min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

兇眼

2005-09-26 11:14:33 | 「ア行」の作家
打海文三著 徳間文庫 2005.6.15文庫化 667+tax 1996年作品

大学の恩師の13才になる娘をレイプし、彼女を死(自殺)に至らしめた、という嫌疑をかけられ大学を去った主人公武井(当時助教授)は今は高層マンションの警備員に身をやつしていた。
そのマンションで殺人事件が発生したのだが、住人の高森という女性ライターが妙に武井にからんできた。彼女は武井の過去を知っていて接近してきたようだ。
事件の背景には何年か前敦賀のほうで教祖もろとも十数人が集団自殺した事件がちらついていた。
武井はいつしか高森の助手となって、信徒が集団自殺した後次々と失踪した彼らの子供たちに興味を抱く。子供たちを知ることが、目の前で自殺をした恩師の娘の死への動機を解明する上で何か手がかりとなるかも知れない、と考えてのことであった。
失踪した子供たちを追うのは彼らばかりではなく、金の臭いを嗅ぎつけたヤクザや警察も彼らの行方を追っていた。やがて子供たちは追い詰められていく。

ここで子供たちの状況と戦う姿をみてはたと思い浮かんだのが後年打海文三が上梓した『裸者と裸者』の中の子供たち。
見事に『裸者と裸者』で描かれる子供たちの原型、雛形がこの作品の中にあることが理解できた。
作者の子供、それも幼い女子に対する仮借ない態度(けっして変質的な意味ではなく)や共感はこの作品において大きくドライブがかかって後の作品に影響を与えた気がする。
作中のサルトルからの引用、
*一人の子供が恥辱で死に
 代わりにならず者が出現する*
という言葉が意味深である。

時には懺悔を

2005-09-22 14:16:00 | 「ア行」の作家
打海文三著 角川文庫 平成13年9月文庫化(1994年の作品)

物語はある探偵の殺害事件を友人の探偵と探偵見習いの女性が犯人を捜す、というミステリー仕立てで進行するのだが派手なアクションなど一切なし。

殺人事件の背景に二分脊椎症という障害児を扱った作品で、赤ちゃんをその障害を知らずに盗んでしまった誘拐犯と盗まれて半ば「安堵」した家族の、とてつもなく重いテーマを扱っている。

登場人物たちのぶつかりあいが見もの。先ず主人公の探偵である佐竹と彼が望みもしないのにあずけられた探偵見習い、バツイチ女の聡子、との葛藤はある種の緊張感を持続させ読ませる。
また重度の障害児であると知らずに誘拐してしまった犯人と半ば“安堵”した盗まれた側の家族のそれぞれの“地獄”が描かれ、読者側にも「あなたならどうする?」式に考えさせる手法は見事といえる。
意外な結末が待っているのであるが、読後感は重いテーマであるにもかかわらずカタルシスを得る作品となっている。

打海作品は最近のものから逆行して読み進めているのだが、初期作品と後期ではかくも違いがあるのかと多少面食らいながら読んでいた。
「されど修羅ゆく君は」で登場していた元結婚詐欺師の鈴木ウメ子女史に再会できたのは嬉しい限りであった。もっともこっちの作品のほうが古いわけだが。


海燕ジョーの奇跡

2005-09-21 18:26:05 | 「サ行」の作家
佐木隆三著 新潮社 昭和55年2月発行 ¥980

沖縄の本土復帰直前、沖縄におけるヤクザ達は本土の巨大極道組織に対抗するために大同団結をはかり「琉球連合」を結成した。
同連合の三番手についた島袋組は同連合の理事の姦計にはまり、解散させられたばかりか捕まれば抹殺される立場に追いやられる。島袋組の若き構成員ジョーは意を決し理事長暗殺を敢行する。
全島くまなく張られた同連合の監視の目をかいくぐり、沖縄の南、フィリピンへ脱出を試みる。フィリピンは幼き頃別れた父の住む島であった。アメリカ軍属のフィリピン人と同じく基地内のPXで働いていた日本人の母親の間に生まれたジョーは“あいの子”として幼い時から周囲の子供たちに差別されいじめられた。
そんな屈折したジョーの未来もまた幸せにはほど遠い血にまみれた人生しか残されなかった。
果たしてヤクザの手をのがれ、恋人である陽子に明日はあるのか?
未だに基地問題が尾を引く沖縄であるが、その原点とも言える戦後そして復帰を迎える沸騰した熱気をはらむ沖縄を舞台に、そして南の島々、更にフィリピンに舞台を移して混血ジョーと仲間の波乱の青春群像を描いた秀作。

