橡の木の下で

俳句と共に

原田清正第二句集『ピノキオの鼻』紹介

2021-09-03 15:02:33 | 句集紹介
句集「ピノキオの鼻」
令和3年(2021年)9月15日発行

著者 原田清正(はらだきよまさ)

発行 揺籃社

定価 本体3,500円+税
   (税込3,850円 送料370円)

著者略歴:

原田清正(はらだきよまさ)

昭和21年 群馬県高崎市生れ
昭和47年 堀口星眠に師事「馬酔木」投句
昭和52年「馬酔木新樹賞」受賞  俳人協会会員
昭和59年「橡」投句
平成4年「橡新人賞」受賞  句集「仔馬」上梓
平成6年「橡」編集長に就任
平成8年「橡青蘆賞」受賞
平成22年「橡賞」受賞
平成27年「橡」編集長を辞任
平成28年「橡」幹事長
平成29年「橡」発行人 橡発行所代表
平成30年(公)俳人協会幹事、群馬県支部長

問い合わせ先(現住所)
〒370−0069 群馬県高崎市飯塚町737


あとがきより抜粋  原田清正

 ”二六歳の時、堀口星眠先生と出会い俳句の勉強をはじめた。遅々とした歩みであったが四九歳の時に第一句集『仔馬』を出版できた。その句集の序に星眠先生は『若い氏に「俳句をやりませんか」と私は言い、午後のひととき一緒に句作りに外出して植物などを教え、これを季題として作ってみないかとすすめたものである。(中略)今は梅雨の最中で、すべてが豊かで多彩である。清正さんの句業も丁度この季節に位置し、これから夏、秋、冬が残っているような気もする。堅実な歩みのつづくことを祈りながら、思い出の一端を記し、序として捧げたいと思う。』と書いてくださった。それから二六年を経て先生の期待に応えられているであろうか、今はどの季節を彷徨っているのだろうか、思いめぐらすばかりである。”

抄:

短夜や我を起しに仔猫べガ
菅笠に色即是空鮎釣師
青啄木鳥の穴燻すかに落葉焚
登山靴あふるる村の共同温泉
牧に湧く水貰ひきて芋煮鍋
友集ひ牧に封切る新ワイン
青啄木鳥の穴もふさぎて年用意
妻留守の猫がもの言ふ春隣
夕凍みてくれなゐ焦がす梅擬
産卵のあと寝にもどる赤蛙
万愚節子猫の母となりし妻
麦秋や猫も馴れたる仮住ひ
短夜の夢なら覚めよ我家燃ゆ
老い母にたよる暮しや夕蛍
芙蓉咲く妻粧はぬ日のつづき
仮住みの猫にみやげのゑのこ草
クリスマス待つピノキオの鼻のびて
山火事に追はれし目白拾ひけり
オルガンの愛の調べに桂萌ゆ
薯植うる黄金週の手始めに
爽やかや森の地蜂が水汲みに
けぶりゐし枯菊ぽつと火立ちけり
仕合せを猫に説く妻日向ぼこ
大雪に円くなりたる達磨寺
小春日や恙の妻に猫寄らず
雄心もあはくなりけり林檎風呂
愛のチョコ子の連れきたる乙女より
浄蓮の滝を裏見の川烏
蕎麦畑は白きさざなみ十三夜
転勤や桜前線足早に
破魔弓の鈴触れあふも縁かな
うれしきは母のぼた餅盆休み
地に降りて山雀あそぶ七五三
猪鍋や不況話に煮詰りて
母の影小さくなりゆく夕花野
餡パンに花の臍あり雛まつり
みんみんや十万本の樹の雫
子規庵の雨に静もる鶉籠
鮭簗の端に鵜溜り鷺溜り
天蚕を吊り深秋の無言館
稗抜きのほかは人なき朝曇り
シャンソンが言の葉紡ぐ春の宵
七夕を待たず猫逝くその名べガ
鴨入りて越後五頭山しぐれけり
春眠きかんばせのまま逝き給ふ
荒東風や峰に揺るがぬ星ひとつ
黄落の中賑やかに師の墓参
声絶ちて一ノ倉沢冬に入る
ゆふすげの花一輪に星祭る
秋気満つ千のみ仏無言にて
けふ採りし茸食ふなと夜の電話
見はるかす畑黒々とレタスの芽
雪嶺に向きては返すトラクター
大瑠璃に碓氷ふるみち晴れにけり








