min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

矢月秀作著『狂犬』

2016-11-23 16:09:56 | 「ヤ行」の作家
矢月秀作著『狂犬』双葉文庫 2016.10.16 第1刷 648円+tax

おススメ度 : ★★★☆☆

ヴァイオレンス小説?「 もぐら 」で知られる矢月秀作の作品。妻子を三人組銀行襲撃犯に殺された神条刑事はその一味の頭目永倉を執拗に追いかける。私的復讐心とも思われるその捜査方法は時に常道を外れ黒社会から「狂犬」と呼ばれるようになった。
一方その狂犬から追われる永倉一味であるがこれまた野獣並みの凶暴性を持つ連中である。中でも永倉の凶暴さは図抜けて激しいものがある。銀行襲撃にしても拳銃だけではなくサブマシンガン、手榴弾あげくはバズーカ、グリネードランチャーまで用意し、警察ばかりではなく一般市民にまで発砲する無茶振りだ。このあたりが現代の日本犯罪事情からあまりにも遊離し、読者には現実感を与えない。
映画「lキルビル」の亜流版をみているようで時に鼻じらむほどだ。ま、フラストレーション解消を望む読者には良いかも知れない。

夢枕獏著『大江戸釣客伝 下』

2014-01-19 17:25:41 | 「ヤ行」の作家
夢枕獏著『大江戸釣客伝 下』講談社 2011.7.27 第1刷 
1,600円+tax

おススメ度:★★★★★

釣り狂いの者たちが恐れていた“釣り禁止令”がついに発令されてしまった。
それでも潮湖と其角は船での釣りを止めなかった。その内他の者で釣りをして捕えられ島流しとなったものが出た。
そんな御時世の折あの“投竿翁”の手による「釣秘伝百個條」という釣指南書が見つかり潮湖の手に入ったのである。そこには“投竿翁”なる人物の棲まじいまでの釣りに狂った人生が浮き彫りにされていた。
“投竿翁”いわく

「そもそも釣りは人の道にあらず、外道の道なり。常々思うところを記せば、その悪きこと博打に勝り、良きこと路傍の石にも劣りたり。粋人のするところのものにあらず、鬼狂いの一種なり。この道に入りて、もどりたる者なし。
博打なれば、金失くなれば止むところ、この道は、金なくとも竿を出すべし。人のする愚かなもののうちにも最たり。
この道に生き、この道に死して悔いなし。他に道なし。」

彼は腕の良い大工であったが、釣り狂いが高じ仕事をほったらかしにし、親のみか妻子の死に際すら釣りに出かけていた始末。人生すべてを失って後、著したのがこの「釣秘伝百個條」なのであった。

本書は江戸時代のこのような釣り、あるいは釣り人を描くのが目的ではない。
釣りに関わる様々な人を通して描く「大江戸文化論」のようなものである。
だから、釣りとは無縁の松尾芭蕉の臨終場面が出てきたりする。これがまた感動的な場面を作り出している。実は本編の主人公の一人である俳人其角の師匠が芭蕉なのであった。
また赤穂浪士の吉良邸討ち入りのエピソードが挿入されており、歴史上の通説とはかなり違った視点から描かれる物語は大変興味深い。
この仇討をされた吉良上野介という人物は。本編に登場する津軽采女の義父であったのだ。

作者あとがきを読んで知ったのであるが本編で登場する主人公たちが実在の人物であったのには驚いた。特に津軽采女は晩年「忘竿堂」なる私的展示室を持ち、そこでこの時代の釣りに関するあらゆる道具を揃えたばかりか、後世に残るような江戸湾の「釣り大全」たる“何羨録”を記している。この本は現存している。


吉村龍一著『光る牙』

2013-12-31 13:03:59 | 「ヤ行」の作家
吉村龍一著『光る牙』講談社 2013.3.6 第1刷 
1,500円+tax

おススメ度:★★★★★

近年、北海道に棲息する羆が人間を襲ったという事件の中で記憶に残るのは“福岡大学ワンゲル部”の5人のパーティーが日高山系の山の中で襲われ、内3人が犠牲になった事件だろう。
これは1970年の夏に起こった事件で、彼らを襲ったクマは4歳の雌熊で、最初は彼らのリュックから食料を狙ったものであったが、幾度も彼らの周りを徘徊し、恐怖にとらわれ逃げ出した彼らの後を追いひとりひとり倒していったもので、彼らの肉を食すわけでもなく全員の局部を食いちぎっていたという。
数あるヒグマの襲撃事件の中でもその執拗さ、残忍さは群を抜いており、4歳にして未経産であったという個体に何かあったのであろうか。

