min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

月村了衛著『影の中の影』

2019-01-08 11:04:39 | 「タ行」の作家
月村了衛著『影の中の影』新潮文庫 2018.3.1第1刷
  
おススメ度 ★★★★☆

今中国の新疆ウィグル自治区で何が起こっているのか。中国当局による厳重な報道規制がかけられている為、世界にその実態がメディアで暴かれることは少ない。
それでも断片的に入ってくる情報によると一種の「民族浄化」政策が取られているようだ。
首都カシュガルにおける漢族による主要商業地区からのウィグル人の強制的な追い出しはじめ、ありとあらゆる主要地区での漢人化とも言える漢人の大量移住が行われているようだ。
中国の狙いは何か。それは新疆ウィグル自治区にある豊富な鉱物資源の確保。
豊富な石炭の埋蔵量に加え天然ガス、レアメタルなどの存在が確認されている。
自治区とはあるが名ばかりで、自治権など無いに等しい。
この地はかってトルキスタン(ペルシャ語でトルコ人の土地の意)と呼ばれ、栄華を誇った。ウィグルは東トルキスタンと呼ばれた。断じて中国の領土などではない。
だが中国は清朝の時代からこの地へ侵攻しようとし、ww2後中国共産党はこの地を実効支配し新疆ウィグル自治区とした。
鉱物資源が確認される前は恰好の核実験地として使用し、1964年以降46回もの核実験を行った。
この実験により住民の間に多くの被爆者が出ているようだが実態はけっして明らかにされない。
したがって冒頭「民族浄化」とも言える政策をとっているのでは、という疑念を持つ次第だ。
こんな現状の中で、中国当局は更なる陰謀を企てある地域のウィグル人に大量の被害者を生む状況が出現した。
からくも生き残った生存者の一部が米国の支援を求め途中の一時的滞在を日本に定めて逃げ込んで来たのだ。
その亡命団を支援する在日ウィグル人を取材しようとしたフリージャーナリスト仁科曜子は眼前でそのウィグル人が謎の集団に殺害され更に自らも襲われそうになった。
ウィグル人の老人が最後に言い残したのは「カーガーに助けを」であった。
「カーガー」とは何か?八方手を尽くして調べるが手掛かりは得られない。
何度か取材を通し懇意となった関西の暴力団の組長から意外な言葉を得た「カーガーに触れたらあかん」と。
その後亡命団の中の3人と会える機会を得たが、その場で3人もろとも謎の集団に拉致されてしまう。
それを救おうとしたのは組長が手配したヤクザたちであったが彼らもまた絶体絶命の危機に陥る。そこへ突然現れて救い出したのが「カーガー」であった。
以降これら曜子、亡命団、ヤクザそしてカーガーと彼らの抹殺を図る中国の特殊部隊、別名「蝙蝠部隊」との壮絶な戦いが行われる。
戦闘の最終舞台は都内川崎にある超高層マンションの最上階3階部分のペントハウス内。限られた空間とはいえ、まだ未入居の広大な空間で一部ジャングルのような庭園もある。
ここで機関銃やショットガンはおろか手りゅう弾まで使っての死闘が繰り広げられるのだが、警察は一切関与しないのだ。
それは日本政府と中国政府の裏取引によるものであった。
さて「カーガー」であるが、なんと言おうか!。「傭兵代理店」の藤堂と暗殺者シリーズのグレイマンを足して二で割ったような人物とでも言おうか。
今まで読んだ冒険小説のヒーローの中でも最強の戦士であろう。本書の帯で「土漠の花」を上回る興奮!とあるがどうであろう。
この手の活劇がお好きな読者には大いに満足出来るでしょう。





