日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ブックレビュー~「事業戦略3.0/野口吉昭編・HRインスティテュート著)」

2011-08-09 | ブックレビュー
★「事業戦略3.0/野口吉昭編・HRインスティテュート著)」(かんき出版1800円)

3.11以降の日本企業の進むべき道を示唆した新刊本の登場です。ビジネスを生態系として捉え(業種別とか産業分類別といった従来の枠組みを超えた、複数の産業の境界線が融合し協業・競争の結果、共生し合う関係を築き上げるという考え方)、利益追求の事業戦略1.0、利便性提供の事業戦略2.0を超えたところに存在する「見えない価値」を追求する新たな事業戦略3.0を提唱する、斬新でかつ発展的な主張を繰り広げる新たな経営指南本です。

東日本大震災後の我が国の事業テーマ「復興」を、自社の経営戦略やビジネスモデルにいかに組み込んでいくべきかという問題は、企業の大小を問わず今の経営者たちの共通の課題でもあります。特に震災を機に発祥国イギリスとは別の形で形成されつつあるエシカルの精神のビジネスへの浸透は、まさしくこの流れを受けたものであると言っていいでしょう。そんな新たな経営のかじ取りに、理論的な裏付けをもってヒントを提供するのが本書であるのです。

著者は「見えない価値」の実現に向けて企業ミッションとして「ぶれない軸」を作り上げ持ち続けて進みことの重要性を説いています。その典型的な実例として、「母親が自分の命よりも大切にする赤ちゃんに安全なタオルを届けたい」を理念とし、徹底して理念に沿った製品製造(例えば100%風力発電利用等)ををおこない“生きざまを賭けて”、同社製品のファンを増やし続けている優良企業「池内タオル」の例なども紹介しています。

本書は3.11以降、世の経営者たちが漠然と感じ始めているもののその姿をおぼろにしか捉えきれていないパラダイム・シフトの流れを、はじめて言葉にして提示したいわば“気づきの書”であります。昨今、行く先々でエシカル関連の話を聞くことが増えてきた今だからこそ、規模の大小に関わらず企業経営者はぜひとも読んでおきたい一冊です。「見えない価値」ビジネスの具体例はたくさん登場するものの、まだまだ進化するであろう事業戦略3.0のこの先の展開までは読み切れない分その部分では抽象的イメージの提示にとどまらざるを得ないもどかしさもありますが、この時期にこれだけの中身をもって日本企業の新たな事業戦略のあり方を示したことに敬意を表して9点。

柳井正解説(?)「プロフェッショナルマネージャー・ノート」

2011-02-17 | ブックレビュー
最近ブックレビューをサボっていたので、たまってしまってすっかり時期を逃してしまったものが多いのですが、どうしても取り上げておきたい1冊を紹介します。

★「プロフェッショナルマネージャー・ノート/プレジデント社書籍編集部編・柳井正解説(プレジデント社・1200円)」

どうしても取り上げておきたいと言いましたのはいい意味でではなくて、残念ながら悪い意味でです。まずはじめに、この本は読み物ではないということを十分ご認識いただく必要があると思います。プレジデント社の書籍編集部が作っているからでしょうか、雑誌の企画で一冊のベストセラービジネス書籍を取り上げて20ページ程度の特集にまとめる、まさしく週刊経済誌がよくやっているあの類を思い浮かべていただければよろしいと思います。読んだ後に全く充実感がないと言うか、身についた感じがしないと言うか、本屋の前を通り過ぎただけと言うか、リーダースダイジェストで売れ筋の本の粗筋を読んだだけというそんな中身の薄い要約本です。そもそも編集部が切り貼りの世界で本を一冊作るという事自体に、無理があるのでしょう。確かに原本は文字量が多くてかつ物語仕様なので、一から順序良く読み進める必要があって大変ということで作られたものなのでしょうが、やっぱりこのやり方ではダメということです。

