min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

渡辺裕之著『凶悪の序章 新・傭兵代理店(上・下)』

2017-10-24 16:17:16 | 「ワ行」の作家
渡辺裕之著『凶悪の序章 新・傭兵代理店(上・下)』 祥伝社文庫 2017.5.20第1刷 

おススメ度 ★★☆☆☆

本編のストーリーは従来とちょっと趣を異にしている。今までは軍事ミッションを遂行する傭兵部隊リベンジャーズの活躍を描く、というのが同シリーズの本流であったと思うのだが、今回はどちらかと言うと諜報戦の様相を呈している。
というのは、フランス外人部隊に所属する恩師の孫である柊真がトルコ国内での外人部隊の作戦行動中、仲間のミゲルを撃ち殺すという事案が発生し、藤堂浩志は第三者検証者として外人部隊から参加して欲しいとの要請を受けたのであった。
ところがこの要請を浩志が受けると、世界規模でリベンジャーズのメンバーが襲われたのであった。
物語の後半部分はこの犯人を追って殺されたアメリカ人のリベンジを行うべく米国に乗り込むのであるが、真の敵がALなる謎の陰謀組織であることが分かった時点でほぼ諜報戦の世界に突入する。
ま、たまにはこうしたテイストも良いのであるが渡辺氏のネタ切れによってこの手の世界に没入して欲しくない。やはり傭兵としての戦闘を描いて欲しい。





渡辺裕之著『殲滅地帯 新・傭兵代理店』

2017-09-01 19:14:54 | 「ワ行」の作家
渡辺裕之著『殲滅地帯 新・傭兵代理店』 祥伝社文庫 2016.9.20第1刷 
おススメ度 ★★★★☆
本作品は同シリーズの最新作ではなく一つ手前の作品だ。だが今、日本列島が北朝鮮による弾道ミサイル火星14型が北海道上空を飛翔し大騒ぎになっていることから、何ともタイムリーな内容となっている。というのも今回の敵は北朝鮮そのものであるからだ。
とは言っても金正恩そのものの暗殺とかではなく、金正恩のスイス留学時代から傍にいた腹心の部下である金栄直という男の抹殺であり、彼の武器輸出ルートを潰すことが作戦の目的であった。この男は前述のように金正恩が少年の頃よりの随伴員であり、帰国後もその狡猾な頭脳と図抜けた処世術により現在は朝鮮人民軍偵察総局のナンバー2まで上り詰めた。
現実世界でアメリカとそれに追随する日本を主体に北朝鮮に対し制裁を強めるのであるが一向に効果が上がらない。ミサイル発射や核実験には膨大な費用が発生するわけだが北朝鮮はどの様にしてその資金を得ているのであろうか。我々日本人は北朝鮮の後ろ盾には中国やロシアがいて制裁が実効とならないのだろうと単純に考えがちだが、現実は本書にも記されているように北朝鮮と国交のある国の数は我々の想像を遥かに超える。
今年故金正日の長男金正男がマレーシアの空港で暗殺された事件で、我々はマレーシアが北朝鮮の友好国であると知って驚いた。国連加盟国192か国の内何と166カ国と国交があるという(2016年12月現在)。
特にアフリカ諸国に対しては経済援助は中々出来ない故に軍事援助(兵員の訓練や軍事アドバイザーの派遣)そして武器・兵器の密輸を行っている。アフリカの国連加盟国54カ国のうち国連安保理が決議する北朝鮮への制裁に同意しているのはわずか7カ国に過ぎない。
ある見方では北朝鮮はアフリカ諸国を利用して(経由して)大量破壊兵器の原材料の入手や武器の密輸を行って外貨を稼いでいると思われる。特に今回の舞台となったナミビアに対しては建国時より政府中枢、軍部に取り入り、過去実際に弾薬工場の建設も行っている。
面白いビジネスとしては平城に聳え立つ金日成やその息子金正日の銅像のような巨大仏像を数カ国に建設している。麻薬から武器、ニサイル果ては銅像に至るまで北朝鮮の泥棒国家の商魂は逞しい。
このような事実をメディアはもっともっと流すべきだろう。
それにしても著者渡辺氏の情報収集能力の高さとそこからストーリーを発想する才能には舌を巻く。
結局北朝鮮に対しアメリカや同盟国がいくら経済制裁を実施しても北朝鮮にとっての抜け道はいくらでもあるという事だ。勿論口では話し合いを重んじろと主張する中国とロシアの非協力があってこそ西側制裁は実効力を持たないのは明らかだ。
ところで本件の元々のクライアントが中国の秘密組織レッド・ドラゴンであることから話は一筋縄では進まない。またそれが面白い展開となるのだが。
さて余談であるが、実は本作を読む前に渡辺氏の別シリーズ「シックス・コイン」の第三作「闇の嫡流」を読んだのだがこちらは感想を書く気にもならない。同じ作家による作品とは思えないほどあちらは粗悪に出来ている。この傭兵代理店シリーズが周到な調査、取材そして情報収集を行い、そして巧みなプロット展開で我々を魅了するのだが、同氏の中ではどのようにスイッチが切り替わるのだろう?