北海道の羆で大きなものは体重300kgにも達し、後ろ脚2本で立ちあがった身長は3m以上とも言われる。放牧された馬を襲った例では、一撃で馬の首を吹っ飛ばしたといわれる。本州にいる月の輪熊とは個体の大きさは比較にならぬほど大型でその気性も荒い。
学生の時、動物学の教授によれば北海道の羆は現在カムチャッカに棲息するロシアのクマと同類で、北海道が大陸から切り離された時点で北海道に隔離された形となり、狭くなったテリトリィの中で幾代も経過するうちにより凶暴さが増した可能性がある、とのこと。
本作に登場する羆は体重が500kg、身長は4mを超えるという、本来の羆の最大個体に匹敵するものである。
この羆は人間の身勝手な、そして違法な罠によって片手手首を失った、そしてもうひとつの理由(これはネタバレになるので書くわけにはいかないが)によって人間への限りない憎悪そして復讐の念に燃えた巨大なバケモノであった。
こんなモンスターと対峙する森林保護管の二人の描写が素晴らしい。特に主人公孝也の上司山崎の存在がこの物語に一層の厚みを加えている。
北海道日高山中で繰り広げられる二人の森林保護管と白いモンスターの戦いはページをくくる手を決して止めないであろう。

著者吉村氏はデビュー作「焔火」に続いて本作で2作品目を上梓したわけだが、その筆致は格段に力を加え、構成も見事である。これから大いに期待したい作家である。



夢枕獏著『大江戸釣客伝 上』

2013-12-24 17:40:38 | 「ヤ行」の作家
夢枕獏著『大江戸釣客伝 上』講談社 2011.7.27 第1刷 
1,600円+tax

おススメ度:★★★★★

かって、時代小説において釣り談義を題材にした小説というものにお目にかかった事が無い。そんな江戸時代における釣りにまつわる物語をなんとあの夢枕獏氏が描いたもの。
ただし、一読してすぐに分かるのであるが、単に江戸時代の釣り師を描くといったものではなく、釣り談義がいつしかこの時代の徳川綱吉治世の裏面をするどくえぐり出していく。
また江戸時代の遊行文化といったものも語られ非常に興味深い。

この時代小説に登場する主人公は津軽采女(うぬめ)という津軽家四千石の旗本でありながら小普請組で無役。暇にあかせて家臣の者から釣りの手ほどきを受けて次第に釣りの魅力に取りつかれることになる。
更にサブの主人公たる芭蕉の弟子其角、絵師の朝湖がおり、彼らの周辺には紀伊国屋文左衛門、吉良上野介、加えて水戸光圀公が登場して物語の厚みを増している。

何より面白いのは江戸時代の釣りが(今回の対象魚がキスやハゼといった小物が主体で、たまに鯛やスズキといったやや大きめの魚も加わるのだが)今日の釣りと大して変りなく行われていたこと。それは釣り船を雇っての釣り、海岸からの釣りにおいても各人のタックル(竿や針)へのこだわり具合が現代人のそれと比べても引けを取らないほど熱心であったこと。
この時代の遊び人である其角と朝湖の釣りはほぼ完全に遊びのひとつとしての釣りであるのに比して津軽采女(うぬめ)のそれは“釣りとはなんぞや”“釣りの面白さはどこから来る?”といったやや哲学的思索へ誘うのであった。
そんな彼らに衝撃的な出来事が起こるのであった。それは将軍綱吉の「生類憐みの令」が当初犬や馬が対象であったが、ついに魚介類にまで及び、果ては漁師以外魚を釣ってはいけない条例が発布されたのであった。
とにかく釣りの場面は出てくるものの、それをきっかけにサスペンス調の物語が進行し、釣りをするもの、釣りをしないもの、そんなことは関係なく物語に引き込まれる構成となっている。




吉村龍一著『焔火』

2013-04-24 15:07:04 | 「ヤ行」の作家
吉村龍一著『焔火』講談社 2012.1.5 第一刷 1,575円+tax

オススメ度 ★★★★☆

第6回小説現代長編新人賞受賞作。この作者の経歴が面白い。陸上自衛隊で橋の爆破なんかをやっていたそうだ。そのお方のデビュー作ということだが、最新作『光る牙』(人とヒグマとの壮絶な戦いを描く)の情報を聞きつけて、それじゃその前にデビュー作を読んでみよう、となったもの。