月村了衛著『機龍警察 火宅 』

2018-11-03 14:47:33 | 「タ行」の作家
月村了衛著『機龍警察 火宅 』 ハヤカワ文庫2018.8.10第1刷 

おススメ度 ★★★★★

機龍警察と呼ばれる警視庁特捜部の幾人かのメンバーを取り上げ、特捜部に入る前及び入った後の前日譚、後日譚を綴った短編集である。
一遍を除きタイトルが全て仏教用語からなる異色な短編集である。一つだけ除外となったタイトルの作品「雪娘」もロシアに伝わる雪の精霊の名前であって、これも極めてスピリチュアルな響きを持つ。タイトルはそれぞれ
・火宅
・焼相
・輪廻
・済度
・雪娘
・沙弥
・勤行
・化生
からなる7編の物語。機龍警察シリーズファンにとってはどの一遍をとっても感慨深いそして味わい深い内容である。
中でも好きな作品は「済度」。機龍警察突入班の龍機兵搭乗員であるライザ・ラードナーの物語であって、それも彼女が何処でどのようにリクルートされたのか以前から知りたかったからだ。
なるほど、そういう経緯だったのかと充分に納得出来たのであった。
また「勤行」も味わい深い作品となっている。シリーズではあまり深く語られることのない宮近及び城木両理事官が主体となる物語である。こうしたある種ファンサービスとも受け取られる短編集であるがファンにとっては勿論嬉しい限りである。



月村了衛著『機龍警察 狼眼殺手』

2017-12-05 17:58:38 | 「タ行」の作家
月村了衛著『機龍警察 狼眼殺手』早川書房 2017.9.15 第一刷

おススメ度 ★★★★★


日本の通産省と香港のフォン・コーポレーションが進める「クイアコン」プロジェクトに一大疑獄があることが判明した。この「クイアコン」とは新世代量子情報通信システム(詳細は私には理解不能)なるもので、実現されればその影響は軍事、経済を含む全ての分野で絶大な影響を与えるであろう新技術となる。実はこの技術は特捜部が保有する3体の龍機兵(ドラグーン)にも既に使われているといわれ、この謎のシステムはより一層の謎を生むことになる。
「クイアコン」に群がる利権を求める金の亡者たちはあらゆる産業分野にまたがっている。この一大疑獄と並行してクイアコン・プロジェクトに係る役人、研究者が殺される事案が発生し、明確な繋がりは不明ながら連続殺人の様相を見せ始める。この事態を踏まえ警察側は捜査一課、二課に加え特捜部を入れた三者合同捜査を行うという異例の体制をひくこととなった。
しかも三者のとりまとめは特捜部の沖津部長となった。
捜査には更に国税や外事二まで関与し、互いのいがみ合いもあり、捜査は困難を極めた。
さて今回の最大の特徴は本シリーズの目玉とも言えるドラグーンが登場しないことだ、何故なら前述の連続殺人の犯人とおぼしき暗殺者が単身拳銃のみを持って殺戮を繰り返す元北アイルランドのテロリストであるらしいことが分分かっからだ。そこで3人の突入班もドラグーンに搭乗することなく、通常銃火器を持って対処することになった。本編の副題にある狼眼殺手とは「オオカミのような眼を持った殺し屋」を意味する中国語であるが、香港を主な舞台として暗躍し恐れられる殺し屋だそうであるがその国籍、性別、年齢などは一切不明である。だがラードナー警部だけは何故か不吉な予感に囚われた。それは狼の眼を持った一人の元IRFの女テロリストを思い浮かべていた。
本編ではこの狼眼殺手という暗殺者のクライアントが警察内部の<敵>ではないのか?というのが最大のポイントとなっている。
<敵>に関しては沖津部長がその存在を真っ先に指摘してきたが、未だにその黒幕は誰か、組織あるいはグループの実態は明かされていない。今回は遂にその真実が明かされるのか否か?という点も最大の関心ごととなる。
先に述べたが今回ドラグーンを駆使した戦闘こそないものの、狼眼殺手と迎えうつ特捜部の突撃班、特にラードナーとの白兵戦は見ものであろう。
本の帯にある「またしてもシリーズ最高傑作を更新した長編第5作、・・・」といううたい文句はウソではない気もする。とにかく最初から最後まで読者を惹きつけて離さない秀作である。