渡辺裕之著『新・傭兵代理店 欺瞞のテロル』

2016-11-30 22:12:58 | 「ワ行」の作家
渡辺裕之著『新・傭兵代理店 欺瞞のテロル』祥伝社文庫 2016.6.20 第1刷 700円+tax

おススメ度: ★★☆☆☆+α

九州鹿児島県にある川内原発のホームページがハッキングされ乗っ取られた。HPのトップ画面には散々報道でお馴染みのテロリストグループ、ISの旗がある画像が映っていた。その画面にはこの原発がテロのターゲットであり、決行日と思われる日付がありカウンターとなっていた。
慌てた日本政府は傭兵代理店の池谷に協力を求めた。池谷は森美香を通しリベンジャーズの藤堂に繋いだのであった。美香は以前の内調から新設の国の情報機関へと移っていた。
今回のリベンジャーズの任務は川内原発のHPに侵入したハッカーそれはISのサイバー部隊と思われたのであるが、それを突き止め彼らのテロルを阻止することにあった。
浩志をはじめリベンジャーズの主要なメンバーが先ず向った先はサイバー部隊が潜むと思われたフランスのパリであった。
一方日本に残っている美香は今は自分の夫である藤堂浩志の父の死亡を知ったのだがそれが自殺であったことからその真相を探るべく島根県まで足を伸すのであった。
物語はこうしてフランス、ベルギー更にシリアへと、また日本との二本の軸を並行して進めるのであるが、正直言って双方の場面とも進行が緩慢に思え疲れるほどだ。リベンジャーズの活躍の場はかなり後半のシリア国内での作戦行動においてであるが今迄のシリーズほど激しいものではない。激しければ良いわけではないものの、作戦行動、戦闘シーンもちょっとマンネリ気味である事は否めない。ISに関してはもう充分といったところか。
しかしISの欧州、なかんずくベルギーでの情勢、状況に関しては的確になされているので、パリやブリュッセルでの同時多発テロを理解するには重宝な分析だと思う。
またクルド人勢力の組織やその整形過程、歴史的背景などがストーリー展開に合わせ的確に説明がなされ、下手な中東専門家なんかの記事を読むより役に立つ。
ここで話はちょっとそれるのであるが、我が国の原発が某国の工作員やテロリストたちに狙われる危険性多いにあり得る。地震や津波だけが脅威なのではなくテロルこそ恐ろしい。というのも原発の警備があまりにもお粗末な点があげられる。もうかなり以前ではあるが、仕事の関係で東電の柏崎刈羽原発の敷地内に入ったことがあるのだが、メインゲートの警備には丸腰の民間警備員らしき2,3人が詰めているだけであった。これじゃ原発を襲い占拠するには一個小隊もあれば十分なのでは、と思った。先進国の警備状況はよく分からないが、途上国ではごく普通の火力発電所でも警察部隊、時には軍隊が警護に当たっているのが常識だ。
津波による被害は想定外であったというが、テロルの標的にされるのはもっと想定外なのであろうか?
日本がISなどのテロリストの標的になっていることは架空の空絵ごとではないことを政治家は認識してほしい。


渡辺裕之著『暗殺者メギド』

2016-02-29 18:21:39 | 「ワ行」の作家
渡辺裕之著『暗殺者メギド』角川文庫 2012.7.15第1刷 

★★☆☆☆

著者渡辺裕之氏といえばあの「傭兵代理店シリーズ」の著者である。以前このシリーズとは別物の「シックスコイン」を読んでの感想が散々であったことを記憶するが、本作品(このほか2作品シリーズ化されている)を読んで、正直感想を書くのをやめようか、と思ったほどの内容である。かくも同一作家でその出来具合が極端に違うケースは他に類例を見ないくらいだ。内容紹介するのもかったるいのでamazonから引用させてもらう。

