min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

傭兵代理店

2007-10-31 23:22:35 | 「ワ行」の作家
渡辺裕之著『傭兵代理店』 祥伝社文庫

オススメ度★★★★☆

著者の名前を見て一瞬俳優の渡辺裕之(映画「オンザロード」で昔デビュー。古っ!)かと思ったのだが、全く関係の無い新人作家とのこと。
日本人傭兵を描いた作品といえば古くは大藪春彦の『傭兵たちの挽歌』や柘植久慶のいくつかの傭兵物があるのだが、やめ刑事の傭兵という設定は初めてである。本作の表題ともなっている「傭兵代理店」という発想も面白い。この代理店は日本国内で単に傭兵に仕事を斡旋するだけではなく、海外における彼らの活動をサポートするシステムも合わせて持っている。
更に世界中の同様の傭兵斡旋機関とも連携を取り最新の業界情報をも収集している。
ま、平和国家日本ではます考えられない設定ではあるが発想としては興味深い。
さて、このやめ刑事出身の傭兵である主人公藤堂浩志だが、15年前にある猟奇的一家殺人の容疑者として逮捕された。
何とかその冤罪をはらした後、真犯人を追ってフランス外人部隊に入隊し犯人のあとを追う。しかし15年を要すしても犯人の行方は分からず、イラクかどこかで戦死したという噂を聞いた。
15年ぶりに藤堂が帰国した後、彼を待っていたかのように再び異常な殺人事件が起きた。
彼は再び15年前の真実を求めて復讐の鬼となる。
藤堂はスーパーヒーロー的な存在ではなくなかなか渋い中年の、実力と経験に裏打ちされたベテラン傭兵として描かれる。
彼を取り巻くサイド・ストーリーも程よく用意されて新人とも思えないプロットの構成がなされている。
舞台も東南アジアの何カ国かにまたがって展開され、その国際感覚もバランスがある。
久々の骨太な冒険小説作家として第二弾を大いに期待したい。

アヒルと鴨のコインロッカー

2007-10-28 23:45:56 | 「ア行」の作家
伊坂幸太郎著『アヒルと鴨のコインロッカー』創元推理文庫 

オススメ度★★★☆☆

冒頭からいきなり読者の気をひきつけるシーン、モデルガンを握って書店の裏を見張る青年が登場する。
青年の名は椎名といい、たった2日前に大学入学のために東北のとある都市に引っ越してきたばかりだというのに。一体全体何がどうなって彼は強盗の片割れになってしまったのか?強盗の目的がたった一冊の「広辞苑」を盗む、というのも全く奇妙な話だ。

物語は僕こと、椎名と引越し先のアパートの対面の部屋の住人河崎という学生、そして美人のペットショップオーナーの麗子さんが軸に物語が進行する「現在」とわたしこと、琴美とブータン人の留学生ドルジ、そして河崎が登場して物語が進行する「2年前」のストーリーが平行して語られる。
そしてこの時空が違う物語が交差するとき、思いもよらぬ謎が解かれる仕組みになっている。読者は交差して初めてそれぞれの時空で張られた伏線に改めて気がつき、意外な事の真相に驚くのである。
このあたりの作者の技量は確かに高いと言えるのであるが、どうも自分にはしっくりと楽しめないものを感じるのは何故なのだろう?
どうも登場人物の誰彼にも感情移入ができないことが原因のようだ。伊坂幸太郎氏が描く作中の若者達が僕にとっては全く現実味に乏しい、いや現実味がなくてもいっこうに構わないのだが、魅力を感じない点においては物語を読み進める上で致命傷となってしまう。
巷で評価が高い伊坂幸太郎氏であるが、ちょっとパスさせてもらうことにした。


まとめ3作

2007-10-21 17:10:02 | ノンジャンル
【お詫び】

先月から体調を崩し、PCに長らく向かうことができません。読書そのものには大して影響はないのですが。
10月に読んだ他の3作品は寸評でお許しください。


今野敏著『ST警視庁科学特捜班』講談社文庫 

オススメ度 ★★☆☆☆

STシリーズのハシリか。ある種の「超能力」を持った者たちで編成された捜査班の活躍が見ものらしいがその真骨頂が発揮される前段、といった感じはあるも次回作以降に乞うご期待!といったところかな。


