min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

上田秀人著『奥右筆秘帳 密封』

2015-02-27 11:18:40 | 時代小説
上田秀人著『奥右筆秘帳 密封』講談社文庫 2007.9.14 第1刷 
695円+tax

おススメ度:★★★★☆


実は以前
、同シリーズの2編目『国禁』から読み始めてしまい、その時次のようなコメントを書いた。

<以下引用>
ところで“奥右筆”とは一体何だろうか?そもそも何と読むのか?
“おくゆうひつ”と読み、徳川幕府にかかわる一切の書類の作成と保管を行う部署である。
奥右筆組頭である立花併右衛門とその警護役である柊衛悟のコンビが主人公なのだが、奥右筆組頭は身分こそ低いものの、幕府の秘密を一手に扱うということからその権限は強いものを持っている。
実は本編は同シリーズの2作目であって前作「密封」では、田沼意知刃傷事件が十代将軍家治の世継ぎだった家基暗殺へと繋がり、幕政の闇がどこまでも広がっていく。その闇を主人公の一閃が切り裂いた。時代背景としては継続中の佐伯泰英の「居眠り磐音江戸双紙」シリーズとかぶっており、親しみが湧く。
<引用終わり>

上記佐伯泰英著の「居眠り磐音江戸双紙」の詳細は「弓張ノ月(46)」のことである。
田沼意次の長男意和が松の廊下で旗本佐野善左衛門に切りつけられ、日を置いて絶命した事件が物語の中心背景をなしている。
そして本編の主人公、奥右筆組頭である立花併右衛門とその警護役である柊衛悟の二人がどのような経緯でコンビを組むことなったかが語られる。
さて上述の事件の背後には第十代徳川家治の世継ぎの予定であった家基の怪死がある。磐音シリーズでは旗本佐野善左衛門が己の家系図を田沼家に取られたことを逆恨みし、という割と単純な理由で田沼意次の息子に切りつけたことになっているが、本編では更にその奥に広がる闇を描いている。
奥右筆組頭立花併右衛門がその闇の一端に触れた途端、信じられない闇の奥から魔の手が伸びてきたのであった。
もはや奥右筆組頭として筆のみふるうだけでは自らも一人娘もそして家も護ることが出来ないと悟った立花併右衛門が最後に頼ったのは隣家の次男坊柊衛悟であった。
江戸時代のミステリー&サスペンスといったテイストに柊衛悟の壮絶な剣劇戦を加え、更に柊衛悟と立花家の一人娘瑞紀とのロマンスをも織り交ぜながら一気に読ませる時代小説である。

米映画『アメリカン・スナイパー』

2015-02-25 08:43:50 | 映画・DVD
米国映画『アメリカン・スナイパー』

オススメ度:★★★★★


原作:クリス・カイル著『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』

監督:クリント・イーストウッド

キャスト:ブラッドリー・クーパー(クリス・カイル役)

     シエナ・ミラー(タヤ・カイル役)


イラク戦争に4度派遣された米軍シールズの狙撃手を描いた戦争映画。
2時間12分の間ほとんど緊張しっぱなしで観終わった後は本当に疲れた。
とてつもない、半端ない臨場感なのだ。この映画を観て、あのイラクの戦場に行きたいと思う奴はひとりもいないだろう。
主人公はテキサス生れのカウボーイ。9.11の同時多発テロに触発され、国を守る、という単純素朴な想いで軍に志願。志願する以上最強の軍隊と言われる海軍特殊部隊のシールズに入隊し、過酷な訓練を受けイラクへ派遣された。


狙撃手は昔から味方には救世主となるが、敵にとっては悪魔のような存在だ。したがって万一敵に捕まったら最後、間違いなく嬲り殺しにされる。
イラクの戦場は想像を絶する過酷さである。第一回派遣を終えて帰国したクリスは心を戦場に
残したまま戦場と平和な生活のギャップに悩む。
妻の制止にもかかわらず再び戦場へ向かうクリスであった。こうして4度に渡りイラクに赴き1,000日近く戦闘に加わった。
その後クリスは重度のPTSD(心的外傷後ストレス障害)に罹り復帰するまでに多大の時間と努力が必要であった。
何とか悪夢から脱したクリスを待っていた運命はあまりにも悲惨であった。

クリント・イーストウッド監督は戦争に関して明確に述べている、「戦争を美しく語る者を信じるな」と。
この戦争はけっして美しくなんか描かれていない。同監督の戦争への思いは最後の全く無音のエンド・ロールに現れている。このようなエンディングはかって見たことがない。

