min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

LAST

2006-03-19 16:29:58 | 「ア行」の作家
石田衣良著『LAST』講談社文庫533+tax

本編はバブルがはじけた現代日本において、失業に追い込まれたり、そのあげく街金からの多重債務でがんじがらめになったり、あるいは倒錯した性に自己を見失ったりした、いわば追い詰められた者たちの最後の足掻き、抵抗、反撃をダークに赤裸々に描いた短編集である。

著者である石田衣良氏が後書きで書いているのだが「作家だってあなたと同じなのである。そう簡単にわかられたくもないし、尻尾をつかまれるのは嫌なのだ。(中略)いつだって、読者の予想を裏ぎるのは楽しいものだ。」、まさに彼が言わんとすることが納得できた本編である。
これで石田衣良という作家が単に若き青年や少年の視点から「青春小説」を生み出すだけの作家ではなく、オールラウンドプレイヤーにだってなれるんだぞ、というメッセージをしっかりと受け止めることができた。
今後彼の作品を読み進めるうえで貴重な一冊と言えよう。

標的は11人-モサド暗殺チームの記録-

2006-03-18 10:01:22 | ノンフィクション
ジョージ・ジョナス著『標的は11人-モサド暗殺チームの記録-』新潮文庫705+tax

先に公開された映画S.スピルバーグ監督の『ミュンヘン』の原作とのこと。いつものことながら映画を観る前に原作を読むという鉄則?にのっとり読んだ次第。
いやぁ、まさに「事実は小説より奇なり」の言葉通り(巻末でも著者が事実の信憑性について述べているがもし真実だとすれば)そんじょそこいらのスパイ小説が色褪せて思えるほど物語性に富んだ内容だ。
とは言いながらも思わずR.ラドラム著『暗殺者』を思い浮かべたが、内容はこちらのほうが上を行っているかも知れない。
先に述べたこの本の信憑性についてであるが、どんな国家であれもちろんイスラエルであれ公的に暗殺指令を出した、という事実は絶対に認めないであろうからこの本に描かれた事実が真実であるかどうかは永遠に謎であろう。
しかし「暗殺チーム」のリーダーが著者に語った内容の描写からして100%真実ではないにせよ相当の部分は真実であると信じられる。
1972年「黒い9月」が起こしたテロから既に30年以上経た今、イスラエルVSパレスチナという対立から今やイスラムVS西欧世界という対立構造までに深刻化した情勢にある。人類がいかにして「報復の連鎖」という頚木から逃れることができるかは永遠の課題か、と思われる状況が続いている。
本書は「報復の連鎖」の恐ろしさ、空しさをあますことなく読者に伝える秀作であることを最後に述べておきたい。

 

波のうえの魔術師

2006-03-14 23:42:14 | 「ア行」の作家
石田衣良著『波のうえの魔術師』文春文庫 476+tax

前回読んだ『娼年』を描いた世界から一変し今回は「経済小説」もどきだ。三流私大を卒業したが就職浪人となった「おれ」は連日パチンコ屋に通って生活費をひねり出す日々を送っていた。
そんな「おれ」をじっと観察していたらしい「じじい」がある日「おれ」にアプローチしてきた。目的は何か?といぶかう「おれ」に「じじい」は自分の秘書となって証券取引を学べという。
やがて明らかになったのは市場規模第3位の「まつば銀行」への「仕掛け」であった。何故そんなことをするのかが徐々に明らかになり、「じじい」の仕掛けの大胆かつ緻密な様も明らかにされる。読者は「おれ」に対して行われる平易な「じじい」のマーケット理論の説明によって日本のバブル崩壊時の経済の病的側面を学ぶことができる。石田衣良という作家はこの方面でもなかなか切れ味の鋭いストーリーを展開してくれる。
経済小説の形をとりながらもやはり石田衣良氏のいわゆる「青春小説」であることに変わりはなく読後感は爽やかである。