著者自身による本作の紹介は次に通り。

「ストーリーはですね、昭和初期の東北の寒村が舞台になっておりまして、そこで差別される青年がひとり登場してきます。その青年が、恋人と仲良く村で暮らしているんですが、ある日、その恋人が村の有力者に殺されてしまいまして、復讐のために相手を殺して彷徨するという、ロードノベル形式になっております。その逃亡の中で色んな人と関わり合いながら人間の尊厳を取り戻していくんですが、運命が次々に襲ってきて、安住の地を得られないまま、最後に悪と対決するという、400枚ちょっとの長編になっています。」


ある種マタギ的な生活に“サンカ”の“せぶり”なんかが語られる。鉄はそんな中、自然への畏怖、野生動物への慈しみを持った青年として育った。だが鉄にふりかかる運命はあまりにも過酷であり、時にすざまじいまでの憎悪と暴力が彼を襲う。その度に鉄の“生への渇望”が湧きあがり生き延びてゆく。
著者の、ぬるま湯につかった現代人に「生きるとは何か」を問いかける衝撃的な一編だ。



矢月秀作著『もぐら』

2013-01-11 00:36:12 | 「ヤ行」の作家
矢月秀作著『もぐら』中公文庫 2012.4.25 第一刷 各667円+tax

1998年C★NOVELS『もぐら』に加筆したもの

オススメ度 ★★★☆☆

いわゆるハリウッドB級アクション・ムービーを観ているごときの小説。これを読んだ時期、風邪にやられて熱っぽく食欲も全くないままふとんの中に臥せっていた。日中寝てばかりいたのだが、かと言って安っぽい芸人主体の正月オバカ番組をみる気もしないので、相当軽めに思えた本作を手にした。
こんな時にちょっと前に読了した『遺棄』みたいなホラー・サスペンスを読もうものなら死にそうな気分になったに違いない。
さて、本編はやめデカで今はトラブルシューターとなった男の物語であるが、デカを辞めても尚警察と深く関わり続けて活躍するところに他の警察小説とは違っている。
世に“警察小説”と称するジャンルの作品はあまたあるが、多くは公安警察と刑事警察との確執を描いたり、同じ警視庁でも本庁と県警間との縄張り争いを描いたりしており、極めて日本的な組織内部での確執を描く場合が多いような気がする。
本編の作者は敢えてその枠組みみたいなものを無視するかたちで、従来の警察小説からはみ出ている。というか作者自身が日本の警察機構をあまり知悉してないのじゃないかと思われる節が多々見られ、この点をつっこみたい気持ちを持つと本編は楽しめない。
とにかく元刑事である本編の主人公影野竜司(通称もぐら)のスーパー・バイオレントなキャラが魅力。僕を含めた一部の読者に潜む“破壊願望”をとことん追及してくれる。
実はこの『もぐら』はシリーズ化されており、5編くらい既に刊行されているようなのだが、2作目はパスしてよさそうなので現在3作目を読んでいる。一作目で収監されてしまった“もぐら”はどうなるんだろう?という単純な興味で読み進めているのだが、「ふふん、そういう手を使ったか」とニヤリとさせる手法でシャバに戻り、更にエスカレートしたハード・アクションを繰り広げる。
病気は気分が落ち込んだ時におすすめのシリーズかも。





矢作俊彦、司城志朗著『百発百中』

2011-11-29 23:13:57 | 「ヤ行」の作家
矢作俊彦、司城志朗著『百発百中』角川書店 2010.9.30 第1刷 1,700円+tax
副題:狼は走れ豚は食え、人は昼から夢を見ろ