ロバート・ラドラム著『暗殺のアルゴリズム(上・下)』新潮文庫

オススメ度★★★★☆

作者が亡くなって後発見された遺稿とのこと。ラドラムといえば代表作『暗殺者』を思い浮かべるのであるが、晩年の作品には往時の勢いがなくなった、との批評が多いが確かにその感は否めなかった。
本作品はそんな批判を払拭できる勢いが戻った作品と言えるのではなかろうか。


アンディー・マクナブ著『解放の日』角川文庫

オススメ度 ★★★☆☆

2年ほど前に読んだ『ラスト・ライト』のニック・ストーンが主役のシリーズ。
前作も冴えない元SAS隊員であったが、今回もこと女に対しては情けない限りだ。
彼女からほとんど“三行半”をつきつけられながら、しょうがなく諜報戦に戻ったニックであるが今回も苦戦を強いられる。
見張り、偵察、尾行、拉致の場面の描写は相変わらず“体験者のみが語る”迫力と真実感に満ちている。
このニックに報いられる未来はあるのだろうか?

名残り火(てのひらの闇Ⅱ)

2007-10-21 16:03:24 | 「ハ行」の作家
藤原伊織著『名残り火(てのひらの闇Ⅱ)』文芸春秋 2007.9.30 1619円+tax

オススメ度 ★★★★☆

藤原伊織氏の最後になってしまった作品。あの『てのひらの闇』の続編である。

親友である柿島の死をめぐりその真相究明に乗り出した堀江雅之。
今はひとりで経営する堀江企画の代表であるがかって属したタイケイ飲料宣伝部課長時代、彼を慕い強力にサポートした元部下大原真理子女史が再登場し、更にドカティをぶっ飛ばすナミちゃんも顔を出すにいたって読者はニンマリとし前作の記憶を懐かしく思い出すしかけになっている。
一匹狼で真相を探る堀江の前には新たに三上という容貌魁偉な社長が登場し、あんに反し彼の強力な助っ人となり、警察側にも極めて味わい深いキャラを持った関根という刑事が登場し脇を固める。
コンビニ業界の裏事情とその経営を巡る思想の違いがやがて殺人事件に至る紐解きはある意味意外性がありながら現実性に乏しい面もさらける。
だが、そんな枝葉末節な事を忘れさせる著者のストーリーテリングの巧みさはさすが!と唸らざるを得ない。
彼に続いた打海文三氏といい、同世代作家の中でも抜きん出て好きな作家のあまりにも早すぎる逝去にただただ残念としか言いようが無い。合掌。

雨の掟

2007-10-04 23:15:17 | 「ア行」の作家
バリー・アイスラー著『雨の掟』ヴィレッジブックス 2007.9.20初版 960円+tax

オススメ度★★★★★

これは面白い!久方ぶりの“ページ・ターナー”となった作品。

ここんところ無名の(と言っても僕にとっての)海外作家の作品をいくつか読んで全てハズレだったので、本編に対してもあまり期待感は持たないで読み始めた。
だが、真に嬉しい誤算であった。
「日米ハーフの殺し屋」という設定からして、ちょっぴり胡散臭い内容では?と最初は思った。
大概の作品では日本人や日本、あるいは広く東南アジアを描写する米国作家というのは、その独善的かつ浅薄な知識を降りかざし、ややもすると当事国に住む我々をして鼻白む思いにさせるのが落ちである。
だが、この作家はかって実際にCIA工作員として深く東南アジア、とりわけ日本に長く滞在し、なかなかこれらの国々に造詣の深いことがうかがわれる。
作品中、その経歴を生かしたエスピオナージ戦のディテールには感嘆させられる。
プロ同士の戦いぶり、敵はもちろん同士をも含めた互いの腹の探りあい、手の内の読み合い、戦術の先読み、エスプリの効いた会話、全てがハードボイルドしているのだ。

日本人ハーフの主人公ジョン・レインのキャラ造形を初め脇に登場するキャラ造形が極めて秀逸に描かれている。
ジョン・レインは単なる冷酷な殺し屋として存在するのではなく、時には哲学的な思考を持った、時には心理学者のごとく相手の心理を推し量る技量を持った、また複雑な生い立ちを持つ極めて興味深い人物として描かれている。

本編は“レイン・シリーズ”とも言える作品の4作目らしいが、これは間違いなく第一作目から読むべきであろう。ちなみに邦訳順としては
『雨の牙』『雨の影』『雨の罠』となっている。

邦訳のタイトルが『雨の・・・』となっているのは、主人公の名前から来ているのか知らん?
なんか久しぶりにメッケモンを得た悦びに浸った作品である。一読を強くお薦めしたい。