min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

鳴海章著『哀哭者の爆弾』

2008-10-31 13:09:54 | 「ナ行」の作家
鳴海章著『哀哭者の爆弾』光文社 2008.8. 第一刷 1,900円+tax

オススメ度★★☆☆☆

主人公、特殊装備隊隊員・仁王頭勇斗といえば『バディソウル 対テロ特殊部隊』で出ており本作はその続編となる。
今度はいわゆる“ワーキングプア”と呼ばれる日雇派遣労働者を集めテロリストに育て上げ爆弾テロを実行させる、という物騒ではあるが誠にもの悲しい筋立てとなっている。
かって生活の基本事項として“衣・食・住”といわれ今やそれに携帯電話が加わり“衣・食・住・携帯”となった昨今の世の中。携帯がなければ仕事にもありつけない。
何故なら日雇いの仕事も携帯を通して派遣業者から情報を得ねばならないからだ。
その日泊まるところ(大抵はネットカフェとなる)の金がなくとも携帯の料金だけは滞納するわけにはいかない。

こんな訳の分からない連中を訓練する組織といえば、相も変わらずうさんくさい右翼の老人が支配するというのが定番となっているが、今回は更にアナーキストという仕立て。もちろん背後には日本の政界を牛耳る黒幕政治家がいる。警察庁公安部の深部にまだなお右傾化を目論む勢力がいるという設定。もう、こんな筋立て自体が陳腐としかいいようがなんだなぁ・・・。

ところで本作品で特に気になった点がある。小説構成上、よく外国作品で見られるのだが複数のプロットを章ごとに並行して書かれる小説がある。個人的にはこの手法はあまり好きではないのだが、本作では章ではなく節の中で突然プロットが切り替わるのだ。
それも単に一行空けられただけで。読書側としてはとまどう他術がない。
この手法が一体何の効果をもたらすというのか?今後この手は勘弁願いたいものだ。

以下★ネタバレ★








最後の場面で仁王頭勇斗が新設の政党党首を狙撃するのだが、通り一遍に読んでしまってから何か違和感を感じたので何ページか戻って幾度も読み返してみた。
これは僕の読み違いではなく、間違いなくもうひとりスナイパーが存在し狙撃している。
これは一体何の意味があるのか?現時点では僕には理解できない。
よもや作者が間違って描いたとも思えない。どうも後味の悪い結果となってしまった。

神坂次郎著『熊野風濤歌』 

2008-10-22 20:12:28 | 「カ行」の作家
神坂次郎著『熊野風濤歌』徳間文庫 1991.11.15第一刷 447円+tax 


神坂次郎という作家は和歌山在住の方で、フィクション、ノンフィクション作家である。
ノンフィクションの方は読んだことがないのだけれども、時代小説で雑賀鉄砲衆や根来鉄砲衆を描いた作品がある。

本編は第一部が「黒鯨記」という時代小説と第二部「熊野灘賛歌」と題して、いくつかのエッセイが盛り込まれている。
「黒鯨記」は紀州における沿岸捕鯨の発祥の地である太地を舞台に、和田一族が銛を使って捕鯨を始めたいきさつに、ひとりの関ヶ原合戦の落人がかかわったという極めて興味深いストーリー展開となっている。
わずか120ページの短編にするには惜しい作品で是非とも長編にして欲しかった感がある。

エッセイの多くは筆者が愛してやまぬ熊野灘賛歌で、熊野、特に黒潮がぶつかる串本付近の歴史と景色には大いに惹かれるものがある。
「熊野とは地の涯の、隈野であり、隠国(こもりく)、隠野(こもりぬ)の意味であり、古来から落人のくにでもあった」と作中にも記されており、「熊野」と聞いただけで何故か強く惹かれる者にとっては必読の書であろう。


ここで参考までに先に述べた雑賀鉄砲衆の物語をご紹介したい。


*以下、過去の読書録より引用

24.『海の伽[イ耶]琴』・雑賀鉄砲衆がゆく(上・下) 神坂次郎著 講談社文庫 2000.1.15 1刷
★★★☆☆

このところ雑賀の鉄砲衆に魅せられたように関連小説を漁ってしまった。本編は孫市の息子孫市郎の物語。時代背景は先に読んだ『雑賀六字の城』と同じであり、一向宗の石山本山をめぐる織田信長との凄まじい攻防戦を描く。さらに雑賀の里を追われ、形の上では天下統一を成した秀吉の人質として生き延びる。
本編の最大の特徴は、かの秀吉が行なった「朝鮮出兵」に雑賀の鉄砲衆を連れ参戦することであり、【ある特別な理由】でこの秀吉の軍勢に叛旗を翻すことである。海を渡った雑賀鉄砲衆の信念と反骨を貫く熱き物語の結末や如何に?

