これはかなり変な映画で、予告編からとてもそそられていたけど、
改めて、こんな映画見たことないなぁと思ったし静かに圧倒されました。
2017年ベルリンで金熊賞も納得のハンガリー映画です。
同じ夢を見る男女の話で、甘くロマンチックになりがちなところを
女性を、多分発達障害があってコミュニケーションが難しい造形にしたことで
少し不思議なテンポの映画になってる。
このヒロインの特性が、実際なら、このやや凡庸な男にとって障害になるだろうけど、
そこに別に突っ込む気になりませんでした。それだけよくできた映画だったので。
男は片手が不自由で動かないという設定で、
だからこそコミュニケーションのできない女と繋がり通じ合える
似た孤独を持っているのだ、なんていうのも、すごくわかりやすい描き方だけど
これも、全然あざとくなく自然にうまく描かれているのです。
男は、男として結構ずるいというか、勝手でひどいところもあるし凡庸だけど
不思議な魅力がある俳優だと思ったら、プロの俳優ではないらしいです。
どちらかというと書き手、作り手側としてやってきた人のようですね。
冒頭の、すべての音を柔らかい木々が吸収しそうな静謐な森の中を鹿が歩くシーンだけで
ああこれはいい映画だと安心して見られる気がします。ものすごくきれい。
その後の食肉工場で牛のを見せるシーンの映像はショッキングといえばそうだけど
ドキュメンタリー映画のように静かな目で撮られていて、SF的な美しさがあります。
全体的に映像はゆったりとして美しい。
雄鹿と雌鹿として同じ夢を見る男女が、そのことを知り、互いに関心を持ち
少しずつ知り合っていくうちに・・・という話をとてもゆっくりしたテンポで描く。
息遣いや足音など生活の音がコツンコツンと聞こえる映画ですが
ヒロインが「愛」を学習しようとして買うCDの音楽は、悲しいんだけどとてもいい。
全体にハイキーで白っぽい清潔感漂う北欧っぽい映像なのですが(シーンでさえそうです)
この歌だけはラテンな愛(の終わり)に満ちています。
「映像に文体がある」という表現があるならば、まさにこんな作品をいうのではないか。
と西川美和監督がコメントしていたけど、
まさにそう。ユニークで静かな文体で惹かれ合う二人の揺らぐ心を描く映画。
公式サイトやチラシに書かれている有名人からのコメントって
バカバカしいものや見当はずれなもの、陳腐でありきたりなものが多いと思ってるけど、
この西川監督のコメントにも以下の深田監督のコメントにも深く頷いた。
ここに書かれたシーンもずいぶんゆっくりと写されてて、安心して繊細さを味わえる。
日の光が食肉工場の一角に陰陽の線を引き、影の際に潜むように立つヒロインの爪先を淡く照らす。彼女はすっとわずかに足を引き全身を影へと沈める。この素晴らしく繊細なショットに心を撃ち抜かれ、あっという間に『心と体と』が好きになってしまった。―深田晃司(映画監督)
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