min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

銭売り賽蔵

2008-04-30 08:37:59 | 時代小説
山本一力著『銭売り賽蔵』集英社 2005.2.28初版 1800円+tax

オススメ度★★★☆☆

山本一力氏の江戸経済ものの系譜となる作品だろうか。先ず「銭売り」とは何ぞや?ということから始まる。
江戸幕府によって「金座」や「銀座」が開かれたことはほぼ誰もが知っていることだろう。テレビや映画の時代劇などを観ていると「小判」がよく出てくるが、これは大店や殿様の世界で流通する貨幣であって、一般の庶民が日々使う貨幣単位ではない。
市井の人々が必要とするものは、小判や銀のつぶではなく、「銭座」で造られる銅銭や鉄銭である。
主人公の賽蔵は彼の父由蔵の代から銭売りの稼業を受け継いだ。銭売りは「銭座」から直接仕入れが出来るものと卸しを介して行うものの二つに別れる。
賽蔵の父由蔵はその人柄を見込まれ、「銭座」から直の仕入れが出来るようになっていた。
銭売りはその日の相場によって、「一両小判」「一分金」「二朱金」の金貨や「丁銀」「豆板銀」などの銀貨と町民が普段遣う「文銭」との両替を行う。

ある日賽蔵は自分が仕入れる「深川銭座」とは別に金座が後押しする「亀戸銭座」が近直に開かれる噂を聞く。「深川」は日に30貫の鉄銭を鋳造するのだが「亀戸」はその5倍、150貫の製造能力を持つといわれている。そうなれば明らかに「亀戸」のほうに軍配が上がろうというものだ。
ここから賽蔵とその11人の配下及び賽蔵が仕入れる「深川銭座」と「亀戸銭座」の攻防戦の火蓋が切って落とされる。
物語の半分以上は「亀戸銭座」との競合が語られるのであるが、そのほかにも賽蔵の顧客の新規開拓の話やら江戸の火事に纏わる人情話やら賽蔵の恋についても語られるのであるが、ちょっと物語が散漫になってしまった嫌いがある。
本編の骨子は「身寄りやらカネやらを失う怖さを持たないものが、高いこころざしを支えに生きることの強さ」を描くことにあり、主人公、賽蔵の生き様を活写しており読後感は爽やかである。

晴れ、ときどきサバンナ

2008-04-28 07:53:39 | ノンフィクション
滝田明日香著『晴れ、ときどきサバンナ』冬幻舎文庫 H19.2.10 533円+tax

オススメ度 ★★★★☆

本屋の店頭でこの文庫本を手にした時、「もしも安直な旅行記であれば、やめよう」と思い、中身をパラパラとめくってみた。
どうも無鉄砲な日本の女の子の旅行記ではなさそうだ。先ず、彼女の履歴に目がいった。
父親の仕事の関係で6才の頃からシンガポール、フィリピンと渡り歩き、この本の出だし部分はアメリカの北部の大学で、教室と図書館の往復を繰り返「猛勉強」の最中であった。
それが父親からの電話一本が彼女の人生の運命を大きく変えることになる。

彼女はアメリカの大学在学中に8ヶ月ほどアフリカ、ケニヤのマサイ・マラ国立公園のロッジ(ホテルと思えばよい)で働く機会を得た。
彼女は元々生物学、動物学に興味を持って勉強してきたのであるが、机上で学ぶことと現場で学ぶことの落差に驚く。
彼女はケニアのサバンナの中で、動物保護のあり方、地球環境の問題、などの難しさに触れるとともに、漠然と将来はアフリカの大地に住んでみたいと思う。
一時帰国し大学に戻ったものの「重度のアフリカ病」に罹患してしまったことを自覚。気がついたときはボツワナ行きの切符を手にしていた。

彼女は現在マサイ・マラにてマサイ族の人々のために獣医として活躍している。本編は彼女が再びケニアにたどり着くまでの4度に渡るアフリカ行について記されている。
浮ついた気持ちではなく、自分の目標をしっかりと見据えて人生に立ち向かう彼女の生き様は読んでいて気持ちがよい!