船戸与一著『祖国よ友よ』

2008-10-19 16:51:24 | 「ハ行」の作家
船戸与一著『祖国よ友よ』徳間文庫 1992.10.15第一刷 485円+tax
*この作品は1980年双葉社より刊行。
オススメ度★★★★☆

最近の船戸氏は相変わらず精力的に長編を書き続けているが、本編は初期の頃(小説としてのデビュー作「非合法員」の次に書かれたと思われる)の作品で彼には珍しい短編集(4作)となっている。
多分自分は約20年ほど前に読んだはずなのだが、今回再読してみて断片的には憶えている部分もあるが大半は記憶の遙か彼方へ行ってしまっていた。
短編であるが故に、これらの作品群はより船戸与一の作家としての特徴を顕している、と言える。
その特徴とは登場する人物(今回は全て主人公が日本人)の背景には必ず世界の紛争地あるいは紛争を生み出す国家、組織が介在している。それも我々がほとんど日常関心を注がないであろうマイナーなものばかりな気がする。
それらの作品は

「祖国よ友よ」
フランス外人部隊でかって共に戦ったことがある日本人らしき男、ナンジョーが酒場で上官を撃ち殺した。彼はそのまま逃亡したのだがその場に居合わせた“俺”は外人部隊本部の上官からナンジョーを探し出し射殺しろと命令される。
彼の連れにかって戦ったアフリカ・ザイールの女ゲリラがいた。ナンジョーは一体何故上官を殺さねばならなかったのか・・・

「爆弾の街」
一度はライフル射撃でオリンピック強化選手に選ばれたことがある“俺”は何故今、狙撃銃を持って北アイルランドのベルファーストにいるのか?
スコープの中のターゲットは英国陸軍大佐のバーナビー・ジョイスである。

「どしゃぶり行路」
オランダのスキポール国際空港に駐機されたKLMオランダ航空のジャンボ機内に“俺”は日本国警視庁から派遣された刑事の腕と手錠で繋がれたままシートに座っていた。
なんとこの機は50時間ほど前に“自由モルッカ共和国軍”を名乗る兵士たちによってハイジャックされたのであった。
“俺”は別に赤軍派ではないけれど日本で銀行を襲って国外逃亡をしたのだが・・・

「北溟の宿」
“俺”はドイツにある監獄から二人の外国人囚人と共に脱獄して逃亡中である。
ひとりはばかでかい図体と極めて粗暴なボヘミア人、もうひとりは腺病質で小柄なゾロアスター教を狂信するイラン人だ。ふたりは“俺”と同罪ではなく単に脱獄を手伝ってもらっただけの関係だ。
“俺”は西ドイツのボーダー・マインホフの幹部に連絡を取り隠れ家でピックアップしてもらう手はずを取ったのであるが・・・

船戸氏の世界を初めて覗く方にはおすすめの作品といえる。

有川浩著『空の中』

2008-10-14 10:54:04 | 「ア行」の作家
有川浩著『空の中』角川文庫 2008.6.25一刷 705円+tax

オススメ度★★★★☆

ひとによっては馬鹿馬鹿しいほどのストーリーかも知れない。それほど荒唐無稽な内容だ。だが、ここに登場させたひとつの浮遊“物体?”“生物?”によって、人間の根源的な存在理由が鮮やかに問われることになる。

何より登場人物が魅力的だ。この“生物?”によって命を落とすことになった自衛隊パイロットの息子瞬とその幼馴染の佳江。ふたりを暖かく見守る川漁師の宮じい。
事故を起こしたときの僚機を操縦していて、からくも事故から逃れた武田光希三尉、事故究明のため航空機製造会社から自衛隊に派遣されてやってきた春名高巳のふたり。彼らに対峙することになる反【白鯨】運動団体のリーダーである若き美貌の少女白川真帆。
登場人物のひとりひとりの際立ったキャラクターが鮮明に描かれ物語をいっそう盛り上げる。
土佐の仁淀川でのびのびと育まれた佳江と途中からではあるがその自然の恵みと宮じいに見守られて育つ瞬のカップルは極めて良い感じ。
だが魅力的な登場人物の中でもとびきりカッコよく可愛らしい?武田光希三尉にすっかり惚れてしまった。あの茫洋として鋭い感性を持つ春名高巳との物語を機会があれば是非作っていただきたいものだ。

有川浩という作家は「図書館戦争」とそのシリーズで一躍脚光を浴びたらしいがなかなか面白い作家のようだ。

横山秀夫著『クライマーズ・ハイ』

2008-10-09 20:19:01 | 「ヤ行」の作家
横山秀夫著『クライマーズ・ハイ』文春文庫 2006.6.10第一刷 629円+tax

オススメ度★★★★★

この作品は原作を読む前にテレビ・ドラマ化されたものを観たが故に今まで読み損なってしまった。
原作を先に読んでおかなかった事を激しく後悔した。
著者横山秀夫氏の作品は「半落ち」ほか2,3作しか読んでいない。いずれも警察モノである。鼻からこの作家は自らの職歴(多分“サツ廻り”の記者上がりだろうと)を生かした作家なのだろうと勝手に決めてかかったところがあった。
著者が群馬の地方紙「上毛新聞」の元記者であることを巻末の“解説”で知り、「ああ、この作家はこれが一番書きたかった作品なんだろうな」と確信めいたものを感じた。
それほど地方紙の会社組織、中央紙との戦いと負い目、などなどに詳しく、普通の作家が単に取材した程度の内容ではないことが容易に理解できる。

