min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

闇の狩人

2006-08-27 19:54:24 | 「ア行」の作家
デヴィッド・ウィルツ著『闇の狩人』(原題:CLOSE TO THE BONE)
扶桑社ミステリー 1995.0130

ちょっと古い小説だ。米国での初出は92年。したがって内容も現在からするとある意味致命的な過去の出来事ではある。
PLOのアラファト議長を狙うテロリスト(単純に暗殺者と呼んだほうがふさわしいか)とそれを阻止しようとするFBI捜査官との息詰まる一騎打ちだ。
と書くと、ああ、もうアラファトは病死していねぇよ、それにこの手のストーリーは陳腐じゃないの!という声が聞こえてきそうだ。
だが、しかしですよ、これらのハンディを含んだ上でもこの小説は面白い。

先ず国籍不明のバホウドという暗殺者が図抜けて異様である。アラブのある過激派との契約を主にしているようだが主義主張に賛同してのことではない。金にはシビアだが金だけの目的のために暗殺を実行するのでもない。
どうも根っからの「殺人狂の類」に属するのかもしれない。殺し方が特殊なのだ。今回のターゲットは遠距離からのライフルによる狙撃をしようというものだが、その前に幾人かの障害を取り除くために殺人を行う。その手法はことごとく「耳の穴に鋭いものを差し込む」というものだ。
実はこれには彼が育った環境、具体的には父親との確執に起因するのだが・・・

一方、迎え撃つFBI捜査官ベッカーがこれまた異様というか異能の持ち主なわけ。犯罪者を追い詰めていくうちに彼自身が犯罪者の心理に同調してしまう。追う側もいつしか犯罪者に同化しその犯罪者と同じ思考、行動が分かるようになるという特殊な捜査官である。
したがってFBIの中でも浮き上がった存在とならざるをえない。だが今回のような暗殺者に対抗するためには彼の出番が絶対に必要であるとベッカーの上司は決意したのだ。

さてふたりの対決はいかに?

ニューヨークのど真ん中を舞台に暗殺者とFBIの緊迫した応酬がありその間犯罪者側そして捜査側にひとりづつの女性が登場する。このからみが絶妙で全編緊迫する場面をやわらげるというのではなく更に重層的に面白味を増すようコミットさせる。その手法は見事だ。
もし古本屋で本編を見つける幸運に巡り会えたら躊躇することなくゲットすべし。

泣きの銀次

2006-08-20 10:01:31 | 時代小説
宇江佐真理著『泣きの銀次』講談社文庫 2000.12.15 590円

死体を目にすると嗚咽ばかりかあたりかまわず慟哭し泣き崩れてしまう、という何とも締まらない十手持ちの銀次。いつしか人々は彼を「泣きの銀次」と呼ぶようになった。
だがこれには理由がある。彼は小間物やの長男としてうまれ何不自由なく育ち20才を前にして廓に現をぬかす、いわば放蕩息子であった。
そんなある日、彼の妹が変死したのであった。その現場に駆けつけた銀次は妹の死骸を前に身も世もないほど泣きじゃくりながらオイラが下手人をあげると泣き喚いたのであった。
これを見ていた同心で神道無念流の達人である同心勧兵衛は冷たく「おめえに何ができるか」と一喝したところ銀次は勧兵衛につっかかる。
百姓剣法を習っていたとはいえ神道無念流の達人にかなうわけもない。勧兵衛にこてんぱんにやられた銀次ではあるが勧兵衛にその意地を見込まれ彼の岡っ引きとなった銀次であった。

かくして何とも奇妙な十手持ちが誕生したわけであるが、妹の下手人の手掛かりが得られぬまま10年も経った頃ようやく事件に関係すると思われる人物に行き当たる。

その前に実家の小間物屋に奉公するお芳との結婚の約束やら、その実家が盗賊に襲われるやら一気呵成に銀次の身辺が慌しく変化する。
お芳との恋の行く末と妹を殺害した下手人の捜索を軸に物語はクライマックスを迎えるのだが・・・・

どうもこの作家、「髪結い伊三次」といい本編の銀次といい主人公の男に対しては偏り?があるようだ。
ともに男前でちょっと華奢なタイプが好みのようだ。ま、いいけどね。
特に本作品の銀次は現代でいえば典型的なイケメンであるわけだけど、仏を前にするとだらしなく泣き崩れるというその“落差”が逆に魅力となっていることは事実。このあたり作者も巧妙に考え抜いているわけだ。
「幻の声」に次ぐ宇江佐作品の2番目であるわけだがこれで宇江佐氏の実力も判った次第で今後とも安心して読み進めることができそう。次回は再び「髪結い伊三次」シリーズに進もうと思う。


幻の声

2006-08-13 13:21:24 | 時代小説
宇江佐真理著『幻の声 髪結い伊三次捕物余話』文春文庫 2000.4.10

以前この題名を見ただけで敬遠してしまったことがある。だって髪結いですぞ。
それにどうも女流作家のようだし・・・・
かくしてこのシリーズを我が手にする機会はなかった。

だが、我が読書仲間であるディックさん、ゴンさん、まあちんさんといった「時代小説」にもうるさい?連中がハマッているようだ。ある日古本屋で手にとって解説を読んでみると函館出長の作家であるという。
また僕と同世代どころか全く同じ年であることがわかり俄然興味を抱いた次第。
北海道出身でかつ女性で江戸の捕物帳を描くなんて、興味が湧くじゃありませんか!

