min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

鳴海章著『マルス・ブルー』

2014-07-27 18:39:09 | 「ナ行」の作家
鳴海章著『マルス・ブルー』 講談社文庫 2012.1.12第1刷 

おススメ度:★★★☆☆

久しぶりに同氏の航空機ものを読んだ。ファイター同士の大空での空中戦を描いたらこの方の右に出る作家はいないのではなかろうか、と再確認した一作である。
この作家の履歴には一切空自に関わるものはない。それなのに機体のデティール(コックピット内部はもちろん)ファイター・パイロットの操縦技術的なものを含め、パイロットの胸中をかくも鮮やかに描くには一体どんな取材を行っているのだろう?
物語のあらすじは本の紹介文によると
「新潟県沖に小舟に乗った死体が漂着する。死体が履いていたブーツは7年前、悪天候を突いて緊急発進したF-15パイロット、影坂志郎のものだった。影坂は生きている?
捜査に乗り出したのは警視庁公安部。明らかになる北朝鮮、中国、ロシアの謀略、そして孤高の戦闘機乗りの熱くも哀しい動機だった。」
とある。
今や我が国を取り巻く軍事的環境は本書に述べられている通り、「日本人の独立心」の再構築が求められているのであり、数ある自衛隊員の中には本書の主人公のような考えに到るものが必ず存在するであろう。
そしてこれらの自衛官を利用しようと企む政治家、経済人、さらに“黒幕”なるものが必ず存在するであろうことも確かだ。
ただ本編では“陰謀”の全体像が明確化されることはなく、いわば尻切れトンボで終わってしまった感がある。こうした謀略ものの深化を鳴海章氏に求めるのはちょっと酷かも知れない。




西木正明著『梟の朝』

2013-04-14 12:58:30 | 「ナ行」の作家
西木正明著『梟の朝』文春文庫 2000.8.10 第一刷 552円+tax

オススメ度 ★★★★★

副題に“山本五十六と欧州諜報戦網作戦”とある通り、第二次世界大戦下の欧州で“TO”と呼ばれた大日本帝国の秘密諜報網を構築せんとした者たちがいた。
その実態は戦後もわが国ではほとんど明かされた事はない。
1944 年6月、アメリカを主軸とした連合国軍がイタリアのローマを陥落し、ノルマンディー上陸作戦が敢行された直後の7日、アペニン山中で在イタリー大使館付武官光延東洋大佐が乗った乗用車が何者かによって襲撃され同大佐が爆殺された。
一体何者が何の目的で光延大佐を殺害したのかは今も謎とされている。西木正行氏は綿密な取材を元に、氏の類まれなる創造力を持って光延大佐暗殺の真相を追究したドキュメント風ノベルを書きあげた。
そもそも主人公であるフリーランス・ライターの“わたし”が光延大佐の死に興味を抱いたきっかけは、別件取材で英国人クライマーで後に冒険旅行家となったティルマンとの出会いであった。
長い船上での同行取材の最終場面でティルマンはスイスの氷河でミツノブに命を救ってもらった経緯があった。その後ティルマンは英国情報部MI5の情報員として第二次ロンドン会議にて山本五十六提督とその随員を世話する事となり、提督の副官として渡英したミツノブがかって自分を氷河で救ってくれた恩人であることに気がつぃた。しかしミツノブはティルマンの事を覚えてはいなかった。そして何年か後、イタリアのパルチザン支援のため乗り込んだアペニン山中で、パルチザンが殺害した日本の将校があのミツノブ大佐であったことを後になって知ることとなる。
数奇な運命で結ばれたふたりではあったが、ティルマンの最後の望みはミツノブ大佐の御遺族がまだ存命しているかどうか知りたいということであった。その依頼を受けた形の“わたし”であったがその約束を果たす以前に依頼したティルマンが南極へ向かう途中消息を絶ってしまうことによって断念された。
その“ミツノブ”という名前がある人物の口述から出てきたのは十年以上経ってからであった。この人物とは須磨弥吉郎といい、当時在スペイン日本大使館の公使であった。この男こそ山本五十六に欧州における諜報機関をつくるべきと意見具申した張本人であったのだ。実質的な“TO機関”の責任者として戦後、須磨はA級戦犯に問われたのであった。
本作品はこうした戦時中に諜報機関に携わったものたち及び関連人物たちからの口述記録や存命者へのインタビューという形で進められ、あたかもドキュメンタリーかと思われる作風となっている。登場する人物はほぼ実存した方々でそれも実名で登場する。

