min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

ジェフリー・ディーヴァー著『007 白紙委任状』

2012-05-20 22:55:33 | 「タ行」の作家
ジェフリー・ディーヴァー著『007 白紙委任状』文芸春秋 2011.10.15 第1刷 
2,380円+tax

おススメ度:★★★☆☆

イアン・フレミングの007シリーズの大半は中学3年の頃にまとめて読んだ、早川書房ので。その後、原作に沿ったあるいは原作にない内容で次々と映画化されたのはご承知の通り。
フレミング亡き後にも幾人かの作家がボンド作品を書いているようだが大して興味が湧かないので読んだことがない。しかし、我が敬愛してやまないJ.ディーバーがこのシリーズを書くと聞けば見逃すわけにはいかない。しかし、何故に今ボンドなのであろう?またどのような経緯で彼が書くに至ったのかは分からない。

本作を読み始めて直ぐに気づくことなのであるが、時代は現代であり、ボンドの属する組織はロンドンにある。
フレミングの原作ではボンドはMI6に属する女王陛下のスパイであったが、今はMI5やMI6とは別組織のODG(海外開発グループ)におり、そこでもOOの殺しのライセンスを与えられている。
9.11以降に創設されたいわばより現代の状況に即応できる対外破壊工作部隊ともいえ、情報はMI5やMI6から情報を得て動く実働部隊だ。
MI6にはボンド・ファミリーといえるMやマニーペニー、そしてQが存在するのだ。

肝心のボンドの風貌とキャラであるが、作品中では年のころ30才代前半、身長183cm、よく鍛えられた肉体に端正な顔立ち、と描かれている。
性格は正確には把握できないものの、スパイたる冷酷さはもちろんあるが、印象としては随分と真面目な性格に映る。もちろん女好きは定番。
読者の大半がボンド映画を観ているはずで、いくたのボンド役の中ではピアーズ・プロスナンに一番近いかも知れない。けっしてロジャー・ムーアのような軟派のイメージではない。
いや、ボンドシリーズ以外の映画で言えば「M.I」のイーサン・ハントにキャラ造形が一番近い気が個人的にする。

物語の内容であるが、ある電子メールが傍受されたことから全てが始まる。メールには『・・・20日金曜日夜の計画を確認。当日の死傷者は数千人に上る見込み。イギリスの国益にも打撃が予想される・・・』とあった。
5日後のイギリス国内かどこかの国で数千人が犠牲となるテロが計画されている、らしい。
同じ送信者と思われるメールがもうひとつあり、そこにはセルビア共和国のとあるレストランで仲間と落ち合うような内容であった。
ボンドは急遽単身でセルビアに飛ぶのだが、そこでからくも列車脱線事故を防ぐことが出来たものの、彼らの目的とターゲットは別にあることが判明する。
果たしてボンドは限られた時間の中で、この大規模なテロを阻止できるのであろうか!?

ストーリー及び主役は「M.I」のイーサン・ハントの活躍をみているようだが、敵のモンスターはどことなくリンカーン・ライムシリーズに出てくるような印象で、そのモンスターの壊れぶりは正にディーヴァー独特の世界観と表現描写に重なるところが面白い。
もちろん著者がディーヴァーなのだから最後のドンデン返しが無いわけがない。読者はいつも通り最後の最後まで気を緩めることが出来ないことを付記しておく。
Qの作り出す小物やアクション場面も荒唐無稽なものではなく、どちらかと言えば地味なもので好感が持てる。
オススメ度としては★の数が少ないのは最後のどんでん返しに納得いかないから。あ、これは蛇足でした。ま、続編は多分書かないでしょう。