解説の柳井氏は帯にも登場で、氏ご自身の原本の消化の仕方をさぞ多くを語ってくれるであろうと思いきや、ご登場は前書きを含めて正味10ページ程度と肩透かし。これもまたどうなのと言う感じですね。せめて解説であるのなら、本書の各項目について章立て単位でもいいので、もう少し具体的な部分解説があってしかるべきでしょう。「○○のくだりはユニクロの××戦略検討時に思い出し大いに役立させてもらった。具体的には…」のような話が聞けて初めて柳井氏が「解説」を務める意味があるのであり、本書にある柳井氏の位置付けは書籍帯における「推薦文言」の粋を脱していないレベルです。例えて言うなら、雑誌の特集記事中の囲み扱いでインタビューを「柳井氏が語る本書はこう読め!」と作り上げた程度のものです(恐らく本書の柳井氏登場部分もインタビュー原稿でしょう)。これを「解説」とするのは詐欺商売と言われても仕方ない感じがしますが、いかがなもんでしょう。「中身のない本の広告塔に柳井氏を据えて、プレジデントがうまい商売をした」と言ったところでしょうか。

誤解のないように念のため申し上げておきますが、原本の「プロフェッショナル・マネージャー」は柳井氏がおっしゃられる通り経営指南本として実に優れた内容であります。著者であるハロルド・シドニー・ジェニーンの経営者としての波乱にとんだその物語は、原本のストーリーに沿って読んでこそ状況の正確な把握の下、珠玉のマネジメント手法が十分に理解できるのであり、このような本人の人となりさえも無視した乱暴な抜粋本はいささか残念な書籍と言わざるを得ないでしょう。柳井氏の経営者としての愛読書に少しでも触れてみたいと思われる方は、まちがってもこの本ではなく原本の「プロフェッショナル・マネージャー」を読まれることをお勧めいたします。価格もこの抜粋本1200円に対して原本1400円ですから、わずか200円の違いで得るモノは“天と地”ほどの差があると思います。本当は0点と言いたいところですが、原本に敬意を表して2点とします。「もしドラ」に端を発しドラッカーで大儲けしたダイヤモンド社の形を変えた後追い戦略なのでしょうか、こんな子供騙しなマネジメントのエッセンス切り売り商売はやめてもらいたいですね。

ブックレビュー~売れ筋2冊比較 その2

2010-12-14 | ブックレビュー
最近の売れ筋本レビューその2です。昨日の書籍との対比で評価したい1冊を。

★「一瞬で恐怖を消す技術/マイケル・ボルダック(フォレスト出版1400円)」

ジャンルは昨日と同じ「成功本」の類です(同じ出版社ですから、同じようなコンセプトで出されているように思います)。昨日の本「怒らない技術」が人が持つもっとも激しい感情の「怒り」をコントロールすることで成功につなげようとするのに対して、こちらは「落胆」や「落胆の可能性」に起因する「恐怖」を取り除くことで成功につなげようとするノウハウ供与を目的としています。こちらはコーチーングのプロが、コーチング理論に基づいて解決策を読者に提供する形をとっており、昨日とは一転、「なるほど」とうならせる内容であると思いました。ちなみに著者は、7歳の時に、実の父が母を殺すという衝撃的な事件を体験しその精神的ダメージ(吃音、対人恐怖等)の克服という、人並み以上の自己変革を自らが実践した上でコーチングの技術を習得し他の悩める人たちの役に立てているという“本物”のプロなのです。

本書では、まずはじめに「落胆」や「落胆の可能性」に起因する「恐怖」は「拒絶への恐怖」である(言い換えると、コミュニケーション相手からの自己否定に対する恐怖である)と位置付けて、次にこの「拒絶」をいかに怖くないモノであるかを説き逆にそれを自分に役立ててしまうレベルに持ち上げようという「拒絶の利用」の領域へのステップアップ法を供与してくれます。「拒絶」は怖くないという例として、ケンタッキー・フライドチキンのカーネル・サンダース氏は、独自のチキン調理法の売り込みを1009回断られ、俳優のシルベスター・スターローン氏は「ロッキー」の脚本と自分を主役にした映画の売り込みをやはり1000回以上断られたものの、あきらめずに立ち向かうことで、成功を手に入れたという例をひいています。「拒絶」は成功の前提条件であると。そして「拒絶」に対する恐怖を克服する方法をとして、「精神状態をピークに持っていく」、そのために「感謝していることを10項目考える」なぜなら「感謝と恐怖は両立しない」から、さらにそれはなぜなら「恐怖とは自分が望んでいないモノを思い浮かべること」だから…、といった具合に実にロジカルにツリーを描くがごとく読み手にノウハウの供与をしてくれています。実に素晴らしい。