おススメ度:★★★★★

長野県の片田舎にある舞網(マイアミ)というちょっとふざけた名前の駅に降り立ったのは秀と政という初老の男ふたり。
目指す場所は「ネクストワールド」という老人介護施設であった。二人は施設の人たちには“中国”に行っていたと称するが、実は刑務所に入っていた。
そこで知り合った男の遺言で、この老人施設で働く男の女房へ金を渡すつもりであった。
女房という女性には会えたのだが、実は正式に結婚していたわけではなく、男からのカネについてはガンとして受け取りを拒否したのであった。
どうも訳有りの事情があるようで、二人はここでヘルパーとして居ついてしまう。
この介護施設は破産しており、どうも計画倒産の疑いが持たれ、バックには悪名高いシンゲン・プラニングという企業がついているようだ。
施設の住人はもちろん高齢者たちで、ひとり三千万も払って入所したものの、施設の経営が破綻し毎日の食事の確保すら危うくなっていた。
そこで“お買い物ツアー”と称する集団万引き行為に走るのであったが、その危うさに黙ってみていることが出来なくなった二人は、ついつい“地”が出て手助けを始めてしまう。
さて、ストーリーがこうなってくると、一体どのような展開が待っているのか皆目見当がつかず、ストーリーのテンポもなんかかったるい程緩慢なことから、「これはひょっとしてハズレな小説か?」と思い始める。
ところが、シンゲンの方からの露骨な攻撃(施設を乗っ取り住人を追い出す作戦に出た)を契機に秀と政の強烈な反撃が始まる。
とにかく施設に入っている老人たちが面白い。二人のプロに指導されて万引きとカッパライの作戦は見事に成功し、大はしゃぎする様は微笑ましい。が、そんな笑いの陰にはホロリとするペーソス溢れたエピソードも用意されている。
さて、いよいよシンゲン・プラニングとの一騎打ちとなるのだが、これがなかなか捻りの効いた、奇想天外な作戦が展開される。
作戦には秀と政のかっての怪しい繋がりを持った仲間たちが登場し、仕掛けに花を添える。
このあたりのプロット構成は気の合った二人の作者ならではの絶妙な連携プレーによるものか。
最初こそノリが悪かったものの、中盤以降読者をぐいぐい引っ張る力量はさすがだ。




矢作俊彦著『引(エンジン)』

2011-11-22 00:22:45 | 「ヤ行」の作家
矢作俊彦著『引(エンジン)』新潮社 2011.5.30 第1刷 1,600円+tax
おススメ度:★★★★☆

発行元の新潮社による本作品の紹介記事によるとこんな具合になる↓

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それは最悪最凶のファム・ファタール!

高級外車窃盗団を追う築地署の刑事・游二(りゅうじ)の前に、その女は立ちふさがった。ティファニーのショウウインドーに.30カービン弾をぶちこみ、消えた女。魔に取り憑かれたかのように、彼は女を追い始める。宝石店襲撃、刑事殺し、高級車炎上、ビル爆破……息もつかせぬ緊迫の展開。著者渾身の傑作! 銃弾で描いた狂恋。

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「銃弾で描いた狂恋」?っていうのがウケた。なるほど主人公のりゅうじとその女との関係は狂恋なのかも知れない。
なんたって二人は警視庁刑事と正体不明の東洋系外国人凶手(暗殺者)という間柄ながら互いに惹かれあう。
そんな彼らのセックスは異様に描かれる。特にオンナがオトコを犯す?場面は壮絶に刺激的だ。

ストーリーを的確にまとめて書くというのは本作の場合なかなか難しい。書く矢先からネタバレになってしまう恐れがあるような気がするのだ。
本編に登場する女暗殺者のイメージとしては映画『ニキータ』に出てくる女暗殺者の100倍くらい凶暴で、殺しに関しては全く躊躇することなく実行する。
それでいて極めてしなやかな肢体と美貌を持つ蠱惑的暗殺者である。彼女の雇い主は最後まで明らかにされないし、彼女の任務の真の目的も謎のままだ。
全編を通し、ミステリ・サスペンス調であり、テイストは完全にハード・ボイルドだ。凝った文章は時々読み返さないと意味が伝わらない表現が出てくる。

作者矢作俊彦氏については今更紹介するまでもないが、個人的にはあまり著作を読んでいない。数年前の『傷だらけの天使 魔都に天使のハンマーを』と『ららら科学の子』くらいしか記憶がない。小説よりもむしろコミックの『気分はもう戦争』の原作者のイメージのほうが強いかも知れない。
この僕と同年代(実際一つ違いか)の作者の、一体どこにこのようなアナーキィなパワーが潜んでいるのか不思議な作家である。
この作家が描く破壊と殺戮が充満するアナーキィな世界が僕にはカタルシスを与えてくれる。



矢作俊彦著『傷だらけの天使』

2008-12-25 10:34:07 | 「ヤ行」の作家
矢作俊彦著『傷だらけの天使 魔都に天使のハンマーを』講談社 2008.6.19 第1刷 1,700円+tax

