
ある日 悲哀が私をうたはせ
否定が 私を酔はせたときに
すべてはとほくに 美しい
色あひをして 見えてゐた
涙が頬に かわかずにあり
頬は痛く ゆがんだままに
私はそれを見てゐたのだが
すべては明るくほほゑむかのやうだつた
たとへば沼のほとりに住む小家であつた
ざわざわと ざわめき鳴つて すぎて行く
時のなかを朽ちてゆく あの窓のない小家であつた……
しかし 世界は 私を抱擁し
私はいつしか 別の涙をながしてゐた
甘い肯定が 私に祈りをゆるすために
立原道造 午後に
-☆-

きのうのこと。 白い花が、 すがすがしい風信子荘。
木々は着実によそおいを変えて、 みどり色の風が吹いていた。 旗のないポール、 片流れの屋根、 入口の三段だけの階段、 雨戸をなぞるように過ぎてゆく。
季節は 猫の目のようにかわる。
緑が日増しに濃くなって、 夏のような陽ざしかと思えば、 きょうは花冷え。 まばらな釣り客も声をひそめ、 鳥の囀りもしない。
冷たい風に身をすくめ 透きとおるような緑をぬけると、 やわらかい若葉になれるような気がした。
蒲公英が綿毛を飛ばし、 藤や躑躅、 シャガの群れ、アイリスが盛り。
山吹は終わりそうだ。
メタセコイアは鳥の羽 藤棚のもとで 語らうひと
(4月27日撮)