再起

2008-04-27 16:08:03 | 「ハ行」の作家
ディック・フランシス著『再起』早川書房 2006.12.19初版 1900円+tax

オススメ度★★★★★

シッド・ハレーが別れた妻の父親、つまり彼にとっての義父の家で朝を迎えるシーンから物語は始まる。
この関係、感覚って僕は好きだ。だって、そうでしょう?女房殿の父親とはなかなかこんな関係になれないものだから。ましてや妻とはもう別れてしまった状態では・・・
このことはシッドと義父は実は“うまがあう”ということで、互いに少なからず尊敬しあう間柄と理解していいだろう。このことは物語が進行する過程で更に明確になってくる。

さて、シッドが義父の家で過ごした翌日、チェルトナム・ゴールド・カップが開催された。
この日あろうことか3つの死が発生した。一頭の優勝馬とそれに乗っていたジョッキー、そしてその馬の調教師の死であった。
優勝直後、人々の眼前でジョッキーと調教師が激しく口論していたことから、ジョッキーは調教師に射殺され、調教師は自責の念にかられ自殺したものと報道された。警察も大方そのように考えた。
しかし、シッドはそうは考えなかった。シッドが不在中に殺されたジョッキーからの留守電が入っており、何らかの八百長がらみの悩みをかかえていたのがうかがえたからだ。
事の真相を調べるうちに、シッドの恋人が銃撃を受けた。襲われる前に脅迫状が届いたのであるが、一瞬の隙をつかれて彼女が被弾した。
敵は、シッドが自分に対する暴力による脅迫にはけっしてひるまない、いやむしろ殊更立ち向かってくることを充分承知しており、したがってシッドが最も大切に想うひとに対する脅し、という卑劣な手段をとってきたわけだ。第一回目の襲撃は恋人への殴打であったが、第二回目の銃撃によって恋人マリーナは生死の堺をさまようことになる。
ここでシッドは悩みに悩む。悩みに悩んだ結論が、

『私が調査を続けたせいで、マリーナの身に、あるいはチャールズの身に、恐ろしいことが起きるような結果になったら、私は自分を許す事ができるだろうか?だが逆に、なにもせずに傍観するとしたら、許すことができるだろうか?』

これはまさにハードボイルドの世界ではなかろうか。
シッドが出した結論は言うまでもない。決意をした後のシッドの動きは素晴らしかった。仇敵であるはずのザ・パンプの記者、クリス・ビーチャーをも利用し敵を追い詰める。
派手なアクションこそないものの、息詰まる攻防戦が展開される。

原題は『Under Orders』であるが、邦訳の題名を『再起』としたのは、日本側の出版社そして読者側からみて、何よりも著者自らが再び戻ってきてくれたことに対する賛辞と感謝の意を表したものと受け止めた。

カオス

2008-04-21 16:37:25 | 「ヤ行」の作家
梁石日著『カオス』幻冬舎文庫 2008.4.10初版 648円+tax

オススメ度★★☆☆☆

新宿歌舞伎町で何やら怪しげな商売でそこそこ稼いでいる二人の在日朝鮮人、ガクとテツ。
本名は李学英と金鉄治といい、作中で二人とも「民族学校」時代の事が記されているので「北」の在日らしい。
知り合いの台湾系華僑から儲け話をもちかけられるのだが、どうもこれがきな臭い。背後に大陸の蛇頭がいて麻薬がからんでいるらしい。
ひょんな成り行きで台湾人から歌舞伎町の一流中華レストランを格安(と言っても5億!どこから二人は稼いだのか?)に譲り受けるのだが、麻薬が関係して蛇頭に狙われる。
この中華レストランとは別にガクの企画で新大久保に高級ナイトクラブを開こうとするのだが、果たして両方の経営はうまくゆくのか?
というのも、このナイトクラブのママにテツの愛人タマゴ(美貌のニューハーフ、タマゴは渾名)を起用しようとするのだが、このタマゴが一筋縄ではいかない女(男?)でガクとテツを振り回す。
更にガクは他のクラブのジャズシンガーに惚れ込み、自分のお店のシンガーに引き抜こうとするのだが彼女には紐のような男がいる。
金がらみ、女がらみでガムシャラに突き進む二人の前に、いよいよマフィアの影らしきものがちらつく。