この映画を観てかのS.ハンター著「狩りのとき」のボブ・リー・スワガーを思い起こした。彼はベトナム戦争時、北ベトナム一個大隊を相手にしその進撃を阻止したスナイパー。彼はより多くの敵兵を倒したが、女、子供を対象にする必要がなかった分、今回の主人公クリス・カイルよりもメンタル的に楽であったかも知れない。だが、そんな彼も帰国後他人に会うのを避け深い山の中に籠るのであった。

9.11以降、アフガン、イラクに侵攻した米軍は今までに4,500人の戦死者と30,000人近い負傷者を出したと言われる。そして帰還兵から日々20名近い自殺者を出し続けているという。
かって米軍の要請で非戦闘地域ながら駐屯した我が自衛隊であるが、述べ4,000名の隊員の中から40名の自殺者が出たと言う。自衛隊はけっして彼ら米軍と共に地獄の戦場にいくべきではない。
彼らが起こした近代戦争に大義など何一つないのだから。

池内 恵著『イスラーム国の衝撃』

2015-02-10 14:06:33 | ノンフィクション
池内 恵著『イスラーム国の衝撃』 2015.1.20 文春新書 第一刷 780円+tax

おススメ度:★★★★★

「イスラム国」と称するイスラム過激組織による湯川春菜氏及び後藤健二氏とみられる日本人2名が斬首で有名になったあの動画がネット上に流された同じ日に本書が発行されたという何とも奇妙なタイミングがあった。
「イスラム国」(略称ISISもしくわISIL)という名前が報道され始めたのはわずか1年前くらいでその存在を知る日本人はまだ少なかったと思われる。
僕がISILという名前を始めて知ったのは本ブログでも書評した渡辺裕之著『新・傭兵代理店 悪魔の大陸』であった。
本作品の中で渡辺氏は既にISILという表記をされていた。

ところで著者の池内恵氏は東大の新進気鋭の学者さんで、恐らくこの分野では最も的確に状況を捕えておるものと考える。
私ごときが本書の書評をするつもりはないので本書で述べられる目次だけでも載せておきたい。是非実際に手に取られて読まれる事をお勧めします。

1.イスラーム国の衝撃
2.イスラーム国の来歴
3.甦るイラクのアル=カーイダ
4.「アラブの春」で開かれた戦線
5.イラクとシリアに現れた聖域
6.ジハード戦士の結集
7.思想とシンボル
8.中東秩序の行方
以上

ジェフリー・ディーヴァー著『ゴースト・スナイパー』

2015-02-02 12:12:19 | 「タ行」の作家
ジェフリー・ディーヴァー著『ゴースト・スナイパー』 (原題:The Kill Room)2014.10.30
文藝春秋 初版 2,400円+tax

おススメ度:★★★★☆


訳者あとがきによると、ライム・シリーズは本作で10作目となるそうだ。第一作目の「ボーン・コレクター」の上梓が1997年で邦訳が1997年とのことだから、シリーズが我々の眼前に現れてから17年ほど経ったわけだ。
本編の最大の特徴は殺人現場が米国外のバハマで起きたことと、犯人が国家諜報運用局(NIOS)という規模はCIAなどに比べると小さいものの、れっきとしたお役所なわけである。そこの長官が首謀者で雇われた実行者及び協力者がいるらしい事が判明した。
ある日ニューヨーク市警のセリットー刑事がライムの事務所に同行して来たのはナンス・ローレルというニューヨーク州地方検事補であった。
彼女は自らの職責をかけて本件を立証すべく意気込んでライムの協力を仰ぎにやって来た。国家機関が自国民を対象として、秘密裏に暗殺指令を出し、実行した。
もしもこの件の捜査が開始されたことが相手側に知れると、当然ながら猛烈な証拠隠滅、もみ消し工作が行われるばかりか、ナンス・ローレルのキャリアも消えうせる可能性が大であった。。
しかし、前述の通り現場は海外、証拠品の一切が入手できない状況であった。ライムが現地の王立バハマ警察に協力を要請するも、のらりくらりとした態度を取り、一向に協力の姿勢を取らないのであった。業を煮やしたライムは介護士のトムとNY市警のプラスキーを伴い現地バハマへ飛んだのであったが・・・・
いかんせん相手組織は諜報のプロ。携帯電話の盗聴はするは、国のデータベースは存分に駆使するはやりにくいこと極まりない。一体ライムとアメリアはどうやって犯人を追いつめることが出来るのであろうか!?
いつもの最終場面でのドンデン返しは今回はあることはあったが、ささやかな部類と表現してもよいのではなかろうか。ま、とにかく著者の熟達したストーリー・テラーとしての力量を認めざるを得ない。楽しめました。