オススメ度★★★★★

テレビドラマ『傷だらけの天使』は僕にとっては青春時代の忘れがたい番組のひとつだ。あの軽快な井上堯之バンドによるオープニングテーマ曲にのって流れるショーケンの出だしのシーンは妙にインパクトがあり、目の奥に今でも鮮明に残っている。
そして若かりし頃の水谷豊が発する「兄貴ぃぃ~」というセリフも同様に耳の奥にこびり付いて残っている。
残念ながらこの水谷豊演じる乾亨(アキラ)が最後に風邪をこじらして死んだことは知らなかった。ということは僕は同番組の最終回を見逃してしまった、ということだ。
さて、矢作俊彦は全てのこの作品の背景を前提とした上で、30年後の木暮修を復活させたのである。
矢作俊彦はサービス精神を大いに発揮して続々とかってのドラマに出ていた役者たちを復活してくれた。
織部探偵事務所の綾部貴子を始め、辰巳五郎や浅川京子、さらに海津警部などなど。いづれもそれらの役を演じた俳優たちの顔が姿が瞬時に浮かんでくるではないか。
これらの役者の中には既に鬼籍に入った方々もおり、主人公である木暮修を演じたショウーケンこと萩原健一は恐喝事件のおかげでほぼ役者生命を絶たれた状態だ。
矢作俊彦があえてショーケンらを平成20年にもなる今の世の中に復活させた意図はどこにあるのだろう。

ヴァーチャル・ゲームの世界でその名を轟かせた“コグレオサム”が現実世界に飛び出して来て、再び新宿歌舞伎町を中心に大活躍する様はなんとも小気味よく、セリフのひとつひとつに隠された“しかけ”は往年のファンをニヤリとさせる。
作品中に登場させたシャァクショと呼ばれる青年が何故かかってのアキラを連想させ、オサムとのコンビがさまになっている。
いずれにせよこの作品は映像化を視野に入れたものと思われ、今後果たして映画化が出来るかどうかは分からないものの、是非とも萩原健一を引っ張り出して実現してほしいものだ。

横山秀夫著『クライマーズ・ハイ』

2008-10-09 20:19:01 | 「ヤ行」の作家
横山秀夫著『クライマーズ・ハイ』文春文庫 2006.6.10第一刷 629円+tax

オススメ度★★★★★

この作品は原作を読む前にテレビ・ドラマ化されたものを観たが故に今まで読み損なってしまった。
原作を先に読んでおかなかった事を激しく後悔した。
著者横山秀夫氏の作品は「半落ち」ほか2,3作しか読んでいない。いずれも警察モノである。鼻からこの作家は自らの職歴(多分“サツ廻り”の記者上がりだろうと)を生かした作家なのだろうと勝手に決めてかかったところがあった。
著者が群馬の地方紙「上毛新聞」の元記者であることを巻末の“解説”で知り、「ああ、この作家はこれが一番書きたかった作品なんだろうな」と確信めいたものを感じた。
それほど地方紙の会社組織、中央紙との戦いと負い目、などなどに詳しく、普通の作家が単に取材した程度の内容ではないことが容易に理解できる。

1985年の日航ジャンボ機が羽田を飛び立ち大阪に向かう途中、隔壁の破壊が原因で操縦不能に陥り、当時流行語にもなった“ダッチロール”を繰り返しながら群馬県と長野県の県境に近い御巣鷹山に激突した。航空機事後としては世界最大級の大惨事となったニュースは未だに記憶に生々しく残っている。。

これが「もらい事故」みたいなものとは言え、降って湧いたような未曾有の大事故に遭遇した地方紙の騒ぎたるや想像に難くない。
齢40近くなった主人公悠木は気楽な遊軍記者からいきなり「日航機墜落全権デスク」に局長から指名される。
この瞬間から悠木のとてつもない戦いが始まる。その様相はまさに戦場であった。

悠木は幼い頃の屈折した家庭環境の影響のせいで今も息子への対応に戸惑っている。職場ではこれはサラリーマン生活を10年もやった者にとっては誰しも味わうであろう社内の組織との軋轢。
本編ではかなりデフォルメされた表現かも知れないが社内での社長や上層部、他セクションとの激突は胸にせまるものがある。
本編は家庭を持つ男の生き様と報道姿勢に係わる真摯な葛藤を描く男の、熾烈な戦いのドラマである。
内容が熾烈であるが故に読後のカタルシスは形容しがたい!