ゼーランジャ城の侍

2005-09-21 17:46:49 | 時代小説
新宮正春著 新人物往来社刊行 1989.4.15 第1刷 ¥1,350

17世紀台湾の台南、安平にオランダ人によって築かれたゼーランジャ城は鄭成功の軍船に包囲されていた。オランダ軍側と鄭成功側にそれぞれ日本人侍の傭兵がおり、鄭成功の暗殺をもくろむ勢力とそれを阻止せんとする勢力、同じ日本人傭兵同士が繰り広げる暗闘を描いた異色の作品。
全般的に著者新宮正春の文章に堅さが目立ち、構成が荒削りに感じるところがあり、せっかくの小説の素材が生かされなかった気がしてならない。

尚、余談ではあるが鄭成功に加担した日本の侍によって構成された「鉄面人隊」の活躍を描いた好書に 高橋和島著 『朱帆』『怒帆』がある。

メルセデスの伝説

2005-09-16 10:01:48 | 「ア行」の作家
五木寛之著 講談社 1985.11.29第一刷 1,200

「 五木寛之ブックマガジン」なる雑誌を先月8月に書店で発見して、その雑誌の中で何篇かの五木氏の懐かしい初期作品が掲載されていた。
本編は4分の1程度掲載され以下次号ということであったが、たまたま中古本屋で同作品を見かけたので即購入した次第。
本編は昭和60年刊行ということで当時同氏の作品はほとんどリアルタイムで読んでいたはずで、記憶にも読んだと思われるのであるが驚いたことに全く内容を覚えていない。
再読するには逆に新鮮で面白かったのであるが、我が記憶力には全くあいそをつかしたくなる。

さて、本編の内容であるが第二次大戦中ヒトラーがダイムラー・ベンツ社に命じて“グロッサー”というカスタムメイドの超高級車をつくらせ、名だたる各国の元首や国王へ贈り物として送ったといわれる。その中でも「銀のメルセデス」といわれる最も美しいグロッサーを昭和天皇へ贈ったといわれ、今も日本のどこかに秘匿されて存在するのでは、という噂があった。
この幻の銀のメルセデスをめぐるサスペンス仕立ての物語なのだが、五木氏独特のストーリーテリングはフィクションであることは判りながらも読者をぐいぐいと作品世界に引付けてゆく。その技量は見事としか言いようがない。

特務艦隊

2005-09-13 19:18:01 | 「ナ行」の作家
C.W.ニコル著 文藝春秋 (2005/05/10)2,520

前作「遭敵海域」の続編にしてこのシリーズの完結篇である。
第一次大戦中、日英同盟による英国からの要請で大日本帝国海軍が地中海へ艦隊を送ったという事実を僕はこの本を読むまで知らなかった。
もちろん物語の内容は事実ではないが上述の日本海軍の地中海派遣は事実である。
より詳しくは「日本海軍地中海遠征記―若き海軍主計中尉の見た第一次世界大戦」
片岡 覚太郎 (著), C.W. ニコル (編集)を参照。

帝国海軍(駆逐艦隊)の任務は地中海に跋扈するドイツ軍Uボートから連合軍の輸送船を守ることであった。その駆逐艦隊の基地はマルタ島に置かれ、ドイツ軍Uボートとの実戦で戦死した日本人乗組員の墓が今でも残っているということだ。

