日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

五輪エンブレム問題、佐野氏の対応に学ぶ「他山の石」

2015-08-03 | 経営
五輪公式エンブレムのデザイン類似問題が話題になっています。盗作のであるか否かは小職専門外のお話なのですが、気になったのはデザイン当時者である佐野研二郎氏の対応です。広報対応のリスク管理という観点から、他山の石を拾ってみます。

事が発覚したのは先月29日、ベルギー人のデザイナー、オリビエ・ドビさんがフェイスブックで、「自身がデザインしたリエージュ劇場のロゴと驚くほど似ている」投稿したことでした。すぐにこのニュースは国内に流され、佐野さんのサイトにはアクセスが集中しダウン。その放置と氏の“だんまり”状態に対して、web上では非難に近い声が次々と上げられたと言います。

問題はこの後の佐野氏サイドの対応です。現在氏のHPには、「アクセス集中によるHP表示不可のお詫び」と31日付で氏が五輪大会組織委員会を通じて出したコメントが掲載されています。共に31日付なので、丸々2日間は放置されていたということになるのでしょう。この間に何が起きたのかと言えば、「佐野けしからん」「佐野逃げた」等々の批判の嵐です。本人にその意図があったか否か、組織委員会の指示で黙らざるを得なかったのかもしれませんが、ここで決定的なマイナスイメージが着いてしまったのはまちがいありません。

危機管理広報の基本として、とにかく重要なことは迅速な対応です。“だんまり”は“書き得”になるだけ。アクセス集中によるサーバーのダウンという物理的な不都合の発生に関しても、その放置は“だんまり”との相乗効果で“逃げ”として取られるだけなのです。特に今はマスメディアだけでなく、ネット上でここぞとばかりにあることないことを言い放す輩がそこらじゅうにいますから、事故発生における「初動」が当事者の印象を全て決定づけると言っても過言ではないでしょう。迅速なコメントと対応で、「逃げも隠れもしない」という姿勢を見せることが、メディアを自分の側に引き寄せつつことをすすめる大きなポイントになるのです。

そして「初動」において基本は本人が直接表に出ること。企業で言うならトップが迅速に前面に出ることです。マクドナルドの一件を見てもこの点は明らかです。事件発覚時にカサノバCEOは海外出張を理由に会見を欠席しコメントすら出さなかったことが、対メディア、対消費者のイメージを決定的に悪くしてしまいました。明らかな「初動」ミスです。

私は今回の件も全く同じと思います。まず言い訳はいけません。特にHPにある「海外出張中のため」という言い訳は、「いつの時代の話ですか」と思われてしまいます。今どきはどこにいようとも、webを使えば迅速なコメント対応や会見の予定発表は可能なのです。迅速な対応の目安は、遅くも事件発覚から24時間以内、できれば12時間以内。この感覚でコメント、会見、復旧対応等をしないと、「逃げようとしている」「隠そうとしている」と思われ悪者イメージが付くことは必至なのです。

今回の件に関して申し上げるなら、組織委員会の指示で黙らざるを得なかったのだとするなら、佐野氏は本当に気の毒です。運営委員会に悪者にされてしまったと言ってもいいでしょう。しかし自身の作品について疑念が投げかけられたのであり、仮に委員会が待ったをかけていたとしても、自身の問題として委員会に対して申し開きをする意味からも、氏単独でもコメントを先行させるべきではあったと思います。危機対応時に求められる判断能力とは、先を見通す力と同義語でもあります。

すでに手遅れの感は強いのですが、今佐野氏サイドが早急にすべきことは、会見の具体的日程の公表、HPの速やかな再開の2点であると思います。コメントを出したことでやや沈静化はしておりますが、予断は許さない状況にあると思います。五輪の仕事を受けたと言うことは、それだけ重たい責任も一緒にしょい込んだと言うこと。その自覚を今からでも十分に認識して早急な善後策をとって欲しいと思います。

危機管理広報は、なぜか「初動」を誤って毎度毎度失敗ばかりが繰り返されてしまうもの。分かっていてもいざその場になると、逃げたり隠れたりしたくなるのでしょうか。でも逃げたらその時点で負けです。危機管理広報はとにかく「早い初動で包み隠さず」が重要であると、この他山の石もまた教えてくれています。

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