橡の木の下で

俳句と共に

「軽鳧親子」令和6年「橡」7月号より

2024-06-30 13:13:47 | 俳句とエッセイ
  軽鳧親子   亜紀子

池の面をリニア走りや軽鳧の雛
睡蓮に乗り降り自在軽鳧のひな
瀬の小石越えて母追ふ軽鳧の子ら
太りつつ数の減りゆく軽鳧の雛
半分に減りし子を連れ軽鳧の母
注目の的も外れて軽鳧親子
端午なり路傍の草も花かかげ
椋鳥の子のお尻重たくたちにける
朝あさの木漏れ日の道額の花
椎の香に眠れる魂の幾はしら
遺されし者の植ゑにし花は葉に
母の日や虹のオーロラ全天に
仰ぎみる白帝城や緑立つ
頂に城を載せたる緑かな
青嵐や古く小さき茶の庵


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「令和六年靖国神社吟行会」 令和6年「橡」7月号より

2024-06-30 13:03:24 | 俳句とエッセイ
   令和六年靖国神社吟行会 
               選評 亜紀子
 
入選

一席
帰らざる軍馬幾万青葉闇
               我孫子 縄野むつみ       

 靖国神社境内に戦没馬慰霊像がありました。先の戦争で死んだ馬は二十万頭と言われているそうです。ひとたび戦争が起きれば、人も動物も何もかも、帰らぬものばかりです。

二席
白鳩のひしめく鳩舎花明り      
                  勝部豊子

 八月十五日平和の日、神社で手厚く管理されている純白の鳩が大空に放たれます。その鳩舎が今は花の下、白鳩たちのくぐもる声が聞こえてくるようです。

三席
加農砲横たふままに青嵐
              西宮  上尾太郎

 靖国社には武器の陳列展示がなされています。元を正せば、公衆の軍事知識の増進、国防意識の醸成が目的だったそうですが、掲句ではカノン砲はただ青葉の風の中に横たわっています。兵器は永遠に眠らせておくのが皆の願いです。

靖国に風の私語あり花は葉に      寶來喜代子
献桜に聯隊の名よ茂りあふ       山下誠子
父の魂眠る靖国青葉風         藤田重信
靖国へ坂のぼり行く白日傘    市川  中野順子
献木の名札薄れし桜の実        小野いずみ
大鳥居くぐれば花の靖国社       岡本昭子
愛馬の像背に青葉の雫して      木村恵里子
新緑やさやぐラクロス少女団     佐野愛子

 橡四十周年記念大会、お世話になりました。遠方から参加いただいた皆様、ありがとうございます。準備、運営を担ってくださった幹事の皆さまに心より御礼申し上げます。
 会場近い靖国神社は花は葉に、緑の時が満ちておりました。それぞれの思いを胸に、良い吟行ができたようです。都内の方の中には前もって訪れて作句された会員もあったようです。機会があれば季節を変えてまた出向いてみたいものです。
 大会に参加されなかった会員の皆様もここに揚げられた作品をお楽しみいただきたいと思います。
 次回四十一周年に向け、健康に留意してさらに俳句精進を続けてまいりましょう。

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「選後鑑賞」令和6年「橡」7月号より

2024-06-30 12:59:04 | 俳句とエッセイ
選後鑑賞   亜紀子 

たかんなや断ゆる年なく弟より  室谷聖子

 毎年、年々ということなのだが、断ゆる年なくという措辞が身にしみた。姉思い、弟思いの二人。今年もまた届いたという一事が、それこそ歳々に尊く感ぜられる齢。

古民家に杼を繰る人や緑さす   飯村とし子

 古民家で機織に励むのは、地元の文化継承の施設で実演を見せてくれる人か、あるいはその地、その古民家に魅かれて移り住んできた若い人か。若葉のかげが横顔に映えて。


林檎咲く尾瀬の山々雪残り    戸丸富子

 見渡す尾瀬の峰々は残雪。林檎畑に白い花。例年通りの景色だろうが、林檎が咲くと毎年同じ感慨を覚えるのではなかろうか。それがこの素直な一句に成ったのでは。空気の匂い、未だ冷たく頬を撫でる風、色々を想像した。

捨て畑蕗の姑其処此処に    加藤美代子

 農の継承の難しさ、問題とされながら久しい。掲句の蕗の薹の別名、蕗の姑の語が意味深ではある。とはいえ、蕗の薹を見つければ季節の巡りは有難い事だとも思う。

二つ三つ実梅の転び雨催ふ    浅田つき子

 転がっている青梅。思わず上を見上げて青葉の中を覗いてみる。今日は曇り空。そろそろ梅雨を思う。この季節感。つい先だっていつもの散策地、徳川園の庭で私も感じたところ。

短夜の明けゆく木々の匂ひかな  高沢紀美子

 五感の優れた作者。体全体で季の趣を感じ取る。白みゆくあたりの光、肌に覚える涼しさ、そしてこの季節の木々の香り。明けゆく木々の匂ひの語に思わず我が鼻腔をひろげた。

みはるかす嶺の陽光夏立てり   須賀静子

 掲句作者も五感の鋭い人だ。遠嶺の輝きがこれまでとは異なる。ああ、夏が来たと。

緑蔭や保父の胡座に熟寝の子   豊田風露

 お散歩の一こまだろうか。保父のお兄さんの膝に眠るのはまだ赤ちゃん組の小さな子と想像した。若葉風の中、こんなにゆったりとした保育ができるのは子らに、保育士に、何より幸いだ。
 昔になるが、時々お散歩中の近所の保育園児に出会った。保育士の娘に、馴染みの先生でも挨拶はしてもベラベラ話しかけちゃダメだよと言われた。とにかく先生たちは気を張って大人数の子供たちを連れているのだからと。

父眠る丘は青葉に一周忌     市川美貴子

 悲しみの時からはや一年。青葉が目に染みる。こうやって人は自然の運行に沿いながら生きてゆく。

長閑しや石置き屋根の五百年   眞塩えいこ

 石置き屋根は豪雪地帯、強風にさらされやすい地域に見られた伝統の屋根。石を置くことで屋根材が飛ばされるのを防ぐ。その独特な景観も美しい。石は耐久性に優れ、長持ちするのは当然だろうが、五百年とはすごい。戦国時代あたりから続いていることになるか。
作者が長閑とみたのは、季節もさりながら、その長い年月をじっと座って過ごしている石の趣きを言われたのかと思う。



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令和6年「橡」7月号より

2024-06-30 12:56:21 | 星眠 季節の俳句
樅秀で梅雨爽涼の月あかり  星眠
                   (テーブルの下により)

 星眠先生には梅雨の文字を使った句がかなり多い。雨が好きだったとも思えないが、雨をちっとも厭わない人ではあった。男の孫が生まれた時、この句の爽の字をその子に与えた。
                            (亜紀子・脚注)


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草稿06/30

2024-06-30 12:50:11 | 一日一句
軽鳧の子の親と変はらぬ梅雨の池
産土のまだきの雨の茅輪かな
亜紀子

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