『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』**赤い夕陽⑱**<2017.3.&5. Vol.97>

2017年06月07日 | 赤い夕陽

赤い夕陽⑱

三橋雅子

<寺子屋>

 中共軍と共産軍の市街戦が終わり、どっちの政権になったかも、訳が分からないまま。我が家の民間ソ連夫婦が慌ただしく引き揚げて行ったことから、ソ連が完全に撤退した事だけが確からしかった。次は何が起こるのか?

 不要な心配をしても仕方ない、と父は思ったのか、寺子屋の算段をし始めた。近所に空き家になっていた教会があり、黒板、椅子、机が一応揃っているから、と父が元先生をどこからか探してきて、そこで、寺子屋もどきが始まった。低学年と高学年、中学生くらいの大雑把なグループで、2部制の授業が始まった。学校嫌いの私も、こういう破格の学校は面白くて休まなかった。しかし先生が無事にたどり着くことの方が難しかった。途中で「使役」に掴まって、何時間か鋸引きをやらされたり………。というような事情で、息を切らせて、すまんすまん、と駆け込んでくるのだった。それはまだましで、とうとう先生が辿り着かないこともあった。

 教科書もノートもないから、算数などは先生が問題を黒板に書いて、皆で所狭しと計算した。また、先生は「嘘をつくことは悪いことか?」というような問題を出す。みんながウーンと考えていると、例えば今日、先生は使役に掴まって、おなかが痛くて病院に行くところだから、と嘘をつき、ヘタコラヘタコラ満足に鋸を引けない振りをして「この役立たず!」と解放され、やっとここへやってきたんだが………、という風に。また、遅れに遅れた挙句、頭に包帯を巻いて血が少し滲んでいることもあった。「脱走に失敗してね」、と先生はきまり悪そうに言って笑ったが、痛ましかった。

 ある時「人はパンのみにて生きるに非ず、というが、他に何が要るのか?」という問いに「はーい、肉が要ります」と誰かが答え、先生は少し困ってしまった。家に帰って話すと、大人たちは「うまい答えだ」なんて大笑いするだけで、何のことやら分からず仕舞いだった。

 そのことを突然閃いたように思い出したのは、引き揚げて来て、東京目黒の家で泥のように眠りこけた後、目が覚めたら、復員していた兄が買ってきてくれたのか、『ああ、無情!』(ヴィクトル・ユーゴー作『レ・ミゼラブル』の少年版)が枕元にあった。「ああ、本いうものがあったのか!」という思いで、開いて読みだしたら止まらない。中味への興奮なのか、読んでいる事への感動なのか、訳が分からず涙がポタポタ落ちて、当時の本は辛うじて紙の体裁を保っている代物だったから、涙で破れてしまうのでは? とひどく心配になったのを覚えている。その時、何とか食べ物らしいものにありついて、何日ぶりかの畳に足を伸ばして寝て、………その挙句にガツガツとまるで食べ物らしい食べ物に飢えていたのと全く同じように、歯の音を立てるかのように、活字にかぶりついたのである。あの寺子屋でも本は一冊もなかった。そして、幸せを感じた。この嬉しさ!おなかがいっぱいになりさえすれば幸せになるのではない、と納得したのだった。

 義務教育中一番楽しかったこの学校も、間もなく我が家の事情で行けなくなったので、何時まで続いたのかは分からない。

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『みちしるべ』**「とりあえず外に出よう」**<2017.3.&5. Vol.97>

2017年06月07日 | 川西自然教室

「とりあえず外に出よう」

 田中 廉

 川西市では今まで「高齢者お出かけ促進事業」で、70歳以上を対象に年に2000円の交通費補助を行っていたが、H29年度よりこれを廃止し、「健幸マイレ-ジ制度」や「公園の健康遊具設置」を充実させるという。

 川西市のHPで調べると「健幸マイレ-ジ制度」に参加するといろいろな特典がある。有料の運動プログラム入会で、会費の金額により1000ptまたは3000pt(入会時のみ)。基準歩数に比べて一定量の歩数が増え、かつ推奨される歩数を達成したら800pt/月。市や地域、民間の運動イベントやスポ-ツ教室に参加すれば1回20pt(月200ptまで)。BMIまたは筋肉量が改善すれば1000pt/3ヶ月毎。健診受診で1000pt/年度。がん検診受診で500pt/年度が付き、H28年度で最大14,000ptの特典(1pt=1円)となる。H28年度の参加募集人員は700名で、希望者が多いと抽選とか。

 また、「公園の健康遊具設置」は、散歩などの途中でストレッチや体のツボの刺激、筋肉を鍛えるなど気軽に健康づくりを行う遊具を設置するという。たとえば、背伸ばしベンチ、腹筋ベンチ、上体ひねりサ-クル等々。ネットで調べるとかなりの都市が、色々な遊具を公園などに設置している。

 両制度ともに共に結構なことだと思う。個人的には、背伸ばしベンチ、腹筋ベンチ等あれば使ってみたいと思う。ただ、問題はその費用を「高齢者お出かけ促進事業」を廃止することにより、捻出しようとしていることである。問題点は2つある。

 第一の点は、「健幸マイレ-ジ制度」や「公園の健康遊具設置」と、「お出かけ促進制度」は、利用者がオーバ-ラップする部分はあるが、かなりの部分で異なる点である。前者は主として健康で外向きの人が健康を維持し、更に元気になるための制度である。しかし、後者は健康な人はもちろんのこと、補助があるから「使わなければもったいないから出かけよう」という内向きの人を含め、足腰が衰えた人を除く多くの人に公平に、外出を後押しする制度である。「お出かけ促進制度」が廃止されると、後者利用の人々が切り捨てられることになる。

 第2の点は、「健幸マイレ-ジ制度」や「公園の健康遊具設置」は、健康増進の効果がほとんどであるが、「お出かけ促進制度」は、それに加えて経済効果を伴うことである。大阪では「でんとく」という言葉があるようだが(私は和歌山県出身で、大阪の商家の女性と結婚して初めて聞いた)、その意味は「外出するとお金を使うから、出かけない【でん】のが一番経済的で【とく】」である。この言葉を聞いた時は「なるほど、真実をついてる、さすが大阪人。」と感心した。これは外出すれば金を使う、すなわち経済効果があるということである。外出となれば少しはおしゃれもするだろうし、外食、買い物、映画鑑賞など、出費を伴い経済効果は「健幸マイレ-ジ制度」よりずっと大きい。これは、存続の危機に直面している【私の住む大和団地循環バス】も少しは潤う。

 それ以上に外の空気を吸い、色々なものを観たり冷やかしたりして、脳が刺激され、精神的にも良く、ボケの防止にもなる。駅の階段の上り下りなど体を使い、かなりの運動量となる。外出は「健幸マイレ-ジ制度」と同じように、心身ともに健康となり医療費軽減に役立つことが期待できる。

 悪用されているという人もいるが、どんな制度でも抜け穴があり、ずるいことをする人はいる。問題はどれだけ悪用されているかである。悪用率は高いのであろうか? よく話題になる生活保護費不正受給と同じで、TVなどが話題に取り上げやすいので針小棒大に報じるだけで、実際は少ないのではないだろうか。ちなみに厚労省調査でも、生活保護費不正受給は金額で0.5%ほどである。

 ばらまきだという人もいるようだ。そういう面はあるなとは思うが、数値にはできない経済効果と医療費軽減、何より生活が外向きになるという、かけた費用以上のメリットが期待できる。

 以上の理由で、私は「高齢者お出かけ促進事業」の継続を強く求める。

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