塩哲の色不異空

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ミュージアム巡り 光悦の大宇宙 橘松竹鶴亀蒔絵文台硯箱

2024-08-03 05:07:23 | ミュージアム巡り_2024
 続いて、「橘松竹鶴亀蒔絵文台硯箱」(安土桃山時代、木製漆塗、硯
箱:23.7/22.1/4.6cm、文台:34.5/59/9.2cm、一具、京都・北野天
満宮所蔵)で、月に照らされた水辺の土坡に松や竹、橘が生え、鶴や亀
が遊ぶ様子が描かれた文台硯箱一具。
 硯箱はすべての面に角を持たない形状で、銘文から制作年代がわか
る点も特徴の一つ。ところが、ここに疑問が隠されている。

 文台裏と硯箱の蓋裏、身内底にはいずれも粗い梨子地に金蒔絵が施
されており、文台は慶長6年(1601)の「千句法度」が記され、硯箱蓋
裏には薄図に和歌が散らされている。身内底には山中長俊による慶長
2年(1597)の銘があり、本作は河越弥左衛門に作らせたこと、文台の
「千句法度」は里村昌叱、硯箱蓋裏の和歌は道澄にものとされる。
 問題は慶長2年の銘文中に、慶長6年の文台裏銘についての記述があ
る矛盾だ。どちらかの銘は伝承に基づく後入れと考えられ、作風とし
ては慶長年間として不自然ではなく、連歌に造詣の深い谷中長俊が作
らせたことも不審ではない。いずれの銘も内容自体は考慮すべき情報
が含まれている。
 たとえば、蓋裏の和歌は万葉集に類歌があるものの一部異なり、同
じ歌には「岷江入楚」(中院通勝)に源氏物語「浮舟」の「橘の小島」
に関する歌として引用されている。なので、本作の景観は有り明けの
月が浮かぶ「橘の小島」とも重ね合わされたものとして推測される。
TNM(台東区上野公園13-9)
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