とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

巫女さん画家

2013-02-17 23:19:04 | 日記
巫女さん画家




出雲大社神楽殿(フリー画像)。出雲大社の結婚式はここで行われる。がっしりとしたシルエットの建物と大注連が厳かな雰囲気を醸し出している。



巫女による浦安の舞(Wiki)


 ご縁市場での最初のこども教室が終わってから、娘の治子から意外な事実を知らされました。日本画家の笙子さんが出雲大社で巫女の修業をしているというのです。

 それは誰から聞いたんだ。

 京子さんから最近聞いたけど・・・。

 ご両親や実のお父さんはご存知だろうか。

 さあ、それは分からない。・・・ただ、以前から出雲的なもの、ていうか、出雲の阿国に強い関心を持ってたみたい。

 宍道湖をこれから描きたいと私に言ってたけど・・・。

 だから、私は、そういう画家としての道にとって巫女という仕事が必要だったと思う。・・・しかし、ほんとのところはよく分からない。

 仙女さんと郁子さんに刺激を受けたんじゃないかな。

 そんな軽薄な動機を挙げたら失礼じゃないの、お父さん。もっと深い絵の世界をつかみたいという・・・。

 そうか。きっとそうだ。あの方は本当に一途なところがある。私が知っている以上にもっともっと深い世界を持っておられる気がする。

 お父さん、それは私へのあてつけなの。

 いや、ご免、そういう訳じゃない。

 郁子さん、京子さん、笙子さん、それぞれすばらしい方ばかり。それに引き替え、私なんか何をやっても中途半端・・・。

 おいおい、そんなにひがむなよ。

 でもね、教室のこどもたち、かわいい。・・・そうね、私には私の道が開けたみたい。

 そりゃよかった。これからもっと教室を大きくしたいなあ。・・・私は娘と笙子さんに励まされたような気がして、嬉しくなりました。

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こども教室開始

2013-02-15 23:48:42 | 日記
こども教室開始





 寺子屋


 ご縁市場の最後の残り部屋を使って、私のこども教室が始まりました。最初の講師は娘の治子、アシスタントは妻、私はコーディネーターという役割で始めました。土曜日の午前中ということで募集をかけたところ15名集まってくれました。初めはお絵かきということで、水彩画の指導をしました。


 今までは他のところで竹細工などをしましたが、今日から小学校の教室をお借りしてのびのびと楽しく活動したいと思います。では、早速今日の先生を紹介します。伊藤治子先生です。よろしくお願いします。

 初めまして、伊藤と申します、よろしくお願いします。ええ、では今日は水彩画の基礎を少し勉強したいと思います。みんな画用紙を配りますので鉛筆、絵具を準備してください。パレットを持っていない人はここに多少ありますので、後で取りに来てくださいね。そう治子が言うと、妻が画用紙の配布を始めました。

 パレットのない人、手をあげてください。・・・ああ、三人ですね。取りに来てください。

 では、今日描いてもらうのは、山茶花です。壜に一枝ずつ挿してありますので、これも取りに来てください。水をこぼさないように気を付けてね。

 さあ、それでは、鉛筆を出して下書きをしましょう。鉛筆は4Bくらいの濃いのがいいですね。最初は薄く輪郭を描きましょう。それから少し濃く仕上げをします。線の太さを違えて描いて、全体に線のリズムが出てくるようにしあげましょう。リズム、分かりますか。・・・私は、治子のいきいきしとした表情を久しぶりに見て、頼もしく思いました。

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葬儀の後

2013-02-13 23:04:40 | 日記
葬儀の後




 地元の葬祭会館で京子さんのお父さんの葬儀が仏式で執り行われました。私も妻と会葬しました。会館の入り口で子どもを連れた京子さん夫婦、お母さん、冴子さん、長柄さんと娘さんの出迎えを受け、私たちはお悔やみの言葉を述べました。
 会場に入って驚きました。かつて銀座で京子さん夫婦の二人展をしたときにお目にかかった画壇関係者が大勢おられたからです。また、ご縁市場関係者も多数来ていました。それから、ご縁市場近くの地元のお方も随分来ていました。
 ・・・すごいねえ、と私は妻にいいました。葬儀は二佛で行われ、お経の内容からして禅宗と思われました。喪主の冴子さんのお礼の言葉を聞きながら私は山上の観世音菩薩を思い描いていました。・・・遠くへ行ってしまったお父さん。お父さんの過去にはいろいろなことがありました。しかし、冴子さんの挨拶はそのことには触れず、地元に帰って往生することが出来た夫の幸せ、温かく迎えていただいた親戚、地元のお方に対する感謝の言葉だけの内容でした。それが一層私の心深く染み込んでいきました。
 続いて代表焼香。人数が多く、なかなか一般の焼香が始まりませんでした。葬儀の後で、冴子さんがお礼の電話をかけてくれました。


 いろいろなお方のご縁で出雲に帰ることが出来て夫も幸せだったと思います。

 貴女の挨拶、よかったです。・・・でも、寂しくなりましたね。

 ええ、当分の間は何もできないと思います。

 もっと活躍してほしかった。・・・子どもたちと一緒にいろんなものを作りたかった・・・。

 ・・・。

 一言だけ聞いてもいいですか。

 えっ、何でしょう。

 これからも出雲で・・・。

 出雲で・・・。何でしょうか。

 ・・・続けてください、あのお店。

 ・・・。

 でないと、京子さん夫婦が寂しがる・・・。

 ほんとに。

 本当ですよ。

 ・・・。

 出雲画廊が心の支えだと思います。

 お母さんはどう思っておられるのか・・・。

 お母さんも同じだと思います。ご縁市場のみんなも同じ気持ちだと思います。

 分かりました。少し考えさせていただきます。・・・私は心の中で必死に祈りました。

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お父さんの死

2013-02-11 22:48:01 | 日記
お父さんの死




絹本著色仏涅槃図(Color on silk. Located at Kongōbu-ji, Mt. Kōya, Wakayama, Japan)(Wiki)

