min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

ジェフリー・アーチャー著『誇りと復讐(上・下)』

2009-12-29 16:09:18 | 「ア行」の作家
ジェフリー・アーチャー著『誇りと復讐(上・下)』(原題:A Prisoner of Birth) 新潮文庫 2009.6.1 発行 上781円+tax下743円+tax
オススメ度:★★★★★

冒頭、主人公ダニーのプロポーズの場面から一転血なまぐさい殺人事件が起こり、直ちに法廷での裁判の場面に移ったあたりで、「ありゃ、これは長々と法廷審議が続く法廷ミステリー小説かな?これはちと苦手な部類の小説だわい・・・」と思い込んだのだが、どっこい、物語は主人公が22年の判決をくらい刑務所に移ってから急展開を始めたではないか!
もちろん、法廷での検察側の勅撰弁護士ペインと被告側弁護人レドメインとの間の丁々発止のやりとりは確かに興奮させられるものがあったが、これが最後まで続くのか?と思うとちょっと引く感があった。

著者のストーリーテリングの巧みさもさることながら、主人公ニックと婚約者のベスを始め、刑務所で友人となった貴族出身の元軍人のニックやその元部下ビック・アル、ダニーの4人の仇敵たち、そして上述の弁護人たち、特にレドメインの父親のキャラ造詣は見事と言えよう。
下巻でのどんでん返しは特に読み応えがあり、「どうなるのか、どうなるのか?」という思いに駆られ一気読みモードに突入することうけあいだ。
恐らく今年度読んだ小説の中でも1,2を争う傑作と言える。

唯一疑問なのは、スペンサー・クレイグほどの人物、オックスフォード出の法廷弁護士ともあろう人物が酔った上とはいえ、かくも単純に暴力(ナイフを使った殺人)に走るものであろうか?という点。
私は最後の最後まで、このクレイグは刺し殺したバーニー・ウィルソンに対して隠された強い恨みか確執があるに違いないと思っていた。
というのは、殺人を行った後のクレイグの行動があまりにも迅速かつ適切であったためで、とうてい酔っ払ったあげく見境なく殺人を犯してしまった人間の行動とは思えないものがあるからだ。



司馬遼太郎著『坂の上の雲 (2)』

2009-12-14 07:35:13 | 「サ行」の作家
司馬遼太郎著『坂の上の雲 二』 文春文庫 2009.11.5 第37刷 638円+tax
オススメ度:★★★☆☆

二百数十年続いた江戸時代の鎖国状態を打ち破り、明治維新によって一挙に近代国家を目指した日本は、何より海軍力に力を注いだ。
そもそも明治維新を断行した最大の理由は、当時の欧州の帝国主義を標榜する列強が次々にアジア、なかでも中国を侵食しはじめた状況であった。
このままでは日本は彼ら列強の餌食になる、という恐怖感が「富国強兵」政策を推し進めた。
維新政府の若き官僚たちをフランス、ドイツ、そしてイギリスへ留学させ、当時の先進的な政治・経済、そして軍事を研究させた。
維新後わずか二十数年にして、当時の列強に伍する海軍力を築いた、というのは驚嘆すべきものがあった。
明治の日本にはこれと言った基幹産業があったわけでもなく、どうやってこれらの巨額な軍事資金を生み出したのであろうか?この辺りの事情を作者は多くを語らないのだが、事実としては絹を主体とした繊維産業が大いに寄与したはずだ。いわゆる「絹で軍艦を買った」わけだ。

さて、秋山兄弟はこの頃何をしていたのか?
兄好古は陸軍少佐となり騎兵を率いて大陸へ渡る。弟真之は海軍少尉として洋上に出て日清戦争の端役ではあるがその一端に触れる。その後かれは勇躍米国へ海軍留学のため向かうのであった。
ここでやや不満として残るのは、真之が米国留学中の私生活のことや、現地での一般米国市民との交流(多少はあったであろう)など、それらが一切語られない。これはやはり不自然であろう。
米国の海軍の事情は別として真之の目を通した当時の米国社会を描いてほしかった。