1985年の日航ジャンボ機が羽田を飛び立ち大阪に向かう途中、隔壁の破壊が原因で操縦不能に陥り、当時流行語にもなった“ダッチロール”を繰り返しながら群馬県と長野県の県境に近い御巣鷹山に激突した。航空機事後としては世界最大級の大惨事となったニュースは未だに記憶に生々しく残っている。。

これが「もらい事故」みたいなものとは言え、降って湧いたような未曾有の大事故に遭遇した地方紙の騒ぎたるや想像に難くない。
齢40近くなった主人公悠木は気楽な遊軍記者からいきなり「日航機墜落全権デスク」に局長から指名される。
この瞬間から悠木のとてつもない戦いが始まる。その様相はまさに戦場であった。

悠木は幼い頃の屈折した家庭環境の影響のせいで今も息子への対応に戸惑っている。職場ではこれはサラリーマン生活を10年もやった者にとっては誰しも味わうであろう社内の組織との軋轢。
本編ではかなりデフォルメされた表現かも知れないが社内での社長や上層部、他セクションとの激突は胸にせまるものがある。
本編は家庭を持つ男の生き様と報道姿勢に係わる真摯な葛藤を描く男の、熾烈な戦いのドラマである。
内容が熾烈であるが故に読後のカタルシスは形容しがたい!





藤原伊織著『ダックスフントのワープ』

2008-10-06 08:47:33 | 「ハ行」の作家
藤原伊織著『ダックスフントのワープ』集英社 1987.2.25一刷 1,262円+tax

オススメ度★★★☆☆

昨年急逝され多くの読者が嘆き悲しんだ作家、藤原伊織氏のこれがデビュー作である。先週偶然にも図書館で発見し読んでみた。
表題となった「ダックスフントのワープ」は1995年第9回すばる文学賞を受賞したのであるが、同氏を世に知らしめた「テロリストのパラソル」は更に10年後の上梓となっている。

ダックスフントがワープするなどとはあり得ぬ話で、これは主人公の家庭教師が極めて自閉症ぎみの教え子の女の子にほぼ即興で創作し語って聞かせた“寓話”である。
この寓話の内容は何を意味するのか僕自身定かではないが、少なくとも女の子には少なからぬ影響を与え、物語の顛末を鮮やかなものに変える。

収録されたもう一篇の作品「ネズミ焼きの贈り物」についても言えるのであるが、登場する主人公は同じように自閉的な青年であり常に世間から、対人関係から距離を置こうとする。
距離を置こうとするのではあるが、相手側から間合いをせまられて決断を余儀なくされてしまうとでも言おうか。作者自身の言葉によると「虫の命を踏まず野原をわたることは可能か」となるようだ。

ある種の哲学的要素が入った奇妙なふたつの物語で、ああ、藤原伊織氏は初期にはこのような作品を書いておられたんだ、と感慨にふけりながら読ませていただいた。


宇江佐真理著『我、言挙げす』

2008-10-04 08:33:40 | 時代小説
宇江佐真理著『我、言挙げす』文藝春秋 2008.7.10一刷 1,524円+tax

オススメ度★★★☆☆

御馴染の「髪結い伊三次捕物余話」シリーズの最新刊である。
本編は
・粉雪
・委細かまわず
・明烏(あけがらす)
・黒い振袖
・雨後の月
・我、言挙げす
の六編からなる。
このうち、「粉雪」「明烏」「雨後の月」が伊三次とお文を軸とした物語であり残りの3編はいずれも今は見習いから“番方若同心”となった不破の長男、龍之進の物語となっている。
この不破龍之進はけっこう気まぐれな性癖を持つ一方、妙に純真で生真面目な
性格の持ち主である。私はこの若者が嫌いというわけではないがどうも感情移入できない。
したがって前作の感想でも書いたがこの若者が本シリーズを乗っ取るかたちで頻繁に登場するのは面白くない。
もっともっと伊三次とお文を、そして不破やその他の取り巻き連中を描いて欲しいのだ。
これは時空を越えた、例えれば架空ではあるが親戚の動向を知りたい“親族の情”みたいな思いを持つにいたった読者のささやかな願い事と言ってもよい。

ネタバレを記すわけにはいかないので詳細は書けないが「我、言挙げす」の最後の最後の場面は非常に気になる。
もし更にこのシリーズが続くのであれば、もう一度原点に戻って伊三次とお文の生き様を思う存分書いて欲しいものだ、宇江佐真理さん!