min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

10月に読んだ本

2006-10-31 00:20:09 | ノンジャンル
その後10月に読んだ本をタイトルだけでも書き込んでおきます。

はっきり言ってチョンボです。近々この埋め合わせをしないと・・・・


宇江左真理著

「さらば深川」
「さんだらぼっち」
「黒く塗れ」


マイクル・コナリー著

「天使と罪の街」上・下

上記どれも素晴らしかったです。今月は読むだけでせいいっぱい、となってしまいました。


狼花・新宿鮫Ⅸ

2006-10-15 13:20:29 | 「ア行」の作家
大沢在昌著『狼花』光文社 2006.9.25第1刷 1,600円+tax

新宿鮫の第一作を読んだのは1990年のカッパ・ノベルスであった。あれから16年経ってこのシリーズも本編で9作目となった。
初めて鮫島というキャリア出身の刑事に出会った時の衝撃と感動は今でも記憶から消えることはない。警察官としての、いや人間としての稀有ともいえる正義感、勇気、矜持といった鮫島の生き様に多くの読者が魅了されたと思う。
昨今の警察組織の腐敗は北海道警察の汚職の例をあげるまでもなく、まさに地に堕ちた状況の中で架空の小説世界とはいえこのような警察官を描くことは大いに価値あることではなかろうか。
それと著者大沢在昌氏の新宿をとりまく社会状況に対する“眼力”はいつも鋭いものがありシリーズ第一作から本編にいたる作品の中で語られるストーリーは実に示唆に富んだものである。
特に日本の、その社会状況が凝縮された場所ともいえる新宿における国内外の犯罪組織の変遷がこのシリーズを読むことによって手に取るようにわかる気がする。
第二作『毒猿』あたりは中国系黒社会の台頭と出身地域による内部の勢力抗争があり、更に他の作品群でイラン人、南米とりわけコロンビア人グループの台頭など新宿を取り巻く犯罪組織勢力図が年々流動していく様が描かれる。
それで今回はアフリカのナイジェリア人の犯罪グループにスポットを当てたところが興味深い。実はここ数年随分彼らの姿が目に付くようになった。
横浜の自宅からほど近い町田市では主に服飾関係に携わるナイジェリア人が跋扈し、常に「服飾」の裏にナルコティックな匂いもうかがわれた。
今いる札幌にもこのアフリカ系黒人の若者たちの姿が見られ、本編のように彼らの中に犯罪予備軍が存在することを予感させる状況下にある。
日本社会における「外国人犯罪」の国際化が今後ますます進行するのは明らかであり、現在の警察力をもってしても太刀打ちできないだろう。
したがって「毒をもって毒を制す」という理屈で鮫島と同期のキャリアである香田理事官は日本最大の暴力団“陵知”を利用しようとする。
それを「警察の死」ととらえ断固として阻止しようとする鮫島刑事との激突がみものだ。
そのほか登場する人物の造詣が巧みでまさに一級の職人によるいぶし銀の味わいのハード・ボイルドに仕上がっている。
中国から日本に渡って金を稼いで帰国したい美貌の中国人日本名明子。彼女に想いを抱く二人の男。ひとりは闇故売市場のシステムを作り上げた仙田、いまひとりはその市場を乗っ取ろうとひそかにたくらむ“陵知”系暴力団の幹部毛利。
さらに香田理事官に盲目的に忠誠を誓う2名の公安刑事。
これら脇役人の存在が鮫島VS香田の戦いをより鮮明に際立たせるのであるが、この中で仙田の存在が個人的には一番印象的であった。彼の“悲哀感”“不信感”“絶望感”というのは同時代に生きた人間でなければなかなか理解できないであろう。
さて、このシリーズに続編はあるのだろうか。あるとすればどのような内容となるのか、予断は難しい。


愚者と愚者 (下) ジェンダー・ファッカー・シスターズ

2006-10-09 20:16:01 | 「ア行」の作家
『愚者と愚者 (下) ジェンダー・ファッカー・シスターズ』
打海文三著 角川書店 H18.9.30  1500円
★ちょっとネタバレ★


これはちょっぴりネタバレになってしまうのだが、上巻の冒頭でいきなり月田姉妹の桜子がテロにあい戦死してしまう。このことを書かねばこの下巻はなりたたないので敢えて書くのだが。
というのも双子の姉妹、桜子と椿子でもって前作から引き続いて登場するパンプキン・ガールズが存在すると思われたものが、突然前触れもなくその片割れ(文字通りの半分)がいなくなって物語が成立するのかと危ぶまれたのである。
だが、椿子に桜子の死によって後退する思考・行動は一切なかった。それほど椿子の精神は強靭であった。もちろん椿子を支える幹部連、友人、知人の強力なバックアップがあったわけだが。
下巻は前作同様パンプキン・ガールズを主軸に物語が語られる。首都を取り巻く軍事的、経済的状況は前述の「我らの祖国」と「黒い旅団」の登場によって大きく揺れ動くことになる。
パンプキン・ガールズは常陸軍、わけてもカイトの率いる孤児部隊の同盟者であることから二つの軍事組織に集中的に狙われる存在となり、女の子のマフィアは存亡の危機に立たされるのであるが椿子を始めとするパンプキン・ガールズは敢然と立ち向かう。
現在そして未来の世界の対立の要因は高尚な思想対立などではなく、民族・種族の対立や男女、それに属さない性的マイノリティーへの差別なのではないか!といわんばかりに作者打海文三は執拗にその確執を描くのである。

