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min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

住野よる著『君の膵臓をたべたい 』

2017-07-07 15:59:44 | 「サ行」の作家
住野よる著『君の膵臓をたべたい 』 双葉文庫2017.4.30第1刷 

おススメ度 ★★☆☆☆

タイトルだけをみると一瞬カルバニズム(食人)のヘンタイ小説かと思えるほどのインパクトのあるタイトルだ。
だが中身はこの半世紀だけでも数えきれない程のテーマ「男女のどちらかが不治の病にかかって、云々」である事が分かる。
ただ双方が純然たる恋愛関係?にはない、というのが他作品と異なる点か。ストーリーについてはあまりにも知られていると思うので割愛するが、読みながらひっかかる部分だけ述べてみたい。
膵臓の病気にかかり医者からは余命一年あるかないか、と宣告された少女。だが膵臓の病気の種類、状態については一切語られない。一年も持たないかもしれない、という状態の中で、彼女が奔放に焼き肉食べ放題を楽しんだり、飲酒までするというのは未成年であることに加え、重病人が取る行動ではない。例えば膵臓ガンにかかった膵臓を食べたいとはさすがに主人公の男の子は思うまい。病状が不明なので最後まで彼女が言う余命一年という信ぴょう性が伴わない。「うわははは」と豪快に笑う17才の女子高生もそうそう居ないであろうし、例え好きでもない女の子とホテルの一室で夜を過ごし、彼女からもある種誘いを受けながらも手も触れない、という男子は存在するであろうか。
実際彼女の死ぬまでにやりたいことリストの一つに「恋人ではない男の子と、やってはいけないことをする」というのがあるのだが、これは余命幾ばくもない乙女というか若い女性の本心ではなかろうか。
もしあの場で主人公の男子がやってしまったらどうなるのか?そんな物語の展開は絶対にない!とう主人公と作者。
この一点だけでもこの主人公は「精神的ひきこもり」状態にある男の子であり、普通の青年とは異なることがわかる。
この子の視点からみると、彼女との関わりが精神的ひきこもり状態から抜け出すことが出来たとも言え、ひとりの風変わりな少年の成長譚となっている。
普段ミステリーとか冒険小説やハードボイルドばかり読んでいる小生には何とも落ち着かない小説である。ま、いま最もトレンディな小説という興味だけで読んだわけであるが、若い人たちには進めた本ではない。そんな暇があれば古今東西の名作と言われるどんな本でもいいからそちらを読んだらいかが?と言いたい。

桜木紫乃著『ホテルローヤル』

2017-06-18 15:33:43 | 「サ行」の作家
桜木紫乃著『ホテルローヤル』文庫 2015.6.30第1刷 

おススメ度 ★★★★☆

本作品は桜木さんの直木賞受賞作である。桜木さんの作品は過去「始終点駅」を読んだ程度であまり馴染みがない。
とはいえ、同郷(北海道)の作家であり親近感は湧くし、特に道東釧路出身の作家さんであり釧路方面を舞台にした作品は興味深い。
この「ホテルローヤル」は釧路湿原のふちに建つラブホテルにまつわる7つの短編からなっている。
「シャッターチャンス」
「本日閉店」
「えっち屋」
「バブルバス」
「せんせぇ」
「星を見ていた」
「ギフト」
以上の7作品だ。内容はホテルローヤルにまつわる人間群像を描いているのだが、時系列的には現代から過去に遡るかたちで描いており、ホテルの利用客、出入りする業者、現在の経営者、そして創業者のそれぞれの立場、事情を織り交ぜて語ることによってその時代の断片(特に北海道東部の最大の都市である釧路の隆盛を誇った時代からバブル崩壊後の衰退の模様)を鋭く切り取って描いていく。
最後の「ギフト」によってこのホテルが建てられた経緯や名前の由来、そして創業者の全貌を明らかにすることによって、その前に語られる物語で不明であった部分が繋がり、全体の作品群に対し読者により深い味わいを与えてくれる。
7作品の中で印象に残るのは「えっち屋」と「星を見ていた」であろうか。
実際この作家がラブホテルの経営者の元に生まれ育ったということで、この家業の裏表の事情を知り抜いた上での描写がありとても興味深いものがあった。最後に、辺境の地に生きる貧しい一般庶民の生きざまに注ぐ作者の暖かい視点が好感持てる作品である。


