がらみのハードボイルド。

倒産しかけた企業を食い物にする「整理屋」と呼ばれる“ならず者たち”がいる。自分が勤める印刷会社に乗り込んできたそのならず者たちの中に実の叔父を見つけた万里子は愕然としながらも毅然として叔父を問い詰める。
だがその叔父は彼女の目の前で車ごと爆殺されてしまう。爆殺された真相を探るべく死んだ叔父のかっての仲間であり親友でもあった真船という男に接触するのだが、この男がまたくせもの。
そしてお馴染みのアーバンリサーチ探偵調査会社の面々が登場。さらに事件の背後には更なる“ワル”が存在した。
主人公万里子の母親と真船、更に真船の別れた妻と叔父との複雑な関係がからむのだが、万里子はやがて真船に対する反発と恋慕の情を抑えることができなくなる。
事件の真相の深遠に近づくにつれ“ワル”の暗部が不気味に明らかにされてゆくのだが、果たして万里子の愛の行方は・・・。

この小説のならず者たちのワルさ加減は半端じゃない。男と女のかけひきの表現が打海節というのか緊張感を漂わせ読者を魅了してやまない。
このトーンは後の「ハルビンカフェ」により鮮明に具現化しているように思われる。