引用はじめ
ベトナム戦争が泥沼化し、日本でも政情不安が続く1972年、奥秋川で一人の美青年が発見された。彼は記憶を失い、頭部に手術痕を残していた。キャンプ場を営む根岸に助けられ達也と名づけられた青年は、断片的に殺人の記憶が甦るようになる。やがて巨大軍需会社“大島産業”から達也に刺客が送り込まれた。だが、彼は「メギド」というもう一人の人格を自覚、敵を撃退し始める…。達也を待ち受ける凄絶な運命とは。

引用おわり

人間兵器といえば古い古いハリウッド映画『ユニバーサル・ソルジャー』(1992年作品)を思い出した。若い方は当然知らないでしょう。年配の方には出演者が分かる方もいるかも。ちなみに主演者はジャン=クロード・ヴァン・ダムとドルフ・ラングレン。
この時も時代背景はヴェトナム戦争があり、戦死した米兵から不死身の兵士を作り出す、という荒唐無稽な内容であった。今回は更にその上をいくような内容であり、読者としては素直に納得出来るものではない。
こうした人間兵器が必要となる時代背景としてヴェトナム戦争を選んだのかも知れないが、若い読者にはピンと来ないであろう。
いっそ時代設定を近未来に置いたほうが良いかも知れない。いずれにしても次作はパスさせていただきたい。

渡辺裕之著『新傭兵代理店 死の証人』

2015-11-07 15:34:11 | 「ワ行」の作家
渡辺裕之著『新傭兵代理店 死の証人』祥伝社文庫 2015.6.20第一刷 720円+税

おススメ度;★★★★☆



やっと登場!大好きな台湾が今度の舞台として登場した。藤堂と美香がまるで観光の為に台湾を楽しんでいるではないか!と思いきや、そんな訳がない。やがて内調にいる片倉啓吾がCIAに所属する父誠治の名指しの起用で父の女性部下とともに台湾入りしてから複雑な展開となる。
そんな中、偶然とも思えないのだが、浩志は美香と共に台湾の観光地九分のレストランでレッド・ドラゴンの幹部と遭遇する。
レッド・ドラゴンはかってフィリピンやアルジェで絡み合った中国の謎の機関である。その幹部は何と自らの上司に当たる組織の極東担当者であるコード名蜥蜴を除去しないか?と誘ったのであった。
その後浩志の台湾での動きを察した蜥蜴は彼を抹殺すべく暗殺者を送り込んだのであった。この襲撃により連れの美香が被弾し重症をおったのであった。
ここに浩志は蜥蜴及び彼が率いるレッドドラゴンに対し復讐を誓うのであった。先に述べた片倉啓吾の帯びたミッションともリンクし、台湾全土に渡る逃走、襲撃そして反撃の戦いが繰り広げられる。
今回、著者である渡辺氏は相当綿密な取材を行ったと思われる。浩志と美香が訪れた台北市内、そして郊外の有名観光地ばかりではなく、その他地理・歴史上の話題ばかりではなく、食文化の領域まで踏み込んで取材しているのには驚いた。
特に片倉啓吾が女性CIAエージェントと足を踏み入れた台南では「虱目魚」及びそれを使った朝粥まで話題にしたのには驚いた。この魚は主に台南、高雄で食され、英語名Milk Fishという南方の魚である。現地ではサバヒーと呼ばれ日本でもその名で呼ばれる。
この魚が作中で重要な要素になるのであるが、知る人ぞ知るで思わずニヤリとしてしまう。
更に浩志が台中から東進し台湾中央山脈を横断。そして台東に辿り着くのであるが、台東の雰囲気がまたよく描かれ感心したものである。
復讐劇の最終舞台はあの台北101であり、そのサービス精神は旺盛である。最後はいつものリベンジャーズが勢ぞろいし大円台を迎える。そしてそしてもう一つおまけが。
皆さんはマルタ島の隣に位置するゴゾ島をご存じだろうか。渡辺氏は最後のサプライズを用意した。
ゴゾ島は「燃える男」でお馴染みの地であり、その著者故A.J.クイネルが住み、多くの作品を執筆した地でもある。恐らく渡辺氏もA.J.クイネルの大ファンであったろうことが推察され思わずうれしい気分に満たされた。
さて、ここまで来るとこのシリーズの行く末はどうなるのであろうか???

