“家族を描かない家族ドラマ”というところでしょうか、『任侠ヘルパー』第4話(7月30日)。
最大公約数的な、所謂“まともな”家族が一組も登場しないことによって、逆に、家族の大切さ…と言うより、人間が、とりわけ現代の日本人がどれだけ“家族依存”であるか、正にも負にも家族に呪縛された存在であるかを浮かび上がらせるドラマとなっています。
親や祖父母やきょうだいのみならず、いとこやハトコも取り混ぜて年中わいわい卓袱台でメシ食っては笑ったり怒ったりキャッキャとやってる類いのドラマがことのほか苦手な月河、こういう、“家族を描かない”ことで“家族”の重さを浮かび上がらせるドラマを、「オマエ、実はひそかに待望してただろ?」…と思いもかけず告げられた思いです。
前回第3話、“親切でも、介護が済むと帰ってしまうヘルパーさんより、虐待されてもずっとそばにいてくれる家族がいい”と言い、身体中アザだらけにされながら「孫は悪くない、本当はいい子だ」と孫の名を呼び続ける老人に続いて、今話は家族に寄りつかれず(夫は死別、娘2人はともに嫁いで音信なし。2人いるから、しかも息子じゃなく、息子の嫁でもなく娘2人だから、2人とも寄りつかない…というのは意外によく聞く話)、愛想のいいボランティアヘルパーに金銭を詐取されていながら「詐欺だっていいじゃない、優しくしてくれたんだから」「また来て欲しいけれど、(詐欺が露見して)もうここに来てくれないなら、せめて(逮捕されず)逃げ切ってほしい」と言うナツ(島かおりさん)。「悪いのは放ったらかしにしている家族のほう」「(金銭詐取は)面倒みている私がもらう当然の報酬」と豪語する詐欺ヘルパー・綾(山田優さん)。
詐欺は働いたけれど、もとは父親が公認介護施設を営み借金苦で過労死したのを目の当たりにしていた綾は、“制度に縛られず高齢者が本当に喜ぶことを存分にしてあげたい”という純粋な動機もちゃんと持っていて、詐取した金銭は親の債権先の鷲津組に吸い上げられる被害者でもありました。しかも“カモ”呼ばわりしていたナツから巻き上げた後一目散には逃げず、約束した亡きご主人の墓参りを果たしていたところを彦一(草彅剛さん)とりこ(黒木メイサさん)につかまりました。
綾を“タイヨウ”に連れ帰って、行方を案じていたナツたちの前に突き出した彦一が「詐欺師なら、感謝されたまま逃げんじゃねぇよ」「騙して逃げるなら憎まれろ」「許してほしいと思うなら、ちゃんとスジ通せ(=詐欺だったと認めて謝れ)」と言う、その論法がいいですね。“純粋な動機をいま一度思い出して、詐欺なんかしない優しい綾さんに戻りなさい”とは言わないわけです。ここらが“任侠”“極道”ならばこその、裏返った倫理観、スジ観。
彦一が綾を本格的に怪しみ出したきっかけも、綾の行き届いた愛嬌ぶりから、1話で自分が別の老婦人をカモっていた頃の我が振りを思い返して“似てる”と感じたことから。自分を正義で真っ当だと思っていないからこそ、彦一は人の悪意が読み取れるのです。
描写的にはナツも、綾に手玉に取られたかわいそうなだけのお婆ちゃんではなく、リハビリすれば歩ける身体なのに車椅子にしがみつき墓参を頼むなど“わがままを聞いてくれさえすればと甘え放題”な、老人独特の利己的ないただけなさも微量備えており、綾だけを一方的に悪にしなかったのも効いていました。
先日27日の『SMAP×SMAP』ビストロに、松平健さんとともに加藤清史郎さんも来店していましたね。ウチの高齢組のように、完全に清史郎くん目当てで視聴している向きも少なくないと思うのですが、彼が扮する涼太が、大人たちのメインストーリーに振り回されたり容喙したりしてお涙を頂戴するのではなく、ちゃんと涼太なりの子供の世界での悩みや困難を生きていて、しかもそのサブストーリーがメインと並行シンクロしているところがこのドラマ、実に好感が持てます。
涼太が学校でいじめに遭っているのは、母親の晶(夏川結衣さん)が介護事業で社会的に目立つ立場におり、“高齢者相手に悪どく金儲けしている”と(たぶん同じ母親族から)陰口されているからなのですが、彦一の「遠足は家に帰るまでが遠足、仲直りするまでがガキの喧嘩」というクチの荒いアドバイスを受けて、涼太は仕返しパンチを見舞って負傷させた級友の家を訪ね。不器用ながら「ごめんな」のサインを送ってめでたく和解を果たします。しかもいじめられ鬱積が爆発しての仕返しパンチは、2話で「なんでやり返さねぇんだよ、プライド無ぇのか」と彦一にハッパかけられて海辺で特訓した成果でもあり、「殴れば殴った分、自分の手も痛む」ことを初めて知った涼太。介護をめぐるメインストーリーからは独立して(でも接点は持ちつつ)、涼太の幼いなりの成長が描かれているのがさわやか。
