min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

矢作俊彦、司城志朗著『百発百中』

2011-11-29 23:13:57 | 「ヤ行」の作家
矢作俊彦、司城志朗著『百発百中』角川書店 2010.9.30 第1刷 1,700円+tax
副題:狼は走れ豚は食え、人は昼から夢を見ろ

おススメ度:★★★★★

長野県の片田舎にある舞網(マイアミ)というちょっとふざけた名前の駅に降り立ったのは秀と政という初老の男ふたり。
目指す場所は「ネクストワールド」という老人介護施設であった。二人は施設の人たちには“中国”に行っていたと称するが、実は刑務所に入っていた。
そこで知り合った男の遺言で、この老人施設で働く男の女房へ金を渡すつもりであった。
女房という女性には会えたのだが、実は正式に結婚していたわけではなく、男からのカネについてはガンとして受け取りを拒否したのであった。
どうも訳有りの事情があるようで、二人はここでヘルパーとして居ついてしまう。
この介護施設は破産しており、どうも計画倒産の疑いが持たれ、バックには悪名高いシンゲン・プラニングという企業がついているようだ。
施設の住人はもちろん高齢者たちで、ひとり三千万も払って入所したものの、施設の経営が破綻し毎日の食事の確保すら危うくなっていた。
そこで“お買い物ツアー”と称する集団万引き行為に走るのであったが、その危うさに黙ってみていることが出来なくなった二人は、ついつい“地”が出て手助けを始めてしまう。
さて、ストーリーがこうなってくると、一体どのような展開が待っているのか皆目見当がつかず、ストーリーのテンポもなんかかったるい程緩慢なことから、「これはひょっとしてハズレな小説か?」と思い始める。
ところが、シンゲンの方からの露骨な攻撃(施設を乗っ取り住人を追い出す作戦に出た)を契機に秀と政の強烈な反撃が始まる。
とにかく施設に入っている老人たちが面白い。二人のプロに指導されて万引きとカッパライの作戦は見事に成功し、大はしゃぎする様は微笑ましい。が、そんな笑いの陰にはホロリとするペーソス溢れたエピソードも用意されている。
さて、いよいよシンゲン・プラニングとの一騎打ちとなるのだが、これがなかなか捻りの効いた、奇想天外な作戦が展開される。
作戦には秀と政のかっての怪しい繋がりを持った仲間たちが登場し、仕掛けに花を添える。
このあたりのプロット構成は気の合った二人の作者ならではの絶妙な連携プレーによるものか。
最初こそノリが悪かったものの、中盤以降読者をぐいぐい引っ張る力量はさすがだ。




矢作俊彦著『引(エンジン)』

2011-11-22 00:22:45 | 「ヤ行」の作家
矢作俊彦著『引(エンジン)』新潮社 2011.5.30 第1刷 1,600円+tax
おススメ度:★★★★☆

発行元の新潮社による本作品の紹介記事によるとこんな具合になる↓

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それは最悪最凶のファム・ファタール!

高級外車窃盗団を追う築地署の刑事・游二(りゅうじ)の前に、その女は立ちふさがった。ティファニーのショウウインドーに.30カービン弾をぶちこみ、消えた女。魔に取り憑かれたかのように、彼は女を追い始める。宝石店襲撃、刑事殺し、高級車炎上、ビル爆破……息もつかせぬ緊迫の展開。著者渾身の傑作! 銃弾で描いた狂恋。

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「銃弾で描いた狂恋」?っていうのがウケた。なるほど主人公のりゅうじとその女との関係は狂恋なのかも知れない。
なんたって二人は警視庁刑事と正体不明の東洋系外国人凶手(暗殺者)という間柄ながら互いに惹かれあう。
そんな彼らのセックスは異様に描かれる。特にオンナがオトコを犯す?場面は壮絶に刺激的だ。

ストーリーを的確にまとめて書くというのは本作の場合なかなか難しい。書く矢先からネタバレになってしまう恐れがあるような気がするのだ。
本編に登場する女暗殺者のイメージとしては映画『ニキータ』に出てくる女暗殺者の100倍くらい凶暴で、殺しに関しては全く躊躇することなく実行する。
それでいて極めてしなやかな肢体と美貌を持つ蠱惑的暗殺者である。彼女の雇い主は最後まで明らかにされないし、彼女の任務の真の目的も謎のままだ。
全編を通し、ミステリ・サスペンス調であり、テイストは完全にハード・ボイルドだ。凝った文章は時々読み返さないと意味が伝わらない表現が出てくる。

作者矢作俊彦氏については今更紹介するまでもないが、個人的にはあまり著作を読んでいない。数年前の『傷だらけの天使 魔都に天使のハンマーを』と『ららら科学の子』くらいしか記憶がない。小説よりもむしろコミックの『気分はもう戦争』の原作者のイメージのほうが強いかも知れない。
この僕と同年代(実際一つ違いか)の作者の、一体どこにこのようなアナーキィなパワーが潜んでいるのか不思議な作家である。
この作家が描く破壊と殺戮が充満するアナーキィな世界が僕にはカタルシスを与えてくれる。