一方、正岡子規は重度の肺病に病みながらも近代短歌と俳句の新境地を開くべく古い体質の勢力に果敢に挑むのであった。

物語はいよいよ当時の最大の脅威の的であったロシアとの決着にむけ進んでいく。実際、この時代のロシアの対外膨張政策は露骨であり、日本が極東で生き残るためにはどうしても対峙せざるを得ない存在であった。
今後の日本の存続を賭けた一戦の時機がひたひたとせまってくる。


船戸与一著『夜来香海峡』

2009-12-11 07:16:34 | 「ハ行」の作家
船戸与一著『夜来香海峡』 講談社 2009.5.28 第1刷 1800円+tax
オススメ度:★★☆☆☆

船戸には珍しく(と言っても過去2,3作はあるが)国内を舞台にした小説である。
「国際友好促進協会」なるNPO法人を立ち上げ、主に中国東北部から中国人女性を仕入れ、東北の農業に従事する独身男性にあてがって、その斡旋料を取るというビジネスに従事する主人公の蔵田雄介。
ある日、かって斡旋した黒龍江省出身の中国女性青鈴が疾走した、という知らせが入った。この疾走事件にからみ何故か天盟会というヤクザ組織が介入してきた。さらに単独で疾走したと思われた青鈴にはロシアンマフィアの男と一緒に逃亡しているふしがある。
雄介はヤクザに脅されながら共に青鈴たちの後を追い、北海道の稚内まで行くことになるのであった。
青鈴が何故逃げているのかが不明なまま、行く先々で次々と殺人事件が発生する、その陰には中国人の楊五栄という殺し屋蠢いていることが判明した。
果たして青鈴は何の目的で逃走し、彼女を取り巻くヤクザ組織、ロシアンマフィア、謎の殺し屋たちの目的は何?物語は最後の怒涛の展開に向かって突き進む・・・・・

いつも思うのだが同作家が国内を舞台にした小説で面白かった例がない。唯一「蝦夷地別件」を除いて。

司馬遼太郎著『坂の上の雲』

2009-12-07 06:38:58 | 「サ行」の作家
司馬遼太郎著『坂の上の雲』 文春文庫 2009.11.5 第37刷 638円+tax
オススメ度:★★★★☆

ここ数年の私の関心事は明治維新を遂げ近代国家として誕生した新生【日本】がいかに右傾化し第二次世界大戦に参入していったのか、にある。
なかでも、1900年初頭から第一次世界大戦にかけての諸事情に「飢えている」と言っても過言ではない。
実際、この時代を描いた小説というのは意外に少なく、わけても当時の海軍や、日英同盟の裏事情などは極めて情報量が少ない。唯一参考になるのがC.W.にコルが描く小説「盟約」や「遭敵海域」などのシリーズ作品においてのみと記憶する。

さて、この「坂の上の雲」であるが、恥ずかしながら今までは司馬遼太郎氏の一連の「時代小説」のひとつであると信じて疑わなかった。
それが今般、NHKでドラマ化したのを契機に、実は日清、日露戦争の時代に生きた四国松山出身の三人の男たち(日本陸軍、海軍で活躍した秋山兄弟と歌人正岡子規)を描いた物語と知った。
この第一巻を読み始めると、実に私の知りたかった時代背景と内容ではないか!
この物語の主人公が薩長いづれかの出身であったなら興味は半減したのだが、幕藩体制の下、明治維新では賊軍の汚名を着せられた藩の青年たちが味わう「悲哀」といったものがよくわかり、それでも負けん気で自らの運命を切り開こうとした青年たちには共感を覚えざるを得ない。

余談であるが、NHKがTVドラマ化をするにあたって、第一回目を観ただけの感想では、かなり原作に忠実であることが感じられた。
TVのほうが進展が早いので、このままでは直ぐに追い越されそうだ。