さて、わが銛一三郎大佐であるがこの日本からの艦隊が到着する事前にマルタに乗り込み種々の調整作業の任務にかかり、実際に艦隊が派遣されてからは影に日向に日本海軍をサポートすることになった。一方、海軍情報機関員としてのダーティーな任務をもこなさねばならなかった。それはドイツ軍の息がかかったスパイの抹殺を意味する。
実は今まで三郎の特殊任務の詳細は述べなかったのであるが、三郎が属する“現代版忍者”を養成する謎の組織が存在する。どうも帝国海軍ばかりか当時の政府高官の一部も関与しているようで、海軍に対する陸軍及びその背後にいる政治家の動きを牽制する目的で作られた機関であるようだが実態は明らかにされない。
この“虎の穴”のような養成機関では近代兵器全般の取り扱いの他、古来武道を基にしたあらゆる格闘技、更に暗殺技術を習得させられる。
メンバーは全て“クマ”とか“らっこ”“うさぎ”といった呼び名で通し、互いに素性は明らかにされない。卒業時にはある日忽然と姿を消す。三郎はここで最も危険な技を持った情報部員として生まれ変わり、その秘められた技は時として敵側スパイを瞬時に死に追いやることになる。ここらあたりの“エスピオナージ戦”がまた見もので単なる戦記ものとは趣を異にして面白い。

ともあれ第一次大戦時に日英海軍が兄弟のような蜜月を迎えつつあったものが、わずか後には敵味方になり互いに戦う運命になろうとは。
第二次世界大戦に突入するまでの世界情勢を踏まえた新たなる作品をニコルさん独自の視点から描いてほしいものだ。




フォックス・ストーン

2005-09-07 12:28:29 | 「サ行」の作家
「フォックス・ストーン」
笹本稜平著 文春文庫 2005/08 第1刷 667+tax

かって硝煙と血に満ちたアフリカでフランス外人部隊の傭兵として共に戦った、アメリカ人の戦友が東京のホテルで変死した。傭兵時代には自らがジャズピアニストであることをそぶりにも見せなかった戦友ダグ。今や天才的ジャズピアニストとして世界に知られる存在になっていた。
ヘロインを過多にとっての死亡、ということに不審を抱いたかっての戦友であり親友であった檜垣はダグの死を自殺あるいは事故死とは思わなかった。
親友の死の真相を求めて米国へ渡った檜垣は、ダグの死の背後にある北米とアフリカ大陸を股にかけた巨大な「国際的陰謀」の存在に気付くのであった。
真相に近づこうとすればするほど周囲の大切な人々が殺され、いよいよ真実を確かめる為アフリカへ赴く檜垣。物語は一種のミステリー・サスペンス仕立てで展開され最後の最後まで陰謀の黒幕が明らかにされない。最後に檜垣の心を奈落の底に突き落とす真実とは?
ビアフラ戦争を彷彿とさせる飢餓と殺戮の暗黒大陸を描きながら、そこに蠢く権力への欲望、新たなダイヤモンド鉱脈にからむ巨額な富への欲望が交錯する。
最後まで愛と友情のため命を惜しまない行動を貫く主人公の檜垣。今や著者笹本稜平は国際的スケールの冒険小説をかかせたら当代随一の書き手になったのではなかろうか。

遭敵海域

2005-09-07 12:09:55 | 「ナ行」の作家
C.W.ニコル著/村上博基訳
文春文庫 2005/05 820(税込)

新鋭巡洋戦艦金剛の建造をめぐっての海軍上層部と受注者(ドイツとイギリスのメーカー)の贈収賄問題が発覚し、銛一三郎の上司であった藤井大佐は忽然と姿をくらます。ある日三郎も海軍本部に呼び出され査問を受けることになった。てっきり処分を受けるものと覚悟して出頭した三郎であったが待ち受けていた任務はなんと生まれ故郷であるカナダのバンクーバー行であった。
ここでの三郎の任務は暗躍するドイツ人スパイたちの監視と情報収集であった。その後舞台はシンガポール、イギリスへと広がり三郎のイギリス海軍との幅広い人脈、流暢な英語能力をいかんなく発揮し大活躍する。なかでもドーヴァー海峡を遊弋、潜行しては民間船への攻撃も辞さないUボートに対して、甥の敵討ちという意味合いもあって敢行した洋上のゲリラ戦はイギリス海軍内で密かに喝采をあびた。いよいよ本格的な大戦に突入しようとしている欧州の暗雲を後にして日本に帰国した三郎はある場所で思わぬ女性に再会するのであった。
やがて彼女と結ばれる運命となるのだが…。そんな三郎に戦争の影がぴたりと貼り付いてはなれない。いよいよシリーズのクライマックスへと導かれるところで本編は終わる。乞う次回作「特務艦隊」!ということか。