昨日の「怒らない技術」のような成功者が現在のポジションから振り返り的に記す著作にも真実はちりばめられてはいるものの、やはりその道のプロ(この場合はコーチングの専門家)が論理的に展開する啓発本は、中身の濃さが違うと実感させられます(本書にも「腹立ち防止策」が出てきますので、その部分の比較するとよくわかると思います)。もちろん、読み手が中身を信頼して行動を起こすか否かが最も大切なポイントであり、どんなに素晴らしい啓発本も読み手の行動を伴わないなら結果は同じことではあるのですが…。この本はこの手の精神的啓発本としては久々に、読む価値のある内容であると思いました。部分部分で英語的思考回路に準拠した読み手にスッと入ってこない言い回しが気になる点はあるものの(英語がネイティブ的に流暢すぎる訳者にありがち)、自分が実際に受けた「拒絶」を思い浮かべつつ変革行動を伴わせることができる読み手に方にはきっと強い味方になるものと思います。
10点満点で限りなく9点に近い8点。

ブックレビュー~売れ筋2冊比較 その1

2010-12-13 | ブックレビュー
ブックレビューをサボっていたので、書きたい本がたまっています。とりあえず、最近売れているジャンルの近い2冊を比較も含めてとりあげます。まず1冊目。

★「怒らない技術/嶋津吉智(フォレスト出版900円)」

初版が7月、11月現在の店頭本で確認したところ既に21刷。相当読まれています。中身はいわゆる「成功本」の類です。よくあるのは、「口癖」を修正したり、将来に対する考え方を改めたり、自分自身の考え方を矯正したり…。この本は、他人との関係の中で相手から受けるものに対して自分の感情をコントロールすることをよしとして、それが「人生をいい方向に導く」コツであると説いています。人が持つ感情の中で、「怒り」という一番激しく後味も決して良くない感情を代表例としてタイトルに冠して目立たせていますが、要は感情の起伏を抑えることで周囲に影響されない「ブレない」自分を作り上げることが成功への近道であると説いた本であると言っていいでしょう。この主題の観点は至って正論であり、他の書籍にもよく登場するお話でもあります。主題の取り方としては良いと思えます。

第3章まではこの主題説明を、あれこれご自身の体験談を含めて力説しています。そして佳境と言えるのはいよいよ第4章以降、タイトル「怒らない技術」に言い表された「感情コントロールノウハウ」です。「怒り、イライラと無縁になる25の習慣」と題され、「イライラを感じなく習慣」が18項目、「自分を気持ち良くする習慣」が7項目取り上げられています。ところが残念なことに、これがいかにも弱い。1~3章の主題説明で「感情コントロールの重要性」を十分に理解してないと、恐らく役に立たない25項目ではないでしょうか。逆に「感情コントロールの重要性」を十分に理解している人なら、この25項目は当たり前であり必要ないと…。例えば前半の18項目にある、「イライラする環境に身を置かない」とか「イライラするものから目を背ける」とかは、言われればごもっともなのですが、恐らく“イライラ症候群”大半の人は「それができれば苦労はないよ」と思うわけで、「イライラする環境に身を置かない」の解決例として「職住接近で通勤のイライラを解消する」といったことをあげられても、一般的なイライラ事象からの回避指南にはなっていないのです。

これは著者がノウハウとして書いている部分の一例ですが、この本の最重要部分であるはずの「25の習慣」は結局結果論で語っている印象が強く、「イライラしなくなったら私は結果こうなっている。だからこうなるようにしてごらん」と言っているようで、むしろ読者が知りたいどうやったらそうなれるのか、移行過程の部分が非常に弱いように思えるのです。従いまして、「感情コントロールの重要性」と「それを知ると結果どうなれるのか」を知る本として読むならOKですが、タイトルある「感情コントロールの技術」を知るためのノウハウ本として読むなら、喰い足りない気分にさせられるのではないかと思います。「感情コントロールの重要性」をすでに他の書籍で読まれていいる方には、とりたてて読む価値は少ない書籍かもしれません。売れている事実とタイトルにつられるとガッカリさせられるかもしれませんね。10点満点で5点に近い6点。