新宿歌舞伎町を舞台にした在日朝鮮人(同じく二人の民族学校出)のハチャメチャナな生き様を描いた作品に同著者の『夜の河を渡れ』があったことを思い出した。
ストーリーはかなり忘れてしまったのだが、時代は90年頃だったと思う。
当時の歌舞伎町は黒社会の勢力が群雄割拠しており、より危険な臭いが充満していたのではなかろうか。
ふたりの商売は相当際どいやり口なのだが周囲の巨悪に比べるとその稚拙さが故に「青春の葛藤」と「青春の蹉跌」を描いた何やら「青春もの」に写るのだから不思議だ。

今回の二人はもう一段階進んだような状況にあり、とても「青春もの」といった代物ではない。新宿歌舞伎町の熱気と狂気を双方とも描いているが、やはり読後は虚無感しか残らない。

懐郷

2008-04-19 07:54:37 | 「カ行」の作家
熊谷達也著『懐郷』新潮文庫 2008.3.1初版 476円+tax

オススメ度★★★★☆

著者である熊谷達也氏は今更紹介するまでもないが、明治から昭和にかけての東北地方を中心にした数々の作品を生み出してきた。
本編は昭和30年代に生きた7人の女性の物語を綴った短編集である。昭和30年代は戦後の動乱期をやっと脱したものの、まだまだ日本の社会は貧しかった。
特に東北地方の田舎は古い慣習が依然として残り、経済的には農家の多くの男たちが都会へ“出稼ぎ”として出なければ食えなくなった時代である。政治的には日米安保条約締結を前にし、騒然たる世相を呈していた。
「貧乏人は麦を食え」と当時のひとりの首相の言動に多くの国民が憤りを感じたであろうが、一方「所得倍増計画」というニンジンを国民の鼻先にぶら下げることも怠らなかった。
国民はただひたすら貧困から裕福な生活の幻想を抱き、がむしゃらに働くしか方法がなかった時代である。
登場する女性の年齢や職業もさまざまであるが、今日の豊かな日本が築かれる以前の日本女性が通り抜けたであろう苦難の人生の一断面が活写される。

7編の物語に登場する女性たちはそれぞれ、
『磯笛の島』 妙子(30代中頃)海女
『オヨネン婆の島』 オヨネン婆(70代)無職
『お狐さま』 小夜子(20代中頃か)教師の妻
『銀嶺にさよなら』 敦子(20代中頃)高校教師
『夜行列車の女』 昭子(20代後半?)農家の主婦
『X橋にガール』 淑子(20代後半)売春婦
『鈍色の卵たち』 貴子(20代前半)中学教師

昭和30年代の世相を知る上でもなかなか興味深い短編集である。



男たちは北へ

2008-04-17 17:32:07 | 「カ行」の作家
風間一輝著『男たちは北へ』ハヤカワ文庫JA 2008.2.15 720円+tax

オススメ度★★★★☆

フリーのグラフィックデザイナーである桐沢風太郎はアル中の中年である。学生時代の友人が以前、自転車で青森まで行った帰りに彼の元に立ち寄った。
その時友人が語った体験は彼の記憶から消え去ることなく「いつか自分も青森まで行ってみたい」と思っていた。
人生中盤を過ぎると、これは特に男にとってそうなのかも知れないのだが、何故か青年期に抱いた「想い」にとらわれる瞬間があるようだ。