新保裕一著『ボーダーライン』

2016-02-27 13:58:15 | 「サ行」の作家
新保裕一著『ボーダーライン』集英社 1999.9.10第1刷 1,700円+税

おススメ度:★★★★☆

米国ロスアンジェルスの日系信販会社で調査課の探偵として働くサムこと永田修の元にある日本社筋から一件の依頼があった。
それは本社の重要な取引先の社員のご子息を探す依頼であった。サムは送られてきた隠し撮りと思われる写真を見て、何か違和感を覚えた。違和感は写真だけでなく捜査を開始してすぐにただならぬ相手ではないか?という疑問が彼の知り合いを通じて感じ取れたのであった。
結審前で留置されている彼(サニーと呼ばれた)の部下らしき人物からサニーの潜伏先を暗に示唆されるところまで成功して、サニーを探しに出た。教えられた場所の家に近づいたところへ一台の車が近づいてきた。
窓を下ろし「あんたが俺を探しているという探偵かい?」と満面の笑みを浮かべるなり突然手にした拳銃の全弾を打ち込んできた。
サムの車は幸いにも防弾ガラスとドアを補強していたため致命傷は免れたものの、若干の肩の負傷と何より精神的に大きなダメージを受けたのであった。
サニーという男はまるで握手をする感覚で平然と銃を発砲し人を殺して平気な人間であったのだ。

そんな彼の病的人格崩壊は既に日本で明らかになっており、これ以上日本にはおられずに米国へ逃れたものと思われた。そして数年経過した今、再び犯罪者としての噂が立ち始めた彼を追い、彼の父親が所属会社に知らせることなく単身渡米してきた。その目的とは?
人は生まれついての犯罪者というものが存在するのであろうか?タイトルのボーダーラインとは通常の国境の意味ではなく、人と、人であることから大きく逸脱した人間とのボーダーラインを意味したのである。
また本編のサイドストーリーから、米国人と日本人そして男と女の間に横たわるボーダーラインとも呼べる大きな境界線が存在することを、重厚なタッチで綴っている。相当に重いテーマを追求している作品であるが最後の展開でカタルシスを感じることが出来ほっとした。

真保裕一著『栄光なき凱旋 上中下』

2015-10-31 14:55:03 | 「サ行」の作家
真保裕一著『栄光なき凱旋 上中下』文春文庫 2009.6.10 各771円+tax

おススメ度:★★★★★

私が小学生低学年であった頃、少年マンガ雑誌で望月三起也氏が描くところの「二世部隊物語 最前線」というのを読んでえらく感動した記憶がある。
その当時この日系二世部隊が実際に存在したことなど思いもよらなかった。ただただカッコイイなぁという思い出だけである。
その後折に触れ第二次世界大戦中に米国に移住していた日系人が先の大戦にやむを得ず参戦したということは断片的に知ることとなった。
その事実を僕の目の前に突き付けてよこしたのが2010年に制作されたドキュメンタリィ映画すずきじゅんいち監督による『442 日系部隊・アメリカ史上最強の陸軍』であった。
この映画では主にハワイ出身の日系人を中心にヨーロッパ戦線における二世部隊の活躍を描いたドキュメンタリー作品である。
442部隊の名を一躍有名にさせたのは「テキサス大隊」の決死の救出作戦であった。彼ら日系人部隊が流した血によって得られた日系人の名誉回復及び地位の向上は戦後の経済的成功ばかりではなく、ハワイ出身の合衆国上院議員ダニエル・K・イノウエ氏の存在を見るまでもなく社会的にも日系人の存在が認められた。
そして本作『栄光なき凱旋』が映画公開を先立つこと1年前に上梓されていたとは知らなかった。真保裕一氏については彼の代表作とも言える「ホワイトアウト」を熱狂的に興奮して読んだ記憶があり、その他「奪取」でも大いに楽しまさせていただいた。
この作品の存在を知ったのは先述の望月三起也氏のインタビュー記事によってである。同氏は病床で本作品を読みふけりながら最終章に近づくにつれページをめくるのがもったいないような感じに陥ったと述べられているがそのお気持ちが良く分かる。
本編はアメリカ本土ロスアンジェルス及びハワイ島出身の日系二世である、ジロー、フランクそしてマットの3人の青年の目線から描いた戦争叙事詩である。
日本軍によるパールハーバーへの奇襲攻撃によって彼ら日系人の運命は急転直下に変貌をとげた。
米本土の日系人社会そしてハワイの日系人社会のおかれた微妙な差異そして気質の違いが混生部隊で出会うことにより鮮明化される。
そして本作品の一番の注目点は南太平洋戦線に派兵された日系米人とりわけ語学兵の活躍を描いた点にある。かって日本の小説でこの日系米軍兵士の視点から太平洋戦争を描いた小説としても価値ある存在となった。
もちろんヨーロッパ戦線へ送られた442部隊の戦闘の模様も描かれる。戦場の破壊の凄まじさ、容赦なき殺戮の様、まるで映画を観ているような臨場感溢れる描写だ。
同じ日本人の血をひく同士が国家という違いによって敵と味方に分かれて戦う悲劇。日系二世たとは日本という国から見捨てられ、裏切られたばかりではなく彼らの今住む国家、アメリカからも裏切られてしまった。この現状を切り開くには自らの血を捧げること以外方法はなかったという。そのせっぱ詰まった思いが我々読者の胸をえぐる。最終章、僕が最も共鳴した主人公のひとりジローの姿を追いながら最後に僕は涙した。そして彼のストイック性と精神の強靭さに感動した。



