min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

ヴァル・マクダーミド著『殺しの儀式』

2014-11-25 15:28:44 | 「マ行」の作家
ヴァル・マクダーミド著『殺しの儀式』1997.4.20 9円+tax

おススメ度:★★★★☆+α

英国の中部の都市で連続して殺人事件が発生した。被害者は全て男性。ほぼ全裸で放置された死体は洗われているがむごたらしい拷問の跡が残っている。
警察内部では“ホモ・キラー”と犯人を呼び、SM趣味のゲイの男が犯人であろうと考えた。被害者全てがゲイであるとは明らかではなかったが、死体が捨てられた箇所が市内でもゲイやレズの店が集まる地帯の一角であったから多分犯人もホモセクシャルな男と考えられた。
警察のトップは当初連続殺人事件とは認めなかったが、市警のジョン・ブランドン副本部長は最初から連続猟奇事件と考え、内務省に直ちに応援を要請しプロファイラーのトニー・ヒルを迎えた。
彼と市警の間を取り持つ役柄は金髪の美貌な警部補キャロル・ジョーダンであった。
連続殺人、それも極めて猟奇的な殺人事件での被害者は大抵女性の場合が多いのだが、本編では被害者は全て男性。もうひとつの特徴は中世の魔女狩り裁判で用いられたのでは?と考えられる拷問器具を使用しての殺人。これらの設定は珍しいといえば珍しい。
プロファイリングがある程度科学的捜査の一分野としてその役割が認められている米国とは違い、英国ではまだ草分け的段階にあったプロファイラー、トニーに対する市警内部からの風当たりは相当強かった。そんな中、彼を支えたのがキャロル警部補であった。
二人は共同で捜査、分析の作業を進める内に互いに惹きつけ合うものを感じ始めたのであるが、すんなりそんな関係には踏み込めない二人であった。特にトニー側には障害があったのだ。彼には性的インポテンツという致命的欠陥を背負い、このことこそがあらゆる異性への積極的アプローチを阻害していたのだ。
だが、この事が犯人と結び付くことになろうとは本人も読者も想像すら出来なかった。

ところでトニーのプロファイリング能力は素晴らしく、その内容を読むだけでのめり込みそうになる。もちろんかなり正確に犯人像を絞り込んでおり、その他キャロルやその兄の尽力で徐々に犯人を追いこむことが可能となった。
だが、犯人の方が一枚上手で、誰もが想像すらしなかった反撃をかけてきたのだ。そして戦慄のエンディングを迎える。

余談をちょっと。本編の作者が女性であることに驚愕した。女性がここまで惨い拷問器具を使った殺人を考えられたとは到底信じられない。そしてトニー初め男性側の心理面の記述も優れていると思う。もちろん女性心理も心の襞まで触れるように描いている。
さすが英国のCWAゴールド・ダガー賞受賞作品の重みが感じられた。
もう一点。スエーデンの作家、S.ラーソン著「ミレニアム 1」にて主人公ミカエルが読んでいた小説がこのマクダーミドらしい。だから本人も最後に全裸で吊るされ殺されそうになったのでは?笑





日本映画『紙の月』吉田大八監督

2014-11-17 17:46:31 | 映画・DVD
日本映画『紙の月』吉田大八監督 H26年11月15日封切
原作:角田光代
お奨め度:★★★☆☆

キャスト
• 梅澤梨花 - 宮沢りえ(中学生時代:平祐奈)
• 平林光太 - 池松壮亮
• 相川恵子 - 大島優子
• 梅澤正文 - 田辺誠一
• 隅より子 - 小林聡美
• 井上佑司 - 近藤芳正
• 平林孝三 - 石橋蓮司

角田光代氏の同名の原作「紙の月」は読んでいない。いつも原作あって映画化されたものは原作を先に読むべし、と言いながらも今回は原作を読んでないし、またあまり読む気がしない。ストーリーは平凡な主婦が銀行の契約社員となり、ある日若い男に狂って貢ぐ為、顧客の預金に手をつける、と言ったもので特に目新しい内容ではない。
とにかく観に行った最大の理由は宮沢りえさんを見たかったから、それだけです。

彼女はここ十年くらい舞台に専念したいということで、演技の活躍の場を銀幕から舞台に移しており、劇場用映画で彼女の姿を最後に観たのは2002年の『たそがれ清兵衛』以来である。
齢を重ね更に美しさが増した宮澤りえさんを見るのは大いに楽しみであった。
映画の感想から言えば、やはり物語は陳腐でありもともと期待しなかったから構わないのであるが、銀行員の彼女が何故あんなチンケな若造に惹かれたかの描写があまりに希薄なため、物語のリアリティに欠けた。
主人公梅澤梨花が自らの人生を全て投げ打っても“貢ぐ”対象とは思えない。個人的には若き大学生役を演じた池松壮亮くんには悪いのだが公開時期が悪すぎた。
先のTBSドラマ「MOZU」の暗殺者役の印象が強すぎて、りえさんとの濡れ場には興醒め。
ただし、宮澤りえさんの演技力はそんなハンディをも乗り越え、物語の前半部分(優秀な銀行員としての外回り)そして中間部分(若き不倫相手との絶頂期)後半部分(やがて横領が発覚し追い詰められていく時期)を見事に演じ切ったと思う。

そして忘れてはならないのは秀逸な脇役陣たちの演技。特に資産家を演じた石橋蓮司さんとお局ベテラン銀行員役の小林聡美さんに拍手したい。

ところで結局この物語のテーマは一体何んだったのだろう?
女子学生時代に味わったキリスト教の教えの矛盾なのか。他人へ献身的に尽くすことに喜びを得られる主人公の業のせいか、はたまた子供が授からない中年主婦のあがきなのか。
表題の「紙の月」とは偽物の月であり、自ら幸福かと思われた人生もまたまがいものであったのか。




渡辺裕之著『新・傭兵代理店 悪魔の大陸(下)』

2014-11-09 11:42:01 | 「ワ行」の作家
渡辺裕之著『新・傭兵代理店 悪魔の大陸(下)』 祥伝社 2014.5.25第1刷 \690+tax

おススメ度:★★★☆☆

尖閣諸島の日本領海で操業する沖縄のはえ縄漁船3隻が突然消息を絶った。
外務省から内調に出向している片倉のもとに彼の謎めいた父親から連絡が入り、今回の事件の実行には中国公船がからんでいる、と明言した。米の軍事偵察衛星からの証拠写真も送付された。
日本国政府首相にこれを直接告げれば看過されると踏んだ片倉は防衛省のごく一部にこれを知らせる。
米国に救援を求めても明らかに拒否されるであろう。さてどうするか?
そこで藤堂浩志率いるか“リベンジャーズ”の登場となるわけだが、現在の中国ほど潜入、破壊工作が難しい国はないだろう。ほぼ北朝鮮に匹敵するのでは。

入国審査を突破するのも至難の技であるが、更に厳しいのが武器の現地調達だ。拉致された漁船員十数名をたとえ救出出来たとしても、一体どうやって中国から脱出出来るというのか。このあたり著者渡辺裕之氏は我々が思いもよらない方法で解決してみせる。
あまりの手際が良すぎるので、逆に信憑性を疑ってしまう。
下巻にてシリアで暗躍した中国の手先ターハが登場。ここで過去フィリピンやアルジェで浮かび上がったレッド・ドラゴンなる組織の一部が明かされる。
この組織は政府中枢でも知っているかどうか不明で、人民解放軍内でも極々限られた者だけが知っている組織であろう。
今回の日本漁船拿捕及び乗組員全員の拉致という暴挙が、場合によっては日中開戦に到るかもしれない。そんなリスキーな作戦を軍の一部の判断で出来るのか?という疑問が当然出てくるだろう。
ところが現在の中国では何かとてつもない地殻変動が起きつつあるようだ。
今年になって歴代の国家主席をもってしてもタブー領域であった人民解放軍での汚職摘発。
中国がかの小平の賭け声によって一挙に資本主義的金儲けに走りだした時、真っ先に国営企業を外資に結び付け利権を漁ったのは人民解放軍であると言われる。またその時点で伝統的な汚職の業も磨かれ、今やその腐敗の度合は天井知らずとまで言われる。そこで前述の習近平国家主席の決断による、谷俊山(コクシュンザン)元総後勤部副部長(中将)の摘発であった。彼の容疑は汚職や収賄、公金流用、職権乱用の罪で軍事法廷に起訴された〉
このことは人民解放軍内部に激震が走ったものと思われる。軍内部で不正に関わりの無い者なんていないからだ。
習近平国家主席が更に彼らを追い詰めた場合、軍の一部からは打開策として尖閣諸島での軍事衝突を画策する者たちが出てくるかも知れない。中国の事態が地殻変動からマグマを流出されることがないよう切に望む。
本編を読みながらそんな事を考えてしまった。
いずれにしても現在の中国を舞台にしてこの手の戦争アクション物を書くのは難しいだろうなということが良く分かった一編である。







渡辺裕之著『新・傭兵代理店 悪魔の大陸(上)』

2014-11-08 13:20:21 | 「ワ行」の作家
渡辺裕之著『新・傭兵代理店 悪魔の大陸(上)』 祥伝社 2014.5.25第1刷 \690+tax

おススメ度:★★★★☆

このシリーズでは初めての上下巻で出された。感想を上下纏めてとも考えたが内容、舞台背景があまりにも違うので分けて記すことにした。と言っても、上下にはもちろん共通項があるわけで、それは後ほど明らかになる。
上巻では今世界中で最もホットな紛争地であるシリアが舞台となる。前回アルジェリアで拉致された内閣調査室の片倉を救出した藤堂浩志は、美香としばしモロッコで休養した後、日本へ帰国する美香を見送り、単身英国へ向かった。
英国SASより格闘技の教官として招かれたためだ。SASで格闘技を教える傍ら、以前より浩志の古武道の師匠である明石妙仁から頼まれていた孫の様子を探るべく、休暇を利用してフランスのコルス(コルシカ)島を訪れたのであった。そこで4年ぶりに出会った明石シュウ真は実に逞しい外人部隊の兵士に成長していた。
そのコルス島でひとりのアラブ系フランス人スタルクが接触してきて、シリアの化学兵器使用の有無を調査するフランス政府のミッションに同行し、自分をガードして欲しい。フランス人化学者2名には4名の外人部隊の精鋭が付くというものであった。なんとその精鋭の兵士の中にシュウ真が加わってこようとは!

トルコ東部、シリアと国境を接する地点よりシリア入りを目論んだ一行であるが、既にトルコ領から何者かにマークされていた。
からくもシリア入りを果たした彼らを待ち受けていた状況は想像をはるかに超えた厳しさであった。現在のシリア情勢を知る上で、通常メディアを通してはなかなか分かりずらいのだが、著者渡辺裕之氏はどのようなニュースソースを持っているのか知らないが、見事に分かりやすく解説してくれる。
シリアで彼らを援護してくれるアルカイダ系のヌスラ戦線など日本ではほとんど知られていない。またISISイスラム国についても昨年の時点で本編中ではISILと記している。この呼び名は今年の9月頃からオバマ大統領や一部報道機関で使いだされた用語だ。
Islamic State in Iraq and the Levantの略で単にIraq and Syria と表記するよりも広がりを持った地域を指すもので、現在のイスラム国の言動をみるとISILのほうがよりふさわしいと思われる。
さて、現実世界の報道ではアサド大統領のシリア政府がサリン等の化学兵器を使用した疑いがもたれ、米国のオバマ大統領はもし使用されたのが事実であればアメリカ軍の派兵もじさない旨の強硬声明を出したものの、その後はロシアなどから反政府側が使用したのではないかという疑義がなされ、オバマの振り上げた拳も空振りに終わった感がある。
オバマにとって米軍の新たに紛争地へ派遣するなど、中間選挙を前にして決定など出来るわけがない。
さて、本編中では化学兵器の使用の有無については言及はしないものの、反政府勢力が関与したという噂の裏には更なる黒い霧が発生していた事を示唆する。それはシリアを巡る米ロの対立を利用し自らの利権を確保しようという中国の陰謀であった。
浩志らが幾度となく窮地に陥った背景には間違いなくこの陰謀を手助けする輩がいることを察知する。その流れで下巻に入っていくわけだ。
本編で先に記したようにフランス外人部隊でも落下傘部隊という精鋭部隊に配属された明石シュウ真が今後このシリーズで更に活躍してくれることを期待したい。