日常から一時逃れるような衝動にかられたかどうかは確かではないが、桐沢はある朝北へ向かった。
東京を出てまもなく、一台のトラックの荷台から段ボール箱が落下するのを目撃し、それを拾った桐沢は近くのコンビニに届けた。その落下した書類の束の一冊をメモがわりに拝借したのだが、これが災いの火種になる。
その書類とは自衛隊の一部の幹部が策定した「秘密作戦」の小冊子であった。
小冊子は50冊あったのだが、桐沢が失敬した一冊が問題であった。この一冊の最後のページには書類を読んだ9名の自衛隊幹部自筆のサインがあったからだ。
この「極秘作戦」を策定したのは三田という幹部であったが、その上官である塚本は直ちに隊内に私設的な奪還本部をつくり回収作戦に出た。
一方、桐沢は小冊子を拾った日の夕刻、ひとりの少年と出会う。少年はある事情でやはりひとり青森を目指すヒッチハイカーであった。

この小説はジャンルで言えば「ロード・ノヴェル」となるらしいが、ひとりの少年の「成長譚」でもある。
「極秘文書」をめぐり自衛隊がからんでくるサスペンスとも言えるのだが、実際、この自衛隊の関与そのものは物語の脇役に過ぎない。なぜなら「極秘文書」の中身が大した代物でもないし、回収方法そのものが杜撰としか言いようがない。
桐沢自身が後に独り言のようにつぶやくのであるが、素直に「無くした物を返してくれ」と言えば済むようなものだ。自衛隊側のひとりよがりの悪あがきであって、桐沢はたとえ彼らの真意(殺してでも奪う)を知ったとしても青森行きを断念するものではないだろう。

桐沢は、いわば「明日を意識しない日々の生活」を送ってきたわけであるが、今回の青森行が少年や他の人々との出会いによって「明日を意識する再生への旅」となったとは思えないし、アル中がこれで直るとも思えない。
黙々と青森を目指す桐沢の存在は、少なくとも少年の精神を鍛え、敵のひとりの生き様すら変えたと思う。
一方の桐沢の心の中でも何かが変化したことに違いない、と思うのだが・・・

ここで大事なことを書き忘れていた。サイクリング。これが本編で最も重要な要素となっている。サイクリング好きな読者は読み進める程に著者の描く世界に感情移入できると思うし、サイクリング未体験の読者もそれなりに楽しめると思う。
重い荷物を積載したサイクリング車による山越えは、越えたと思うとまた登り、頂上は遙か遠くに。期待と落胆、その繰り返し。その様はあたかも「賽の河原」で石を積む姿にダブる。意識を無に近づけてペダルをこぐ境地はある種、修行僧のそれに近いのであろうか。



ひとり言=たわ言

主人公の桐沢はどうみても横文字職業のグラフィック・デザイナーとは思えないなぁ。
一体どんな作品を書こうってんだい?(笑)
アル中の割にはずいぶん程度のイイ?アル中じゃないの?この人!
最近、なんかこの作品に触発されたとは思わないが、チャリ(21段変速のマウンテンバイク)を買ってしまった。んだども、青森に行きたいとは思わないぞっと(苦笑)

北海道独立!むむっ、なかなかいいかも。
軍事的にはその気になれば確かにたやすく達成できるんでないかい。でもその後が大変だろう。
特に経済的になりたたないのでは?
ここ3年ほど北海道に住んでみて思うのは、今の道産子には独立精神のカケラもないのでは?内地への依存心が高すぎる!
あ、そうか、道民を人質にして日本政府から身代金をせしめればいいのか。


はぐれ鷹

2008-04-15 18:43:48 | 「カ行」の作家
熊谷達也著『はぐれ鷹』文藝春秋 2007.10.10  1,619円+tax

オススメ度 ★★★☆☆

幼い時分より動物や鳥類を眺めて遊ぶのが好きであった岳央は、ある日テレビで角鷹(くまたか)の鷹匠の存在を知った。
大学を出た後も鷹匠の事が忘れられず、とうとうその鷹匠の下を訪れ弟子入りを志願した。
鷹匠は何度も断ったがとうとう彼の熱意に根負けしたかたちで弟子として受け入れた。
日本最後の鷹匠と言われる師匠は、高齢でかつ頑迷な性格を持っていた。角鷹(くまたか)の鷹匠としての知識と経験は尊敬できたが、一方裏の部分での金銭欲、名誉欲には幻滅を感じざるを得なかった。
師匠から与えられた若き角鷹の神室号を果たして一人前の鷹として訓練し育てることが可能であろうか?角鷹はあまりにも気高く孤高の生き物であることを知らされる岳央であった。
師匠に弟子入りし半年ばかり経ち、そろそろ神室号の訓練を開始したばかりの頃、幼なじみで憧れの存在であった久美がTV取材を申し込みに岳央の前に現れたのであった。
果たして岳央の神室号はカメラの前で見事に狩りをすることができるのであろうか?