渡辺裕之著『デスゲーム 新・傭兵代理店』

2015-07-11 14:20:01 | 「ワ行」の作家
渡辺裕之著『デスゲーム 新・傭兵代理店』祥伝社文庫 2015.2.20第1刷 \700+tax

おススメ度:★★★★☆

この度の藤堂浩志率いるリベンジャーズの一部はいつもとは異なる場所に居た。海外には違わないのだが、参集した場所がヨルダンは首都アンマンの世界的軍事見本市の会場であった。
この見本市はSO8とも呼ばれる世界8ケ国から集まった特殊部隊のためのイベントなのであった。
米国や英国、更にフランス、ドイツなどのその国を代表する特殊部隊に加わって日本からは国の特殊部隊ではなく傭兵部隊として呼ばれリベンジャーズはちょっと特殊な立場にあった。
だが、とにかくその実力を評価されての招聘であることは間違いがなかった。
さて、このSO8であるが単なる博覧会ではなく、正式な行事の間を縫って各国対応する競技会が遂行されたのであった。
第二までの競技では米国チームが汚い手を使いながらトップに立ち、警護のヨルダン兵士2名が何者かに襲われるという不測の事態が発生していた。その最終日各国チームは軍用機の機上におり、こののち降下し与えられた座標にあるコンテナを探すという競技であった。
合図とともに次々と降下していく各国チームを出迎えたのは何と地上からの激しい銃撃の嵐であった。次々と撃たれてゆく他のチームをみた浩司は部下に方向転換を命じて銃弾を回避した。地上で銃火を放ったのはシリアを根拠地にするISのテロリストであった。機はいつしかヨルダン領を外れシリア領内に入っていたのだ。
さて、これ以降はシリアの土漠を舞台に捕まった他国の特殊部隊隊員を救うべくあのにっくきISのテロリスト集団に立ち向かうリベンジャーズであった。
シリアを舞台とした戦闘と言えば前作「悪魔の大陸 上」でちょっと不完全燃焼した感が否めなかったのだが、今回先の落とし前を含め大暴れするリベンジャーズの面々。
これだけ時宣を得たストーリーは他に例をみない!ともいえるであろう。ところでこのISILが実は米国、イスラエルと繋がりがあるのではないか?という疑惑が一部で囁かれる昨今であるが、筆者である渡辺氏の洞察力にも大いに注目したい。




渡辺裕之著『新・傭兵代理店 悪魔の大陸(下)』

2014-11-09 11:42:01 | 「ワ行」の作家
渡辺裕之著『新・傭兵代理店 悪魔の大陸(下)』 祥伝社 2014.5.25第1刷 \690+tax

おススメ度:★★★☆☆

尖閣諸島の日本領海で操業する沖縄のはえ縄漁船3隻が突然消息を絶った。
外務省から内調に出向している片倉のもとに彼の謎めいた父親から連絡が入り、今回の事件の実行には中国公船がからんでいる、と明言した。米の軍事偵察衛星からの証拠写真も送付された。
日本国政府首相にこれを直接告げれば看過されると踏んだ片倉は防衛省のごく一部にこれを知らせる。
米国に救援を求めても明らかに拒否されるであろう。さてどうするか?
そこで藤堂浩志率いるか“リベンジャーズ”の登場となるわけだが、現在の中国ほど潜入、破壊工作が難しい国はないだろう。ほぼ北朝鮮に匹敵するのでは。