札幌刑務所4泊5日

2006-03-13 11:59:26 | ノンフィクション
東直己著『札幌刑務所4泊5日』光文社文庫 \495+tax

東氏がまだ作家として売り出す前、札幌でまだ売れないフリージャーナリストをしていた時代の作品らしい。将来ハードボイルド作家を目指す東氏はある時「ハードボイルド作家たるもの一度は刑務所の中を知ってみたい」と思い込み、原チャリで30kmのところを48kmで走り18kmのスピードオーバーの違反をする。
この反則金を払わず、督促も無視してなんとか念願のムショ入りを目論むのであるが敵(検察)もさるもの中々思い通りにはさせてくれない。この辺りの検察事務官との攻防?が一番面白く、実際に刑務所の中に入ってしまってからの内容は今時としては“陳腐”である。
無類のユーモア・センスだけから言うと『すすきのバトルロイヤル』を読んだほうがはるかに笑える。
長年未読の作品であるが故の義務感?を抱いての読書であった。

娼年

2006-03-12 17:06:36 | 「ア行」の作家
石田衣良著『娼年』集英社文庫 400+tax

かなり高い基準をクリアーした青少年が高級娼夫として雇われ、数々の女性に買われながら女性の性の奥深さを体験する。と、書くと石田衣良の小説世界ではなくて数ある他の好事家作家の作品じゃないの?と思われるかも知れない。
一歩間違うとそれらの作品群と同一視されかねない内容を持っている。しかし、さすが石田衣良さん、そうはならないのが不思議だ。
まだこの作家の作品を読み始めたばかりでうっかりしたことは言えないのであるが、何故彼は主人公を青年(むしろ少年に近いかも)に据えるのであろう。
若い年代の男の子が世の中の常識に囚われない、自由な感性を持っている可能性は確かであるが、誰もがそうであるわけではない。執拗にこの年代の男の子を起用するのはきっと彼独自の意図があるのだろう。
一方女性に対する視線、特に今回は女性の性の深遠にせまる内容のものであるが、登場する女性と彼女の持つちょっと変わった性癖に対する視線が暖かいのである。
魅力的な男の子と素敵な女性の描き方は他の作家の追随を許さないほど秀逸である。

リレキショ

2006-03-07 20:22:16 | 「ナ行」の作家
中村航著「リレキショ」河出文庫 490+tax

不思議な小説である。ファンタジーと呼んでもいいのだろうか。“半沢良”19歳。というのは彼を拾ってきた?「姉さん」が付けてくれた名前と想定年齢である。彼がどこの生まれでどのような人生を送ってきたかは一切語られない。
一方、何故「姉さん」が彼を拾ってきたかも明確には語られることはない。どうも彼女が「弟が欲しかったの」という程度しか確たる理由はないみたいだ。
姉と弟の生活が始まり、その弟が近くのガソリンスタンドにバイトで就職するために「履歴書」を作成する。ひとつは一応第三者がみて「履歴書」らしいものを書いて用意するのだがもうひとつ自分を創り、導く「リレキショ」なるものを書き留める。これは姉さんが言うところの「意思と勇気があれば大抵のことは上手くいく」を具現したものである。
さらに姉さんのお友達山崎女史が登場し、更に三人の不思議な人間関係が醸成される。その関係はほとんどセクシャルなものではない。
そして漆原(ウルシバラ)なる受験浪人の女の子の登場によって更なるファンタジーの世界が広がる。
半世紀以上生きてきたオジサンの感性の、はるか上空を物語りは進行する。

池袋ウエストゲートパーク

2006-03-04 21:45:48 | 「ア行」の作家
石田衣良著「池袋ウエストゲートパーク」文春文庫 543+tax
何を今更石田衣良の「池袋ウエストゲートパーク」なの?と思われるかも知れないが事実初めて読んだ。
最近書店をのぞくごとに石田衣良氏の著作が目につき「これはやはり読んでおいたほうがいいだろうなぁ」ということでオーソドックスに彼の代表作の本作に挑んだ次第。
感想は一言“めちゃ面白いじゃない!”。これは評判、想像以上に面白い。誰もが多分いうだろうけど物語のスピード感があふれ、マコトを始め彼を取り巻くキャラが濃い面々も魅力的だ。
いかにも現代っ子を描いているようで、でもマコトにせよ周囲の子供たち、あるいは大人に一歩手前の青少年たちが欲しているのは時代を超えて普遍的な「人間の誠意」みたいなもので、マコトが支持されるのもこの辺りなのかも知れない。
文体もテンポがあり僕にとってはしっくり感がし、違和感は覚えない。
この作品で池袋というイメージを新宿や渋谷とは一線を引いた場として定着させたのではなかろうか。このシリーズ、是非読み進めてみたい。