min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

ドリーミング・オブ・ホーム&マザー

2008-03-14 13:08:30 | 「ア行」の作家
打海文三著『ドリーミング・オブ・ホーム&マザー』光文社 2008.02.20 1,700+tax

オススメ度 ★★★☆☆

昨年10月、心筋梗塞で突然逝ってしまった打海文三氏。もう彼の新作を読むことが出来ないのか!と思っていたところ、彼のブログ『パンプキンガールズは2度死ぬ』で連載されていた本作が出版された。本作が遺稿となったようだ。

本作の登場人物は少ない。幼なじみの田中聡(さとる)と佐藤ゆう、そして聡が敬愛する女流作家小川満里花の3人だ。それと小川満里花が飼うイエケという1頭の犬。
聡とゆうは幼い頃近所に住んでいた。月光という聡の叔母が飼っていた犬を巡り、ふたりは辛い思い出を共有する。
そして後で判明することであるが小川満里花もまたこの件に関わっていた。
物語はこの3人の三角関係、いや厳密に言えばイエケを加えた四角関係とも言える、ミステリアスで残虐かつ幻想的な物語である。

ゆうは打海作品で何度も登場する女の子のタイプ、聡明で快活、早熟にして小悪魔的、そして瑞々しい肉体を持った蠱惑的な女性として描かれる。過去作品で言えば「されど修羅ゆく君は」と
「愛と悔恨のカーニバル」に登場するヒロイン、姫子のようであり、その奔放さと強靱さは「裸
者と裸者」と「愚者と愚者」の椿子と桜子に通じるものを持つ。
こうしたタイプの女性を好むか嫌悪するかはまさに読み手側の感性に委ねられるのであるが、僕の個人的な好みとしてはグッとくるものがある。
この手の女の子に翻弄され、結果としてはほとんど受け身で受け入れる聡はまさに「ヘタレ男」なのかも知れない。
聡は幼い頃から成人になってゆうに再会した後も彼女に対しては「ヘタレ男」であった。
もう一方の小川満里花は若さではゆうには負けるかも知れないが、ユニークさとある種病的ともいえるエゴと傲慢さは、通常の女性からは考えられないものを持っており、聡はその両者に惹かれている。
彼らの3人の微妙な関係が進む一方で、東京の新宿あたりで新種のSARSが発生し死者が出たことが報じられる。やがてこの新種のSARSはどうも犬を媒体としているらしく、国内ばかりではなく海外にまで波及し始める。
(以下ネタバレあり)







新種のSARSは東京SARSと名付けられ、感染は更に広がり死者も増大する。ゆうと聡はこの感染源は小川満里花の飼うイエケではないかという疑念を持ち、その裏付け捜査を始める。
やがて真相が明らかになるにつれ、事実関係のエロチックではあるがグロテスクな背景が浮かんでくる。
イエケが小川満里花を求めて暴走するくだりは目を覆いたくなるほどの惨劇を創出するのであるが、この責任の一端は明らかにゆうにあり、ゆうが小川満里花とセクシャルな関係を持ったことがイエケを嫉妬、錯乱させたと言っても過言ではない。
また本編の中では明確に触れられないけれども、元々このSARSを持ち込んだのはゆう本人ではなかったろうか(フィリピンから)?
結末は最悪の事態で終えるのであるが、ここで全てを覆すような展開となる。読み手側がそれぞれ独自に解釈できるような内容であるが、著者の意図するところが何であったのかを知る手段は今となっては既にない。
今更SARSというのもピンと来ないが、この結末も個人的には理解、納得できないものであっった。似たような作風は「ぼくが愛したゴウスト」あたりにありそうだが、残念ながら未読だ。

最後に、
かえすがえすも残念なのは「裸者と裸者」「愚者と愚者」に続くはずの「覇者と覇者」が読めないこと。三分の二まで書き上げたという情報もあるのだが、未完でもなんでもいい!読みたい!


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