特筆すべきは日本の諜報機関を語る上で、いままで陸軍中野学校及びそれから派生した中国における「児玉機関」の活動しか知らなかった僕にとっても驚きの内容であった。
現在の日本でも今さかんに国家の安全危機管理をどのようにすべきか論議され始めた今日的課題であり、その一つが「情報機関」の設立なのである。
当時同じような考えを持った須磨及び山本提督が受けた既存勢力からの抵抗があまりにも日本的なもので、時代が変わっても事態は変わらないのだなぁ、という妙な感心をしてしまった。
陸軍内部からはもちろん、山本提督が属した海軍内部からも反対意見がなされた事に対して彼はこう嘆いたという「ふだんあまり仕事をしない奴らが、なにか新しい物が出来て、仕事を少しでも減らされそうになると、死に物狂いになって自分の仕事を守ろうとする」と。
これらは軍人も官僚たちも皆一様だったという。かくして全軍を統合するような情報機関の設立は困難を極め、逆に内部から足を引っ張られる形でこの“TO機関”の活動は停止を余儀なくされる。
だが一方、彼らはとてつもない情報をアメリカで握ったのだ。何とかこの情報を内地に送ろうとした須磨公使は光延東洋にその使命を宅したのであった。その情報の内容とは?

ドキュメンタリータッチの作品にミステリー小説としての作者の想像力を加味して出来あがった本作品はなかなか読み応え有るものとなっていると思う。特に光延東洋大佐が抱えていた内容が事実だとすれば、日本の歴史も変わっていたことであろう。






中村航著『夏休み』

2011-08-03 21:33:32 | 「ナ行」の作家

中村航著『夏休み』集英社文庫 2011.6.30 第1刷

オススメ度: ★★★☆☆

先日、ある飲み会でディックさんにお会いした時彼が所持していた本(仲間内の交換用)で、そのタイトルよりも中村航さんという作家名で躊躇せず頂いた本である。

というのも、彼のデビュー作である『リレキショ』をかって読んだことがあり、内容は鮮明に覚えているわけではないのだが妙に印象に残る作品であったからだ。その時の書評は↓

http://blog.goo.ne.jp/snapshot8823/e/94bd5ee3af26d9b8d22dca82273e37c8

とにかく不思議な感性をお持ちの作家さんで、還暦を越えた自分には今一つ分からない世界を描いているのであるが、それでも何故か惹きつける力を持つ作家さんなのだ。

本作品も分からないといえば更に分からない世界を描いており、主人公マモルがユキと結婚した経緯や同居する彼女の母親との関係、更にユキの親友である舞子さんと彼女の夫、吉田くんが係ってくるに至りますます僕の常識を悩ましてくれる。
いくらゲーム世代の主人公たちとはいえ、離婚の可否をTVゲームで決めようなどとは考えられないのである。
しかし、彼らは不真面目であるのではなく、感性的に真剣に取り込むのである。

タイトルの『夏休み』を見ただけでは学生のそれのように思えるのであるが、実は二組の夫婦にとって人生の岐路に立つほどの意味合いを持つ休みなのであって、男同士ふたりの関係も微笑ましく、「ああ、こんな感性を持った人たちもいるんだろうな現代には」と、何となく受け入れてしまうのはさすが中村航さんの世界観なのかも知れない。

とまれ、血生臭い小説ばかり読むのではなくたまにはこうした小説も息抜きになる良い例である。

夏見正隆著『要撃の妖精』

2009-11-24 07:44:03 | 「ナ行」の作家
夏見正隆著『要撃の妖精』 徳間文庫 2008.11.15 第1刷 1143円+tax
オススメ度:★☆☆☆☆

いわゆる「仮想戦記モノ」のジャンルに入るのだろう。このジャンルは総じて僕の趣味には会わないので避けてきたのであるが、本屋の店頭で何をトチ狂ったのか覚えてないが本署を手にしていた。
多分、気分転換のつもりか本の帯にあった女性F15パイロットという文字のせいであろうか。
内容に関しては一切論評しない、する気も起きない。かくもぶざまな小説が文庫本で千円以上の値段をつけて売られていることに対し驚きと憤りを抱くのみ。


西木正明著『ウェルカム・トゥ・パールハーバー(上・下)』

2009-03-11 10:32:58 | 「ナ行」の作家
西木正明著『ウェルカム・トゥ・パールハーバー(上・下)』 2008.12.10
第1刷 各2,000円+tax

