日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

各社戦略の成否に見る、バーガー戦争の行方

2007-12-01 | マーケティング
昨日ロッテリアが新商品「絶品バーガー」の発売を発表しました。

別に単なる新製品発表ではありましたが、そこには試行錯誤を繰り返すファーストフード=ハンバーガー業界の今後を占う、重要な商品戦略が秘められています。

ハンバガーは日本ではファーストフードの代名詞。さらにファーストフードと言えば大衆文化の代表格であり、その業態内でのライバル競争はここ10年、外食にありながら「味」以外のもにも要求項目が多い特異な業態としての悩みを持ち、各社手探りでのトレンドの追いかけ合戦が繰り広げられているのです。

そもそもライバルにとって刺激的なトレンド路線にいち早く参入したのは、マクドナルドが95年に導入した「100円バーガー」でした。さらに2000年には、「100円バーガー」の人気に応えて、「65円バーガー」を登場させました。これはまさに、景気低迷期におけるトレンドである「デフレ効果」を、一般大衆に分かりやすく商品提供において具現化したものでした。と同時に、低価格のファーストフードが、さらなる価格低下に手をつけるという、ある種の“禁じ手”でもあり、これを境にファーストフード=ハンバーガー業界は、冬の時代に入るのです。

すなわち、バーガー各社にとってこのマクドナルドの戦略がトレンド商品開発のヒントになったのかと言えば、応えはノーでした。行き着く先は、単なる値下げ競争に過ぎず、各社とも低価格路線に追随せざるを得なくなり、西武=JT系第一次バーガーキングのリタイアなど、規模の利益を追及できない先を退場させつつ、各社の収益環境を悪化させるだけのバーガー価格戦争時代に突入していったのでした。

もともと日本のバーガー文化はマクドナルドが作ったもので、それによって「フニャフニャバンズ+薄っぺらミートパテ」という、本来のアメリカ人たちがレストランで食するバーガーとは程遠いものが、わが国の「標準ハンバーガー」と認識されるにいたってしまったのです。

そこでモスフードは、「ちょっとだけ高級なファーストフード・ハンバーガー」を標榜した戦略を一貫して守り、この時期も価格低競争に巻き込まれない独自路線で、売上を減らしながらもじっと堪えていたのでした。
具体的なモスの差別化戦略は、基本的に注文を受けてから作る、野菜を豊富に入れる、パテにミートソースを加えてリアル感を出す、などでした。

そんなモスフードは、「安いがうれしい=デフレ期」という彼らにとっては他社以上の「冬の時代」をなんとかやり過ごし、景気回復を待って、今こそ高級志向到来とのトレンド予測から、2005年春一個千円という「匠味十段」なる超高級バーガーの商品化による、ブランド力の回復を狙ったのでした。

しかしながら、これは少々トレンドの読み違いだったようで、結局千円バーガーは一敗地にまみれ消滅し、現在は600円台の「匠味」シリーズが細々メニューの片隅に残っている程度となりました。
戦略的失敗の原因は、「景気回復=高級志向」というバブル期への回帰を想定したかのような“高価格化”。同時に、ファースト・フードと「高級感」イメージとのミスマッチも失敗の大きな要因と思われます。

この失敗を受けて、各社は再び混迷路線に入り込みます。
その中で、今年ヒットしたのがマクドナルドの「メガマック」。いわゆる「ビッグ・マック」の2倍というボリューム勝負の商品は、海外ではうけても、日本ではどうかという意見もあったようで、あくまで期間限定販売商品として今春発売されました。

これがふたを開けたら大変な人気で、連日行列ができるほどの盛況ぶりで、今も断続的に販売を続けています。味はビッグマックと同じとのことですから、この人気、やはり「お得感」に根ざすものなのでしょうか。

80年代の大攻勢から見ると、明らかにマクドナルドとは勢いの違いもあって大きく水を空けられた感のあるロッテリア。
同社は戦略転換の起爆剤として、バーガーキングの日本での展開を開始しました。バーガーキングと言えば、93年~2001年まで西武鉄道=JT路線で日本国内で店舗展開をしたものの、先の65円バーガーに代表される価格競争時代の到来に淘汰され撤退を余儀なくされたのでした。

今回の復活誘致作戦は、国内景気の回復により、価格競争からは解放されいよいよ本当の競争ができる、と読んでの誘致でしょう。その特徴は「ワッパ・バーガー」という大型バンズに本格網焼き厚手パテを挟んだ、至ってアメリカンな商品を主流とする、やや“本物志向”寄り路線です。

先のモスの失敗に学び、「本物=最高級志向」ではなく、「ファーストフードなりの本物志向」を基本路線としているように思われます。
本体のロッテリアが今後どういう路線を取るのか、バーガーキングの良い点を取り入れ独自路線を進むのか、それともバーガーキングとの統合による発展的合併路線を進むのか、現時点ではハッキリしないところであります。

そんな中発売されたロッテリアの「絶品バーガー」。その基本戦略は、「高級志向ではない、本物志向」といった感じでしょうか。本格肉質への転換を目指したパテの改良、バンの根本的見直し、業界初のナチュラルチーズ使用等による「本物路線」でありながら、価格は360円と抑え目にした「非高級路線」。受け取りようによっては、系列のバーガーキングと歩調を合わせた戦略とも言えそうです。

95年のマクドナルドの低価格戦略以降、デフレ時代は「右向け右状態」で体力競争を続けてきたファーストフード=ハンバーガー業界ですが、景気回復の兆し以降は、各社が独自のトレンド読みで新商品を発売し、それぞれが新たな業界トレンドを作るべく「次」を模索してします。

ファーストフードと言う独特のニーズに応えている業界において、“禁じ手”であるマクドナルドの低価格路線からの転換トレンドは、「量」なのか「高級」なのか「本物」なのか「質」なのか・・・、業界地図を塗り替える様な大きな変革が起きるのか否か、見ごたえのある“トレンド探し競争”が、これから先もしばらくは楽しめそうです。


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