桜木紫乃 著『起終点駅(ターミナル)』

2015-09-18 10:35:21 | 「サ行」の作家
桜木紫乃 著『起終点駅(ターミナル)』小学館 2012.4.16 第一刷 1,500円+tax


おススメ度:★★★★☆


「ホテルローヤル」で直木賞を受賞した今話題の北海道出身の女流作家の作品。北海道出身の女流作家といえば、寒いところの出身が多い気がする。
古くは「氷点」の三浦綾子を思い出す人が多いかも。
この桜木さんも少女のころ同じ釧路出身の女流作家、原田康子の「挽歌」を読んで感動しその後大きな影響を受けたという。

さて、本編はこの本の表題となった「起終点駅(ターミナル)をはじめ
「かたちのないもの」
「海鳥の行方」
「スクラップロード」
「たたかいやぶれて咲け」
「潮風の家」
の6編よりなる。どれも力作といえる。表題作「起終点駅」は近々映画化されると言うことで話題となっているようであるが、僕としては「海鳥の行方」
と「たたかいにやぶれて咲け」を評価したい。この2作に登場する新米新聞記者山岸音和がなかなか良い感性を持っている。
また「潮風の家」は今なお後を引く出自の問題はずしりと重い感情を残す。
とまれ、久しぶりに読む文芸作品は翻訳ものの文章とは異なり、やはり日本語の奥深さを感じ取れるものであった。

ラフィク・シャミ著『愛の裏側は闇(1)』

2015-01-06 12:06:35 | 「サ行」の作家
ラフィク・シャミ著『愛の裏側は闇(1)』 (原題:Die dunkle Seite Lieb)2014.8.29
東京創元社 初版 2,200円+tax
おススメ度:★★☆☆☆

本の紹介分の一部に

「ふたつの物語の断片に、一族の来歴、語り部による哀話や復讐譚を加えて構成された全304章が、百年にわたるシリアの人々・風土・文化が埋め込まれた壮大なモザイク画となる。今世紀最大級の世界文学第一巻!」

とあるのだが、本当に今世紀最大級の世界文学なのか!?と思わず突っ込みを入れたくなる作品だ。
先ず、対立する二つの家系の男女が恋に落ちれば?といった古典の名作「ロミオとジュリエット」的なロマンチックな悲恋小説と思ったら大間違い。
舞台は中東シリアなのだ。この地を舞台に一世紀以上に渡り、血で血を洗うような抗争を繰り返してきたアラブの二つの家系。複雑なのは彼らがキリスト教とイスラム教との対立か?と言えばそうではない。
この地ではマイナーとは言え、れっきとした歴史を背負う「東方典礼カトリック教会」と「正教会」同士の争いだ。歴史的背景についてはこの場で割愛するとして、両家がどのような発端で邂逅し、何が対立の火種となったのか。
本書はその抗争が始まったという1870年頃から話をスタートさせる。全ての物語は著者がドイツに亡命する1970年頃までを描いているようだが、それまで前述のように304章を費やし、本編では65章まである。
本編の主人公となる3代目にあたる男女、ムシュターク家の男ファリードとシャヒーン家の女ラナーは本書の冒頭及び最後にちょっと登場するのだが、その他はすべて彼ら以外のそれぞれの一族同士の抗争を描いている。
その抗争の様は吾々現代の日本あたりに住む者にとってはまさに“異世界”の物語のように思われ、その激しさ、情熱的な出来事に目を奪われる。
例えば暴力的な抗争以外の性的表現に関して特に興味をそそられるのかも知れない。だが人間の情(さが)というものは抑圧されればされるほど情熱的になってくるものだ。
要は、このちょっと我々と違った“異世界”の出来ごとの詳細を知って喜ぶか、それがどうでもいいじゃないかと突き放して考えるか。
はっきり申し上げれば、糞みたいな土漠に住む欲情むき出しの者ども同士の争いごとなどどうでもよい。どちらの者たちにも感情移入なんて出来ないからだ。
ここが分岐点で、このまま(2)巻(3)巻に進むかどうかが決まるようだ。どうも僕は後者のようだ。
作品のおススメ度を★二つに止めた理由は上述の通りであり、あくまでも他人へお奨めしたいかどうか?の場合の基準であってけっして本作品の出来栄え云云の話ではないことをお断りしておきたい。