ドン・ウィンズロウ著『野蛮なやつら』

2012-05-09 22:34:09 | 「ア行」の作家
ドン・ウィンズロウ著『野蛮なやつら』角川文庫 2011.2.25 第1刷 

おススメ度:★★★★☆

訳者あとがきで本書に関する著者の言葉をのせている。いわく、


犯罪小説というジャンルの枠を叩き壊したかった。
詩をぶち込んだ。
シナリオをぶち込んだ。
今までに書いた中で
いちばん
創造的な
作品だ。


だそうである。確かに本作を読むと途中で、詩らしきもの?が突然出てくるし、場面がいきなりシナリオになったりする。更にわけの分からない短縮語やら著者の造語?らしきものやたらに出てくる。
著者の言うように本作が本当にる創造的な作品」であるかどうか?は読者の判断に委ねられるところだろう。
だが、この著者のほぼ全作品を読んで来た読者にとっては、彼、ドン・ウィンズロウが心底楽しんでこの作品を書いたであろうことが容易に想像できる。
物語の内容については「犬の力」を始めカルフォルニア州のラグーナビーチ辺りで繰り広げられる他作品で語られる世界からそう逸脱するものではない。
ストーリー性そのものより、このなんと言えば妥当な表現になるのか分からないのだが、一種“ドン・ウィンズロウ節”とでも言うか、彼の“悪ノリ”あるいは“悪ふざけ”とも言える独特の調子に身を委ねてしまうのが、本書を楽しむコツかも知れない。
個人的にはけっして嫌いでない作品である。ただこの物語の続編、といっても“前日譚”的作品をもう書き上げているとのことだが、本編の調子の延長線上の作品であるのならば読むのを躊躇する。

互いの性格が全く異なる若者ふたりと、自由奔放な娘の織り成す「三角関係」はどうしても古い映画となった「明日に向かって撃て」のポール・ニューマンとロバート・レッドフォードそしてキャサリン・ロスを思い浮かべるのであるが、どうも爽やかさ潔さにおいては「明日に向かって撃て」のほうが上を行っている気がする。
本作が「SAVAGES」として映画が公開を待っているようだが、はてどんな作品に仕上がったのか興味深いところである。




コーディ・マクファディン著『暗闇 上・下』

2012-05-01 22:35:13 | 「マ行」の作家
コーディ・マクファディン著『暗闇』ヴィレッジブックス 2010.6.19 第1刷 

おススメ度:★★★☆☆

本作はFBIロサンゼルス支局国立暴力犯罪分析センターの主任捜査官であるスモーキー・バレットのシリーズ第三作である。

次期米国大統領候補と目される下院議員の一人娘(息子?)が何者かの手によって飛行中の機内で殺された。
わき腹を鋭利な刃物で突きさされ、その傷の中に小さな十字架が埋め込まれていた。しかも十字架には#143という番号が刻まれていた。

FBI長官から直々に捜査の依頼を受けたスモーキーは長官の影に大統領の影がちらつくのを感じ一挙に緊張した。
何故なら殺された下院議員の息子は性転換しておりこのことがマスコミに知れると大変なスキャンダルに発展しかねないからであった。
大した時を経ずして今度はロス近郊で元売春婦が同じような手口で殺された。皮膚下にはまたも十字架が埋め込まれていた。これをもってこの犯人は連続殺人鬼であることが判明する。それも二十年間に140名を越えるという恐るべき連続殺人だ。果たして犯人の連続殺人の目的・動機は一体何だろうか!?

今回はカソリックの“告解”という極めて宗教的なテーマを含んだものであり、我々仏教徒には馴染のない分野である。この作家は前作から終始一貫して「神への不信」とも言えるスタンスをとり、キリスト教カソリックの奥義にせまる展開は確かに興味深いものがある。
しかしやはり日本の読者にはピンとこないかも知れない。

ところでスモーキーを巡る取り巻き連中は変わらないものの、養女のボニーも成長し普通の学校に行かせてとせがんだり、かねてより付き合っていたセキュリティコンサルタントのトミーとの仲が進展を見せたり、部下の美人捜査員キャリーが結婚準備に入ったり、といったサイド・ストーリーも楽しませてくれる。
今回何と言ってもキャリーの友人元女傭兵のカービーの活躍?には唖然とさせられる。いっそ彼女主体の一遍を書いてもらいたいくらいだ。

さて、既に当シリーズの第四作目に当る「遺棄」が昨年邦訳されているのだが、はて読もうかどうかちと迷うところだ。