もう1冊は外国本「一瞬で恐怖を消す技術」。これは後ほど。

良書紹介~「誰でもできるけれど、ごくわずかな人しか実行していない成功の法則」

2010-11-11 | ブックレビュー
当ブログのビックレビュー関連で、「新刊ばかりでなく、自己啓発やマネジメントで役に立つ本があったら教えてほしい」という声がありましたので、これから時々取り上げてみます。基本は、現在でも容易に書店で手に入るもの、名著で文庫本化されて入手しやすくなったものということで。

★「誰でもできるけれど、ごくわずかな人しか実行していない成功の法則~ジム・ドノヴァン(ディスカバー・トゥエンティワン1,300円)」★

自己啓発本のハシリとも言える名著です。アメリカでは99年に発刊され翻訳版は翌年日本発売。以来、最近調べたところでは50刷近くまで行っているようで、ビジネス書としては大ベストセラーかつロングセラーの部類に入ると思います。この本を一言で言うなら、今まで成功できずにいる人を成功に導く指南書であり、若い人からマネジメント層に至るまで年齢階層関係なく誰にでもあてはまりかつ実践可能な前向き人生取り組み法が説かれています。中身を一部紹介すると、「今すぐはじめる」「行動をおこす」から始まって、「自分を否定しない」「ネガティブな態度をやめる」「感謝の気持ちを持つ」、さらには「できると信じる」「夢を壊す人を避ける」「理想を自分に言い聞かせる」「今こう変わると決める」「とにかくゴールを設定する」「完璧にできなくても気にしない」「きちんと計画を立てる」「必ず優先順位を決める」「自分の望みを何度も確認する」「夢とゴールの日記をつける」…等々、小見出しを読んでいるだけでも、「あー、自分はけっこうできていないな」と方向修正をかけてもらうとともに、「こんなところに自分が迷路に迷い込む原因があったか」との気づきを与えてくれたりもするのです。

見開き1ページ単位、全74の項目からなっており、本書の使い方は人それぞれにいろいろあると思います。弊社では、内外支援スタッフの啓蒙等にもこの本は使わせてもらっていまして、一日1項目ずつ声に出して読む。それと各項目ごとに「成功への提案」なるそれぞれのテーマに沿った一言アドバイスが書かれているので、それをノートに書かせるようにしています。書いた提案について自分でよく考えて出来ていないモノがあれば、どうできていないのか事例や自分の状態を書き込む。克服するために何をしてみるかを書き、そして定期的に見直してその項目が克服できれば二重線で消す(消した後もまた元に戻っていないか、定期的なチェックは繰り返します)。その積み重ねで一つひとつの貴重なアドバイスを確実にものにしていくように自己に仕向けていくのです。本書の中にもたびたび出てくることですが、声にして話すこと(自分の耳で自分が話すことを聞くこと)と書くことで、自分の方向感は不思議なほどに明確化されるものです。まさしく自己の「見える化」なのですが、自分の弱点や克服すべき課題点を書いて目で見て、声にして耳で聞くことで、より一層明確に意識をして前にすすませることができる訳です。

もうひとつ、この本を読んで分かること。神田昌典氏、勝間和代氏、本田直之氏、小宮一慶氏などのカリスマ・コンサルタントが、若手読者に対してこうあるべきと「成功者」として見せている行動指針の基本形のほとんどが本書の中に包含されていることに気がつかされます。これは別に彼らが本書のエッセンスを利用して著作をしたためているというわけではなく、成功に向けて歩む個人のあるべき基本行動や基本スタンスにかかわるあらゆる要素が本書には詰め込めれているということなのだと思います。それでありながら本書は、実に平易であっけないほど簡単に読破できる書き様であり、気負って本書を手にした人は肩透かしをくらうかもしれません。だからこそ、じっくり1項目づつかみしめながらあるいは、事あるごとに何度も振り返り開きながら一つひとつを確実にものにしていくべき良書であるのです。

本書には先のカリスマ・コンサルタントたちだけでなく、成功した経営者たちから直接耳にした「成功の秘訣」とダブるものたくさん盛り込まれています。立ち読み時点では「こんな当たり前の事柄の羅列がなぜ名著?」と思われるかもしれませんが、まずは騙されたと思って読み、必要に応じて書き、さらに大切なことは読んだ内容を「実践」することです。この本がなぜこんなに長きにわたって売れ続けているのか、それは「実践」して初めて分かると思います。