ドン・ウィンズロウ著『ザ・カルテル 上・下』

2017-05-18 13:05:11 | 「タ行」の作家
ドン・ウィンズロウ著『ザ・カルテル 上・下』角川文庫 2016.4.25第1刷 

おススメ度 ★★★★☆+α

メキシコにおける1975年からの30年間にわたる「麻薬との戦争」を描いた「犬の力」の続編である。
シナロア・カルテルの巨頭のひとりアダン・バレーラの逮捕、収監によってメキシコ国内の麻薬戦争はいったん小康状態になったとみられたのだが、そのアダンが脱獄し、旧来の宿敵であるDEA(米国麻薬取締局の捜査官)アート・ケラーの首に莫大な賞金をかけたのであった。
そのころアートはDEAからも身を隠し、米南部の教会の養蜂家としてひっそりと暮らしていた。
が、ある日彼の前に現れたのはDEAの幹部ティム・テイラーであった。アートは半ば強制的にAFI(メキシコの連邦捜査局)へ派遣され、再びナルコ(麻薬カルテル)と対峙することとなった。
メキシコの「麻薬との戦争」はその勢力争いにおいて以前にも増して激烈化し暴力と贈賄の度合いは目を覆うばかりになっていた。
バレーラの捜索は遅々として進まない中、カルテルの中でもオチョアとZ-40が率いる「セータ隊」の勢力が急速に伸びて来た。
彼らは圧倒的な武力をもって他カルテルを潰し、警察や軍の一部をも支配下においた。今やメキシコの陰の政府とも呼ばれた。

彼らのやり口は「金を受け取るか死か」というもので、買収が聞かない相手に対してはその家族に手を伸ばして従わせるといったもので、殺戮の残酷さはヘタなプラッター映画の数倍も酷いものであった。チェーンソーで首を切り身体をバラバラに切断する、といったシーンの連続には辟易する。
メキシコ軍部の海兵隊はもはや通常のやりかたでは彼らに勝てないという結論に達し、ついには海兵隊内部に特殊部隊(暗殺部隊)を創設し、セータ隊隊員、特に首謀者の直接抹殺に乗り出す。
その考えはアメリカの「テロとの戦い」でアルカイーダの首領ビンラーデンを特殊部隊が屠ったようなものである。
ここに至って「麻薬との戦争」は「テロとの戦争」同様、呵責の無い全面戦争へと突き進む。著者は人間の惨さ残酷さをこれでもかこれでもかと執拗に描くのであるが、奥底にどうしようもないくらいの絶望感、虚無感が漂う。そしてこのような事態を止められない政府、組織そして人々に対し深い深い怒りを感ずる。前作「犬の力」ではまだ希望の光の一端をみられたような気がしたものの、本編においては「絶望」の二文字のみだ。







月村了衛著『機龍警察 未亡旅団』

2017-04-25 15:34:57 | 「タ行」の作家
月村了衛著『機龍警察 未亡旅団』早川書房 2014.1.25第1刷 
おススメ度 ★★★★★

チェチェン紛争で夫や家族を失った女性だけのテロリスト集団が日本に潜入したという情報が入った。
目標も決行日も全く分からない。その上このテロリスト集団の中には未成年、「少年兵」といわれるメンバーが含まれており、彼女らに自爆テロを行わせる可能性が大ということで警察側に動揺が生じる。
チェチェン紛争はエリツインが大統領であった1994年に第一次紛争が勃発し、2年後に一時停戦合意が成立したものの、再び第二次チェチェン紛争が1999年に再発した。
我々の記憶に生々しく残るのは2002年に起きたチェチェン独立派武装集団によるモスクワの劇場占拠事件である。
大統領はエリツインから現在のプーチンに変わっており、プーチンは剛腕でもってこの事件を終焉させた。制圧部隊が劇場の空調を使って毒ガスを流し、武装集団と人質となっていた観客もろとも無力化。特殊部隊が突入し一挙に武装集団全員を射殺という戦慄すべき荒業で制圧したのであった。その時の武装集団50名の内18名の未亡人メンバーが含まれていたと言われる。彼女たちは自爆用爆弾を腹に巻いていた。
そんな事件を思い出したのであるが、現在は世界のテロ状況はさらに悪化し、イスラム国を初めいわゆるイスラム原理主義者らの集団が子供たちに自爆テロを敢行させるという恐るべき事態となっている。
本編はこうした世界状況を先取りする形で恐るべきテロリスト集団「黒い未亡人旅団」を登場させた。
物語は単に機龍警察対テロリストの戦いだけではなく、日本警察内部の軋轢をも抉り出して行く。今回は特捜部と公安、外事との共同作戦となったため、更に内部対立の様相が複雑となった。そして本件の真相は誰もが想像もできないことが含まれ、物語は予想外の方向へ展開していく。