オススメ度★★★☆☆

真珠湾攻撃の真の首謀者、ウィリアム・ワイズマンとは何者か!?
スターリン、ヒトラーをも翻弄する大英帝国MI6の元アメリカ支部長が、アメリカとイギリスの国益の為日本を罠にかける日米交渉を仕掛けたのだ・・・・・

この日米交渉なるものがクセモノで、そもそも決裂することを前提にシナリオが書かれ、日米とも民間主導の国家間交渉を始めたのだ。
当初は日本側の立場に立った見かけ上は極めて友好的な草案が、ある日を堺に内容が180度展開し日本が交渉を蹴っ飛ばすしか選択肢のない方向へ導いてゆく。この間独英停戦協議やドイツのソ連侵攻の可能性が色濃く日米の関係に影響を与え、各国間のエスピオナージは最高潮を迎える。
いづれにしても当時の日本の諜報機関の稚拙さが、米英ソ連との情報戦に完璧に敗れ去った、というのが歴史の事実であろう。
いや、単に諜報戦に敗れたというばかりではなく、日本には国家を担う政治家がおらず、また確固たる政治思想がなかった。それ故に軍部の独走を抑えきれず無謀な戦争に突入し国を滅ぼしたといえる。

1941年12月8日、日本海軍がパールハーバーを奇襲攻撃したのだが、これをアメリカ側は事前に知っていたのでは?という説がある。
いかにも“陰謀説”のように思われるかも知れないが、“状況証拠”から言えばなかなか信憑性に富んだ説ではなかろうか。
だが、確証を残すほどアメリカもドジではない。いずれはケネディ暗殺の真実同様、その歴史的真実が明らかにされるやも知れないが自分はそれまで生きている可能性はない。それで真実を推論するしかない。

上下巻合わせて千ページを超える大作である。NY、ワシントンDC、東京、ホノルルその他で繰り広げられる世界情勢の分析の描写及び日米交渉の裏事情の分析場面はいかにも冗長である。
作中二人の日本陸軍所属の天城大佐と江崎大尉がNYに乗り込み活躍するが、これはあくまでサシミのツマでしかない。
後半、ぐっと胸に迫るシーンがある。それは日本の行く末がどうのこうのではなく、あくまでも国家という化け物に翻弄された男女の個人的生き様に感動するのだ。

ところで真珠湾攻撃が米国の策略に乗せられた結果だという、いわゆる米国の“謀略論”は目新しいものではないが、本作品中に登場する元MI6アメリカ支部長、ウィリアム・ワイズマンを調べてみるととんでもないバックグランドが浮かび上がる。
彼が日米開戦前に所属していたクーン・レープ商会は実在の会社であった。
同社のルーツはロスチャイルドにも繋がるユダヤ資本で、後にリーマン・ブラザーズ・ホールディングスとなった会社である。ク-ン・レープ商会は次にリーマン・ブラザーズ・クーン・レープとなるのであるが、この時にはもう今で言う“産軍複合体”みたいなものを目指していたようだ。
こうした背景を考えると、米国は「自由と民主主義」をファシズムから守るという大義名分の陰に、既にその後の世界支配を目論むシステムの構築を始めていたと言える。この実態は米の“ネオコン”に象徴され、9.11同時多発テロ以降我々の眼前にその正体が暴かれた。
昨年のリーマン・ブラザーズの破綻は上記の世界支配システムが崩壊し、米の一極支配が終演する兆しの発端となるのか興味深いところだ。


それと作中登場するソ連のダブルスパイでは?と目される人物、通称エコノミストとは実在の人物であったのであろうか?あのY.Sのことであろうか?最後の最後まで謎として残された。


西木正明著『極楽谷に死す』

2009-01-21 09:46:15 | 「ナ行」の作家
西木正明著『極楽谷に死す』講談社 2008.3.25 1,600円+tax

オススメ度★★★☆☆

70年代の学生運動の盛り上がりと連合赤軍事件に代表されるその終焉。学生時代に何らかのかたちで学生運動にかかわった者たちの四半世紀を経た後の姿を、ひとりの売れない物書き(複数の設定となっている)の目を通しほろ苦いテイストで描く6つの短編からなる。
「夜、ダウ船で」
「極楽谷に死す」
「紅の海」
「ボスボラス海峡」
「ノースショアの風」
「風の王国」
以上の6編。
「夜、・・・」と「紅・・・」は政治色がない。
いわゆる全共闘世代と呼ばれるオヤジたちが読めばそれなりの“感慨”を持って読めるであろうが、それ以降の世代の人々が読むにはどうなんだろう?という疑問符を抱きながら読んだ。
この作者には短編が似合わない。長編としてリライトしてほしいと感じたのは「夜、ダウ船で」。「風の王国」のテーマは面白いのだが既に五木裕之や他の作家が描いている。
「夜、ダウ船で」は明治時代にアフリカのザンジバル島まで流れていった“からゆきさん”の末裔の物語で、これは歴史的にも事実であることから是非長編として描いてほしい世界だ。