※本書は、トヨタ自動車前社長・張富士夫氏の愛読書としても有名です。

ブックレビュー~野口吉昭×2 その2

2010-09-17 | ブックレビュー
野口吉昭氏の新作2つ目です。

★「コンサルタントの軸思考術/野口吉昭(PHP研究所1000円)」

9月10日付発刊の最新作。こちらは、一貫してそのコンサルティングスタンスの軸がぶれない野口氏の「軸」の作り方に関する著作です。サイズ・装丁・表紙イラストまで昨年刊の「考え・書き・話す「3つ」の魔法」とそっくりなので、てっきり同じ幻冬舎からの新作かと思ったのですが、タイトルに「コンサルタントの・・・」の前フリ付きということでこちらがPHPでした。新書並みのサイズ・装丁でありながら新書よりも若干高めの価格設定というあたりは(新書よりも約200円割高)、著者の野口氏には関係ありませんが、ある程度売れると分かっている作家の書籍で少しでも多く儲けようという、PHPの商魂が垣間見れるようであまりいい気はしないものです。少し印象悪いです。

そのせいでもないのですが、やや内容は平坦です。「フレームワークは「枠」より「軸」が大事」とか、例によって「自分軸」とともに「相手軸」も大切さも強調しており、まさに軸のぶれない野口氏らしい著作ではありました。しなしながら、新書の三部作「コンサルタントの現場力」ベストセラーの「・・・質問力」「・・・解答力」に比べるといささか薄味。マガジンハウスの方は「観察力」と銘打ち、確かに「現場力」「質問力」「解答力」にさらに磨きをかける“第4の力”といった印象もあったのに対して、こちらは元祖「○○力」シリーズのPHPでありながら、タイトル通り“力不足”な感じです。野口氏の書籍ですから当然読む価値はあるのですが先の値段のこともあって、「○○力」シリーズより200円割高でこの内容?って感じはやや辛いところです。こちらは、10点満点で6点か7点かと悩んで6.5点。

野口氏の新作2作をどちらから読もうかと悩まれた方には、まず「観察力」の方をおススメいたします。

ブックレビュー~野口吉昭×2 その1

2010-09-16 | ブックレビュー
コンサルタント野口吉昭氏が最近新刊本を2冊発刊していますので、その紹介を。

★「プロの観察力/野口吉昭(マガジンハウス1400円)」

これは出てからちょっとたってしまいました。私も読んでから時間があいたので内容をやや忘れ気味で、中身を見直しつつ書いています。これまでの「コンサルタントの現場力」「・・・質問力」「・・・解答力」ときて、本人が講演会で「次は“何力”にしましょうか?」と問いかけていたりしたこともありましたが、ようやくシリーズ第4段の登場です。出版元の関係でしょうか「コンサルタントの…」の前フリ部分が「プロの」に変更になっていますが、コンサルタントが物事をどうとらえどう分析するかというスタンスで書かれていることになんら変わりはありません。今回の出版がマガジンハウスからというのが、表紙のポーズをとる著者の写真とともにやや俗っぽい感じでちょっと気にはなったのですが…。

読んでみれば中身は安心でした。野口氏の場合基本的思想にブレがなくオリジナルの問題解決手法が確立されているわけで、出される本は都度その切り口をどの部分にもっていくかだけのことですから。話のポイントやキーワードは毎度氏の著作で登場しているものですが、今回の「観察力」の基本も“相手軸”“鳥の目と虫の目”“ロジックツリーの分解と整理”といった、お得意の手法を活用する流れで説明がされています。一方、今回初登場で個人的に気になった新キーワードは、“ナラティブ”。本書内では「印象に残る話し方」と定義され、「観察力」の優れた一流の司会者やインタビューアーは皆「ナラティブ」であると語られています。最後のまとめ的部分に「気付いたことをスタート地点として、魅力的なストーリーを作り上げナラティブに人に伝えていく、それが観察の醍醐味」とありますが、これまでの「質問力」や「解答力」をより魅力的に磨き上げる方法を事細かに説明しているのが本書であると言えるでしょう。野口氏としては標準的レベルクリア、10点満点で8点か7点か迷うところなので7.5点とします。

