イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

おいらはドラマ

2009-07-05 20:40:46 | ニュース

昨夜(4日)は高齢家族が、TVでなにやら石原裕次郎さんの映画を観ておるなと思ったら、1970年の『富士山頂』(テレビ朝日系21:00~)でした。台風襲来観測を迅速精確にすべく、標高3776メートルの富士山頂に気象レーダーを設置するため尽力した男たちの物語。今年二十三回忌を迎える裕次郎さんが、石原プロ創設後ことのほか意欲を燃やし私財を投じてまで製作した題材、企画だそうです。ビデオやDVD化がまだされておらず、劇場公開後初めてのTV放送、二十三回忌メモリアル企画での放送ということらしい。

後片付けしながらチラ見でしたが、当時33歳の山崎努さんが若い。ちょっと顎のあたりなどだいぶいまより肉付きが良かったようで。地元の職人役が似合う田中邦衛さんは当時37歳。北の国から黒板五郎の“~ずら”言葉版、という感じであまり変わりませんね。70年当時の当たり役は、やはり加山雄三さんの『若大将』シリーズでの青大将だったんじゃないでしょうか。

裕次郎さんと言えば、黒部第四ダム建設を素材にした68年『黒部の太陽』なんてのもありましたね。『プロジェクトX』的な、こういうテーマに私財傾けちゃうんだ。背中聴きだけど、富士山頂までヘリコプターで資材運ぶ場面など、相当おカネ費ってますよ。借金まで作ったらしい。

ワーワーキャーキャーの国民的大スターがプロデュースして主演するんだから、もっと夢のある、ロマンチックな映画を作ればいいだろうにと思うんですが、何か、いままで無かった公共的なものを建てたとか、危険な場所で突貫工事したとか、そういうことに当時の男子は大変なロマンを見出していたんでしょうねえ。裕次郎さんの場合、兄上がのちの参院→衆院議員で環境庁(現・環境省)長官・運輸大臣(現・国土交通大臣)を歴任され現在東京都知事の石原慎太郎さんですから、DNA的にも同年代日本人男子の中でも“血中プロジェクトX濃度”が高いタイプだったのかもしれませんが、実際、公開時にはファンが「なんだ、作業服着てメットかぶって工事するような色気のない映画か」とそっぽを向くこともなく、おカネ払って足を運んで観たわけです。

いま、六本木ヒルズ建設や新東京タワー(=東京スカイツリー)建設の話を映画化企画する人も誰もいないでしょう。せいぜい木村拓哉さん主演で、製鉄高炉建設の話をTVドラマでやるぐらいかな(07年『華麗なる一族』)。あれも昭和40年代前半の設定だから何とかもった程度ですね。いま“国民的感動話”と言えば、もっぱら難病闘病記、ハンデキャップと介護、あとはオリンピックやWBCや高校野球などスポーツでの努力と家族美談。

『たかじんのそこまで言って委員会』などで勝谷誠彦さんがよく“土建屋共産主義”と、口角アワ飛ばして揶揄していますが、第二次大戦の敗戦で“ちゃんとした建物が見渡す限り何もなくなってしまった喪失感無力感”を味わった世代の人たちにとっては、近代的な大きなハコモノを建て、道路を通し橋を架けダムを造り、新幹線を走らせる、そのために汗をかき、完成竣工を目の当たりにすることが、何ものにも代えがたい喜びだったのでしょう。そういう時代が日本にはあったのだと思う。

没後22年を経ても、裕次郎さんが法要にいまだ多くのファンを集めるのも、彼のこうした志向のなせるわざという気がします。オンナ子供のミーちゃん、ハーちゃんだけがワーワーキャーキャーのアイドルでは、ここまで長く人気を保つことはできなかったでしょう。裕次郎さんの希望が日本人の希望であり、裕次郎さんの見た夢を日本人も見た。

先ほどラジオのニュースで、東京国立競技場の特設会場に献花したファンが5日午後5時現在84千人と伝えていました。これはすごい。どんなビッグネームが天下分け目の勝負を繰り広げるスポーツイベントでも、一日で8万人は行くもんじゃありません。

集った人たちは、いまは亡き映画スターの霊に献花したのではないと思う。スターと同じ眺望を仰ぎ、同じ空気を吸って、同じ笑いを、同じ苛立ちを、同じ達成感を共有できた時代に、そういう時代を人生の一郭に持つことのできた自分の幸福に献花したのだと思います。

石原裕次郎さん1934年生まれ、ご存命なら今年後期高齢者の仲間入りをされます。52歳、「もっと働き、輝けたはず」と誰もが思う壮年で他界されたことを、心のどこかで羨ましく思っている人も、84千人の中に一定率必ずいることでしょう。

しかしなあ。このニュースもチラ見だったけど、フィールドにでっかい仮設のお寺造って、お坊さんも住職クラスから一休さんみたいな若手まで20人ぐらい来てるし、VHSビデオのレンタルケース立てたのを巨大にしたような裕ちゃん全身像入りモニュメントは建ててあるし、この二十三回忌法要を競技場押さえ、献花御礼グッズ企画製作、広報販売、招待客選びに招待状発送、当日の警備に来場者誘導など、まるっとひっくるめた『プロジェクトX』、作れば出来るだろうな。視聴率も取るんだろうなあ。

コメント
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