とかくシリーズものといえば第一作が傑作であればあるほど第二作以降の質は落ちていくのが常道であるが、本シリーズに限っては例外であろう。
一作ごとにそのボルテージは上がり、スケールも広がりをみせる。これだけの緊張感を維持し読者を惹きつけて離さない月村氏の筆力には改めて感嘆した。

月村了衛著『機龍警察 暗黒市場』

2015-12-20 18:15:59 | 「タ行」の作家
月村了衛著『機龍警察 暗黒市場』早川書房2012.9.20 第一刷

おススメ度:★★★★☆

第二作目では2足歩行ロボットの搭乗員3名のうちの一人、ライザ・ラーナーの過去が語られたが今回はもう一人の外国人搭乗員ユーリ・オズノフ警部の過去が語られる。
ロシアでモスクワ民警の刑事であった人間が何故に龍機兵となったのかは先のライザ・ラードナー警部同様、大いなる疑問であった。
前二作で断片的にユーリに何があったのかは語られるも詳細はわからない。彼が警察組織に裏切られ捨てられたものらしいのだが、ユーリの警察組織に対する不信感は国が違えども徹底的していた。
物語は彼がどのような家庭環境に生まれたか、その時の社会状況はどうであったのかから始まり、幼少時代にあった出来事、あった友人、更に父親の後を追うように刑事になったこと。そして若き日のユーリ・オズノフが上司に命令され潜入捜査官になったこと。
そこで起きた事件、その事件を取り巻く人物像。いくつもの多元的なプロットが展開され、やがて徐々に収斂されていく様は見事としか言い様がない。彼が辿った道のりの過酷さはライザのそれと比べてもその比類なき過酷さは甲乙つけがたいほどだ。第一作から二、三と読み終えた今、しばし呆然とする感じだ。もう一作短編があるようだが一休みさせていただく。

月村了衛著『機龍警察 自爆条項上・下』

2015-12-08 17:42:15 | 「タ行」の作家
月村了衛著『機龍警察 自爆条項上・下』ハヤカワ文庫2012.8.10 第一刷

おススメ度:★★★★★

「機龍警察」第一作目で登場した2足歩行ロボットの搭乗員3名のうちのライザ・ラードナーを取り出し、彼女の過去を遡行すると共に、今日本を襲う未曽有のテロ事案を相互に描いていく上下巻の作品。
ライザの普段のただづまいを見て、これは尋常の過去などではなくとてつもない過酷な過去を背負った女性であると想像される。ライザは元IRFのテロリストであった。
彼女の身に何が起き、そしてどのようにテロリストになったのかは我々の想像を遥かに超える。
テロリストとなった経緯及びプロフェッショナルと成る過程、そしてその後のテロ活動及び軍事組織内の処刑人としての彼女。更にある事情で組織からの離反に至るまでを描くだけで優に別作品が出来上がるくらい物語性に富んでいる。

英国での過去、日本で進行する現在と未来のプロットを絶妙に織りなす本作品は単なるロボットSF小説を超絶している。もはや一流の冒険小説、戦争小説とも言える作品である。
この作者の底知れぬ実力が垣間見られる傑作がここに誕生したと言えるだろう。
次回作「機龍警察 暗黒市場」もまた本作に勝るとも劣らない作品であるようなので大いに楽しみだ。