著者熊谷達也氏はかって『邂逅の森』や『相克の森』の著作において、秋田県阿仁に存在したマタギの生態、生き様を綿密な取材の元に我々の前に活写してくれた。
本編においても角鷹(くまたか)の鷹匠という特異な存在とその知られざる世界を我々の眼前に披露してくれたわけであるが、物語としての本編はプロットの配分がなんとも不自然でバランスを欠いている、と言わざるを得ない。
TV取材という岳央にとっては負の存在となるもの、それにからむ初恋の女性とのやりとりに主力がおかれ、肝心の鷹匠としての生き様の描写が二の次になってしまった気がする。
読者としては岳央の人生の最終的な決着がまだ済んでいないのではないか!と思う次第。


ブルータワー

2008-04-12 16:48:18 | 「ア行」の作家
石田衣良著『ブルータワー』徳間文庫 2008.3.15初版 762円+tax

オススメ度★★★★☆

【世界を破滅させたものの名は<黄魔>ウイルス たった一人で殺人ウイルスと闘う平凡な男と冒険の物語】と本の帯にある。

さてその舞台なのだが200年後の未来の新宿であり、そこに現代から、主人公である瀬野周司はタイムスリップする。タイムスリップの方法が奇抜というか我々の想像を越えたものである。
彼は末期の脳腫瘍つまりガンに侵されており手術も受けられない状況に有る。その痛みが耐えられなくなる瞬間にタイムスリップする、というものだ。
ここで「なぁ~んだ、バカらしい!」と思ってしまえばそれまでの話で終わってしまうので、ここは著者石田衣良にだまって乗せられるしか術は無いわけだ。
著者である石田衣良氏には珍しく完全なSF小説なのであるが、巻末の解説を読むと同氏は元来SFがお好きであったとのこと、意外である。

200年後の世界は中国が東西に分裂し戦争をおっぱじめるのだが、追い詰められた西の中国がインフルエンザを改造した殺人ウイルスを生物化学兵器として使用したことにより、敵も味方も壊滅寸前の状況に陥れることになってしまった。
何故なら死亡率が8割を越えるこの殺人ウイルスの対抗ワクチンを誰も開発できないからであった。ウイルスの遺伝子構造に細工をしてワクチンが出来てもその時点で別のウイルスに変貌してしまう、というモンスターであったからだ。

さて、その200年後の世界にスリップする、と言っても瀬野周司の意識だけがスリップするわけで、取り憑く宿主というのがセノ・シューなる人物。
ブルータワーという2kmもの高さになる「ノアの箱舟」的な存在で、このタワーにいる限り殺人ウイルスの脅威から逃れることができる。
だがその世界は垂直構造がそのまま人間の階層社会を形成しており、内部では“階級闘争”の真っ只中にあるのであった。セノ・シューはその世界でのトップ30人の中に入るエリートの一人であった。
200年後の人々は悪魔のウイルスから逃れたい思いでせめて名前を厄除け代わりにするかのごとく、20世紀の暴走族が好んで使用する漢字を乱用する。
これではまるで劇画の世界のようで鼻白むではないか。

ま、そんなことはさておき、瀬野周司はなんでまたこんな世界に送られるハメになったのか?実は彼はこの破滅的世界を救う伝説的な救世主なのであった。
恋ありアクションありの大冒険活劇的要素をたっぷりと含んだ作者渾身の一作に、だまされたと思い読み進めると、それなりに楽しめるから不思議だ。
小難しい理屈を持ち出さずに石田衣良氏の壮大なエンタメをお楽しみあれ!

