『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』コンクリートの畦道**<2007.3. Vol.45>

2007年03月04日 | 川西自然教室

コンクリートの畦道

川西自然教室 萩原 敏

 猪名川町で20年前から棚田のお守りをしている。金銭のやりとりはせず、「自由に使ってよろしい」というわけでお守りをさせてもらっている。平均すると100坪ほどの長細い田んぼが7枚、7段の可愛らしい段々畑である。田んぼと畦道の見分けがつかない田んぼもある。大野山(標高753m)の麓の急斜面に関墾された集落と棚田の農村景観は正に日本の原風景で今もその玄郷が残っている。しかし、この集落もご多聞にもれず高齢化が進み、放棄された田んぼが増えている。比較的平地の緩やかな棚田は圃場整備が終わり機械化が始まっているが、中腹の田んぼは昔の狭い田んぼのままで大型機械が使えないために次々と放地されている。僕にとっては、大型化され画一的な四角い田んぼより緩やかなカープを描いた棚田を残してほしいと願っているが、圃場整備されずに残された田んぼにはススキが広がり、孟宗竹がにょきにょきと勢力を広げている 。野鳥が運んできた実生の木も旺盛で2~3年もすると山になる。村の人は「山が降りてくる」と呼んでいる。最近は山仕事をする人がいなくなって山の中は真っ暗で、20年前あれほど採れたマッタケも最近はほとんどお目にかからなくなってしまった。私たちに美しい農村風景を楽しませてくれた茅?の家も3軒だけになってしまった。一車線だった道路はバスが走行できるように2車線に拡幅され、白いガードレールが長閑な風景を断ち切っている。

 3月になって暖冬だった冬も終わりかけたところで、春の訪れを告げるオオイヌノフグリが我らの畦に咲き始めた。貴重種になってきた日本タンポポもちらほら咲いている。毎年フキノトウだらけの畦道が今年はどうも寂しく、季節感が足りない。暖冬と関係あるのかなと、お隣のおばあさんに聞くと「鹿が食べた」らしい。近くの畑でウサギの2倍も3倍もある大量のうんこが転がっていた。昼間農家の裏山で鹿が目撃されており、犯人は鹿に間違いない。犯人などと決め付けてはいけない。容疑者らしい。それにしても昨年はアライグマが出没してトウモロコシやイモ類が食い荒らされ、電柵では防ぎようがないと思っていたら今度は鹿である。黒豆を鹿が食べている現場を見た農家がいて、いずれはやって来るとは予想していたがやっばりお出でなすった。今年はどうやら猪ではなく鹿の当たり年になりそうだ。以前この村でも狩猟免許をもった農家が鉄砲の音をさせて追っ払ったこともあったが、今や高齢化で銃声が響くこともなく村人たちは獣たちの飽食を空しく傍観している。

 先日、畑仕事の帰り道車窓から道路下の田んぼで異様な風景を見てしまった。そこは所謂棚田ではなくて平地にある何の変哲もない小さな田んぼだが、その畦道がコンクリートで固められていたのだ。僕はまだ近づいて見るのが怖くってその「コンクリート製畦道」に立っていない。が、あれは確かにコンクリートで鋪装された畦道だ。圃場整備が進み機械化農業の普及とともに農道の拡幅、コンクリート化は時代の流れとして想像はしていたが、まさか僕の「キャンバス」の中に「コンクリートの畦道」が出現するとはタダならぬ事態である。じゃがいもの種芋を準備し春の畑仕事を楽しみにしていた僕の気分は暗く重い。間もなく顔を出すであろう土筆や秋の彼岸花も、もう咲くことはない。

 「米づくりの基本は畦づくり」といわれるほど、水田の畦づくりは大切で難しい。田んぼに水を入れ代かきを終えてから、鍬を使って、セメントで壁を塗るようにドロ土で周囲を固めるのである。畦道から水が漏れないように隙聞や穴を埋めながら丁寧に塗り込まれる。これだけはまだ機械化できないている。最近は塩ビで作られたアゼシートを畦の内側に埋め込んで水漏れを防ぐ工夫がされるようになり畦塗り作業は大分楽になったそうだ。が、若い人はあんなしんどい仕事はしないだろうな。今、農水省は分散した農地を集約して大規模農業を育てようと「農政改革」に取り組んでいる。もう効率の悪い中山間地農業はいらない。とは言っていないが何だか雲行きが怪しくなってきた。棚田100選の農業観光も必要だけど、都市住民の憩いの場でもある近郊農家の育成と、地産地消のスタイルを確立してほしいものだ。「美しい国ニッポン」のシンポルとしての中山間地農業は守ってほしいと僕は願っている。それよりも何よりも私たちの身近にある美しい棚田の風景が「コンクリートの畦道」で塗りつぶされてしまうのではないかと心配でならない。

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