min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

骨音

2006-05-28 00:12:44 | 「ア行」の作家
石田衣良著『骨音』-池袋ウエストゲートパークⅢ- 文春文庫2004.9.10  543円+tax

本のタイトルとなった「骨音」ほか3作からなる短編集だ。

「骨音」
池袋のあちこちの公園に住むホームレスたちが次々と襲われた。被害者のホームレスは決まって身体の一部の骨が折られているのが奇妙だ。
マコトはある日ホームレスのボスとおぼしき人物よりこの襲撃犯を探してくれないかとの依頼を受けた。
一方、マコトはGボーイズのタカシと行ったあるバンドの演奏を聴き不思議な音色に気がついたのであるが…・
シリーズにはちょっと珍しいサイコ・サスペンスっぽいテイストの作品となっている。

「西一番街テイクアウト」
マコトはある日サンシャインシティ・アルバにある噴水で不思議な少女と出会う。ちょっと言葉を交わしてのちほとんど会話のない関係であったが、少女が突然倒れたのを見たことから少女の境遇を知る事になる。
彼女の若き母親は西一番街の場末の酒場で連れ出しスタイルの売春婦であった。だが彼女は地回りに脅されていた。そんな彼女と少女のために立ち上がったのはマコトの母親であった。母親は奇抜な作戦を考え出し、それにマコトとGボーイズのキング、やくざのおさるの3人がサポートする、といった結末が爽やかな一篇。それにしてもマコトの母親はただものではない。

「キミドリの神様」
池袋に出現した「地域貨幣」とその偽造幣貨の犯人探しを依頼されたマコト。今までマコトが一番探偵らしい活躍を見せた作品では。

「西口ミッドサマー狂乱」
狂乱(レイブ)なるコンサートがあるらしい。80年代に出現した“ユーロビート”サウンドを基調にしたコンサートで馬鹿でかい音響で若者を熱狂させるという。
近年そのライブが著しく商業化されたものの、日本におけるこの手のライブ・オーガナイザーの草分け的存在であった「ヘブン」は常にレイブの原点回帰を望んでいた。
レイブの原点とは何か。自然発生的な口コミだけによるゲリラ・コンサートのことをいう。

ところでこのレイブと切っても切れない関係にあるのが“ナルコティック(薬物)”である。先に開かれたコンサートで新種の“スネークバイト”と呼ばれる薬物が会場で売られ、それを服用した若者のひとりが死亡し数人が重症となった。この薬物の卸はかって「ヘブン」を創出した仲間がからんでいるといわれた。
マコトは現「ヘブン」の代表から是非とも“スネークバイト”の卸元を押さえて欲しいと頼まれる。マコトは窮余の策として「池袋ウエストパーク」でのゲリラ的レイブを企画して薬物の卸元を誘き出そう、と考えた。
この作戦ではもちろんタカシ率いるGボーイズが大活躍するのは言うまでもない。
ところでマコトは本編で登場するレイブ・コンサートの歌姫、トウコと恋に落ちるのだが、「サンシャイン通り内戦」での女性カメラマンとの恋同様激しく燃え上がるのであるが果たして彼女との行く末は?
あまりこのシリーズではマコトの恋は多く語られないだけに読者の興味をひく。

さて、4作品で一番味わい深かったのは「西一番街テイクアウト」。なんたってマコトの母親の謎多き過去を更に知りたくなった。場合によってはマコトに代わってヒロインになる素質充分とみた。

だから山谷はやめられねぇ

2006-05-27 18:00:42 | ノンフィクション
塚田 努 (著)『だから山谷はやめられねぇ』―「僕」が日雇い労働者だった180日
幻冬舎・単行本 (2005/12) ¥1,470(税込)

著者は今時の多くの若者によく見られる何を学びたいか分からないままに入学した大学生で、気がつくと周囲の同級生は就職活動に忙しい。
何を学びたいのか分からないのと同様に何のために働くのかも分からない、結局全て分からないまま就職の道を選ばずに大学院へ進んだ著者。

そこで、かってボランティアとして山谷のドヤ街で仕事にあぶれた労務者に“炊き出し”の配給をしたことを思い出し、そこへボランティアではなく労務者の当事者として入ってみたい、山谷のドヤ街に住み同じ労務者の目線に立てば「働く事の意義」が分かるかも知れない、と彼は考えたわけだ。
大学院生という身分を隠し、いつでも自分のアパートに逃げ帰ることが可能な状況で、彼が望む「働くことの意義」が本当に分かるのだろうか?甘い考えでは?と当然思うのだが、実際に彼の行動そして考えは“甘々”であったわけだ。ま、このあたりはしょうがない、取りあえずこんな尋常ならざる世界に飛び込んだ勇気は認めよう。

