とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

白鳥は……

2010-09-02 23:06:19 | 日記
白鳥は……



 一所不住。渡りをしながら餌場や繁殖地を求め、群れをなして生活している鳥たち。私はその境涯に心引かれるものを感じている。例えばハクチョウ。宍道湖西・北岸に毎年飛来するコハクチョウを見ていると、わびしさと逞(たくま)しさを感じる。
 ところが、渡りを放棄する鳥もいることを最近知った。斐川町の新建川に住んでいる二羽のコハクチョウである。この鳥は初めの頃はもっと数が多かったと聞く。両岸が住宅地なので、パンなどの餌を近くの人が与えていたそうである。九月の初めの頃、私はその二羽の美しい姿を見た。それから何度となく見に行った。しかしいつの間にか姿が見えなくなった。それから私は気がかりで落ち着かなくなった。
 ……居た。居た。十月十七日に国道九号線を東へ急いでいたが、その車中から、新建川河口付近に居る二羽のコハクチョウを見つけたのである。オッと思わず口に出して喜んだ。反面、いや、待てよ、あの鳥とは違うかも知れないという気持ちもしたが、そんなにたくさん居残り組がいるはずはないので、私はあの鳥がいつの間にか餌場を求めて河口に下ったに違いないと考えた。仲が良さそうなのでつがいだろうとも思った。
それにしても、どうして居残ったのか。山陰の風土に適応していけるのか。いずれまた訪れて来る群れに戻ってゆくだろうか、……。車中で私はいろいろ思いやっていた。すると、「白鳥は哀しからずや……」という有名な若山牧水の歌が記憶の底から蘇ってきた。もちろん牧水が詠った白鳥(しらとり)は必ずしもハクチョウとは限らない。しかも一羽と考えられる。が、その歌を思い出しながら二羽の鳥の運命の不思議にしばらく捕らわれていたのである。                               (2005年投稿)


(追記)
  その後の私の観察により、この鳥はコハクチョウではなくて、コブハクチョウだと分かった。

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