湊かなえ著『告白』

2011-11-10 23:51:54 | 「マ行」の作家
湊かなえ著『告白』双葉文庫 2010.4.11 第1刷 619円+tax

おススメ度:★★★★☆

我が娘を殺された中学の女教師の「愛美は死にました。このクラスの生徒に殺されたのです」という生徒を前にした衝撃的な「告白」からこの物語は始まる。
次に殺した側の生徒、その母親、クラスの学級委員、それぞれのモノローグを通して事件の真相が語られる、というやや特殊な形態をとった小説である。
我が子を殺された母親が選んだのは、犯人を警察の手に渡すことなく、直接彼らに復讐する、それも手のこんだ最も効果的な手段をもって復讐することであり、その衝撃的結末は読者の中で賛否両論が巻き起こったことは想像に難くない。

我が子を殺されてその復讐を自らの手で行った小説で記憶に残るのは東野圭吾著『さまよう刃』である。
この小説の場合、殺された我が子の父親の復讐は、相手を直裁に暴力的な手段をもって行われたのであるが、本編の女教師は直接的暴力に訴えるのではなく徹底的な心理作戦でもって犯人の少年を追い込む。
いずれのケースも警察沙汰にすれば、“未成年犯罪者”は「少年法」という極めて過剰に保護された法律により、実質的な刑罰を受けずに再び社会に戻されることが予測された。
「更正」など望むべくもなく、場合によっては2、3年で社会復帰を果たし、再び同様な犯罪が他の人々に行われることは明々白々であることが分かった場合、あなたは一体どうするであろうか?

本編は中島哲也監督、松たか子主演により映画化され大ヒットした。
映画を先に観てその原作を読む、というケースは自分にとって稀なことであるが、今原作を読んでみて思うのはほとんど映画を観ての感想と違和感がなかったことだ。これは極めて珍しいことである。
それほどかの映画の出来栄えが素晴らしかった!ということだろう。特に松たか子演ずる教師森口裕子は恐ろしかった。改めて松たか子の演技力に瞠目する作品であった。

本編は昨今頻発する“少年犯罪”に対し、未成年である一点をもって過剰なまでに彼らを保護する立場を取る「司法」と一部マスコミおよび世論に対する強烈なアンチテーゼではなかろうか。




高野和明著『ジェノサイド』

2011-11-01 21:11:18 | 「タ行」の作家
高野和明著『ジェノサイド』角川書店 2011.3.30 第1刷 1,800円+tax

おススメ度:★★★★★

高野和明という作家は『13階段』、『クレイブデッカー』などの著作で存在は知ってはいたが本作でお初の作家さんである。
いや、びっくりした。こんなスゴイ作品を書く作家とは!ジェノサイド、日本語では「大量殺戮」ということで、当初はオドロオドロしい世界を描くのではないか、またウィルス云々という内容で始まったので「これはまた気乗りしないなぁ」と思ったのが良い意味で予想が外れた。

「人類絶滅の可能性。アフリカに新種の生物出現」という一報が米国大統領の手元に入ったこことから、大統領は速めに厄災の芽を摘むことに決め、政府内に特別チームを編成。
アフリカのコンゴの東の森に潜む感染者並びに新種の生物らしきものを抹殺するために4人の傭兵が集められた。
一方、日本で地味な薬学を専攻する大学院生古賀研人の元に動脈瘤破裂により急逝した父親から奇妙な伝言を受け取った。
父子にしか判らない附表で手に入れたのは5百万円が入った預金通帳と起動しないA5のパソコンで、更に町田市内に借りられたアパートの一室であった。
室内には40匹のマウスが飼われ種々の試験器具が揃っていた。
父の遺言はある難病に関する治療薬の創薬を父の代わりに完成させることであった。

多少ネタバレになるのを許していただくが、現地に潜入し抹殺しようとした対象は新種のウィルスに感染した者たちの抹殺ではなく、いわゆる「新人類」の抹殺にあったのだ。
この「新人類」が現世人類に対し敵対した場合、神にも近い存在の圧倒的知力で現生人類を滅ぼす能力を持っているかも知れない。具体的には合衆国のみならず現有国家が使用する暗号を全て解読される恐れがありそれは国家の死を意味するからであった。

この「新人類」(実は3歳の子供)を巡る争奪戦と古賀研人が開発しようとする新薬がどのように絡むのか。
日本、米国、そしてコンゴで展開されるいくつものプロットが重ねられ、全てのジグソーパズルの断片が合わされる時、驚愕の真実が明らかにされる。
本作はサスペンス仕立てのテイストを持った冒険小説であり、作品中に披瀝される世界情勢の分析、なかんずく合衆国における政権・権力構造の分析や人類の成長過程を照射して語られる文明論はなかなか読ませる。
三歳児の赤ん坊のような「新人類」が超能力にも等しい知力でもって大人たちを翻弄する様は、昔々のアニメ「サイボーグ009」に登場する赤ん坊超能力者を思い出して興ざめする方が出るかも知れないが、その返答もちゃんと用意されている。
今年読んだ本の中ではダントツに面白い一作である。