イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

人生は演技である

2009-04-07 17:20:17 | 昼ドラマ

うん、やっぱり小森名津さんの書く女優モノ脚本はひと味違いますね。6日(月)から放送が始まった『エゴイスト』1330~)。

「自分は重んじられている」「リスペクトされている」という磐石の自信があり、「いやが上にもそうあれかし自分」と思っている人ほど、自分の意見や立場の主張の必要を感じませんから、基本的にクチ数が少なく、動作も小さいものです。

ひとり立ちほやほやの新人スタイリスト・明里(吉井怜さん)、駆け出し劇団員・香里(宮地真緒さん)姉妹が、なんとか世に出たい出たいアンビシャスまる出しで、ピーチクパーチク、ジタバタキャンキャンしている中、仰ぎ見られる立場のキイパーソン、川島なお美さん扮する大女優・西条玲子の“静かなる自尊上等”ぶりが実にいいですな。

先輩スタイリストに「これからこの子に担当させますから」と紹介され、最敬礼の明里に「こちらこそよろしく」でも「しっかり頼むわよ」でもなく、長ぁい付け睫毛ひらり一閃「…私、泣く人嫌いだから」。くぁーー、なかなか言えないセリフではありませんか。

“泣く(弱い)人を見るのも嫌いだけど、泣くような自分はもっと嫌い”、つまり、昔は弱くて泣いていた自分を自力で克服して今日あるこのワタシなのよ、という所信表明、人生における料簡(りょうけん)の表明ともとれる。

ただし、「これは私の所信です」という宣言然とは言わず、別の用件で、求められて求められてどうしても何か言わなければならないという状況でのみ、最小限の端っこでちらっと匂わす。わかる人にはわかるし、わからない人には永遠にわからない。わかられなくても自分は尊重されるのだから何もじたばたすることはない。自分が尊重されているのは“(何らかの考えや働きを)わかってもらっている”からではなく“自分だから”であると知っている。存在自体に価値がある私。本物の大物、本物のカリスマ。

冒頭、明里が走り回って集めやっと現場に届けた衣装のコートを「いらない」と見もせずに却下、からみの端役の芝居がヘタ、楽屋に準備した衣装が気に入らない、文句は端役やスタイリスト本人に言わず、そんな下っ端そこにいないかのように責任者=監督・プロデューサーを呼びつけて言う。まぁスーパーや百貨店、金融機関などでのクレーマーの常套句「あんたみたいなパートじゃ話にならん、店長を出せ店長を」って類いの延長線なんですがね。

しかも、この純ナマ百パーセントの大物女優を演じるのが、同じ小森さんメイン脚本だった01年『女優・杏子』の荻野目慶子さんではなく川島なお美さんだから、実におもしろいことになっている。

ワインでセレブでボーイフレンドたくさんの恋多き女で軽井沢別荘持ちで…と、役柄とは真逆に“自己申告”っきりでセルフイメージを作り上げることに、一応成功して今日ある川島さんですが、女優・演技者としての経歴の中に“大物”性はほとんど見当たらず、忌憚無く言ってしまえば“いつまでたっても年甲斐もなく、オンナノコっぽくキャピキャピ浮わついてる”のが魅力というか、おもしろがりどころの人だと思うのです。しかもなおかつ「私はグレード別格よ」と“ドブ板大衆性”“隣のおネエちゃん的親しみやすさ”とは一線を画するための自己申告努力を寸時も怠らないから、独特のおもしろ物件化している。

当地では第1話の放送日深夜にオンエアされた『エゴイスト』番宣でも、楽屋で20代の吉井さん宮地さん相手にパティシエの新婚夫君ののろけネタ全開、例の別荘のキッチンで手料理披露して、客もいないのに「まず、お毒見」とか、それこそ風の中の羽根のようにスノッブに舞い上がり通しで、役柄の大女優にふさわしい風格とか貫禄とか、神秘性カリスマ性とこれほど距離のある人を起用する今作の製作側も、かなり上等。

川島さんが“大女優”役らしい演技を、らしく展開すればするほど鮮明に浮かび上がる気品のなさ、チャチさ、あえて勇気をふりしぼって書きますが、ニオイ立つションベン臭さのようなものが、“いかにも昼ドラ”を超えた独特の夢夢しさ、フィクティシャス感のあるドラマにしています。

……いや、これ決して貶しじゃないですよ。川島さんがこの作品に、この役で出てくれたことで、面白くなっているか、つまらなくなっているかで言えば、絶対前者だと思ってますから。

『炎神戦隊ゴーオンジャー』のダッシュ豪快・ゴーオンブラック役に、素ではほにゃっと癒し系な海老澤健次さんをオーディションで抜擢したプロデューサーの謂い「彼がコワモテを演じるときの、滲み出てくる変な感じが、“うわっ、面白い!”と思えた瞬間があって、以降、それしか目に入らなくなった」という気持ちに近いものがあるかも。こういう人為的な“滲み出てくる変な感じ”を賞味するのも、立派にドラマ鑑賞の方法論のひとつ。

気がつけば名古屋出身で、制作東海テレビとは縁の深い川島さん。彼女の女子大生アイドル時代を知らず、90年代以降の“自己申告上等”ぶりしか見ていない若い視聴者にとっては、川島さん像はかなり違うかもしれません。

不器用な努力家の明里を演じる吉井さんのたどたどしい素朴さ、鼻っ柱の強い香里役の宮地さんの、かなり楽しみなお下品なあくどさに負けない“変な感じ”に大いに期待したいと思います。

1話で早くも明里と顔を合わせた、西条玲子の亡夫の連れ子(林剛史さん)の登場もいい演出でしたね。高級車のウィンドウがシュッと開いて顔だけ。漫画の金持ち御曹司が貧乏ヒロインと出会うときの黄金パターンのひとつです。

戦隊OBの中には、役柄の髪型を普通のいまどき風に戻しただけでガラッと外見が変わってしまう人も多いのですが、ホージーがわりと髪で作り込まないキャラだったせいか、林さんは『デカレンジャー』時代と本当に変わりませんね。クールパッションでハードボイルドライセンスな脱ぎシーンなんかも、サービスとしてもちろんあるんでしょうな。併せて期待。

コメント
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