ダン・シモンズ著『エンディミオンの覚醒上・下』

2013-07-16 10:41:33 | 「サ行」の作家
ダン・シモンズ著『エンディミオンの覚醒上・下』ハヤカワ文庫SF 2002.11.30 第一刷 

オススメ度 ★★★★★

いやはや本書の文庫版が届いて驚いた。上下巻とも700pを越える分厚さに!シリーズが進むにつれボリュームが増していくではないか!いや本の分厚さだけではない、物語の内容も広大無辺に広がってゆく。ダン・シモンズさん、一体どうやって広げた大風呂敷をたたむおつもりか!?
それは下巻で見事な大円団を迎えることによって答えを出した。ストーリー展開上多少の齟齬が生じるのはやむを得ないではないか。作者のご都合主義が鼻につくかも知れない。だが、ここまで壮大な宇宙叙事詩を表現した著者に拍手を送りたい。
このシリーズの根幹部分をなす著者の宗教観。特にキリスト教と仏教との間の宗教論議は興味深かった。著者は明らかにキリスト教の環境下で育ったことは明らかであるが、キリスト教の限界を感じつつもやはりその世界からはみ出しはしない気がする。
仏教における宇宙観はキリスト教的世界観をはるかに凌駕する。それにしても著者の東洋思想への造詣の深さには驚かされた。また、明らかに作中に日系の人物が幾人か登場するが実際の彼の周囲にもこれら人物のモデルとなった友人、知人がいるのであろう。
いつか日本を舞台にした作品も書いて欲しいものだ。










佐伯 泰英著『徒然ノ冬-居眠り磐音江戸双紙(43)』

2013-07-07 11:18:49 | 「サ行」の作家
佐伯 泰英著『徒然ノ冬-居眠り磐音江戸双紙(43)』双葉文庫 2013.6.16 第一刷 各648円+tax

オススメ度 ★★★☆☆

今や我が読書生活の中では完全に癒し系読み物?と化したかに思えるシリーズの43作目。
今回は際立った切り会いシーンもなく子梅村の坂崎一家と尚武館に関わる者たちの徒然が語られるので、一部ファンから物足りない!という不満が聞こえてきそうな内容となっている。
しかし、前回田沼一派との闘争の中で矢毒に倒れた霧子の様子が気にかかっていた自分にとっては本書の実に半分近くを費やして描いてくれたのには大いに満足した。
霧子が本シリーズの中では異色の魅力を持った存在であることに今更ながら気づかされた。
彼女は幼少の折、多分浚われて雑賀衆のくノ一として育てられた。磐音らと出会ったのは雑賀衆が西の丸家基の命を狙って襲撃して来た時であった。雑賀衆は磐音らの手によって全滅したのであったが、ひとり霧子だけが生き残った。
磐音は彼女に憐憫の情を抱き、その後見人として磐音を影に日向に守っていた御庭番であった弥助の手に委ねた。
霧子は佐々木道場の門下として道場に寝起きするようになった。その後磐音一統は田沼一派の手を逃れ西国に向けて下京し、おこんの出産も間近にせまり切羽詰まった折、霧子がかすかな記憶を辿って生まれ育った熊野の“姥捨て郷”へと一統を導いたのであった。
佐々木道場の若手筆頭門下生のひとり利次郎といつしか相思相愛の仲となるのだが、今ここで大切な霧子を失う訳には行かない。
磐音らはそれぞれの方法で霧子の意識が戻ることを祈願するのだが、圧巻は磐音の「直心陰流奥義法定四本之形奉献」を密かに始めたことと、最後に門弟衆の前でそれを披露したことであった。
これ全て霧子の意識が戻る為に行われたことは特筆すべきことである。ま、結果は言わずもがなではある。
とまれ、物語の進行は尚も足踏み状態ではあるが、50巻に近づくに従い、大きなうねりとなって進むことを願っている。