入国審査を突破するのも至難の技であるが、更に厳しいのが武器の現地調達だ。拉致された漁船員十数名をたとえ救出出来たとしても、一体どうやって中国から脱出出来るというのか。このあたり著者渡辺裕之氏は我々が思いもよらない方法で解決してみせる。
あまりの手際が良すぎるので、逆に信憑性を疑ってしまう。
下巻にてシリアで暗躍した中国の手先ターハが登場。ここで過去フィリピンやアルジェで浮かび上がったレッド・ドラゴンなる組織の一部が明かされる。
この組織は政府中枢でも知っているかどうか不明で、人民解放軍内でも極々限られた者だけが知っている組織であろう。
今回の日本漁船拿捕及び乗組員全員の拉致という暴挙が、場合によっては日中開戦に到るかもしれない。そんなリスキーな作戦を軍の一部の判断で出来るのか?という疑問が当然出てくるだろう。
ところが現在の中国では何かとてつもない地殻変動が起きつつあるようだ。
今年になって歴代の国家主席をもってしてもタブー領域であった人民解放軍での汚職摘発。
中国がかの小平の賭け声によって一挙に資本主義的金儲けに走りだした時、真っ先に国営企業を外資に結び付け利権を漁ったのは人民解放軍であると言われる。またその時点で伝統的な汚職の業も磨かれ、今やその腐敗の度合は天井知らずとまで言われる。そこで前述の習近平国家主席の決断による、谷俊山(コクシュンザン)元総後勤部副部長(中将)の摘発であった。彼の容疑は汚職や収賄、公金流用、職権乱用の罪で軍事法廷に起訴された〉
このことは人民解放軍内部に激震が走ったものと思われる。軍内部で不正に関わりの無い者なんていないからだ。
習近平国家主席が更に彼らを追い詰めた場合、軍の一部からは打開策として尖閣諸島での軍事衝突を画策する者たちが出てくるかも知れない。中国の事態が地殻変動からマグマを流出されることがないよう切に望む。
本編を読みながらそんな事を考えてしまった。
いずれにしても現在の中国を舞台にしてこの手の戦争アクション物を書くのは難しいだろうなということが良く分かった一編である。







渡辺裕之著『新・傭兵代理店 悪魔の大陸(上)』

2014-11-08 13:20:21 | 「ワ行」の作家
渡辺裕之著『新・傭兵代理店 悪魔の大陸(上)』 祥伝社 2014.5.25第1刷 \690+tax

おススメ度:★★★★☆

このシリーズでは初めての上下巻で出された。感想を上下纏めてとも考えたが内容、舞台背景があまりにも違うので分けて記すことにした。と言っても、上下にはもちろん共通項があるわけで、それは後ほど明らかになる。
上巻では今世界中で最もホットな紛争地であるシリアが舞台となる。前回アルジェリアで拉致された内閣調査室の片倉を救出した藤堂浩志は、美香としばしモロッコで休養した後、日本へ帰国する美香を見送り、単身英国へ向かった。
英国SASより格闘技の教官として招かれたためだ。SASで格闘技を教える傍ら、以前より浩志の古武道の師匠である明石妙仁から頼まれていた孫の様子を探るべく、休暇を利用してフランスのコルス(コルシカ)島を訪れたのであった。そこで4年ぶりに出会った明石シュウ真は実に逞しい外人部隊の兵士に成長していた。
そのコルス島でひとりのアラブ系フランス人スタルクが接触してきて、シリアの化学兵器使用の有無を調査するフランス政府のミッションに同行し、自分をガードして欲しい。フランス人化学者2名には4名の外人部隊の精鋭が付くというものであった。なんとその精鋭の兵士の中にシュウ真が加わってこようとは!

トルコ東部、シリアと国境を接する地点よりシリア入りを目論んだ一行であるが、既にトルコ領から何者かにマークされていた。
からくもシリア入りを果たした彼らを待ち受けていた状況は想像をはるかに超えた厳しさであった。現在のシリア情勢を知る上で、通常メディアを通してはなかなか分かりずらいのだが、著者渡辺裕之氏はどのようなニュースソースを持っているのか知らないが、見事に分かりやすく解説してくれる。
シリアで彼らを援護してくれるアルカイダ系のヌスラ戦線など日本ではほとんど知られていない。またISISイスラム国についても昨年の時点で本編中ではISILと記している。この呼び名は今年の9月頃からオバマ大統領や一部報道機関で使いだされた用語だ。
Islamic State in Iraq and the Levantの略で単にIraq and Syria と表記するよりも広がりを持った地域を指すもので、現在のイスラム国の言動をみるとISILのほうがよりふさわしいと思われる。
さて、現実世界の報道ではアサド大統領のシリア政府がサリン等の化学兵器を使用した疑いがもたれ、米国のオバマ大統領はもし使用されたのが事実であればアメリカ軍の派兵もじさない旨の強硬声明を出したものの、その後はロシアなどから反政府側が使用したのではないかという疑義がなされ、オバマの振り上げた拳も空振りに終わった感がある。
オバマにとって米軍の新たに紛争地へ派遣するなど、中間選挙を前にして決定など出来るわけがない。
さて、本編中では化学兵器の使用の有無については言及はしないものの、反政府勢力が関与したという噂の裏には更なる黒い霧が発生していた事を示唆する。それはシリアを巡る米ロの対立を利用し自らの利権を確保しようという中国の陰謀であった。
浩志らが幾度となく窮地に陥った背景には間違いなくこの陰謀を手助けする輩がいることを察知する。その流れで下巻に入っていくわけだ。
本編で先に記したようにフランス外人部隊でも落下傘部隊という精鋭部隊に配属された明石シュウ真が今後このシリーズで更に活躍してくれることを期待したい。


















