min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

有川 浩著『海の底』

2009-08-30 17:22:28 | 「ア行」の作家
有川 浩著『海の底』 メディアワークス発行 2005.6.30第1刷 1,600円+tax

オススメ度★★★★☆

深海に棲むザリガニに似たエビが何らかの理由で突然巨大化し、横須賀港を襲う。この日たまたま見学に来ていた市内の小中学生を主体にしたグループが逃げ遅れ、自衛隊の潜水艦の中に避難した。この子供たちを二人の若き海上自衛官が守り抜こうと奮闘するのだが・・・。
といったようなとんでもない?SF小説となっている。
だが、登場するのがエビであれ、カニであれ、あるいは他の何であれどうでも良いのである。しょせん何が登場してもあり得ないシチュエーションと思われる。
要は描きたいところは、有事におけるこの国の対応の仕方であって、その際当然にも直ちに出動出来ない自衛隊のジレンマと、到底こんな事態に対処しえない警察の戸惑い、更に両組織の確執について楽しく?語られるわけだ。
これだけでも日本の歪な治安、防衛政策が分かろうというものだ。
神奈川県警本部警備課の古参警部と本庁の異色キャリアとの絡みに加え、ネットの軍事オタクたちとの絡みあまた一段と味を添える。
この作家、ライトノベル作家出身などと揶揄されるが、こと軍事関係についてはなかなか“オタク”ぶりを発揮して面白い。

それと、本作以前に上梓された「空の中」でもそうであったが、こうしたとんでもない事態を発生させる傍ら、描かれるテーマは見事な?“恋愛小説”なのである。
今回登場する男女の主役は、男性は二人の若き自衛官。方や女性は、まだ大人に成りきっていない女子高生である。
二人の凸凹自衛官のコンビのキャラが実に良い。いかにも優男タイプで、女性や子供にそつなく対処できる冬原と、片や口下手で無骨一辺倒なタイプの夏木。
この無骨な夏木と、ちょっとワケあり風の女子高生の間のやりとりが、何とも絶妙で、時に胸キュンとなり、時にイライラ、そして甘く切ないものに展開されてゆく。
女性作家ならではの女性の心理描写には感心するのであるが、一方、男性心理の描写についても実に見事であると思う。
この作者(女性)特有の恋愛の展開が実は僕は大好きなのである。さて、これで長らく読むことを躊躇していた「図書館戦争」シリーズに取り掛かろうかな。


笹本稜平著『不正侵入』

2009-08-24 07:53:34 | 「サ行」の作家
笹本稜平著『不正侵入』 光文社文庫 2009.7.20第1刷 876円+tax

オススメ度★★★☆☆

最近と言わずかなり以前から、多くの作家が「警察小説」の領域に足を踏み入れてきた。どうもこれは自分の穿ったものの見方かも知れないのだが、書くべき小説のネタが尽きた結果、安易にこの分野に入ったのではないか?と思われる節が多い。
そんなな中でも、今野敏や佐々木譲といった作家たちは成功例と言えるだろう。

さて、本編の作者笹本稜平であるが、もともとこの作家は硬質な冒険小説の傑作を生み出してきたことの印象が僕の中では強くあり、日本の冒険小説作家の中では最も好きな小説家のひとりであった。
その彼が上述のように警察小説の分野に「素行調査官」をもって参入して来た時にはある種複雑な想いを抱いた。結論としては彼の試みを無視することになった。その後の本作の上梓である。
この作家は本格的に警察小説を描くつもりであることが分かり、それではしょうがない?読んでみることにした次第である。

内容の紹介は割愛するが、本編が警察小説の中で内容が特異なものであることは認められない。いたって“ありふれた”内容であると言っても過言ではないだろう。正直、最終場面に近いところの展開がなければ★ふたつであったかも知れない。この最終場面近くにきてやっと笹本稜平らしい硬質な「男の生き様」が描かれたと思うからだ。それまでの展開ははっきり言って冗長だ。

やはり、出来ればこの作家には今一度胸がわくわく踊る「国際サスペンス」物の世界に立ち返ってもらいたい。


金子貴一著『秘境添乗員』

2009-08-05 14:02:00 | ノンフィクション
金子貴一著『秘境添乗員』 文芸春秋 2009.4.25第1刷 1,500円+tax

オススメ度★★★★☆

前作の『自衛隊イラク従軍記』に続く本作である。本作において前回はあまり語られなかった著者本人の人となり、というか生い立ちから語られ、非常に興味深いものがあった。
自らの高校時代を「不登校児」と振り返り、その不登校という極めて後ろ向きな自らの人生を変えるべく考えたのがかなりユニークだ。
社会問題を解決するには“自らの中に多くの文化を取り入れ、世界共通の社会問題を観察しよう”という奇想天外な発想を抱いたわけだ。

そこで留学したのが米国はアイダホ州にある田舎の高校。ホストファミリーのオヤジは、若かりし頃はロスでヘルスエンジェルの頭目であった、という変わり者。
しかし、今は子育てに厳格な父親であり、金子氏へも厳格に接した。妻のカナダ人もまた著者に対しては容赦ない英語のスパルタ教育を実践した。日本では「不登校児」であった金子氏は、逃げ出すわけでもなく相当ハードに鍛えられて帰国した。

一年後、著者の金子氏は何を思ったのかエジプトの首都カイロにあるカイロ・アメリカン大学に入学しアラビア語を学ぶことになる。何故アラビア語を学びたいと思ったのかは明らかにされないが、かくして金子氏は流暢な米語を操ると同時に7年間の猛勉強で培ったネイティブに近いエジプト方言アラビア語使いとなったわけだ。
その後自らが企画した怒涛の中東及び中国、西アジア方面への“秘境旅行”のツァーコンダクターとなるわけだが、そのツァーの中味の濃いこと、あきれるばかりだ。

あまりにハードなスケジュールと超マニアックな目的地及び観光対象を読むと、一度は金子氏に連れて行ってもらいたい、という好奇心と同時に、こりゃシンドイ旅だろなぁ、と怯む心が同時に湧いてくる。
それもしても変わったお方だと思う。旅に参加する方々の様々な要求、要望に対して何とか応えようという努力には頭が下がるし、参加者の我が儘にも驚異的な忍耐力で接する。
わけても、口の悪いババァが登場するのだが、僕だったら絶対にキレて怒鳴り返したであろう場面にもことごとく紳士的に対応する。たいしたもんだ。ここまでくるとアッパレ!としか言いようがない。

ちょっと論点が飛ぶように感じられるやも知れないが、金子氏のイスラム教、キリスト教、更に世界の宗教に造詣が深い理由のひとつに、氏の仏教への深い知識が根底にあるのではなかろうか。
それも昨年なくなられたご母堂の影響が色濃いように伺われる。何を言いたいかといえば、国際的になるということは、諸外国の知識以上に自らの出生国の歴史、諸事に精通せねばなれない、ということ。
同氏の存在は改めてそのことを知らしめてくれる。