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藤田彦句集『桜三里』

2021-01-07 09:49:36 | 句集紹介
『桜三里』

令和三年元旦 発行
著者  藤田 彦
発行所 Baum

著者略歴

昭和12年 大阪市内で生まる
平成10年 「橡」初投句
平成30年 「橡」同人
俳人協会会員・京都俳句作家協会会員

平成19年 風花合同句集二
平成25年 橡小春合同句集
平成元年  風花合同句集三

問い合わせ

〒602−0847
京都市上京区今出川通大宮町312−404
電話&fax 075−213−3235
藤田 彦



『桜三里』寄せて

 藤田彦さんが句集を作るから序をと山下喜子先生から依頼をいただいた。彦さんは山下先生の傍でその右腕となって支えてこられた。彦さんの人となりを一番よくご存じなのは喜子先生で、喜子先生の言葉が添えられるべきではないかといささか戸惑った。ただ当初の案では俳句と自分史的エッセイとを合わせた句文集にされると伺ったので、かねてより彦さんの生きてこられた道に畏敬の念を持っていた私はその文章を見たいという思いに駆られ引き受けてしまった。
 ゲラが上がってくると俳句一本のストレートな集に仕上がっていた。私も俳句一本に絞って良き学びを得ることとなった。

鰆舟大渦潮に逆らはず
搾乳の白き泡立ち五月来る
群れ燕木の葉落ちして葦の中

 措辞の確かさで美しく印象鮮明な景。燕の句では木の葉落ちという独特な言い回しが帰燕のねぐら入りを描いて的を射る。

ねもごろな機長の御慶空の旅
宇宙へも飛んでみたしと生身魂
脚ばかり伸びてひらひら浴衣の子
登山靴脱ぎて足湯の連れとなる

 人を描いてユーモアの中に親愛の情。

海見えてより紀の国の青蜜柑
 
 紀州和歌山の旅はまさにこの景。秋空も潮も青く。

松明に風の集まる虫送り

 ふるさと瀬戸内の思い出かもしれない。晩夏の夕闇に風の涼しさ。

初声を大きな空へ御所鴉
音もなく一雨走りお山焼

 京都在住の作者に御所はお庭のようなもの。奈良若草山も気軽な吟行圏内だろうか。馴染深い対象は上段から構えずともその懐深く捉え得る。

空少し傾けるかに鰯雲

 ああ、今自分も仰け反って鰯雲の展開する空を見ている感覚。

きびきびと母ありし日や炉を開く

 母上も俳句を詠まれたと伺っている。諸事万端を素早く漏れなく進める彦さんは母上の血を濃く受け継がれたのか。数年前より始まった関西俳句会には全国から参加者がある。その成功も彦さんの働きが大きい。

台風禍杉百幹の倒れざま
日差より風を恃めり大根干
防護服身ぐるみ脱ぎて汗引ける

 近年の超大型台風も、懐かしい農村も、近々のコロナ渦中も、きっちり五七五の定型におさめてなお余韻あり。

春灯や幾たび読みし創世記

 彦さんは信仰の人である。気さくで飾らず、ちょっと大阪のおばちゃん風に明るく人と接し、教会を通じてのボランティア活動も長い。痛みを知る人が、人の痛みに寄せる共感。私が困難にあった時(彦さんが越えてきた困難に比べれば物の数にも入らないのだが)、事務的な手紙やメールのやり取りの末尾に言葉少なくただ「祈っています」と添えてくださった。彦さんの祈りは信仰のない私にも心の落ち着きを与えてくれた。ここにその感謝を込めたい。

             令和二年 秋
                   三浦亜紀子
                




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児島美穂子句集『十三夜』

2020-12-11 21:22:28 | 句集紹介
『十三夜』

令和二年 師走発行
著者   児島美穂子
発行所  Baum

著者略歴

大正14年12月 東京に生まれる
平成2年10月 名谷句会 谷迪子先生入門
平成3年3月 「橡」初投句
       堀口星眠先生に師事
平成20年3月 「橡」青啄木鳥集同人に推さる
俳人協会会員