もちろん『天地人』の与六人気に便乗がてらの起用なのは見え見えなんですが、清史郎くんの、ほかの子役さんでは出せないいちばん良い表情が、要所でちゃんと出るように脚本が書かれ演出もされている点、お見事としか言いようがありません。多忙な母が、誕生日プレゼントに立派なグローブを買ってくれて破顔しかけたものの、“これでキャッチボールしたい!…けど相手がいない…”と気づいて表情を曇らせる瞬間など、演出するほう、されるほうともにお見事過ぎて心憎いほど。
エンディング間近、先方の母親からの電話で涼太が謝りに行ったことを知った晶に優しく微笑まれて、オレンジジュースを手にドギマギ、つっつっつ…と自室に帰る歩き方のかわいいこと。月河も思わず高齢組とともに「かわいー♪」とバカになりそうになりました。野菜はほとんど、果物もあらかた食べられないとビストロSMAPでカムアウトしていた清史郎くん、ジュースならいけるのね。
先週のゲスト、鬼畜孫・忍成修吾さんほどではないけれど、美人ナイスバディ詐欺ヘルパーに扮した山田優さんもかなりのナイスキャスティングだったのではないでしょうか。お世辞にも演技派のイメージはないものの、持ち前の容姿で“エゴ派手系”悪女役は得意としているし、何より“巧緻な頭脳派”感や“本当はかわいそう”な雰囲気が微塵も無いのが、このキャラに関してはヒットでした。PCにカモ老人のデータ入れて一生懸命企んではいてもアタマ隠してヒップ隠さずみたいなところ、墓所で彦一&りこに追い詰められて開き直る場面にしても、ふてぶてしいはふてぶてしいんだけど“ワルさが単純”。偽名がレイコにカオリにアユミって、発想がどこかキャバくてミズっぽいのも山田さんが扮する詐欺師役にふさわしい。
ぶっきらぼうだがスジを通す彦一を、任侠くんとは知らずにひそかに好意を持つグラマー新人ヘルパー晴菜(仲里依紗さん)、「男の趣味わりいな」と冷やかしつつ自分も彦一が気になるりこ、だんだん激しくなる晶の頭痛と物忘れ。そして晶がめまいの拍子に偶然抱きついて見てしまった、彦一の胸の彫り物。準1話完結ワンテーマを扱いながら、「この先、この次、ここんとこどうなるんだろう」と思わせる引きをテンコ盛りで、久しぶりに54分が短く、CMが長く感じられる、次週が待ち遠しく感じられる連続ドラマが出現。
『つばさ』が戦隊のノリだとしたら、『仁ヘル』の“読後感”は『仮面ライダー555』あたりと似ているように思います。全体的にはダークでヘビーでグルーミー、葛藤と“謎引っ張り、疑問引っ張り”に満ちていて、爽快さや明快さとはいちばん遠いところにあるドラマに思えるのですが、レギュラー・ゲストともにそれぞれのキャラや背負っている設定モチーフがいちいち嵌まっていて、何がどうでも結末まで見届けずにいられない。
任侠チームの嫌味インテリ担当・六車(夕輝壽太さん)の、確信犯的に“狙ってムカつかせる”佇まいなど、『555』のカイザ草加のようでもあり(下の名前も同じ“雅人”)、ラッキークローバー・センチピード琢磨のようでもありますね。
綾を呼び出し詐取金を上納させる鷲津組の若い衆役で、『白と黒』の小林且弥さん再び登場。今話は台詞はありませんでしたが、ポケットに両手を突っ込んで、あの長身がナチュラルに百済観音みたいにS字をなす格好が実にヨコシマな雰囲気でいいですな。1話では彦一をフクロにする場面があったけど、全体的にふにゃっとして“ガチの喧嘩では強いのか弱いのかわからない”感じもいい。ビビッド原色の、サテン系のツヤあり気障キザシャツも相変わらずよくお似合いで。
ちょっと首をかしげたのは、彦一らに促されて綾がみずから詐欺を認め警察に出頭した後、鷲津組が彼女をシノギの手先に使うことをやめてくれるよう、彦一が鷹山(松平健さん)に直訴、鷹山も応じて鷲津組の偉いさん(山田明郷さん)に一席もうけて話をつけてくれたように見えた終盤のくだり。彦一がサシで鷹山若頭にものを申せる立場なら、タイヨウで研修“させられる”には及ばないのでは。
タイヨウが鷲津組なり、マル暴警察に目をつけられるようになるのは、隼會としても都合が悪いからということなのかな。彦一ら若い衆レベルでは、鷲津組と聞いただけで緊張感がはしるようだけれど、上のほうは是々非々で、結構話が通じるようでもあり。
“任侠”というウラ倫理観が軸をなしているからこそ新鮮なお話なので、上下関係や敵対の図式に関しては、ある程度がんじがらめなほうがいいのではないでしょうか。
どうなるかな最終話。「あんた案外お節介だな、死んだ兄貴に似てるよ」と、自分にとって唯一無二の存在だった男性を引き合いに出してまで遠回しに彦一への思いを覗かせるりこに幸あれと、同性としては思いますが、あまり恋愛方面にハッピーな展開は用意されていなさそうなドラマでもあります。