イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

月が運んだレモン

2009-07-29 00:26:09 | 昼ドラマ

昨日(28日)の記事で、KIRINコクの時間の味を「バックスクリーン直撃満塁弾ほどではないけど、走者一・二塁で右中間抜いて打点1なお一・三塁ぐらいのカタルシス」と書いたら、知人から「右中間抜けたらバッターランナー二塁まで行けるだろう」と、まことにもって空気読まないご指摘をいただきました。

最終的に一・三塁にとどまる程度の味だと言いたいなら、“右中間”じゃなく“ライト前”とすべきではないか、ならば一塁に止まっても正解だ」とのこと。

ちなみにこの知人はコクの時間を飲んだことがありません。飲んでもいないそのクチで言うわけですよ。空気読まないにもほどがあるでしょう。

流れで喩えたまでだから別にいいじゃないか。右中間だって捕ったライトの体勢と肩がよくて、打者走者の足が並み以下で、一塁コーチが弱気だったら一塁に止まることだってあるだろうによ。しかも“一・三塁”に落ち着けたことによってだ、「“一塁走者が本塁欲張って3アウトになったような”味ではない」という含みも持たせてるじゃないかよ。だから野球好きはケツの穴が小っさ…じゃなくて、えーと、臀部の開口部がスモールでござりまするなと申し上げたてまつるのでござりますよ。

…マンドラ坊や(@マジレンジャー)か。

あと、昨日“復刻してほしいビール系飲料”に、KIRIN良質素材を入れようか迷ったのですが、魅力だった点のうち少なくとも“清冽さ”に関しては、コクの時間に十二分に引き継がれているので、ノドから血が出る勢いで復刻を切望するほどでもないかと思い、入れませんでした。飲む人によっては、コクの時間が売りにする“コク”を、“不要な酸味”と感受し、「これなら良質素材のほうがましだった」と思うかもしれない。月河も、味に関しては良質素材の“甘寄り”な、リキュールっぽい軽快さも憎からぬものだったと思いますが。

いちばん魅力だったのは、“夏向け商品なのに敢えて赤”をチョイスした缶パッケージデザインですね。このラベルが棚から消えて一年以上経ちますが、いまだメインカラー赤の装いでデビューする新ラベルは出てきていませんね。春~夏季リリースの商品はやはり冷凛感のある金・銀色が主調のようですが、良質素材のような、地色いきなりの“赤ベタ”はかなり目立つはずです。どこか試しませんか。もちろん中身も美味しければなお良し。

『夏の秘密』は昨日41話で峰ひとつ上り終えて、見える風景が変わったようです。死を選ぼうとした寸前を伊織(瀬川亮さん)に抱き止められた紀保(山田麻衣子さん)が、自身を運命に捧げるように静かに一線を越える成り行きもさることながら、事後の朝、先に目覚めた伊織が、まだ眠っている(ふりの?)紀保のハイヒールを揃えてやる場面がよかったですね。悪い男なら、あそこで靴は隠すものです。紀保が“自分と結ばれたこの地点”にとどまっているとは、伊織ははなから思っていない。

まあその舌の根もかわかないうちに、42話の“一年後”に再会しているわけですが。“最後に顔を見たのが、一線を越えた夜の月の光の下”という男女の、お天道様の光での再会はぐっとくるものがあります。それにしてもあの階段上を通りかかった男性、あんなに大量のレモンを抱えていたのは、週刊ザ・テレビジョンの表紙の撮りだめか。妻も愛人も妊娠中ってことか。

おもしろいなと思ったのは、紀保と伊織のひそかな惹かれ合いを早い段階で察していたと思しき、浮舟女主人の蔦子(姿晴香さん)の言動ですね。元芸者で、駆け出しの頃良家の御曹司との許されない恋を経験している女性でもあり、“婚約者がいても、他の異性に告られていても、一度点火した男と女の思いは止められない”とばかり、紀保・伊織それぞれにそれとなく、特に紀保には、赤裸々に焚き付けるような発言も一度ならずありました。