問い合わせ

〒673−0014
兵庫県明石市川崎町2−13
明石ファミリーハイツ3番館638号
児島美穂子

児島美穂子様へ

 毎月の投句に添えられた児島さんの手紙は一点の曇りなく、瀬戸内の明るい光と風と波を目にする印象です。悲しいときは励みになり、嬉しいときは一層楽しく。児島俳句も然り。なかなかお会いするのも難しい時勢ですが、俳句の世界を共有する幸せに感謝しております。

昨日今日明日も朗らに小鳥来る   亜紀子

令和二年 秋


児島美穂子「十三夜」抄

芭蕉葉を叩きて夕立始まれり
秋霖やグリム銅像帽ななめ
神迎ふ奥大山の霧はれて
義士の日や友にはぐれて泉岳寺
梅渓のひと目八景雲ながら 月ヶ瀬
湾岸線輸出車ならぶ豊の秋
風そよぐ離島に立てり鯉幟
赤児の歯大きく四本夏立てり
暫の顔に似たるや松葉蟹
わが家の魔女は片言大年に
風の中指笛高く愛鳥日
屋根の上猫かしこまる十三夜
春の暮紫雲に染まり有馬富士
干蛸のプリマめくさま爪立ちて
手を離す城も逆さや梯子乗り
父の日や長寿の吾れを呆れしか
赤とんぼ一夜網戸にキの字なる 転居
春愁のやつぱり句友に会ひたくて


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名古屋橡会合同句集 『金の鯱』

2020-12-07 12:32:47 | 句集紹介
合同句集『金の鯱』

令和2年11月1日 発行
著者 橡 名古屋金の鯱会
印刷(株)伊勢清
定価 ¥1,500
送料 ¥180(1部)

問い合わせ:
メール
ハガキの場合は
〒467-0803 愛知県名古屋市瑞穂区中山町4-8-16
三浦亜紀子

*私家版で数に限りがあります。
まずは、お問い合わせいただければ幸いです。



『金の鯱』あとがきより 抜粋   by伊與雅峯

考えて見ると名古屋橡会は、橡誌創刊以来続けていながら、自分の名称を持たず何の足跡も残して居ない不思議なサークルである。ところが、今年五月船橋市の中川郁三氏より『初心』誌を頂き、我々も此の様な会誌を作りたいと云う気運が高まり、俄かに作業を始めた。初めての事ゆえ、不慣れな事ばかりであったが、亡くなられた方、体調その他で止められた方も含める事、俳句だけでは中々読んでもらえぬから添書を付ける、文章も出来るだけ載せる等を加えようやく今日の出版にこぎつけた次第。メンバーに滋賀大学経済学部卒が多いのは卒業生親睦の陵水会で、友人後輩に声を掛け仲間に誘った為で、この会女性四名他は皆男性と云う珍しい句会である。亦名称は、ご当地名古屋は金の鯱鉾のお城が代表だけに「金の鯱」とした。
 我々は創始者堀口星眠先生の「本来詩の道は孤独であるが、それを超えて、同志の結合があれば、平凡な孤独の歩みでは得られない到達があるであろう」の言葉を信じ、詩心を大切に更なる向上を目指したい。


『金の鯱』抄

我が洗ひ山河が洗ふ妻の墓     臼井軍太
湧きつげる水の醒井淑気満つ    稲垣敏勝
向日葵の思ひ出泥のユニフォーム  青山政弘
ルビー婚南十字の星を見て     石橋政雄
1DK冬山装備あふれをり     伊與雅峯
組紐の駒の触れあふ音の秋     伊與孝子
仮設から新居得たとの春便り    大島一彦
夏に入る心の解除出来ぬまま    可児島いせ子
夏雲に身を乗り出して架線工    河村實鏤
かしこまる未来の婿や小鳥来る   片岡嘉幸
雪しまく栃の木峠越に入る     木村馨
ナイスショットしばし皸忘れをり  木村芳夫
雪かぶり並ぶ首塚桶狭間      久保昭
夢に見る卒業テスト比良八荒    倉坪和久
静座してめくる過去帳冬座敷    坂ノ下誠
鱈汁や座ぶとん古き家長の座    柴宗平
稲妻や精強井伊の赤備え      南野輝久
安乗木偶あやつる子等の玉の汗   西村恵美子
トラクター轍延びゆく牧の春    布施朋子
山かひの古き踊に月ひとつ     三浦亜紀子




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木下多惠子句集 『白馬山麓』

2020-11-22 20:59:08 | 句集紹介
『白馬山麓』

令和2年 霜月発行
著者   木下多惠子
発行所  Baum

著者略歴
昭和8年  大阪生れ
昭和59年 「橡」入門
令和元年  「橡」同人
俳人協会会員

問い合わせ
〒564-0043
大阪府吹田市南吹田3−20−21
木下多惠子

序『白馬山麓』に寄せて   
              亜紀子

郭公や道はつらぬく野と雲を  星眠

 これは堀口星眠が若き日より通い続けた信州は軽井沢での景。木下多惠子さんがこの四十年余を四季問わず通い続けている白馬山麓にも同じように真っ直ぐな道があるのでは。木下さんから句集の序の依頼のお話があった時、父星眠が存命であればと思わずにはいられなかった。
 その白馬の山荘に一度お招きいただいたことがある。
私はまだ嫁入り前のほんの子供で、あれから三十年はゆうに経っている。自分も含め、人も取り巻く状況も随分と変わってきた。しかし折あるごとにお目にかかる木下さんの印象は初めてお会いしたとき以来全くと言っていいほど変わらない。声の張り、その口調、明るく前向きでどこかにいつもユーモアを湛えて。あ、木下さん居らしてるとすぐ分かる。
 周囲に笑いの絶えない木下さん、その俳句は大変真面目である。若き日の星眠の高原派と呼ばれた清新な俳風を一途に求め続けている。

雪を来て足跡消えし聖書売
地滑りの跡や黄落とどまらず
花豆の花のトンネル浅間見ゆ
橡の実やトロッコ道をゆづりあひ
真先に鶺鴒来たる春田打
からまつ草瀬音に風の湧き出づる
朝焼けの岳をけぶらす落葉焚
蟷螂の身重となりて山日和
蜜蜂の巣箱置き去る草紅葉
山荘の夜毎親しきかまどうま
草の実のはじける音か岳晴れて
雪折れの作務に一日や小梨咲く
牛方宿千の氷柱に閉ざさるる
力溜めゴンドラ登る葛の花
荻の風鴨一列に流さるる
牛方宿色なき風の通ふのみ
碌山のひぐらし聴けり古き椅子
蒼天や氷柱のパイプ風に鳴り
寄生木の毬のふくらむ春の風
大糸線青田わかちて湖に出づ
栗の花雨後の光に匂ひけり

 それでも人生には山や谷もある筈である。集中に静かに置かれた句にその跡を見る。

風花や棺にをさむ舞扇
紫木蓮母なきあとの家ひろし
庭師来て亡き夫語るいわし雲
 
 ところで俳句も慣れてくると何か変わったこと、洒落たことを言ってみたい誘惑に駆られる。概念的な句、教条的な句、奇を衒う言葉を並べてみたくなるが、却って月並調に陥ってしまう。木下さんにはそれが無い。山荘を取り巻く環境の他にお仲間と各地へ吟行されての句も多々あるが、何を詠んでも眼前の景を正攻法で描く。その中に工夫がある。
 
草萌や扇骨干しに村総出
須磨浦や波より出づる初燕
棟寄せて湯宿明けゆく岩燕
山積に漁網片寄せ雛流す
曲家の炉火にあやしき真暗がり
大原女の身支度早し大根焚
ジャズ湧きて日比谷の森に夏来たる
青鳩の声の濡れをり荒磯波
教会に詩歌の集ひ秋澄めり

 ぱっと人目を引く華やかさとは無縁だが、三十数年この一本の道を貫く姿勢は及び難い境地である。来たる年は米寿と伺う。ここに心よりお慶び申し上げる。

          令和二年 秋
 


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