とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

手土産

2011-10-12 23:39:58 | 日記
手土産





 私の前にある菓子箱。手土産です。誰が? ある女性です。数日前のことでした。




 私、どうしてか分かりませんけど、急に家の様子を見たくなりました。客間に座ると、その女性はそう言いました。

 ・・・。

 それで、車でとばして、昨日家に着きました。

 ・・・。

 荒れ放題だとばかり思っていたのですが、それが、きちんと綺麗になっていて驚きました。

 ・・・。

 それで、親戚で聞いて、その訳が分かりました。あなたが、・・・。

 ・・・。

 最初、余計なことをと、・・・いや、ごめんなさい。

 ・・・。

 しばらくすると落ち着きました。

 ・・・。

 あちこち尋ねてやっとたどり着きました。

 ・・・。

 とにかくお礼を言わなくてはと・・・。

 ・・・。

 いや、ほんとに余計なことをしました。私はやっと口を開きました。

 ごめんなさい。あんなに綺麗にしていただいて・・・。娘さんは風呂敷から菓子箱のようなものを差し出しました。私は何も言わずに受け取りました。私は、この女性に聞きたいたくさんの言葉が胸のうちに湧き上がりました。しかし、何も聞けませんでした。妻はなりゆきを側で黙って見ていました。

 その女性はそう言うと、すぐに立ち上がって玄関に向かいました。私は、引きとどめようと声をかけました。すると、私を振り返って言いました。

 私は、もう二度と帰りませんので、あの家を引き続きよろしくお願いいたします。

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