月村了衛著『機龍警察』

2015-11-25 11:07:26 | 「タ行」の作家
月村了衛著『機龍警察』ハヤカワ文庫JA 2010.3.19第一刷

おススメ度:★★★★☆

今年、同氏による「土漠の花」を読みえらく感動した。その巧みなストーリーテリングと戦争アクション映画を観ているような映像感覚溢れる描写にすっかり惚れ込んだ。
その旨当ブログに書いたところ、読書仲間から一斉に「機龍警察」を読んだのか?という声が上がった。
「機龍警察」というシリーズの存在は知ってはいたが、ロボコップか?という独断と偏見を抱いたせいで無視してかかっていた。今般ようやく読む機会を得て第一作にとりかかった途端、魅入られるように読み進んだ。
読了する前に第二作、第三作をアナゾンで手配した。これは面白い!ロボコップのような半分ロボットではなく、かつエヴァンゲリオンに登場するロボットほど巨大かつ強力でもない。
似たようなロボットといえばかってエイリアンの何作目かで女主人公が宇宙船内で荷物荷卸し用のロボットに乗ってエイリアンと戦ったのを覚えているだろうか?
あの時のロボットをはるかに高等化、戦闘能力増強化したものと考えると近いかも知れない。
近未来の世界は大量破壊兵器が衰退し、戦争・犯罪面で重用されたのは二脚歩行型機甲兵装有人ロボットであった。これらの機甲兵装ロボットに対しては通常の警察力では対処することが出来ず警察庁内部に「特捜部」を新設し、二足歩行機甲兵装ロボットの中でも最高峰の出来具合である「龍機兵」と呼ばれる3体のロボットを所有した。
このような前代未聞の部署を警察内部に新設したこと自体非難の的となったが、「龍機兵」を操縦するメンバーの顔ぶれを見て、警察内部から猛烈な反感が噴出した
ひとりは元傭兵で世界の紛争地を渡り歩いた日本人姿俊之。ひとりは元北アイルランド軍に属したテロリスト。そしてもうひとりはモスクワ警察にいた元刑事。それぞれいわくのある過去を背負い、警察官にはほど遠い犯罪者の匂いが濃厚な3人だ。
彼らの眼前に現れたのは3台のコップゴブリンという密造型二足歩行型機甲兵装ロボットであった。彼らは何と日本警察のSATの殲滅を目論んでいたのだ。戦闘場面は本当に臨場感あふれる筆致で迫力満点。完璧にハードボイルドの世界観に酔いしれる。
戦闘場面ばかりではなく、警視庁、公安、神奈川県警など警察内部の対立、そして深い闇を抉り出し、特捜部内部メンバー個々人の心の闇をも照射してゆく。やはり「土漠の花」のヒットはまぐれでもなんでもなかったのだ。
近未来警察小説という枠を遥かに超える小説世界が出現した感じだ。続編を楽しみにしている。