月の船が水平線に去った早朝、伊織から連絡を受けて(ここでいちばん最初に、職場である柴山工作所のフキではなく蔦子に連絡する伊織の心理も切実なものがありますが)「(昂奮して変調をきたしたという)お母さまの具合はどう?心配してたのよ…紀保さんも一緒なの?なぁんだ、そうだったの」と“事成れり”を読んだような応対で、電話が切れた後「紀保さんのこと、もう離すんじゃないのよ」と独り言を言っていたにもかかわらず、“一年後”の42話では「かれこれ一年になるかしら」と紀保のアトリエを訪れ、「龍一さん(内浦純一さん)はお元気?結婚なさったんでしょあれから」とシレッと訊き、紀保が「勉強(と冷却期間)を兼ねていまニューヨークに」と答えると「そうだったの?てっきり結婚なさったとばかり」と、紀保の浮かない様子を窺うような素振り。

元・花街の女性だからというわけではなく、この人の恋愛観・男女関係観は不思議に自由で、“離さない”イコール“他の男と結婚させない”ではないし、もちろん“相思相愛の幸福な成就”イコール“結婚”でもないようなのです。「伊織さんとはもう会わない」という紀保の“誓い”には否定的だったにもかかわらず、思う相手と事を果たした後、もともとの婚約者との婚約を破棄するでもなく、さりとて秘め事は秘め事のまま嫁ぐでもなくいる状態は、蔦子さんとしては“想定内”のよう。

婚約もしくは結婚していても、“心まで売り渡すわけではない”というのが信条なら、「牢につながれた囚人であっても魂は自由であり得る」と言ったマルクス=アウレリウスのようではありませんか。これでは牢につなぐ=結婚する側はたまったものじゃないですね。でも、演じる姿晴香さんのほどのよい浮き世離れ感(プーの弟・護を「人様の物に手を出した」と伝法にも庖丁持って追いかけた、祭りの夜の場面が効いていました)のせいで、蔦子さんにはあまり海千山千の性悪感がありません。嘘偽りや二枚舌腹芸を習い覚えずに育った令嬢・紀保に“余計なことを吹き込んでこのババア”と観ていて舌打ちしたくなる苛立たしさもほとんど感じないのです。

この一年、紀保とは会っていなくても、伊織はずっと柴山工作所で働き、夕顔荘に寝起きし、浮舟のお隣さんのままだっただろうに、「せっかくつかまえたのに、紀保さんから離れてはダメじゃない」と煽った様子もなさそう。でも、たぶんフキ(小橋めぐみさん)から頼まれたのであろう白無垢のドレスへのリフォームを紀保に依頼しに行くということは、もう一度紀保をこの下町に呼び戻し伊織と接点を作るためなのは明白です。

柴山工作所の街金対策で龍一が来訪したときの表情や会話からして、蔦子は龍一についても、紀保たちが知らない情報を持っているのかもしれない。伊織母(岡まゆみさん)の現況ぐらいは小耳挟みで凡そ察しているとしても、紀保母と伊織父との顛末など詳細かつ正確に聴取理解している描写はないにもかかわらず、確信をもって紀保・伊織のカップリングを押そうとする姿勢は、“何か知ってて魂胆がある”というより、もっと自由で透明(無色ではないにせよ)、そして不思議にふわっと低重力です。

昼帯の長尺さ、狭い人間関係の中での濃密な情念世界に、黒沢映画『乱』の狂阿弥のような、こういうカスミを食ってる的自由人キャラはひとりは是非必要ですね。たとえば昨年の『白と黒』などは、こうした人物がいなかったから、ただでさえ狭い物語世界がなお息苦しく広がりを欠いた。それらしい予感をまとって登場、動き出した人物は複数いたのですが、いずれも早めに退場したり、存在感を“地上的”にシフトしていきましたから。蔦子さんには最後まで透明感を保ち続けてもらいたいものです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする