min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

山本一力著『 桑港特急 』

2016-08-19 10:14:41 | 時代小説
山本一力著『 桑港特急 』文藝春秋 2015.1.30 第1刷 1650円+tax

オススメ度: 星3つ

鎖国中の江戸時代に漁船が難破し、期せずして米国船籍の船に救助されアメリカ本土に渡ったという日本人は実際にいたようだ。
本作にも登場するジョン万次郎もその一人である。小説世界でも和歌山の鯨取り漁師がカナダのバンクーバーに渡ってから活躍するという作品もあったのを記憶するが、本作では遭難したのが漁師ではなく清水湊から船で江戸の花街に売られていく娘三人と、流れ着いた小笠原の父島で出会ったアメリカ人との間に生まれた二人の男の子が主人公である。

この父島でのジョン万次郎との出会いがその後二人がアメリカに渡るきっかけとなるのだが、父島での暮らしや彼らの周囲で関わる日米の人間模様が魅力的である。
一方この頃アメリカ西海岸では金が見つかり熱狂的なゴールドラッシュが始まっていた。砂金が採れた街の近くで暮らしていたリバティー・ジョーはサントス一味に最愛の妻と親友を殺されその復讐の執念に燃えていた。
更にゴールドラッシュで賑わうサンフランシスコで大陸間鉄道施設計画に一大ビジネスチャンスを見出そうとする中国人チャンタオは片腕のルーパンを連れ渡米する途中父島に寄り二人の日本人に兄弟と出会う。
ここに日本ーアメリカーちゅうごく、三ヶ国の男たちの命をかけた大勝負がアメリカ西海岸で繰り広げられる。
彼らの接点は何であったのだろうか、ここまでのストーリー展開は良かったのであるが、後半の銃撃戦を含める大活劇についてはかなりこの作者には荷が重すぎた感がある。
そもそも本作の舞台設定も登場するキャラクター造形も今までの山本一力作品から大きく逸脱している。着想はかなり面白いと思うのだが、最後は消化不良を起こし、尻切れトンボになってしまったのは残念だ。

樋口明雄著『ブロッケンの悪魔』

2016-08-06 15:29:07 | 「ハ行」の作家
樋口明雄著『ブロッケンの悪魔』 角川春樹事務所 2016.2.8第1刷 1,800円+tax


.おすすめ度: 星4つ


著者が最も得意とする山岳冒険小説である。加えて主人公は山梨県警の女性山岳救助隊員とその相棒ボーダーコリー犬。そして退役現役の自衛隊員によるテロによっって東京都民1300万人がその人質とされるというスリリングな物語展開となる。
テロの首謀者鷲尾元一等陸佐が経験したカンボジアPKOでの部下の死また3.11大地震による福島原発での息子の死。どれをとっても自衛隊上層部そして政府の対応の酷さは鷲尾をして「復讐するは我にあり」という思いに至ったのは無理もない。そして作中でも述べられるのであるがこうした政府だけではなく彼らを影で支え続けた国民にも大いに責任の一端があることをしてきする。ちょっと引用させていただくと「無気力でむかんしんqで刹那的に生きてきて、自分で未来を選ぼうとしない愚かな日本人に、われわれが見てきたものをわからせたかった。無責任という逃げ道を作りながら開く事なき暴走を続ける政府と、それをなし崩し的に容認する無自覚な日本人そのものが、われわれの標的だった。」
誠に共感する一節である。日本の現行政治そのもの、それを支える愚民そのもの現状。いつも思うのだが、小説世界の中ではかまわず殺戮してほしいw。綺麗事の物語展開よりも作者が真に臨む方向で突き進んでほしい。日本人は多大な犠牲者が出ない限り真剣に受け止めやしないのだから。