もう一冊は後ほど。

ブックレビュー「残念な人の思考法/山崎将志」

2010-08-19 | ブックレビュー
★「残念な人の思考法/山崎将志(日経プレミアシリーズ・850円)」

もう発刊から結構経っています(今年の4月刊のようです)。出た当初に立ち読みして、印象がイマイチだったので見送っていたのですが、だいぶ売れているようなので読んでみることにしました。「残念な人」とは、代表格は「勉強はできるのに使えない輩」。もっと具体的には、「東大卒なのに成果がでない社員」とか「行列ができているのに儲からない店」などのことです。要するに“ちゃんとしていそうなのに、なんとなくハズしている奴”のことですよね。なぜ“ハズす”のか。行動が「的を得ていないから」です。「的を得ていない」とは、要は「誤ったプライオリティの下、動いている」ということなのです。本書はすなわち「プライオリティ思考」の解説本ということのようです。

主に具体例を中心に話は進んでいきます。いろいろな場面で、読む側も遭遇したことがあるであろう人や会社やお店のエピソードになぞられて、プライオリティとは何であるのか、プライオリティをどう持つべきなのか、について分かりやすく説明をしてくれています。内容的には決して目新しいテーマではないのですが、プライオリティという視点でビジネスパーソンのあるべき行動を規定し、それを誤ると「残念な人」になってしまうという流れで全編すすんでいきます。

言っていることは正論ですし、切り口は至ってコンサルタント的でもあります。しかしながら全体の流れはイマイチよろしくない感じが・・・。起承転結が明確でないと言うのでしょうか。なんとなく羅列に終始してしまっていて、途中からは「今、何の話でこのエピソードは出てきているんだっけ?」と、ところどころ読んでいてスーッとは入っていかないもどかしさが感じさせられる気もしました。でも売れています。既に8刷、今はもっといっているのかもしれません。「残念な人」という、ややタイトルの勝利的な感もあるようにも思えます。喰い付きのよろしいタイトルづけには感心です(例えば「プライオリティ力を鍛える」みたいなタイトルだったら、きっと売れなかったろうなと思う訳です)。

著者のことはよくは存じ上げません。もちろん「残念な人」であるはずはないのですが、語り口に“若さ”を感じさせられたりもします(著者の正確な年齢は存じ上げませんが)。コンサルタント野口吉昭氏あたりも最近は似たようなテーマで著作を出されているのですが、野口氏ほどの主張の“こなれ感”に乏しいというのでしょうか・・・。これは本人の資質の問題ではなく、やはり人生経験のなせる技もある訳で。本書は著者の今までの著作とはやや毛色が違うモノにチャレンジされたようなのですが、もしかすると年齢的に時期尚早であったのでは、と思わされもしました。もちろん、言っていること、力説されていることは十分価値のある話であるとは思いますが・・・。だから売れてもいる訳で。
この手の本は“こなれ感”も大切なので、私の評価はちょっと辛目に10点満点で6点とします。

「成功軸の作り方/野口吉昭」

2010-06-28 | ブックレビュー
★「成功軸の作り方/野口吉昭(青春出版社1333円)」

そろそろかなと思っていましたら案の定、野口吉昭氏の最新刊が書店に並んでおりました。このところの氏の著作は、コンサルタントの基本的スキルをベースにした“野口理論”に立脚して、本質を捉える考え方のコツや仕事に対するあるべきスタンスを教えるモノが続いていましたが、今回はさらに一歩踏み込んで「生き方」にまで言及するような著作となっております。出版元のカラーも含めて悩める若手向けかなと思われたりもするのですが、言っていることはこのタイトルの通り常に一本筋の通った“野口理論”で展開されており簡潔・明快な流れとなっております。

本書内での私が思うポイントは、「問題意識、危機意識、当事者意識」にはじまって「描いてこそビジョン」「習慣を仕組む」「愚直に続ける」…。なるほど、過去に氏がその著作で述べてきたことを、今度は“一歩踏み出せずにいるビジネス・パーソン”向けに再編集し、その打開ノウハウを「成功軸」という名のもとに伝授しているといった様相です。非常に平易で分かり易く、過去のどの著作よりも手っとり早く理解することができるかもしれません。野口氏と氏のカンパニーであるHRインスティテュートによる「戦略シナリオのノウハウ・ドゥハウ(99年PHP研究所)」をはじめとした数々の名著のエッセンスを、個人実践編的に平易に解き明かしているという感じが強く印象付けられます。