さて、本書で面白いのは山谷のドヤや飯場の様子、それから“とび職”や普通の土工の作業服、靴、更には各現場で使われる道具・工具を著者の手書きによるイラストを載せている点。これは読者に確かに視覚的に訴えるものでありユニークだ。
もちろん山谷での仕事の手配の模様や建設業界での下請けの重層構造の説明など、こうした世界を全く知らない一般読者に対しては分かりやすい説明になっている。

尚、本の題名の通り『だから山谷はやめられねぇ』、と著者が思っているわけではなく、山谷に集る労務者の多くが陥る思考、行動のパターンとしてなかなか山谷から抜け出せないのを「乞食は3日したらやめられない」にもじってつけたもので、労務者が心底こんな境遇に満足しているわけではない。
山谷暮らしとホームレスの接点は限りなく近いのだ。

さてこの作者が180日間のドヤ、飯場暮らしで本当に「働く事の意義」を知ったのかどうかは読者の判断に委ねられるのであるが、少なくともなかなか外部からうかがい知れない世界をレポしたドキュメンタリーとしては面白いのではなかろうか。


無頼の掟

2006-05-14 12:31:30 | 「ハ行」の作家
ジェイムズ・カルロス・ブレイク著『無頼の掟』 文春文庫 810円(税込み)


生まれついての犯罪者とも言える主人公ソニーの奔放でありながらも真摯な生き様がなんとも魅力に溢れている。
ソニーが幼くして“悪党”としてのニオイを嗅ぎつけた2人の叔父のあっけらかんとした悪人ぶりも面白い。
だがなんといってもそんな彼らに途中から加わるベルという女性の存在が俄然光芒を放ち始める。
本作品を読むにつれ主人公たちのあっけらかんとした悪党ぶりはS.ハンター著『ダーティホワイトボーイズ』のラマー・パイを想起させるし、最後の最後にぞっとさせる執拗かつ老獪な退職警官はトム・フランクリン著『密猟者たち』の残虐な動物保護監督官を彷彿とさせる。全編を流れる単なる虚無感とも違うアナーキーさは一体なんだろう?この作家の他作品を是非もっと読んでみたい。


この感想は昨年3月に当blog以外で書いたものです。邦訳最新作『荒ぶる血』に関連して載せてみました。





荒ぶる血

2006-05-13 15:45:13 | 「ハ行」の作家
ジェイムス・カルロス・ブレイク著『荒ぶる血』(原題:UNDER THE SKIN)
文春文庫 2006.04.10 762+tax

昨年『無頼の掟』でもって本邦で一躍注目を浴びたジェイムス・カルロス・ブレイク。
邦訳第二弾が本編『荒ぶる血』だ。時代及び舞台背景は前作同様1900年代初頭の米国とメキシコの国境付近だ。
著者は何故にこの時代と地域を好んで描くのであろうか?それは著者自身がメキシコで生まれテキサスで育った理由もひとつであろうが、何よりもこの禁酒法が施行された時代のアメリカが特段著者にとって魅力的なのではなかろうか。
この時代、米国都市部では密造酒をはじめ賭博、売春といったありとあらゆる犯罪を取り仕切るマフィアが横行した時代であったと思われる。
同じ時期、地方更に辺境の地はどのような状況下にあったのだろうか。ほとんど我々の想像外の世界であったろうことは確かだ。
船戸与一の言葉ではないけれど【国家の矛盾は辺境にこそ集約される】の通り、本編の舞台となったテキサス州及び近隣の州はまさに「無頼の土地」とも言うべき、暴力と富こそが正義の世界であった。
現代の自由、民主主義、更にグローバリズム云々を叫ぶアメリカ社会と違い、よりプリミティブな生活と心情を持った人々の、富への渇望、暴力への衝動、あからさまなセックスへの欲望の渦巻く当時のアメリカ。人間の本来の姿を描くには格好の舞台だと想われる。

