min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

ドン・ウィンズロウ著『高く孤高な道を行け』

2010-04-24 14:58:33 | 「ア行」の作家
ドン・ウィンズロウ著『高く孤高な道を行け』 創元推理文庫 1999.6.15 初版 740円+tax

オススメ度:★★★★★

前作で中国大陸の奥深くまで入り込み、ニールの運命がどのようになり、いかにして帰国したかを書くのは、これはネタバレと称する事になるので書くわけにはいかない。
が、無事に戻れたのであるからこのシリーズは続くのだ(あたりまえ)。

さて、舞台は再びアメリカ合衆国。時代ははっきり述べられていないのだが、今までの流れから考えると80年代の初頭になるのか。
今度のニールの任務は別れた夫婦の親権のない父親ハーレーが息子を連れ去って失踪した。その息子を無事取り返して欲しいという母親からの依頼物件である。
“朋友会”のNY支部長レヴァインと養父のグレアムが調べたところ、父親ハーレーはどうも「真正キリスト教徒同定協会」なるカルト教団に関与して身を隠している可能性があるという。
かくしてニールはこのカルト教団のネヴァダの拠点ともいうべき牧場に行きつく結果となり、カルト教団の一員となるべく“潜入捜査”に入ったのであった。
このカルト教団なるものが何とも時代錯誤の典型のような教団で、極端な人種差別主義とナチスもびっくり!という極右武装集団である。

ニール君がネヴァダの山奥で繰り広げられる物語は、恋ありアクションありの一大冒険活劇であり、クライマックスはかっての西部劇にでも登場するような「OK牧場の決闘」的展開をみせる。
うだうだ突っ込みを入れずに、素直にこのニール君の冒険活劇を楽しめばよいのだ。果たしてニールくんの恋の行方は?今後の生きざまは?という要素もからみ、なかなか楽しませてくれる一編だ。
シリーズはあと2編ほど続くようであるが、僕としてはこの辺りで本シリーズは卒業してもいいかな?と思ったりしている。多分ウィンズロウの他の作品に移るかも。

ドン・ウィンズロウ著『仏陀の鏡への道』

2010-04-18 16:28:11 | 「ア行」の作家
ドン・ウィンズロウ著『仏陀の鏡への道』 創元推理文庫 1997.3.14 初版 880円+tax

オススメ度:★★★★☆

英国ヨークシャーの荒野で長いこと隠遁生活をしているニールのもとに、ある日突然養父のジョー・グレアムが訪れた。
もうそろそろ学業に戻ったら?というもの。もちろんそれには条件があるってわけ。
ジョーの差し出した復学の条件とは次の件をこなすこと、それはアグリテック社の生化学者をカルフォルニアから連れ戻すこと。この研究者はサンフランシスコの学会に出席すべく出かけたのだが、どうも現地で中国出身の正体不明な女性にいれあげてしまい戻る様子がない、というのだ。
彼は鶏の糞から作物を急激に成長させる成分を抽出する研究をしている有能な生化学者だという。その彼を説得し、会社に連れ戻せという任務であった。
ニールは一瞬「ちょろい依頼だぜ」と思い、自らの将来を描いた結果、この条件をのみサンフランシスコに向かう。
だが、ニールはその“彼女”になんと横恋慕してしまったのだ。彼女の色香に惑わされ危うく一命を落とすところであったのに加え、研究者と彼女を取り逃がしてしまうのだった。

養父がさかんに止めるのにも関わらず、養父を強引に振り切って向かった先は香港。
ニールの“横恋慕”が以降かれに降りかかる全ての厄災のもととなり、想像を絶する陰謀と過酷な運命がニールを待ち受けることとなる。

ストーリィ展開の上でこの一目惚れ的横恋慕には読者は戸惑うのであるが、彼のあまり良くない関係にある朋友社のNY支部長のニールの心理分析は興味深い。
いわく、
『ニールは心の奥深くで、自分の愛する女はみんな、最後には自分を見捨て、裏切るものだと思っている。女が裏切れば、それでやつの人生観は実証される。
女が裏切らなければ、自分で何かをやらかして、女が去るように仕向ける。それがうまくいかなければ、自分のほうから去って、女が追いかけてこないことに腹を立てる』
と。
ふむふむ、なるほど、これはある程度彼の奇妙な行動原理を言い当てているかも知れないぞ。もし、これが本当ならばニールは女性とはけっして結ばれてもハッピーエンドにはならない、ということだ。

ところで、このドン・ウィンズロウという作家であるが、やたら中国情勢に詳しいのだ。本編に登場する四川省を始め中国の地理・歴史・経済・文化に関する知識はたいしたものだ。この男何者???

とかくシリーズものというのは第一作目を第二作目以降のものが凌駕することはないのであるが、第一作目のインパクトがあまりにも強烈であったため、定石通り本編はその出来栄えはやや落ちる感がする。
とはいえ、我が愛すべきニールくんがこの後もいかに艱難辛苦を乗り越えて成長していくかはとても興味あるところで、まだまだお付き合いいたしますぞよ。

ドン・ウィンズロウ著『ストリート・キッズ』

2010-04-17 13:01:02 | 「ア行」の作家
ドン・ウィンズロウ著『ストリート・キッズ』 創元推理文庫 1993.11.19 初版 960円+tax

オススメ度:★★★★★


『犬の力』で圧倒されたあのドン・ウィンズロウのデビュー作である。『犬の力』とは全くトーンの違う作品を書いているのであるが、とにかくストーリィテリングの上手い作家で、その才能は鬼才と言ってもよいだろう。
ああ、なんでこの作家の存在にはやく気が付かなかったのでろうか!
後悔などしないが、逆にまだまだ彼の作品がたくさんあることを発見し喜んでいる。