葬列

2008-04-08 08:41:41 | 「ア行」の作家
小川勝己著『葬列』角川書店 H12.5.10初版 

オススメ度★★★★☆

かってマルチ商法で明日美を誘ったしのぶは、今度はなんと銀行強盗をやろうとしつこく明日美につきまとう。明日美は心底しのぶを忌み嫌ったのであるが、明日美とて喉から手が出るほどカネが欲しい状況下にあった。
そんな中年女性二人がある日銀行で挙動不審な若い女と出会う。その名を渚という悲惨な過去を持つ孤独な女であった。
一方、中学の先輩からヤクザ組織に半ば強引に勧誘され構成員になったものの、何時までも使い走りをさせられる気弱な史朗。女房にも逃げられ幼い女の子を育てながらのヤクザ稼業で浮かばれない。浮かばれないどころか、突然ヒットマンを命ぜられ絶体絶命の窮地に立たされることに。
そんな四人がひょんなことから出合い、そしてつるんで計画したのは街金の金庫を襲撃し強奪することであった。更には史朗の属するヤクザ組織の大金庫をも狙うに至る。
冴えない中年女性二人に若い女の子、そして気弱なヤクザにそんな大胆な犯罪が出来るのか?
物語は急転直下、驚天動地の展開を見せ始めるのだが・・・

この小川勝己という作家は始めての作家であるが、一種独特なテンポと雰囲気を持ったクライム・ノベルの世界を展開してくれる。
登場人物のキャラが突然変異の如く急変する下りはちょっと突っ込みたくなるところがあるのだが、疾走するストーリーの中で何となく納得させられそうになりながら驚愕のエンディングを迎える。面白さはダントツだが、恐らくこの作家に対する読者の反応は見事に二極分解するだろう。僕としてはけっして嫌いではない。

恋する組長

2008-04-05 09:03:21 | 「サ行」の作家
笹本稜平著『恋する組長』光文社刊 2007.5.25

オススメ度 ★★★☆☆

東京近郊のS市で探偵事務所を開いている主人公の俺。女子事務員ひとりだけの典型的な日本の探偵事務所なのだが、顧客に特徴がある。
事務所の売り上げの大半を占めるのが、S市を牛耳る3つのヤクザ組織からの依頼物件であり、中でも山藤組が最大の顧客である。
若頭の近眼のマサを通して持ち込まれる山藤組組長の橋爪からの依頼内容は、大抵が奇妙で無茶苦茶なものが多いのだが、断ればS市の港の魚のエサになりかねない。

山藤組の他の2つのヤクザ組織ともちゃっかり仕事をもらう探偵であるが、ここに強烈なゴリラという渾名の地元刑事が探偵を悩ます。ゴリラはがっちりこれら地元ヤクザと通じているからだ。何かと探偵にからんでくるのだ。
探偵事務所の女子事務員もまた強烈なキャラを持っており、これらの登場人物が織りなすドタバタ喜劇とも受け取れる物語が進行する。

さて、本編はいくつかの物語を持った短編なのであるが、著者笹本稜平氏は元々骨太な長編冒険小説を上梓していた作家である。
代表作には『グリズリー』『太平洋の薔薇』『極点飛行』などがあり、国際的なスケールを持った僕のお気に入りの作家である。
その後『マングースの尻尾』などで短編を披露したのは記憶に新しい。
だが、探偵物でかつこのようなタイトルがつくと、僕なんかは穿った見方をするので「ああ、ネタ切れでこんな路線に走ろう、ってぇ魂胆か」と引いてしまう。
この作品の存在は知るものの、なかなか手を出さなかったのであるがたまたま図書館にあったので読んでみたわけだ。
結論としては、「さすが、笹本さんだ!」と認めざるを得ない?出来映えだ。
肩肘張らず、小説を純粋に楽しむにはとても満足できる作品ではないだろうか。

蛇足:この作家も最近「警察物」に走っているようだが、みなさん、あまりにも傾向が同じ、というのはなんか嫌だなぁ・・・