1910年代に起こったメキシコ革命によって騒然となったメキシコ、エルパソ。反乱軍の将軍のひとりパンチョ・ピジャ(実在の人物)と彼の右腕であり冷酷な処刑人である“肉食獣”(エル・カルニセロ)と呼ばれ恐れられた男がエルパソのとある娼館の戸を叩いたことから物語は始まった。
“肉食獣”(エル・カルニセロ)が選んだ娼婦は仲間から“幽霊”と呼ばれた痩せぎすで長身のアバという女であった。

本編の主人公である“おれ”ことジミー・ヤングブラッドと彼が身を寄せたガルヴェストン島の暗黒組織マセオ兄弟及びジミーの相棒たち。
メキシコ革命で蹂躙された元アメリカ地方警備隊の中隊長で今は大農場主であるドン・セサール。
ドン・セサールが見初めて拉致した美貌の娘、ダニエラ・サラテ。

以上の登場人物がおりなすいくつものプロットがやがてパッチワークのように貼り合わせられた時、途方もない惨劇が待っていたのだ。リミッターが外れたような暴力シーンに溢れながらも読後感がある種爽やかなのは何故だろう?人間の性(さが)と業(ごう)について考えさせられる一篇で特段におすすめの一篇。

ダ・ヴィンチ・コード

2006-05-06 20:46:39 | 「ハ行」の作家
ダン・ブラウン著『ダ・ヴィンチ・コード』角川文庫上・中・下各552+tax

最近やっと文庫落ちしたことと今月20日から映画が劇場公開されるということで今更ながらではあるが読んでみた。
いや、これが面白い!ほぼ2日間で一気読み。モナリザの微笑の謎でも解いてくれるのかと思いきや、ダ・ヴィンチはあくまでも脇役。
確かに「ヴィトルウィウス的人体図」とか「モナ・リザ」そして「巌窟の聖母」など作中に出てきてそれなりの意味をもたすのであるが、主題はシオン修道会(プリウレ・ド・シオン団)が代々秘匿してきた“聖杯”伝説にまつわる謎解きであって、ダ・ヴィンチの作品は謎解きのための“道具”として使われている。

物語の内容については2年前の出版以来数々のメディアで取り上げられているのでここでは割愛するが、本書のおかげでレオナルド・ダ・ヴィンチの隠された顔、作品に込められた種々の暗号めいたメッセイジが随分と話題となった。
特に「最後の晩餐」に描かれたマグダラのマリアと思われる指摘は一般大衆にも好奇心を抱かせたことは確かだろう。
“聖杯”をめぐる真偽については別として、本書で語られる暗号とか象徴学を駆使した謎解きはある種の「知的ゲーム」のようで読んでいて極めて楽しいものであった。
余談になるが「黄金比」について語るくだりは懐かしい記憶を引き出してくれた。それは幼い頃ウォルト・デズニーの映画(題名は忘れたが)でかなり詳しく「黄金分割比」の説明が多彩な例を出してなされ、子供心にも摩訶不思議な印象を強烈に与えてくれたからだ。
更に亡きウォルト・デズニー自身がダ・ヴィンチと同じ系譜にいたとは驚きであった。

また、キリスト教に関しても作中の登場人物の口から語らせる部分が興味深い。いわく
「新約聖書を編纂するにあたって、八十を超える福音書が検討されたのだが、採用されたのは、それに比すればごくわずか…・マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの各伝だけだった」
「その編纂を命じたのはローマ帝国皇帝コンスタンティヌスであった」と。

最近(確か先月であったか)の興味深い報道として「ユダの福音書」の修復・解読がなされ、実はユダは裏切り者ではなかったことが判明し世界をあっといわせた。まだまだ隠れたあるいは隠された福音書が数多くあることが容易に想像される。

スローグッドバイ

2006-05-04 00:18:18 | 「ア行」の作家
石田衣良著『スローグッドバイ』2005/06/15 475+tax

20代の男女(ひとり30才の女性がいたかな)の出会いと別れを描いた10篇からなる短編集。
1.泣かない
2.十五分
3.You look good to me
4.フリフリ
5.真珠のコップ
6.夢のキャッチャー
7.ローマンホリデー
8.ハートレス
9.線のよろこび
10スローグッドバイ
の以上10編で読後感がほのぼのとしたのは4.「フリフリ」と6.「夢のキャッチャー」7.「ローマンホリデー」だ。いずれの恋愛も僕の貧しい青年期の恋愛と比べて現実感が希薄なシチュエーションばかりで、今更ながらこの手の小説を楽しむにはちょっと年がいきすぎた感がしてならない。