 ご縁市場の中に私の子ども教室もしっかり根を下ろしたい。ある日の朝、そんな計画を妻と話していました。絵の方では娘の治子を工作は京子さんのお父さんを・・・などと話していました。先ずお父さんに電話してお願いしておこうと思って、冴子さんの家に電話しました。ところが、大変な事態になっていました。

 ああ、冴子さん、どうも、例の子ども教室の講師のことだけれど・・・。

 あっ、畝本さん、大変なの。主人が急に倒れてしまって、今、佐山先生に診てもらっているところ・・・。

 えっ、ど、どうなさったんですか。

 今朝起きたとき、頭痛がすると言って頭を抱えて転んだんです。すぐに佐山先生に連絡して来て貰いましたが、どうも脳出血で入院しなければいけないそうで、救急車を呼んだところです。

 そりゃ大変だ。私もすぐ行きますから・・・。

 いや、結構です。すぐ病院に行きますので。

 病院はどこですか。

 県立です。

 中央病院ですね。

 そうです。

 じゃ、そちらの方へすぐ行きますから。

 いやいや、結構です。今、京子さんに連絡したところです。

 じゃ、後程。・・・そう言って電話を切ったものの、私は動揺して何もできないような状態でした。妻に事情を告げると、も少し落ち着いてからにしたら、と言いました。私は家の中をうろうろ歩き回っていました。それから2時間くらい立ったころ、冴子さんから電話がありました。

 具合はどうですか。

 ・・・だめでした。あまり急なことだったので・・・。

 京子さんやお母さんは・・・。

 二人とも間に合いました。・・・それだけが・・・。

 ああ、死に目会われたんですね。

 ええ。

 そうですか。それはよかった。私はそのことを聞いて多少は落ち着きました。しかし、突然の出来事をどう頭の中で整理していいか分からなくなりました。自分は今何をしたらいいのか、いや、何をしなければならないのか・・・。

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花束が欲しい

2013-02-09 22:34:04 | 日記
花束が欲しい





 ご縁劇場の舞台関係の工事がすべて終わり、劇団湖笛が本拠地をこの劇場に移しました。初稽古の日には地元のフアンが多数押しかけました。マスコミ関係者も数社取材に来ました。ご縁市場はいよいよ飛躍的な発展の時期を迎えた訳です。
 ご縁劇場の事務局関係者、劇団のスタッフ、キャストなどがすべて勢揃いしました。舞台稽古の初めにマスコミ向けにキャストがすべて勢揃いし、舞台監督の指示を受けながら模擬の稽古をしました。フラッシュが浴びせられ、テレビカメラが動き出すと、舞台には張りつめた空気が漂い始めました。終わると、舞台からキャストが降りて、インタビューを受けました。やはり質問は中村仙女の二代目を目指す坂本郁子さんに集中しました。

 坂本さんは今度上演される「悲恋の盆唄」の中でどういう役を演じられるのですか。ある記者が質問しました。

 はい、まだまだ未熟ですが主役の村娘、里(さと)を演じる予定です。

 悲恋という題名が付いているのはどうしてですか。貴方が失恋でもする筋書になっているんですか。

 はい、失恋というのではなく、仲を引き裂かれるという筋書きです。

 引き裂かれる、どうしてですか、と他の記者が尋ねました。

 すみませんが、そこのあたりの経緯は実際に舞台をご覧になるとお分かりいただけると思います。

 分かりました。貴女は宣伝が旨いですね。そう記者が言うと会場に笑い声が響き渡りました。

 中村仙女さんは指導に来られるんですか。

 いえ、恐らく来ないと思います。

 そうですか。それは残念ですね。しかし、二代目養成のために直接ご指導なさった方がいいのではと思いますが。・・・この質問は舞台監督の松江さんが引き取って答えました。

 ごめんなさい。この劇団では演技の基礎的なことを身につけさせ、それから仙女の劇団に移籍することになっています。

 ここで何年くらい修業なさるのですか。それから、他でも公演なさるのですか。

 はい、何年かかるのかということですが、これは私の資質と努力にかかっていますのではっきり言えません。他でもというご質問ですが、これは監督にお願いしたいと思います。

 そうですね。計画としては持っていますが、プロの劇団ですので、仕上がりを見て私が判断します。

 郁子さんはお母さんに似て美人でいらしゃるんで、敢えて質問しますが、長年裏方をなさっていたとき、舞台を見ていて自分もいつか・・・という気持ちになられたことはあったんですか。

 美人かどうかは分かりません。しかし、舞台が終わってカーテンコールなど、お客さんとの交流の様子を見ていて、役者はすばらしいとは思っていました。特にお客さんから花束をプレゼントされるときなどは・・・どう言いますか、羨ましいと言いますか、役者さんはいいなあと正直思っていました。

 そうですか。スタッフの悲哀という訳ですね。

 いえ、そういうことではなく、私は花が好きなんです。農場で作っているときは幸せでした。

 そうですか。花束がほしいという気持ちですね。

 そうです。花束でなくても一輪の花でもいいです。そういう人がいたら素敵です。

 じゃ、私が明日プレゼントしましょう。そしたらお付き合いしていただけますか。記者がからかうとまた笑い声が響いた。郁子さんは顔を赤らめていました。


 
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