鳴海章著『哀哭者の爆弾』

2008-10-31 13:09:54 | 「ナ行」の作家
鳴海章著『哀哭者の爆弾』光文社 2008.8. 第一刷 1,900円+tax

オススメ度★★☆☆☆

主人公、特殊装備隊隊員・仁王頭勇斗といえば『バディソウル 対テロ特殊部隊』で出ており本作はその続編となる。
今度はいわゆる“ワーキングプア”と呼ばれる日雇派遣労働者を集めテロリストに育て上げ爆弾テロを実行させる、という物騒ではあるが誠にもの悲しい筋立てとなっている。
かって生活の基本事項として“衣・食・住”といわれ今やそれに携帯電話が加わり“衣・食・住・携帯”となった昨今の世の中。携帯がなければ仕事にもありつけない。
何故なら日雇いの仕事も携帯を通して派遣業者から情報を得ねばならないからだ。
その日泊まるところ(大抵はネットカフェとなる)の金がなくとも携帯の料金だけは滞納するわけにはいかない。

こんな訳の分からない連中を訓練する組織といえば、相も変わらずうさんくさい右翼の老人が支配するというのが定番となっているが、今回は更にアナーキストという仕立て。もちろん背後には日本の政界を牛耳る黒幕政治家がいる。警察庁公安部の深部にまだなお右傾化を目論む勢力がいるという設定。もう、こんな筋立て自体が陳腐としかいいようがなんだなぁ・・・。

ところで本作品で特に気になった点がある。小説構成上、よく外国作品で見られるのだが複数のプロットを章ごとに並行して書かれる小説がある。個人的にはこの手法はあまり好きではないのだが、本作では章ではなく節の中で突然プロットが切り替わるのだ。
それも単に一行空けられただけで。読書側としてはとまどう他術がない。
この手法が一体何の効果をもたらすというのか?今後この手は勘弁願いたいものだ。

以下★ネタバレ★








最後の場面で仁王頭勇斗が新設の政党党首を狙撃するのだが、通り一遍に読んでしまってから何か違和感を感じたので何ページか戻って幾度も読み返してみた。
これは僕の読み違いではなく、間違いなくもうひとりスナイパーが存在し狙撃している。
これは一体何の意味があるのか?現時点では僕には理解できない。
よもや作者が間違って描いたとも思えない。どうも後味の悪い結果となってしまった。

REQUIEM FOR AN ASSASSIN

2008-06-03 11:27:31 | 「ナ行」の作家
Barry Eisler『REQUIEM FOR AN ASSASSIN』Penguin Group(USA)$7.99

オススメ度 ★★★★★

ドックスは前回レインと共に日本のヤクザから強奪した金を元に、かねてからの願いの通り、インドネシアのバリ島の田舎にコテイジを建て優雅な日々を送っていた。
しかし、戦士の休息は短いものと相場は決まっている。
ドックスは不覚にも元CIAヒルガーの手下に補足されてしまったのだ。
ヒルガーのレインに対する憎しみは大きく、けっして忘れ去ることなどできないほどのもの(実際、レインとドックスは彼の部下2名を殺したし、彼のビジネスに多大なるダメージを与えたことは事実)であった。
ヒルガーは、レインのバディであり今や数少ない彼の友人のひとりであるドックスを人質にとることによって、レインをおびき寄せ抹殺するつもりであった。
ヒルガーはレインに対し、彼が指名する3人のターゲットを暗殺することを指示した。
この暗殺を遂行しない限り、ドックスの命はないものと思えと。レインにはこの要求に従うほか選択肢はなかった。
だが、ヒルガーはこの暗殺の背後に更なる巨大な陰謀を持っていたのだ。

本編ではレインの暗殺技術が存分に発揮され、読者を唸らせる。特に彼の場合「自然死に見せかけた暗殺」という際だった暗殺技術を持っているのである。
舞台はバリ(インドネシア)、サイゴン(ベトナム)、アメリカ西海岸、ニューヨーク・シティ、シンガポール、ロッテルダム(オランダ)そしてパリとめまぐるしい。
はたしてレインは要求された暗殺を果たし、ドックスを救うことができるか?
また背後に隠された更なるヒルガーの陰謀とは何か?全編を通じ、息もつかせないプロットが展開する。