ということは…。読んでいて気がついたのですが、実はこの本は若手ビジネス・パーソンに向けられた自己啓発本の様式をとりながら、“なかなか一皮むけない企業”の経営者にもその組織運営改革上役に立つ基本の考え方を伝授しているとも言えるのです。そうです、今までの氏の著作のエッセンスを集めてより平易に個人向けに書かれた本なのですから、これを今度は逆に組織運営に置き換えて活用することができるのです。過去の企業向け著作が、やや高度な内容でかつ実践的というよりはやや理論優先との印象から“野口理論”を現場に活かし切れていなかった経営者にも、この個人向けの平易な書き様なら容易に実践応用が可能なのではないかと思うのです。

本書のテーマである「成功軸」とは、まさに「経営ビジョン」そのものであり、本書はいかにして「ビジョン」を確立しそれを実現につなげるかを、個人に置き換えることで分かり易く説明をしてくれている訳です。「成功軸」づくりにつなげるいくつかの具体的なツールも盛り込まれていますから、それを自社の経営改善向けにアレンジすればかなり有効な使い方ができるのではないかと思います。まず本書で“野口理論”の入口を知り、詳細は企業向け著作でフォローする、そんなやり方がよいのかもしれません。単なる自己啓発本としてではなく、経営に応用可能な改善指南書として経営者、管理者の皆さんにもおススメできる1冊であると思います。そんな意味まで含め10点満点で8点。

「もしも高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら/岩崎夏海」

2010-05-17 | ブックレビュー
★「もしも高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら/岩崎夏海(ダイヤモンド社1600円)」

以前、少し触れましたが最近あちこちの本屋さんで平積みになっている話題本です。何より、表紙のイラストが少女漫画っぽくて、趣味の善し悪しは別としてビジネス書コーナーでは圧倒的に目を引くわけです。まぁでもこの本をカバーなしで電車で読むのは勇気がいると感じるサラリーマンのおじさん方も、けっこう多いかもしれません。私は全然気にならないですけどね…。

この本を一言で言い表すと、ビジネス小説です。高校野球の女子マネージャーが「マネージャー」→「マネジメント」という短絡的発想からドラッカーの『マネジメント』を購入して、その難しさに耐えつつ自分の野球チーム改革に役立て、やる気のないチームを甲子園出場にまで押し上げていくというある種のサクセス・ストーリーなのです。この手の手法はけっこう古くからあるのですが(「マンガで読む○○」とかもけっこうこの類です)、“経営の神様”ドラッカーを高校野球のチーム改革になぞられてその基本を伝えようというのは、かなりの冒険であると思います。マーケティング、イノベーション、人事等について、ドラッカーの理論をうまく野球チームの管理の中に落とし込んで、ストーリーを展開させていくわけですから。ドラッカーという硬いテーマと野球、やはりなかなかピタッと融合するまでには至っていませんが、よくできた部類ではないでしょうか。

私が感心させたれたのは、「マーケティング」の実践としての部員との個別面談によるコミュニケーションの円滑化と、ドラッカー理論のキーワードでもある「イノベーション=既存のモノはすべて陳腐化する」を、「ノーバント・ノーボール作戦」で実践に移させるくだりです。「コミュニケーション」は組織においては血液であるわけですが、その重要性を「マーケティング」の本質としてとらえることと並行して見せている点が秀逸でした。一方の「イノベーション」のくだりでは、具現化が難しいコンセプトを「送りバント」と「ボールを打たせる投球術」を陳腐化するモノと位置づけて、「送りバントをしない」「ボール球を打たせようとする無駄な投球をしない」という戦略で変革を起こさせるという流れになっており、このあたりは著者の苦労の跡がうがわれます。

著者は放送作家とはいえ職業作家ではないので、小説としての文章の運びの甘さやストーリー的に展開が読みやすくやや安っぽいのが物足りなくはありますが、ドラッカーのどの理論をいかに料理してみせるのかは予想を超えた展開がほとんどであり、それなりにおもしろく読まさせていただきました。ドラッカーの入門書には全くなり得ませんが、ドラッカーに関心を持つキッカケぐらいにはなるのではないでしょうか。あくまで息抜き本ですので、本当にドラッカーを学びたい人にはお勧めしません。悪くはありませんが、このコーナーではビジネス書の棚に並んでいる本という評価をせざるをえず、10点満点で6点が精一杯かなと思います。