医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

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病気腎移植の執刀者自身からの論文

2011年01月08日 | 総合
新年明けましておめでとうございます昨年末に二編の医学論文の審査を頼まれて、やっと終わりました。(なんと12月28日にです。正月休み返上でやれということでしょうか)今は新聞に載せていただける原稿と格闘中です

左図は生体腎移植の保険診療費です。それぞれの保険診療はこのように厳密に設定されています。下の論文が発表された当時の生体腎移植のいわゆる技術料は40,000点つまり40万円(免疫抑制剤などの薬剤費などは別会計)ですが、現在は60万円です。

さて、「生体腎を移植する場合においては、日本移植学会が作成した「生体腎移植ガイドライン」を遵守している場合に限り算定する」と書かれていますが、つまり「生体腎移植ガイドライン」を遵守していないと、保険診療として60万円を公費から支払いませんという意味です。

病気腎移植は今のところ「生体腎移植ガイドライン」を遵守していませんので、保険診療からは出費できません。患者の自費かどこからかの寄付によってなされることになります。

→関連ブログ

今回は病気腎移植について執刀者自身から発表されたとても重要な論文についてです。右図はその論文の図3より引用して一部の英語に解説を付けました。

論文の原文はこちらです

「投稿時に、インフォームドコンセント(十分な説明と同意)の有無、倫理委員会を経ていないこと、レシピエント(移植を受ける人)の選択が日本臓器移植ネットワークを通さずに行われたこと、ドナー(臓器提供者)となった患者さんの疾患の詳細、検証のために各病院に調査委員会が設けられたことなどを伝え、同誌からの質問状に答えました。にもかかわらず、掲載が決まりました」という論文だそうです。

その前に
生体腎移植・・親とか子どもとか、あの人になら腎臓を1つあげてもいいよというように、生きている人から腎臓を移植すること
死体腎移植・・交通事故などで亡くなった人から腎臓を移植すること
病気腎移植・・例えばガンを患った腎臓を摘出し、ガンの部分を切り取って移植すること

Last resort for renal transplant recipients, 'restored kidneys' from living donors/patients
Am J Transplant. 2008;8:811-818.
(インパクトファクター★☆☆☆☆、研究対象人数★☆☆☆☆)

1991年から2006年に施行された病気腎移植42例に関して、その後の10年間の予後が調査されました。

結果は(著者らの意見では)病気腎移植はドナーの年齢が高い割に死体腎移植と生存率という点でひけをとらない(comparable)と書かれています。(著者らの意見ではというのは、統計学的な客観的解析がなされていないからです)

つまり、右図を見て、一番下のラインの傾き(病気腎移植)は一番上(生体腎移植)と真ん中(死体腎移植)のラインの傾きと比較して、ひけをとらないという人もいるだろうし、ひけをとっているではないかという人もいるということです。

↓この論文の著者にお勧めします
医学的研究のデザイン -研究の質を高める疫学的アプローチ- 第3版

この論文のイントロダクションの最後の部分に、コメントはgladly welcomeと書かれているので、私がこの論文のレフリーだったら、どのようにコメントするか考えてみました。

(1) カプランマイヤー(生存率や死亡率を時間の経過とともに表したもの)で検討したと書かれているが、本論文ではその統計値p値が記載されておらず、死体腎移植群と病気腎移植の生存率に違いがないかどうかが、統計学的に明らかでない。
(通常、カプランマイヤーを使用する場合、安定狭心症に風船治療・ステント治療を行っても薬物療法だけの場合と成果は同じのように、それぞれの群で違いがあるのか統計処理がなされてp値(これが0.05以下であれば違いがあるといえる)が表記される。

(2) 同様に、各群の年齢に統計学的な差がどれだけあるのかが、統計処理でp値が求められていない。

(3) 本論文に示されている治療法は保険では認められていないので、保険診療で行われたとは思われないが、治療費の出資元が論文内に明らかに示されていない。
(通常の論文では研究費の出資元に有利になるようなバイアス(偏り)がかからないように、研究費の出資元とその利益相反が明らかにされている)

(4) 本論文に示されている治療法が有用であるかどうかを示すためには、同じような状態の患者を無作為に(ランダムに)病気腎移植群と生体腎移植群に分け、その後の経過を調べカプランマイヤー法で分析する必要があり、それにより病気腎移植の生存率が生体腎移植群より同等以上であれば本法の有用性が示されるのであるが、それが示されていない。こういうことは一施設だけ調査することは困難であり、移植学会が中心となり研究を遂行し結論を出さなければならないことである。こういう本研究での限界を「study limitation」というセクションを設けて記載する必要がある。

(5) 繰り返しになるが、病気腎移植はドナーの年齢が高い割に死体腎移植と生存率という点でひけをとらない(comparable)という結論であるが、統計処理がなされていないので、本論文の結果だけからは本論文の結論が導き出せない。統計処理を施す必要がある。


移植学会の調査委員が「新しい医療をする場合には倫理委員会を通すことが必要。倫理委員会もなかったのは問題」とコメントしているのに対して著者らは、

「今後はそうすべきと思う。しかし、自分にとって、新しい医療という認識はなかった。8例についても○○の腎臓病学会でも発表していた。周りの人も特別の認識はなく、「面白い」といった程度だった。私は患者にとって一番良いと思う治療をしてきたので、特別新しいことをしたとは思っていない。」とコメントしていますが、

倫理委員会の重要性を痛感している私としては、この病院がこの治療法を支援しているのであるから、

治療をした→結果が良かった→でも学会に倫理的な部分でも反対された→調査委員会を設ける→この論文のようにレフリーのいる論文にデータを掲載する→有効性をアピールする
という順序よりも

病院内で倫理委員会の承認を得る→治療を開始する→この論文のようにレフリーのいる論文にデータを掲載する→有効性をアピールする→学会に承認を求める
という順序の方が良かったのではないかと思われます。


そもそも「医療の倫理」というのは、結果が良ければいいのですが、結果が悪かった場合にその方法でも仕方がなかったという承諾であり、結果は誰にも分からないのですから・・後になって結果が良かったから、それで良かったのだという論理は認められないのです。

公平な立場から別のケースも考えると、生体腎移植や死体腎移植でも患者が腎臓を得られないというケースに、10年後の生存率が低くてもよいので人工透析のままよりは病気腎移植を選ぶという選択肢も考えられます。しかし、「人工透析のまま」と「病気腎移植」の10年後の生存率を比較したデータはまだありません。また、10年後の生存率が低くてもよいので、週3回透析に通う煩わしさから解放されたいという選択肢もあり得ます。



↓そこでアンケートです。ほかの人の意見がわかります。大変重要なアンケートです。是非参加下さい。
病気腎移植は有用と思いますか?




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1 コメント

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こんにちは。 (腎臓移植について)
2010-12-29 13:55:53
臓器移植について調べていてこちらのサイトを拝見致しました。
肝臓移植や腎臓移植など、わからないことが多く不安に思う方々がいると思います。
そんな方々に少しでも情報提供をできればと日々、勉強と努力をしています。
貴サイトにありました情報や意見は大変参考になりました。
ありがとうございました。
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