渡辺裕之著『シックスコイン』

2014-10-01 10:57:21 | 「ワ行」の作家
渡辺裕之著『シックスコイン』 徳間文庫 2010.3.15第1刷
 

おススメ度:★★☆☆☆


幼くして両親を交通事故でなくした霧島涼は祖父の元に引き取られたのだが、祖父は涼に対して徹底的に古武術をたたきこんだ。その古武術は“武田陰流”という戦国時代に武田信玄に使われた忍者たちの武術であった。
そんな事は露知らされずただただ稽古に励んだ涼は大学二年になったある日、祖父の元を飛び出してしまう。他の大学生たちとはあまりに違う我が身の境遇を考えるといたたまれなくなったのだ。新宿に出てコンビニでアルバイト生活しながらニートをかこっていた涼の前にいきなり先輩店員が惨殺されるという事件が起きた。
更に時を同じくして祖父よりある大学教授の助手を務める女性を救えとの電話を受ける。
女性を探そうと一歩踏み出した途端、何者か涼を次ぎ次ぎと襲うのであった。
次第に明らかになっていく涼の自分の素姓。それは500年の歴史を持つと言われる“守護六家”のひとつであるらしいことが分かってくる。この“守護六家”は陰で日本の権力構造を支えてきたとも言われる。

おい、おい、いいかげんにしてよ渡辺さん!と言いたくなってしまった。この手の日本の“闇の勢力”を現代に甦らせて活躍させる似たような作品は過去にいくつかあった記憶があるものの、到底のめりこめる分野ではない。
著者の代表作「傭兵代理店シリーズ」のファン層をも二分するであろう作品だと思う。他にいくつか“シックスコイン・シリーズ”があるようだが、自分としてはこの第一作で十文である。


和田竜著『村上海賊の娘 上・下』

2014-08-19 19:03:59 | 「ワ行」の作家
和田竜著『村上海賊の娘 上・下』 新潮社 2013.10.20第1刷 

おススメ度:★★☆☆☆

横浜市立図書館に今年の初めに予約し手元に届いたのがなんと8ヶ月経ってのことであった。さほどに人気の小説であったのだが結論としてはそれほどおススメしたい本ではない。
小説の舞台背景は信長の大坂本願寺攻めの過程で起きた。いわゆる“木津川合戦”である。
主人公の村上景姫は野島村上家の当主、村上武吉の娘で、兄と弟がいる。
ごく一部の歴史資料の村上家家系図でかろうじて景の名が出てくるが、実際どのような女性であったのかの記述はない。
作者和田竜氏はこの歴史にほとんど名を残していない女性にスポットを当て、かって誰も書かなかったであろう村上海賊の船戦を描こうとしたようだ。
彼女に関わるその風貌、容姿、性格は作中では“悍婦で醜女”と表現されているのであるが、あの当時もそれ以前以降も日本人女性としても“美しさ”の規格から大きく外れていただけのこと。
どのような容貌かと言えば説明がちょっと難しいのであるが、しいてビジュアル的に申せばモデルの富永愛のボデー(長い手足)に北川景子の顔を乗っけたとでも言おうかw
現代的にはかなり受けそうなのだが、当時この容姿が受けたのは敵側の泉州海賊だけであったというのが面白い。彼らの美的基準から言うとえらい別嬪と映った。
さて、この破天荒な生きざまを望んだ姫であったのだが、思想的にはほとんど何も持たず、ただただイケメンの海賊に輿しいれしたかったのと、女人禁制の軍船にのって船戦をしたかっただけのあばずれ娘と言っても良い。
ひょんな縁で助けた門徒衆の少年のために一命をかけるのであるが、その理由に確たるものがなく読者を説得出来るものではない。
とにかく登場する歴史上実在した人物の言動がまるで劇画マンガのようで、戦いぶりもマンガ的とも言える内容だ。いっそこれはマンガの原作であると言われたほうが納得出来る。
村上海賊という僕の中でのロマン的イメージが脆くも崩れ去った一作である。