リー・チャイルド著『キリング・フロアー 上・下』

2015-08-28 21:35:31 | 「タ行」の作家
リー・チャイルド著『キリング・フロアー 上・下』講談社文庫 2012.12.14


おススメ度:★★★★★


前回同シリーズ2作目「反撃」を読んだとき、このシリーズの第一作を未読なので是非読みたい!と記したのであったがその通りに読んだ。正解であった。
このシリーズが世界的に大ヒットしたのは正しくこのデビュー作が理由であろう。デビュー作でありながらその完成度の高さに驚きの念を持った。
さて、本作のストーリーであるが、軍隊を除隊し放浪の旅にでたリーチャーはバスがジョージア州の片田舎の町に近づいた時点でとっさに下車したい旨バス運転手に頼んで降りた。
リーチャーはバス停からしばらく歩いて町中のレストランで食事をしていた時、突然店内に入って来た4人の警官に逮捕された。
彼の容疑は降りた高速のバス停ちかくにある倉庫での殺人であった。それから彼の身辺を襲った目まぐるしい状況の変化の背後には想像を絶する陰謀が隠されていた。
リーチャーは持ち前の怜悧な頭脳をフル回転させ、事件の背後に潜む謎に肉薄する。彼の推理を阻む輩どもには冷酷とも、残酷ともとれる反撃を行うのであった。
リーチャーが育った環境は決して普通の米国市民が得るような代物ではなかった。彼の父親は米国の陸軍に所属し、世界中の米軍基地を転々として歩いた。したがって彼の家族もまた父の移動に伴って世界中の国々に住むことになった。住むといっても同一場所に一年を超えて滞在することはなく、学校もその都度変わった。
だから友達らしい友達が出来ることもなく、リーチャーにとっては2才年上の兄の存在が絶対的な存在となった。
そんな唯一の肉親である兄が今回の事件に巻き込まれて死んでしまったことを知ったリーチャーは愕然とするのであった。
リーチャーの30数年に渡る全人生は米軍とともにあったわけで、特に幼少期よりこの米軍という社会しか知らなかったリーチャーは除隊後、全くこんな社会と縁がない放浪的人生を歩もうとしたのであったが、振出からそうは行かなかった。そして今後もまたそうはならない、ということだ。
とまれリーチャーが目指す地がどこであれ、安らぎのある地に辿り着き安寧な生活を送るとは思えない。


リー・チャイルド著『反撃 上・下』

2015-08-02 16:50:57 | 「タ行」の作家
リー・チャイルド著『反撃 上・下』講談社文庫 2003.2.15

おススメ度:★★★☆☆


本編はジャック・リーチャーシリーズの第二編である。最初にこのシリーズを読んだのは映画化され世に有名となった第九作目の「アウトロー」からで、読み方としては順序が間違っていると言えよう。だが古本屋でシリーズが目に留まった順であるからしょうがない。
さて本編であるが、物語の発端はリーチャーがとあるクリーニング店の前を通りかかった折、杖をついた足の不自由な女性がクリーニング店のドアを出るなり躓いて転びそうになったのをリーチャーが手を伸ばして支えてやったことにあった。リーチャーが彼女の持つクリーニングが終わった品物を受け取った途端、二人の男が銃を二人に突き付けて傍らに留まったヴァンの後部に押し込まれたのであった。
気が付いた場所は拉致されたシカゴから千数百マイル離れたモンタナ州のカナダ国境に近い深い森の中であった。
リーチャーはいわばホリーの拉致に巻き込まれた形で連れて来られたわけだが、彼一人なら途中で逃れることが可能であったが、ホリーの出自を知った途端自分一人だけ逃れるわけにいかなくなった。
彼女はFBI職員であったが彼女の父は合衆国陸軍統合参謀長であった。
そして彼女の誘拐を企んだのはこの地で生まれ育った巨漢ボー・ボーケンという民兵組織のリーダーであった。彼はこの地域の賛同者ばかりではなく他のいくつかの民兵組織を統合して合衆国からの独立を画策していた。ホリーはまさにその為の重要な道具として確保されたのであった。
ま、この辺りの独立論者の理屈というのが不透明で、たとえ透明性があったとしても何の現実味も興味も湧かないので、こうした敵性分子を相手に選んだこと自体が作者のあやまりではないだろうか。
物語の進行の中で、民兵組織側にFBI側の捜査状況が筒抜けであったことからFBIの中にスパイがいることが判明。こうした要素も含めてクライマックスに向かうのであるが、どうもテンポが今一つ追いつかない。タイトルにあるように当然リーチャーからの反撃が始まるわけだがちょっと遅すぎる感がしたのは僕だけか?
とにかく本編でより詳細にリーチャーの人となりが理解できた気がする。なぜ彼が軍役を離れこのような流浪の旅に出たのかをよりよく知るためにはやはり第一作を読むことを決意し、てもとにその第一作「キリング・フロアー」があることを報告しておきたい。