娘の作品
小磯良平の「婦人像」
女性人物画と言えば小磯良平。そういう評価が自然に当てはまる。この作品も特に技巧的ではないが、確かな力量を感じさせる。その存在感は揺るぎないものがある。
小仲夫妻が出雲訪問をされた折り、娘の笙子さんとご縁美術館に立ち寄られたそうです。そのことは坂本学芸員からの電話で分かりました。笙子さんの宍道湖の連作をご覧になったようでした。ところが坂本さんから思いもよらない事実を知らされました。
小仲画伯が突然来られてびっくりしました。・・・お嬢さんの縁談がまとまったということで、私も嬉しかったです。あの椋の木のお宮にご縁があったんですね。
そのことは私も予想していませんでした。
遊木宮司さん、喜んでおられたでしょう。
私は直接お会いしていませんが、そりゃ、願ってもないことですよ。
それで、画伯は笙子さんの作品をご覧になって、どう仰っていましたか。
うちには今のところ宍道湖の連作しかありませんから、やはり湖を描いているのか、巫女の絵も早く手掛けないと・・・、とか仰っていました。私は側で聞いていて厳しい口調のように聞こえました。奥さんは何も仰らなかったと思います。それから京子さんの作品をご覧になって、うん、いいね、とか仰っていました。仙女さんの阿国の舞台姿の作品の前では無言で長らく見つめておられました。私が集めた芸能人の作品にはあまり関心がないようでした。
ああ、そうですか。娘さんには厳しいですね。
プロ作家の厳しさを感じました。
メインの芸能人の作品にはあまり反応がなかったんですね。それは残念ですね。
その代わり治子さんの水彩画・・・、妹さんを描いておられたんですが、随分いろいろと尋ねられました。
えっ、治子の作品が・・・。
そうです。画伯は手筋がいい、線が躍動している、と仰っていました。
どうして治子の作品がそこにあるのですか。
いや、冴子さんが持って来られたんです。
冴子さんが。
そうです。
どうして・・・。
事情はよく分かりません。
・・・私は電話を切るとすぐに冴子さんの画廊に携帯電話で連絡しました。すると男の声がしました。あっ、そうだ、靖男君だと気づきました。
靖男さんですか、初めまして畝本と申します。よろしくお願いします。あのー、冴子さんと変わっていただけませんか。・・・すると、すぐに冴子さんの声に変わりました。
あっ、どうも、失礼しています。靖男君、もう店を手伝っているんですか。
ええ、もう二週間くらいになります。
やあ、よかったですね。跡継ぎが出来て・・・。
まだまだですよ。
すぐに慣れますよ。・・・あのー、治子の作品のことですけれど・・・。
今美術館にありますよ。ご存知なかったんですか。
今美術館の坂本さんから聞いて、驚いているところです。
ああ、私から連絡すればよかったですね。ご免なさい。・・・いえね、治子さんがしばらくここに置かせて貰えませんか、と仰るんで、うちは販売する作品だけしか扱っていませんが、お売りになるんですか、と尋ねました。すると、困ったような感じで、・・・いや、そうですね、どなたかに見ていただきたくて、とか仰るんです。
そうでしたか。
私はその絵を見て、いいものだったので、ご縁美術館に私が持っていきましょう、頼んでみます、と言いました。すると、美術館置くような作品ではないと・・・。
ああ、それで、冴子さんが持って行かれたんですね。
そうなんです。
分かりました。大変ご迷惑をお掛けいたしました。・・・ありがとうございました。
・・・私は携帯を切って、しばらく呆然としていました。
治子はどうして・・・。
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小磯良平の「婦人像」
女性人物画と言えば小磯良平。そういう評価が自然に当てはまる。この作品も特に技巧的ではないが、確かな力量を感じさせる。その存在感は揺るぎないものがある。
小仲夫妻が出雲訪問をされた折り、娘の笙子さんとご縁美術館に立ち寄られたそうです。そのことは坂本学芸員からの電話で分かりました。笙子さんの宍道湖の連作をご覧になったようでした。ところが坂本さんから思いもよらない事実を知らされました。
小仲画伯が突然来られてびっくりしました。・・・お嬢さんの縁談がまとまったということで、私も嬉しかったです。あの椋の木のお宮にご縁があったんですね。
そのことは私も予想していませんでした。
遊木宮司さん、喜んでおられたでしょう。
私は直接お会いしていませんが、そりゃ、願ってもないことですよ。
それで、画伯は笙子さんの作品をご覧になって、どう仰っていましたか。
うちには今のところ宍道湖の連作しかありませんから、やはり湖を描いているのか、巫女の絵も早く手掛けないと・・・、とか仰っていました。私は側で聞いていて厳しい口調のように聞こえました。奥さんは何も仰らなかったと思います。それから京子さんの作品をご覧になって、うん、いいね、とか仰っていました。仙女さんの阿国の舞台姿の作品の前では無言で長らく見つめておられました。私が集めた芸能人の作品にはあまり関心がないようでした。
ああ、そうですか。娘さんには厳しいですね。
プロ作家の厳しさを感じました。
メインの芸能人の作品にはあまり反応がなかったんですね。それは残念ですね。
その代わり治子さんの水彩画・・・、妹さんを描いておられたんですが、随分いろいろと尋ねられました。
えっ、治子の作品が・・・。
そうです。画伯は手筋がいい、線が躍動している、と仰っていました。
どうして治子の作品がそこにあるのですか。
いや、冴子さんが持って来られたんです。
冴子さんが。
そうです。
どうして・・・。
事情はよく分かりません。
・・・私は電話を切るとすぐに冴子さんの画廊に携帯電話で連絡しました。すると男の声がしました。あっ、そうだ、靖男君だと気づきました。
靖男さんですか、初めまして畝本と申します。よろしくお願いします。あのー、冴子さんと変わっていただけませんか。・・・すると、すぐに冴子さんの声に変わりました。
あっ、どうも、失礼しています。靖男君、もう店を手伝っているんですか。
ええ、もう二週間くらいになります。
やあ、よかったですね。跡継ぎが出来て・・・。
まだまだですよ。
すぐに慣れますよ。・・・あのー、治子の作品のことですけれど・・・。
今美術館にありますよ。ご存知なかったんですか。
今美術館の坂本さんから聞いて、驚いているところです。
ああ、私から連絡すればよかったですね。ご免なさい。・・・いえね、治子さんがしばらくここに置かせて貰えませんか、と仰るんで、うちは販売する作品だけしか扱っていませんが、お売りになるんですか、と尋ねました。すると、困ったような感じで、・・・いや、そうですね、どなたかに見ていただきたくて、とか仰るんです。
そうでしたか。
私はその絵を見て、いいものだったので、ご縁美術館に私が持っていきましょう、頼んでみます、と言いました。すると、美術館置くような作品ではないと・・・。
ああ、それで、冴子さんが持って行かれたんですね。
そうなんです。
分かりました。大変ご迷惑をお掛けいたしました。・・・ありがとうございました。
・・・私は携帯を切って、しばらく呆然としていました。
治子はどうして・・・。
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