下巻では、各陣営の軍事的、政治的かけひきを見ているとまさしく近未来の「戦国時代」を描いているようで、日本の近未来戦争の一大叙事詩とも言える。
戦時下という極限状況で晒される人間の様々な本質、欲望、憎悪、希望、友情などなど余すことなく描かれ、平和ボケした我々を覚醒させる思いがする。
近未来においてこのような事態が絶対に起こらないとはいえないわけで、「平和と戦争」について思いをめぐらせるよい機会を与えてくれる傑作ではなかろうか。

蛇足:
上下巻の本の装丁は上巻が男の子、下巻が女の子のアニメっぽいイラストで一見ファンタジー風である。だが二人とも手にしているのはAK、カラシニコフ突撃銃であることを、また背後の建物が銃弾の巣となっていることを見落としてはならない。これは近未来のファンタジーどころか“黙示録”なのだから。
それと下巻のサブタイトルにある“ジェンダー”とはどうも“トランスジェンダー”すなわち“性同一性障害者”のことをいうらしい。

愚者と愚者(上)野蛮な飢えた神々の叛乱

2006-10-08 14:31:06 | 「マ行」の作家
『愚者と愚者 (上) 野蛮な飢えた神々の叛乱』

打海文三著 角川書店 H18.9.30  1500円

応化16年の日本はいまだ内戦状態下にあった。佐々木海人は今や常陸軍の孤児部隊の司令官となった。若干二十歳の司令官だ。
首都圏をめぐる各勢力の攻防戦は依然として混沌とした状態にあり、抜きん出た軍事勢力は排出していなかった。
そんな中「我らの祖国」と名乗る武装集団によるテロが、カイトが所属する常陸軍及び同盟軍に対し頻繁に行われた。
彼らが標榜するスローガンは「日本男子の同盟による祖国再建」であり「外国人武装勢力と女テロリスト集団を殲滅する」というものであり、外国人、性的マイノリティー、女性マフィア等が混在する常陸軍とその同盟軍は格好の攻撃対象とされた。
更に通称「黒い旅団」と呼ばれるゲイとヒロイズムを掲げた集団が登場し更なる混乱を首都圏にもたらす。
さて、ここでこの首都を取り巻く軍事勢力ならびにマフィアをあげておく。
ただしその内訳は上巻の巻頭にある「首都攻防戦における武装勢力」のままではなく私的見解を交えたものである。
・旧政府軍
・宇都宮軍
・常陸軍
・仙台軍
以上の軍は旧政府軍はもちろんのこと、かっての自衛隊を母体とした軍事組織のように見えけられる。
・黒い旅団
正式名称は信州兵士評議会で信州大学の元学生を核に結成されたように記憶する。
・我らの祖国
旧治安情報局と旧冨士師団(自衛隊?)と2月運動の残党が結成した軍事勢力といわれるが謎の部分が多い集団。

以下はマフィアほか雑多の武装勢力か

・パンプキン・ガールズ・・・・月田姉妹がつくった女の子のマフィア
・虹の旗
・高麗幇
・東京UF
・鉄兜団
・ンガルンガニ
などなど。

とにかくこのような軍事組織、犯罪グループ、思想的武装集団が、それぞれの目的、利害関係を複雑にからませながら離合集散していくさまはめまぐるしい。

さて、上巻では望まずして3千5百名を率いる孤児部隊の司令官となった佐々木海人大佐が軍事だけではなく政治、経済そして内部の組織運営にまつわる様々な問題を、時に“大人”としての駆け引き、判断をせまられ苦悩する姿が描かれる。
特に所属する組織内での諸問題が深刻でとりわけ戦友の裏切りに苦悶しそして冷徹な判断を必要とされる姿が痛ましい。
カイト少年は今や単なる奔放な孤児としての生き様を捨て周囲の家族、仲間、友人、上官、組織はもちろん、日本そのものの行方を考えねばならない立場に立たされる。
未だに少年の断片をかいまみせながらも現実と言う大人の世界に足を踏み入れたカイトの苦悩は今後も続くのだろう。果たして彼はどのようにどこまで成長するのであろうか?
個人的には少年のままのカイトでいてほしいのだが・・・・