さて、読み始めて「髪結いの亭主ならぬ本人が髪結いで、そんで同心の下っぴきをやる?」という当然?にも違和感を感じた。
またこの上役の不破という同心が嫌な野郎で・・・・・

ところが主人公である伊三次よりもその取り巻く人物たちが面白いことに気づき始める。
先ず伊三次の恋人お文。現役の深川芸者のきっぷの良さが言葉のはしばしにキラリと光る。伊三次とのかけあいも見もの。
最初は嫌な野郎と思った同心、不破の意外な一面を知る。彼の恋女房となったいなみとの馴れ初めからその後いくつかの事件を通し不破の魅力が浮き出てくる。
いや不破よりも妻いなみのほうがもっと重要な存在となろうか。

はでな捕り物帳ではないのだが伊三次とお文の恋の行く末を案じながら彼らの周りで起こる事件に江戸庶民の情をからめながら進む物語の数々。これはちょっと先を読みたくなるではないの!

夢は荒れ地を

2006-08-12 12:28:54 | 「ハ行」の作家
舟戸与一著『夢は荒れ地を』 文集文庫 2006.6.10  895円+tax

本作品の初出は「週間文春」で2001年10月から2003年4月まで連載された。その後2003年3月に文芸春秋から単行本として刊行されたもの。

2001年のカンボジア、首都プノンペンに降り立った楢本辰次は現地での運転手兼通訳のヌオン・ロタと会った。辰次の目的は自衛隊同期であり、当地カンボジアPKOで派遣されその後現地にて退官し行方を絶った越路修介を探し出すことであった。
現役自衛官辰次の有給休暇は一ヶ月であった。なんとしてもこの間に修介を見つけ出し、彼が日本に置き去りにした妻子を自分が引き取ったことを告げねばならない。更に修介の妻は自分の子供も宿していることも。

彼の足跡の手がかりを探すうちに300万人の同胞を屠ったと言われるクメール・ルージュの崩壊とその後のフンセン率いる政府の腐敗、汚職の状況が明らかになってくる。
またカンボジア社会を蝕む売春組織の氾濫、更に幼児売買の横行といったカンボシア内部に広がる深い闇の部分を知ることになる。

登場人物は失踪した修介、カンボジアの貧しい子供たちの「識字率向上」のため私設の学校を建てた丹波明和、彼らと関係のある元クメール・ルージュの投降兵で今は独自の村をつくり村長となったチア・サミンと仲間たち。
そしてプノンペンのヴェトナム系新興売春窟のボス。ボイポトの人買いの女。

それぞれの想いが交錯して物語が進むのであるが、最後は船戸作品であるがゆえに“血しぶき”が舞う暴力の世界へ突入してゆく。
それもかって暴力とは無縁の世界に生きてきたものたちが【暴力の義務、義務としての暴力】のために銃をとることになる。

船戸作品のほぼ定石として
虐げられた民が追い詰められ最後の足掻きとして絶望的な抵抗を試みる。
だがやはり強者である国家権力に圧殺されてゆく。
その状況を日本人の“狂言回し”的な視点から描く、というものであった。

今回の作品で気になるのは、そもそもカンボジアに残留し「ある事」のために身をささげる修介の動機があいまいであること。その彼を探しにやって来た辰次の動機もまた納得できるものでないこと。
辰次の運転手やボランティアの丹波明和が銃を手にする理由も何かあいまいな点にある。
そんなあいまいだらけの外部の人間とも言える者たちに引きづられる形で戦闘に参加する元クメール・ルージュの兵たちに僕は納得できなかった。

本作品を最後にしてしばらく船戸作品から遠ざかることになろう。

熱砂の絆

2006-08-02 21:54:54 | 「マ行」の作家
グレン・ミード著『熱砂の絆』二見文庫 上下共790円+tax

これぞ「正統派冒険小説」と呼んでいい作品ではなかろうか。英国が生んだ冒険小説作家の巨頭ヒギンズやフォーサイスの後継者、とも言われてもさほど異を唱えるつもりはないくらい。この作家は多作家ではなく邦訳された作品は今のところ3作品のみ。
第一作が『ブランデンブルグの誓約』で二作目が『雪の狼』そして三作目が本作品。第一作は未読であるが『雪の狼』はめちゃくちゃ面白かった。
第二次大戦下、スターリン暗殺計画を描いた作品であるが最高に興奮させてくれた作品であった。
さて本編は同じく第二次大戦下のエジプト・カイロでドイツがローズベルト暗殺を企て実行しようとした荒唐無稽とも思われる内容だ。だが、このチャーチル、ローズベルト、蒋介石が会談しようとした際に実際暗殺計画があったという歴史的秘話に触発され、極めてエキサイティングな肉付けをほどこされて上梓されたのが本編である。

一方この作品は戦時下における相手国の最高責任者を暗殺しようという血なまぐさい物語であるのだが登場する二人の男性と一人の女性が織り成す友情と愛の物語である。
「神の見えざる手」によって運命を操られたとも言える男女3人の物語は作者の巧妙なプロットの展開によって最後の最後まで気を許させない。
この作品がなんとも切ない愛と友情をテーマにしていることが作中はもちろん最後の最後に読者の胸を熱い思いで満たすことは間違いない。
ストーリーの紹介はあえて行わないが、最近本格的な「冒険小説」に飢えているアナタに是非オススメしたい一篇だ。