さて、本作であるが、ニール・ケアリーという探偵シリーズの第一作となる。
探偵といってもこいつが極めて異色な探偵でなのである。

時は1970年代の後半。ニールはNYのアッパー・ウェストサイドで生まれ、父親の顔は知らず母親はヤク中の売春婦である。
ろくに食事も与えられない状況から9才からストリート・キッズのひとりとなり、自分の食いぶちのためにかっぱらいを始める。
11才の時パブで飲んでいた男の上着からサイフを盗み取ったのだがこの男に捕えられる。
この男の名はジョー・グレアムといい、“朋友会”という金持ちの銀行家の私設探偵である。
グレアムはニールの中に何かキラメクものを見出し、自分のアシスタントとすることに決め、自らの持つ全ての技術、知識を注入する。その前にニールに対し、人として生きるための生活術から教え始める。
ニールは彼の期待を越えて成長し、その高い能力を銀行家に認められ、私立の学校からコロンビア大学への学費を出してもらうほどになる。銀行家はニールに対し高価な“投資”を行ったわけだ。
そんなニールに与えられた任務は、米国民主党の次期副大統領候補の失踪した娘を民主党大会が開催される前日までに連れ戻すことであった。
彼女をロンドンで見かけたという彼女の同級生の唯一の手掛かりを元にロンドンへ飛ぶのだが・・・・

内容はいたって単純で探偵ものの他の小説にいくらでもある話なのだが、作者ドン・ウィンズロウの手にかかると何んとも軽妙洒脱な物語とあいなる。
特に主人公ニールのナイーヴさと軽口の妙は抜群に魅力的で、思わず抱きしめてやりたくなるほどだ。
また11才の時に拾われその後“養父”的存在となったジョー・グレアムとの関係は、パーカーの『初秋』を彷彿とさせるものがあり、このシリーズの最大の魅力となっている。

現在第二作目の『仏陀の鏡への道』にさっそくとりかかっているが、このシリーズはまだあと3作品あるようで楽しみにしている。



グレン・ミード著『ブランデンブルクの誓約(上下)』

2010-04-11 00:29:51 | 「マ行」の作家
グレン・ミード著『ブランデンブルクの誓約(上下)』 二見書房文庫 1999.6.15 初版 790円+tax

オススメ度:★★★★☆

グレン・ミードといえばあの『雪の狼』を思い起こす方が多いと思う。第二次大戦下、蜜名を帯びた男女のスナイパーとスパイが繰り広げる逃避行は何ともスリリングであった。この作品を読んでの通り、著者は本格的冒険小説の作家で、同作品において大いに期待された作家である。
本書『ブランデンブルクの誓約』は同作家の邦訳第二弾であるのだが、これがデビュー作とのことである。
題名から推察される通り、ナチス・ドイツの陰謀(もちろん戦後の)を描いたものである。
上巻はいくつもの難解なジグソーパズルをやっているようで読者はイラつくのであるが、下巻に至ってモザイク画像が鮮明になるように「彼ら」の陰謀が浮き上がってくる。
その内容はもちろんここで明かすことは出来ないのであるが、とにかく内容と規模といい想像を絶するもので、驚愕の結末に向かってなだれ込む。
とうていデビュー作とは思えない仕上がりで、この作家の他の作品を今一度追っかけてみたくなった。
ちなみに『熱砂の絆』は読んだが、『亡国のゲーム』、『すべてが罠』、『地獄の使徒』などは未読。




麻生 幾著『ZERO (上中下』

2010-04-10 14:56:41 | 「ア行」の作家
麻生 幾著『ZERO (上中下』 幻冬舎文庫 平成15.8.30 初版 648円+tax

オススメ度:★★☆☆☆

(2001年8月に幻冬舎より刊行された単行本の文庫化)

麻生幾という作家は『宣戦布告』という作品で注目を浴びた作家で、それなりに評価された作家らしいが、あの『宣戦布告』を読んで以来ほぼ“投げた”作家であった。
着想も文体も良いのだが、とにかくエンターテイメントという点においては完全に失格している作家と思ったためだ。

それが先のNHKのTVドラマ『外事警察』の出来栄えが素晴らしく、その原案(決して原作ではない)が同作家の『外事警察』とあげられていたので、ひょっとしてこの手の分野(公安警察)では面白いものを書いているのでは?と
期待したのであった。
本作はNHKのドラマにもちょこっと名前が出てきた“ZERO”という、公安警察でも更に“裏の公安”といわれる謎めいた存在の組織の呼称である。
実在するとは思われないのであるが、似たような組織は現存するかも知れない。
同書で設定されたZEROという裏の公安組織は終戦直後につくられ、特に対中国の諜報活動が行われた。
その中国との間に封印された“陰謀”が47年後に解かれることに関し、公安警察官峰岸が遭遇する陰謀と裏切りの数々は確かに面白いのであるが、あまりにも現実味に欠ける。
陰謀そのものの中味はあり得るのであるが、物語の展開があまりにも稚拙であり読者にリアル感を与えないのだ。
先に述べたが同作家の着想はある程度評価出来るのであるが、エンタメ小説作家としてはとうてい及第点をあげるわけにはいかない。
膨大な資料を漁った力作であるのは解かるが、やはりこの作家はいただけない。
NHKドラマ『外事警察』が秀逸であったのは、原作ではなく脚本が素晴らしかったせいであることを再確認した。