一方、ハデなアクションばかりではなくレインの内面の葛藤が描かれる。それは時に切なく哀愁に満ちたものとなっている。
特に今やレインの手の届かない存在となってしまったミドリと息子への想い、そしてデリラとの関係など、読者も切ない気持ちでいっぱいになる。
さて、シリーズも6作目を迎え、そろそろ暗殺者ジョン・レインの物語も手詰まり状態を迎えたことは否定できない。
本編を読了し、この先本シリーズは続くのであろうか?というのが今気がかりでもある。



余談:
邦訳されるのを待ちきれずに前作『THE LAST ASSASSIN』を読んだ。更に第6作の存在を知るにいたりこれも待ちきれるものではなくなってしまった。
とにかく読みたい!という切なる思いで本編に取りかかったものの、やはり読み進めるには多大の努力が必要であった。読むスピードも邦訳物に比べ数倍かかり、時に何時間も読むと頭痛がしてきたこともあったが、内容の素晴らしさが全ての苦痛を排除した感がある。
また、今までは通常の英和辞典で分からない語彙を調べながらの遅々たる作業をしていたわけだが、今回は後半から「電子辞書」の助けを借りることによってかなり単語の検索が早まったことをご報告しておきたい。やはり文明の利器は凄いものだ。

雷桜

2008-05-08 18:03:54 | 「ナ行」の作家
宇江佐真理著『雷桜』角川文庫 2008.3.15 第七刷 552円+tax

オススメ度★★★★★

僕は宇江佐真理さんのファンだ。特に「髪結い伊三次捕物余話」が好きである。そのほかの作品もそうであるがほとんどが江戸深川の下町人情、情緒を描いて我々を魅了してきた。
ところが本作品はそれらの作品とはかなり趣を異にしているのだ。

ストーリーを紹介すると何かつまらない物語にしか映らないような気がするので敢えて詳細は紹介しないが、幼児のときに誘拐された少女が十数年ぶりに帰還し、“狼少女”と呼ばれるほどワイルドな育ち方をした。そんな少女が江戸幕府の御三郷と呼ばれた清水家の殿様と出会い、ありえない恋に陥る様がスリリングに描かれる異色の恋愛時代劇?なのだ。

巻末の解説で、あの冒険小説を語らせると天下一品の評論家「北上次郎」が熱く語り絶賛する、といえば僕ががなりたてる必要など何もない。
この少女の凛とした生き様と、彼女を支える両親、兄弟の深い肉親愛は最後に最高の感動を与えてくれるであろうことをお約束する。是非一読あれ!

グラスホッパー

2007-07-27 21:53:36 | 「ナ行」の作家
伊坂幸太郎著『グラスホッパー』角川文庫 2007.6.25 590円+tax

★★☆☆☆

小説の冒頭部分で主人公のひとりである元教師の鈴木が学生時代に受けた講義の中で、ある教授が言う「これだけ固体と固体が接近して、生活する動物は珍しいね。人間というのは哺乳類じゃなくて、むしろ虫に近いんだよ」。

なるほど、こうした感覚は東京のような過密都市に暮らしていたときには確かに素直に受け止めたかも知れない。
だが、しばらく北海道のような粗密な人口、自然豊かな環境の下で暮らして読むとなんとも違和感を覚えるのだ。

伊坂幸太郎という作家は初めてであるが、ストーリーテラーとしての力量は大いに認める。元教師と鯨、蝉と呼ばれる殺し屋の物語を実に上手に結びつけ、結末まで読者をぐいぐい引っ張っていく。
だが、どうにも読書感はやりきれない。人が簡単に死んでいく。まるで虫けらのように殺される。他人を何故殺さねばならないか、あるいは何故死地に追い込む必要があるのか、ふたりの殺し屋は無頓着だ。
元教師だけがまとものような感じを受けるものの、やはりどこかが変なのだ。
序盤から終盤まで、彼の役どころは単なるストーリーを展開する上での“つなぎ”のようなものだ。
この“つなぎ”役はもうひとりの殺し屋「押し屋」と先のふたりの殺し屋を繋ぐ。

最後に元教師の状況は何を物語るのか?うむ、と考えても大した結論には至らなかった。
ところで「押し屋」という殺し屋は先月か先々月の『ビックコミック・オリジナル』の「黄昏流星群」で登場したのであるが、なんか都会には棲息していそうな“殺し屋”だなぁ。
あ、あっちの物語のほうが面白かった。