中村安希著『インパラの朝』集英社 2009.11.8 第1刷
1,500円+tax
おススメ度:★★★☆☆
いまどきまだこんな旅をしている日本人女子バックパッカーがいるのか?とちょっと意外な感じを抱いた。というのも昔ならこんな女の子を旅先でよく見かけたものだ。だが、団体旅行から裕福な個人旅行の時代へ移ったとはいえ、開発途上国をこのような長期の貧乏旅行を続ける女の子がまだいたとは!
彼女の旅立ち直前の様子が本のカバー裏に書かれている。
「私は45リットルのバックの底に980円のシュラフを詰めた。三日分の着替えと洗面用具、パブロンとバファリンと正露丸を入れた。それからタンポンとチョコラBB。
口紅とアイシャドウと交通安全のお守りを用意した。パソコンとマイクとビデオカメラを買いそろえ、小型のリュックに詰め込んだ。
果物ナイフや針金と一緒にミッキーマウスのプリントがついた覆面も忍ばせた。そして、ジムで鍛えた両腕に四本の予防注射を打ち、体重を三キロ増やして日本を離れた」
こうして彼女は26歳、47カ国、2年の旅に出かけた。この本はいわゆる「こんな開発途上国を何十カ国も回ったぞぉ」という旅行記ではない。訪れた国々でその時感じた事柄を断片的に脈絡がないまま彼女の感性で切り取った言葉で綴る旅行記である。
本編を読み進めて彼女は先に述べた出発直前の荷物の中で“果物ナイフや針金と一緒にミッキーマウスのプリントがついた覆面”を身を守る「武器」と考えて携行した節が伺われ、ちょっぴり苦笑してしまった。
とにかく旅の出だしは“身構えて”いるのが文章の端々に見られ、このまま旅行を続けられるのか?と危惧したものだが旅が180日を越えたあたりから彼女の肩から力が抜けたのを感じた。旅はどんな人間をも鍛えるものだ。とくにアフリカ諸国に入ってからの様々な人々との触れ合いや、強烈な異文化体験を通じて、彼女の中に「貧しさの意味」や「真の国際協力とは」という思考が生まれる。
だが僕もこの手の旅行を若い時分に経験したが、その場の触れあう時間が2、3週間ではあまりに浅い経験としかならない。中途半端な理解しか出来ないため、このような旅をいたずらに続けても意味がないように思えた。
彼女はこんな旅を続けるよりも、一番気になる場所でもっと掘り下げる作業が必要なのではないか、と読んでいて感じた。
だが彼女の感性は悪くないし、むしろ好ましい。表題の「インパラの朝」は草原にひとり立ちこちらを凝視する一頭のインパラとの体験からつけたようだが、彼女の凛とした眼差し、その風貌こそ平和ボケした日本人の中で、インパラのように美しく見える。
1,500円+tax
おススメ度:★★★☆☆
いまどきまだこんな旅をしている日本人女子バックパッカーがいるのか?とちょっと意外な感じを抱いた。というのも昔ならこんな女の子を旅先でよく見かけたものだ。だが、団体旅行から裕福な個人旅行の時代へ移ったとはいえ、開発途上国をこのような長期の貧乏旅行を続ける女の子がまだいたとは!
彼女の旅立ち直前の様子が本のカバー裏に書かれている。
「私は45リットルのバックの底に980円のシュラフを詰めた。三日分の着替えと洗面用具、パブロンとバファリンと正露丸を入れた。それからタンポンとチョコラBB。
口紅とアイシャドウと交通安全のお守りを用意した。パソコンとマイクとビデオカメラを買いそろえ、小型のリュックに詰め込んだ。
果物ナイフや針金と一緒にミッキーマウスのプリントがついた覆面も忍ばせた。そして、ジムで鍛えた両腕に四本の予防注射を打ち、体重を三キロ増やして日本を離れた」
こうして彼女は26歳、47カ国、2年の旅に出かけた。この本はいわゆる「こんな開発途上国を何十カ国も回ったぞぉ」という旅行記ではない。訪れた国々でその時感じた事柄を断片的に脈絡がないまま彼女の感性で切り取った言葉で綴る旅行記である。
本編を読み進めて彼女は先に述べた出発直前の荷物の中で“果物ナイフや針金と一緒にミッキーマウスのプリントがついた覆面”を身を守る「武器」と考えて携行した節が伺われ、ちょっぴり苦笑してしまった。
とにかく旅の出だしは“身構えて”いるのが文章の端々に見られ、このまま旅行を続けられるのか?と危惧したものだが旅が180日を越えたあたりから彼女の肩から力が抜けたのを感じた。旅はどんな人間をも鍛えるものだ。とくにアフリカ諸国に入ってからの様々な人々との触れ合いや、強烈な異文化体験を通じて、彼女の中に「貧しさの意味」や「真の国際協力とは」という思考が生まれる。
だが僕もこの手の旅行を若い時分に経験したが、その場の触れあう時間が2、3週間ではあまりに浅い経験としかならない。中途半端な理解しか出来ないため、このような旅をいたずらに続けても意味がないように思えた。
彼女はこんな旅を続けるよりも、一番気になる場所でもっと掘り下げる作業が必要なのではないか、と読んでいて感じた。
だが彼女の感性は悪くないし、むしろ好ましい。表題の「インパラの朝」は草原にひとり立ちこちらを凝視する一頭のインパラとの体験からつけたようだが、彼女の凛とした眼差し、その風貌こそ平和ボケした日本人の中で、インパラのように美しく見える。