min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

上田 早夕里著『深紅の碑文 上・下』

2014-06-15 15:31:34 | 「ア行」の作家
上田 早夕里著『深紅の碑文 上・下』 ハヤカワSFシリーズJコレクション
2013年12月19日第1刷 
1,680円+tax

おススメ度:★★★★★

前作「華竜の宮」で25世紀の地球はホットプルームの噴出によって海面が250mも上昇した世界を描いた。続編となる本編では更なる“大異変”によって地球は分厚い氷で覆われるであろうという人類絶滅の危機がせまる。
その“大異変”を前にして、人類は陸上民と海上民が資源の争奪を激化しつつあった。本編では前作で中心人物として描かれた青澄誠司が再び登場する。彼はラブカ(反陸上民を標榜する海賊)と陸上民国家との戦いを終わらせるべく奔走するのだが両者の戦いは益々激烈化していった。
それは陸上民と海上民という「人種間の闘争」ではなく、互いに人間とは認めないまでの「異なる種同士の闘争」であったからだ。陸上民が最終的に放った兵器は“殺戮知性体”といわれる恐るべき殺人兵器であった。これは相手が人間であるとは認識していない何よりの証左とも言えた。
物語の大半はラブカの首領となったザフィールと陸上政府運との凄惨な戦いが描かれ、これに青澄誠司がからんで行く。この縦軸とも言える二人を取り巻く組織、人間模様を描くと同時に、宇宙にロケットを飛ばし地球人類の存在した証を何とか残そうと志す星川ユイとその組織を描く。

かって小松左京氏が「日本沈没」というSF大作において、大異変を迎え“日本人の行く末”を描いたのだが、上田 早夕里氏は更に“人類の行く末”を壮大なスケールで描こうとした。人類の歴史は本編のタイトル(深紅の碑文)にあるように、まさに“真っ赤な血色に染まった歴史”でもある。現在もイラクやシリアで繰り広げられている戦いは本編で描かれる殺戮戦を想起させる絶望的な「人間の業」と思われる。星川ユイの願いを込めたロケットにはこの負の財産とも言える“深紅の碑文”は積まれてはいない。
一見人類の希望とも受け取られるロケット発射に対し一抹の虚しさを感じるのは僕だけであろうか。
人間の生きざまとしてはラブカの首領であるザフィールに惹かれる。滅びゆく地球と共に人類も滅ぶ方が良いのかも知れない。






高野秀行著『謎の独立国家ソマリランド』

2014-06-11 22:19:44 | ノンフィクション
高野秀行著『謎の独立国家ソマリランド』本の雑誌社 2013年2月 第1刷 
2,200円+tax

おススメ度:★★★★★

著者は早稲田大学探検部出身の異色ルポライターで、僕はかって彼が探検部所属時代のエピソードを綴った「ワセダ三畳青春記」を読んだ程度しかないが、妙に魅力のある作家だなと記憶に残った。
さて、そんな著者が何でまたソマリアに興味を抱いたのか不思議であるのだが、そんな著者以上にソマリアについて知りたいのが僕なのである。
洋の東西を問わず現在のソマリアがどうなっているのか、その実態を自らの足で歩いて取材した本などあったろうか。
この著者の「他人の行ったことが無い、そして誰も知らないモノを探したい!」という持ち前の好奇心がソマリアをターゲットにしたものと思われる。

僕が青年海外協力隊の一員としてケニアに赴いた年、1977年の7月にソマリアは突如隣国エチオピアに侵攻し、いわゆる“オガデン戦争”が勃発した。結局ソマリアはこの戦争に敗れその後大統領も失脚し国は無政府状態に陥ったと聞く。だが何がどうなったのかはさっぱり分からない。情報が圧倒的に不足する中、我々が見聞きしたソマリアの状況は映画「ブラックフォークダウン」で描かれた狂気の戦闘が行われた首都モガディシオであったり、近年多発する海賊のことばかり。
そんな中著者高野氏はソマリアへ入って行ったのだ。同氏の分析ではソマリアは一つの国ではなく、大きく3つの地域、政権に分かれるという。
国際的には未承認ながら平和な独立国家としての体裁を整えるソマリランド、海賊の拠点プントランド、そして著者いうところのリアル北斗の拳、南部ソマリア。
混沌とした南部ソマリアを“北斗の拳”と例えたところが極めてユニークで、実はそうとでも例えねば説明しきれないソマリ社会の特殊事情がある。
アフリカ諸国のほとんどは部族社会を基盤とした国づくりがなされているのだが、ここソマリアはいくつかの主要な氏族とその分家からなる「氏族社会」なのだ。
この視点こそがソマリアを理解するキーワードとなる。
僕が個人的に興味を抱いたのは高野氏が現地でミラー(ミロとも呼ばれ、原産地イエメンではカートという)という覚醒作用をもった植物について記した部分だ。実はこのミラーを知らずしてソマリア人を理解することは出来ない。
ケニア時代にソマリア出身の女性と付き合って、僕もナイロビ在住のソマリア人社会に出入りし幾度かこの“ミラー・パーティー”を経験したのであるが、この効果はちょっと言葉では難しいかも知れない。戦争で行けなかったものの本当に行きたかった国というのが実はソマリアなのである。






近況

2014-06-09 21:22:15 | ノンジャンル
この2,3カ月諸事情で本ブログの更新がされませんでした。特に今年に入って視力が衰え、長時間本を読むことが出来なくなったことが一番辛いことです。
そんな中、やはり読書はしたいもので次のような本を読んでおりました。
当ブログにても過去紹介したことがあるのですが、一番読んだのが渡辺裕之氏の「傭兵代理店」シリーズ。
このシリーズは外伝を含め11作もあります。外伝を除いて後半の2作「殺戮の残香」と「滅びの終曲」、更に昨年新シリーズとして始まった「新・傭兵代理店」の3作品を読みました。世界を舞台に戦い続ける藤堂浩司率いる傭兵部隊“リベンジャーズ”の活躍は胸を熱くさせます。
今まで日本人作家が描いた傭兵ものではトップクラスの作品群だと思ってます。
その他久しぶりに石田衣良の「池袋ウエストゲートパーク」を再読してみたりして「懐かしいなぁ」と感慨にふけったりしました。
特筆すべきは高野秀行著「謎の独立国家ソマリランド」と上田早夕里著「深紅の碑文 上下」の2作品でこの2作品に関しては近々感想を記したいと思っております。