ダン・シモンズ著『エンディミオン上・下』

2013-06-30 06:29:35 | 「サ行」の作家
ダン・シモンズ著『エンディミオン上・下』ハヤカワ文庫SF 2002.2.20 第一刷 

オススメ度 ★★★★★

Amazonの本の紹介文によると
『連邦の崩壊から三百年あまり、人類はカトリック教会、パクスの神権政治のもとに統べられていた。惑星ハイペリオンの狩猟ガイド、青年エンディミオンはパクス法廷により冤罪で処刑される直前、一人の老人に命を救われた。なんと老人はかつてのハイペリオン巡礼者、詩人サイリーナスだった!老人は、まもなく開く“時間の墓標”から現われる救世主を守ってほしいと彼に依頼してくるが…傑作SF叙事詩、堂々の第三部。』
とある。

本編の語りは今までのシリーズと違い、主人公であるロール・エンディミオンという青年の“ぼく”という一人称で語られる。この分、青年のひたむきさや勇気なんかが読者が思わず応援したくなる手法となっているのではないか?
青年が守るべき少女というのが後に「教える者」と呼ばれ人類の救世主となる12歳の少女アイネイアーなのであるが、なんと『ハイペリオン』で登場した7人の巡礼の一人探偵ブローン・レイミアの娘で、父親は詩人キースのサイブリットなのであった。
それに詩人マーティン・サイリーナスの執事として仕えるAIのA・ベティックが加わり“テクノコア”が開いて崩壊したはずの“転移ゲート”を使ってかってのテテュス河を手製の筏に乗っていくつかの惑星を旅する。彼らが目指す最終の地は不明で、何者かが導いていく通りに向かうしかない。
一方、この時代全宇宙の大半のヘゲモニーを握ったのがあの復活十字架寄生虫の“カトリック教会”。法王はアイネイアーを人類の災いの元となる、というよりも教会の脅威となると恐れ、少女の捕捉を軍に命令したのであった。
その任にあたったのがデ・ソヤ神父大佐以下3人の屈強なスイス護衛兵。操る宇宙船が時空を超える航法を取る度にこの4人は死亡し、そして“復活”を繰り返す。その苦痛はあまりにも痛ましい!

先に述べた筏で旅する3人をパクス軍の4人が追うという、「全宇宙をかけめぐる大冒険活劇」が展開されるわけだ。
更に謎のシュライクと更に強大な“女戦士”との激突というおまけまでついて、後半部分はまさに手に汗握るシーンの連続とあいなる。ところでこの“女戦士”のイメージであるが、かのハリウッド映画「ターミネイター」で登場した女ターミネイターを彷彿させた。こんな思いをしたのは僕だけ?

ここへ来て、本シリーズの謎の部分が大方明らかにされるのであるが、それでもまだ未知の謎が残される。最終部の『エンディミオンの覚醒』で果たして全ての謎が明かされるのであろうか!?

ダン・シモンズ著『ハイペリオンの没落 上・下』

2013-06-06 18:20:08 | 「サ行」の作家
ダン・シモンズ著『ハイペリオンの没落 上・下』ハヤカワ文庫SF 2001.3.20 第一刷 

オススメ度 ★★★★★

「ハイペリオン」第一部で謎として残されたものが、第二部で怒涛の勢いで明らかにされる。と言っても僕が果たしてその解答を全て理解出来た訳ではない。

7人の巡礼は誰が送り込んだのか?シュライクという怪物は一体何か?時の墓標ってなんだ?時空を超えてカッサード大佐にからむモニータって何者?
転移装置ってまるでドラエモンの“どこでもドア”?テクノコアは何処に存在する?

一応解答らしきものが与えられるが未だに謎の部分が多すぎるのだ。
だが、面白い!一体全体どんな頭があればこんな物語が描けるのであろう!?ダン・シモンズという作家に畏怖の念すら感じる。
本編の中身はSF小説であるばかりではなく、上質の冒険小説であり、ポリティカル・ノベルであり、歴史小説であり更に恋愛小説とも言える。これだけありとあらゆる要素を詰め込んだ小説は類をみない。
ただひとつ言えるのはやはり西洋人的な発想というか根幹に据えられているものが「キリスト的世界観」から逸脱してはいない、といこと。
また我々東洋人には馴染みが薄い「ギリシャ神話」がバックにあり、そのギリシャ神話を謳ったジョン・キースという18世紀の詩人の存在が大きい。この辺りの知識の素養があればより本編を楽しむことができよう。
とまれ、“ハイペリオン”シリーズがSF小説界における金字塔であるという評価はゆるぎないものと確信する。